表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

俺の友達の話シリーズ

死のロザリオ

作者: 尚文産商堂
掲載日:2013/06/29

世界のどこかににあるという噂のロザリオがあるのを、ご存知だろうか。

それは、噂なぞではなく、現実に存在している。

だが、それは極めて危険な物。

それゆえに、教皇博物館の奥深く、地下15階にある、安置室にて封印されていた。

そして、私は安置室室長として、教皇猊下より見回りを任されていた。


部屋の前には、厳めしい格好をして見張っている歩哨がいる。

「お待ちください、枢機卿。教皇猊下より、書状をお預かりしておられませぬか」

こちらに槍を突きつけながら、二人いる歩哨の片方が聞いた。

「我が魂こそが、その書状。だが、記しを欲するのであれば、これこそが記し」

私が見せたのは、純銀でできたロザリオだ。

首から下げれる鎖も、純銀である。

そのうち歩哨には、本体の4cmほどの十字架を見せる。

交差しているところには、直径5mmのブルーサファイアがはめ込まれている。

なお、裏には教皇の紋章が彫られている。

「失礼いたしました。どうぞ、お通りください」

敬礼し、歩哨が槍を収める。

「神の祝福を……」

十字を切って、私は鍵がかけられていない部屋へとはいる。

最初の部屋は、逃げられる心配がない物が置かれているためだ。


その最初の部屋を通り抜けると、小さめの扉がある。

そこの扉の中央に、私は先ほどのロザリオをはめ込む。

設計通りにピタリと納まったロザリオを、右に90度、それから左に180度、最後に右に90度回す。

カチリと、鍵がかみ合う音がすると、解錠された。

私は聖句を唱えつつ、扉を一気に開ける。

とたんに、異端な物どもが襲いかかってくる。

ロザリオをかざし、LEDライトを一気に当てる。

やつらは瞬間的に引き返し始める。

「我は、ローマ教皇の代理人である。我を襲いし者は、教皇を襲うと同じこと。罪を重ねるべからずや!」

私が叫ぶと、彼らは闇と一体になる。

部屋に入った途端に、私を襲う魂胆だろう。

だが、それについて、私は心配はしていない。

ライトをつけたままにして、部屋へとはいる。

扉が閉まると同時に、彼らは襲いかかってきたが、私に危害を加えることは、一切できなかった。

神の力は、信仰の力。

これほどの強大な力であろうとも、動じない心を持つことができる。

しかし、そこへ部屋の中から声をかけられる。

「いやはや、あんたも懲りないねぇ。好きこのんでこの部屋に来るんだから」

それは、安置室唯一、人語を話すものである。

別名、紅のロザリオと呼ばれている彼は、真っ赤な髪の毛をなびかせながら、ダークスーツにメガネに革靴という姿で私に近寄ってきた。

「1年なんてあっという間だな」

女たちからは、おそらく黄色い声で声援を受けるだろう。

二枚目俳優としても成功するに違いない。

だが、今はこの安置室に封印されている。

「それで、そっちはどんな調子なんだ」

「変わりない」

私は紅のロザリオに答えつつも、本体へと近寄る。

紅のロザリオは、私を静かにそこへ通した。

「さすがに昔の教皇が直々に施した結界だけあって、なかなか破れねえがな」

そこは、金の祭壇があり、四隅には銀でできたゴブレットが置かれている。

祭壇には聖句がこれでもかというほどに彫られていて、さらに秘伝の結界陣が描かれている。

私の役目は、その中心に位置している紅のロザリオが、しっかりと収まっているか。

ゴブレットに注がれている聖水を補充し、その他のものたちが暴れないように、部屋自体の結界をチェックすることになる。

ただ、ここにくるたび、30カラットのルビーがはめ込まれているロザリオを見るたびに、手に取りたくなるという衝動にかられる。

「…手にとって見ても、俺は構わねえんだぜ?」

彼は、私のすぐ後ろで、ささやき始める。

「人によって好みはいろいろだが、俺ならその全てを叶えることができる。全てだ」

強調するように、繰り返す。

「お前の緋き衣とよく映えると思うんだがな」

そうつぶやかれると、頭には、つけてみた後の姿を想像してしまう。

そして、全てを手に入れた私を思い浮かべる。

「ローマ教皇……」

「いいんじゃねえか?」

悪魔のささやき声は、大きくなる。

それと比例するように、私は紅のロザリオに魅入る。

「なあ、お前はこれまで何人に仕えた」

本能に抗うように、悪魔へ理性が尋ねる。

「14世紀以来、ざっと100人ちょいかな」

そして、その全ての人が、発狂し死んでいる。

ロザリオ職人が万感の恨みを込めて、紅のロザリオを作った、そう伝わっている。

紅いルビーがはめ込まれているが、悪魔はこれに宿っているそうだ。

人から人へと伝わって行くうちに、透明な宝石が紅くなったとも伝わっている。

それは、人の血を吸ったからだとも。

これを割ってしまうと、悪魔が世界へ解き放たれてしまうということで、ここに封印されている。

私は無意識に手をピクリと動かす。

悪魔がそれを見て、さらに一押し。

「あんたはカーディナルでおさまるような人じゃないだろ?」

欲がないといえば、それは嘘になるだろう。

だが、それは悪魔と一緒にするべきことではない。

「天にまします我らが主よ。御名が崇められますように……」

私は最後の抵抗として、主への祈りを唱える。

胸にある青のロザリオが、わずかに震えるのがわかる。

「っち、どうも失敗のようだな」

悪魔は最後に呪いの言葉をはきかけていったが、もはや私に通用するようなものではない。

信仰は力である。

聖水の量を確認し、それぞれの場所にあるべきものが収まっていることを確認し、最後に部屋全体に施されている結界を確認した。

そして扉を開け、一歩外に出て、振り返る。

何も動かない部屋へ、祈りの言葉を唱える。

「父と子と精霊の御名によって、アーメン」

そして再び扉は固く閉ざされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 都市伝説風の導入部から巧みに物語の世界に誘い込まれました。 聖職者である主人公の心の奥に潜む我欲と、そこにつけこもうとする悪魔の誘惑。 掌編ながらも、緊迫した駆け引きからは最後まで目が離せな…
[一言] おお、ファンタジーですね。素晴らしい。 なんというか、物語のプロローグのような感じですね。 続きが気になる終わり方でした。 ファンタジックホラーなんですから、やっぱりこういったファンタジ…
[気になる点] 『異端な物ども』→『異端な者ども』ではないでしょうか? [一言] 何とも不思議な雰囲気な物語ですね。 妙に引き込まれてしまいました。 ファンタジックホラーのファンタジー部分が強烈に表…
2013/06/29 18:56 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ