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チャプター6

ーギルド内の談話室ー


 三人は机に向かい合って座りながら、話し合っていた。内容はともかく、顔は深刻そうではない。

「なあエルちゃん、あんな事言って大丈夫なのか?」

 ゲートムントは苦笑いを浮かべながらエルリッヒを見つめた。

「そうだよ。そこらの雑魚相手なら守りながらでも闘えるけど、あのドラゴン相手にエルちゃんを守りながら闘うってのは、いくら俺たちでも、ちょっと自信ないよ?」

「だから、さっきも言った通り、私だって二人が思ってるよりよっぽど強いんだから!」

 この話題は、先頃エルリッヒが発した一言に端を発する。




 それはフォルクローレのアトリエでの一言だった。

「だから、この依頼、私も付いて行く!」

 エルリッヒは自信満々に叫んだ。

「「「ええーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」」」

 予想だにしない申し出に、三人はただただ驚きの叫びを上げる事しか出来なかった。まさか、エルリッヒ自身が付いて行くと宣言しようとは。

「ちょ、ちょっとエルちゃん、何言ってるの? あたしは二人の決定には口を出さないでとは言ったけど、付いて行きなよとは一言も言ってないよ! どう考えたって無茶でしょ! 無謀でしょ! 死にに行くようなもんじゃん!」

「まあまあ。私だって毎日重い鉄鍋振るってるんだから。それに、みんなが思うよりは強いよ? ゲートムントなら、分かるでしょ?」

「え? ま、まあね。あははははー。って、そうじゃなくて! 相手はドラゴンなんだぞ? 俺とツァイネが鎧を着て挑んでも勝てずに逃げ帰って来たんだから。それに、勝てる算段もなければ自信もないんだ。止めないでくれるのは嬉しいけど、こういう巻き込み方はしたくない」

「だね。俺も、ゲートムントと同じ気持ちだよ。あのドラゴンがどれだけ凶悪か、エルちゃんは知らないから……」

 騎士団の人間は、定期的に旅人や商人のために街道の魔物や盗賊を排除しに出る事がある。だから、かつて騎士団所属だったツァイネも多少の魔物相手にはひるまず闘う自信があるが、その自信を打ち砕く程度の強さが、二人の挑んだドラゴンにはあった。

「でも、そのドラゴンの恐さってのも、見てみなきゃ分からないし。道中の料理も担当するし、邪魔にはならないと思うよ」

「そ、それは嬉しいけど、別問題だよ! とにかく、一旦ギルドに戻ろう。そこでじっくり話し合おう」

「そうだね。ここにいてもフォルちゃんに迷惑かけそうだし」

「あたし? あたしは別にいいけど。調合終わったし。でも、気を遣ってくれるのは嬉しいな。なんでもいいけど、ちゃんと三人が納得する結論にしてよ? 三人の、誰の葬式にもまだ出るつもりはないんだから。後何十年かは生きてくれなきゃ。てわけで、タル爆弾とかクラフト爆弾とか、他にも雷式の罠とか純火薬爆弾とか色々あるから、必要だったら言ってね」

 エルリッヒ達はフォルクローレのニコッとした表情に見送られながら、ギルドへと戻った。




「だから、自分の身は自分で守るから。それならいいでしょ?」

「それは、エルちゃんがドラゴンの怖さを知らないから。体は大きいし、吐き出す火の玉はとんでもないし、突進だってものすごい速度で、羽ばたいただけで吹き飛ばされそうになって。あんなのを相手に自分の事を守るなんて、無理だよ! 俺だって槍のリーチで闘ってもあれだけダメージを負ったんだ」

「そうだよ。さっきも言ったけど、俺たちだって対策があるわけじゃないんだ。フォルちゃんから爆弾をもらうにしても、限界あるだろうし。だから、取り下げてくれないかな」

 二人はどんどん懇願するようになって来た。それはそうだろう。自分の事すら守り切る自信がないのだ、ましてエルリッヒを守りながらというのは、危険度が大幅に増えてしまう。自分達が死ぬわけにはいかないが、それ以上にエルリッヒにもしもの事があっては遣り切れない。ところが、エルリッヒの表情は少しも変わらない。次第に、万策尽きて来た。

 生粋の戦士である二人には、これ以上思い付かない。

「ん、どうしたの? そろそろネタ切れ? まあ、私を諦めさせる事はできなかったって事で。そんじゃ、決行は明日でいいね? 現地までは何日かかかるんでしょ? それぞれめいめい準備をして、明日の朝ここに集合、それで大丈夫だね。それじゃ、解散!」

 エルリッヒも、諦めざるを得ないような事を言われないうちにと、自分から話を締めてしまった。ゲートムントたちは慌てふためいているが、それを気にしてなんかいられない。なんとしてもドラゴン退治に同伴しなければ納得できないのだ。

「じゃあねっ!」

 元気よく立ち上がると、後ろを振り返る事もなく立ち去ってしまう。二人残されたゲートムントとツァイネは、ただただ呆然とするしかなかった。

「な、なあ、どうする?」

「どうするったって、ああなったエルちゃんは俺たちには止められないでしょ。とにかく、万全の準備をして行くしかないね」

 二人は顔を見合わせ、大きなため息をついた。

「「はぁ〜〜」」




ー翌朝 ギルドにてー

「おはよう」

「おはよう」

 ゲートムントとツァイネは何となく生気なく顔を見合わせ、気のない挨拶を交わし、肩をすくめた。エルリッヒを連れて行くという事で、内心ではドキドキする反面、とても気が重かった。

 とはいえ、もちろん準備はしている。ばっちりと着込んだ鎧、道具袋の中に詰められたパンパンのアイテム、そして、ギルド外にはフォルクローレからもらったタル爆弾などの物騒な道具が荷台の上で待っていた。

 普段通りの一張羅に身を包んだゲートムントと、珍しく普段は装備しない盾を手にしたツァイネ。青く輝く地金に、美しい金の装飾が生える鎧には、王家の紋章である獅子と十字の紋が刻印され、それが騎士団から支給された一級品である事を物語っていた。

「ツァイネ、その盾……」

「ああ。普段は身が重くなるから使わないけど、今回は守りを固めないとだからね。それに、お互い無策に近い状態で挑むしかないから。隙を突いて細かく攻撃して行くしかないだろうし」

 お互い、身が引き締まる思いでここにいる。だからこそのエルリッヒの存在だ。気持ちに水を差すつもりはないが、やはり部外者は部外者、二人にとって足手まといになりかねない。

「おはよー! て、あれ?」

 と、二人がエルリッヒの事を浮かべた途端に当のエルリッヒがやって来た。

「あ、エルちゃん!」

「おはよ!」

 朝からエルリッヒの顔を見ることが出来て一瞬にして二人の表情はほころんだ。そして、次の瞬間険しい表情を作る。内心どれだけ不安があっても、数日間一緒に冒険が出来ると思っただけで、ついつい嬉しくなってしまう自分達がいた。仕方ない事とは言え、軽い自己嫌悪に襲われた。

「ねえ、なんでそんなに百面相してるの?」

「だって、なあ」

「うんうん。何もなければいいけけど、やっぱりエルちゃん守りながらドラゴンと闘うのは不安で仕方ないから」

 不安一杯でエルリッヒの恰好を確認すると、普段と変わらないような服装に身を包んでいるが、手にはフライパンと木製のなべぶたが握られていた。そして、山盛り一杯の荷物が入ったサックを背負っており、一応は考えているんだと言う事を伝えていた。

「フライパンになべぶた、か」

「ないよりマシでしょ? 鎧みたいなのは持ってないけど、これなら身軽に動けるし。それに、フライパンも、十分に強いよ」

「強いったってなぁ……どれどれ?」

 ツァイネが右手に握られたフライパンを受け取る。

「はい」

「いくらなんでもこんなもんじゃ……うを! 何コレ! 重っ!」

「えぇ? いくらなんでもフライパンだぞ。ツァイネ、ドラゴン退治を前にそれは頼りないぞ」

 呆れ顔で今度はゲートムントが受け取る。

「ほら、持ってみなよ」

「おうよ。こんなん軽々……うを! 重い! なんだこれ。なんでフライパンがこんなに重いんだよ」

「それは、料理人の秘訣です。でも、このフライパンで殴ったら、きっとそこらの雑魚は一撃、ドラゴンも昏倒しちゃうよね!」

 不安が不安を呼ぶエルリッヒの同行だったが、どういうわけか非常に重いフライパンを軽々と振るう姿を見て、少しだけ心強く感じてしまった。

 この細腕に、なぜこんなに力があるのか。武器を扱う事は出来ないのだろうが、このフライパンならあるいは。そんな期待が沸き上がる。

「それで、現地まではどうやって?」

「ここから馬車で二日、火山のふもとにあるハインヒュッテの村に行って、そこからは歩きだ。もう外の門に馬車を待たせてあるから、準備が良ければ早速行こうか」

「だね。俺は荷台の荷物を担当するから、ゲートムントとエルちゃんは先に行っててよ」

 なんだかんだでエルリッヒの参加は止められなかった。だが、それを差し引いても、何となくワクワクする気持ちがわいて来た。同じ無策でも、前回とは違う。心構えも違えば、初見でもない。それに、もしかしたら本当にこのエルリッヒのフライパンが攻撃力を発揮してくれるかもしれない。そんな前回との違いに、いささか以上の期待が交じった。



「それじゃおっさん、やってくれ」

「了解、旦那」

 馬車に乗り込んだ三人。ゲートムントが御者に出発を告げる。ガラガラと音を立て、緩やかな振動とともに走り出した。いよいよ、第二回ドラゴン討伐の出発だ。


〜つづく〜

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