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チャプター11

ーシュタイヒェン街道ー



 ツァイネを助けるために割って入ったゲートムントが、しっかと槍を構えてフレイムリザードの前に立つ。

「さーて、どうすっかな? 手軽に勝てる相手じゃなさそうだけど……」

 鎧に着替えている間も、遠目にツァイネとの闘いは見ていた。攻撃パターンだけでなく、その攻撃力やスピード、そして何よりも恐ろしい炎。どれ一つ取っても楽観できず、いくらリーチのある槍を使っているからといっても、無策で挑んだのでは、さすがに危険だ。

「まずは、堅さ確認しないとだな。俺の槍で、どこまであの鱗を貫けるか……」

 槍を構え、ギリギリまで距離を空けて突きを繰り出す。間合いを取って攻撃しているために、一撃一撃は浅く、さすがに威力は小さいが、それでも穂先から伝わる感触からは、十分に相手の堅さが伝わって来る。槍の鋭さや強度も考えると、この鱗を貫くためにはそれなりにしっかりと攻撃する必要がありそうだった。だが、今はまだ小手調べの段階だ、本気で攻撃するのは、もっと後になってからだ。ゲートムントの全力は、まだまだ出番じゃない。

「うりゃ! うりゃ! うりゃーっ!!」

 一方、相対するフレイムリザードは、執拗な突きを嫌がるように間合いを詰めようとしない。焦らすようなこの攻撃には時間稼ぎの意味もあるので、猛攻を仕掛けてこないというのであれば、これはこれでありがたい。いくら鎧を着込んでいるからといっても、当然攻撃を受ければ軽傷では済まないだろう。こんなところで不必要にダメージを受けるのは、得策ではないのだ。

『グルルルル……』

 しかし、口の端から漏れる低く小さな唸り声が、何かを秘めているように思わせる。できれば、その「何か」が顕現する前に討伐してしまいたい。そのためにも、まずはツァイネに早く戻って来てもらわなければ。

「急いでくれよ〜、ツァイネ〜!」

 小さく祈りを飛ばしつつ、ゲートムントは小手調べの攻防を続けていた。



「ね〜、まだなの〜?」

「そりゃあねー。俺たちの鎧は、服を着るほど簡単には着られないんだよ。着方が悪いと、闘ってる最中に脱げてむしろ危険なんだ。だから、急いでいても、焦っていても、しっかり着ないとダメなんだ」

 馬車では、相変わらずエルリッヒが急かしていた。もちろん、今の相手はツァイネだ。時に馬車の窓から顔を出し、時に馬車の中から声をかけ、ツァイネを緩く急かしていた。普通であれば、急かされるのはいい気がしないものだが、相手がエルリッヒとなれば話は別だ。何せ、話をできるだけで嬉しいのだ。青い鎧を着ながら、心穏やかにその相手をする。

「ところで、ゲートムントは一人で大丈夫なの? いくらなんでも一人で任せるのは荷が勝ちすぎるんじゃないの?」

「ん? あぁ、それは心配ないよ。ギルドの登録上は俺の方が上のランクって事になってるけど、あくまでも依頼をこなした数とか、報奨金の類型とか、そういうので出してる一方的な評価に過ぎないからね。それに、俺とゲートムントって、戦闘スタイルが全然違うでしょ? 場面場面で得手不得手が違うから、ああいう相手には、ゲートムントの方が有利に動けるはずだよ」

 その言葉が本当かどうか、エルリッヒは計りかねた。本当は安心させるための嘘で、実際は苦戦を強いられるかもしれない。もちろん、本当にああいう相手は得意かもしれない。だが、もしものことを思うと、やはりさっさとしなさい、と言いたくなって来る。急がせるにも限界があると分かっている事だから、必要以上の言葉はぐっと我慢して黙っているが、エルリッヒの性格上、これがなかなか辛い。

「だけど、急がないとだね。いくら攻撃は鎧で防げても、炎までは防げないから。金属製の鎧だし、もし炎に巻かれたら、中のゲートムントは蒸し焼きになっちゃうだろうし。よっと、ほっと、はっと! うし、完了!」

 全ての最後に篭手を装着し、ツァイネの装備が終わった。こうして見ると、やはり勇壮だ。それはゲートムントも同じなのだが、彼の持つ鉄色の無骨な鎧に比べ、装飾の施された青い鎧は美しい。騎士団でも特別に認められた団員しか就任できないという親衛隊の鎧は伊達ではない。見た目の美しさだけでなく、防御力も並外れているらしいのだ。

「うんうん、やっぱり鎧姿はいいねぇ! 男前が上がるよ」

「でしょ? ゲートムントもだけど、俺たちはやっぱり完全武装してこそだからね。んじゃ、行って来るよ。じゃなかった、勝って来るよ。俺たち二人でね。安心して待ってて!」

 こうしてわざわざ言い換えた事には、大きな意味があった。ただ勝負を挑むのではない。勝つのだ。完全武装した二人が揃って挑んで、負けは許されない。少なくとも、あのドラゴンよりも弱いと目される相手には。

「うん、頑張って。私はおじさんと二人で応援してるから」

「おーけー。あと、ありがとう!」

 再び武器を取り、駆け出しすツァイネの足取りは、まるで鎧を着ているとは思えないほどに軽やかだった。



「はぁ……はぁ……俺一人じゃ勝てないからって、これ以上このまま闘うのは……厳しいか?」

 そろそろ着替えも終わった頃かと馬車の方を見るも、そこにツァイネの姿はない。一体どこにいるのか。青い鎧は目に付きやすいから、馬車の陰で着替えているのでなければ、どこかに見えるはずなのだが。

「あいつ、どこ行ったんだ? っとと!」

 視線を他所に向けた一瞬を突いて、フレイムリザードの攻撃が繰り出される。尻尾を鞭のようにしならせて、横一文字に薙ぎ払ってきた。まともに受ければ吹き飛ばされてしまうかもしれないその攻撃を、なんとか槍の柄を盾にして耐えしのいだ。やはり、重たい。

「あぶねー! 危うく直撃するところだったぜ!」

「全く、情けないなあ。年上でしょ? さっきの俺に比べたら鎧着てる分よっぽど有利なんだから、泣き言言わないでよね。ゲートムントは、もっと余裕の態度でいてくれなきゃ」

 気付いた時には、その姿はすぐ隣にあった。気配も移動する姿も悟らせずにここまで来るとは、なんと頼もしい相棒だろうか。皮肉交じりで普段より強気の口調が、ゲートムントを発奮させる。

「無茶言うなよ。俺の方が得物が重いんだぞ? なんてな。わーってるよ。お前が来るのを見計らってただけだ。これでお互い全力で闘えるな。何より、俺たちは二人で闘った方が、ずっと強ぇ」

「ああ。お互い出し惜しみはなしって事で」

 二人が改めて前方の敵を見ると、少しずつでも与えたダメージが効いているのか、若干息が荒くなっていた。ダメージが蓄積されていることは、大いに歓迎すべきだ。だが一方で、それはこの魔物を手負いの獣にしてしまったということでもある。手負いの獣が危険なのは、いつの世も変わらない。まして、それがドラゴンの眷属だというのなら、なおさらだ。それをわかっているからこそ、二人は速攻で片付けることを選択した。

 二人揃った今、相手の出方を伺ったり、攻撃パターンを分析したりといった行動は必要ない。あるのは、何かをされる前に倒してしまうことだけだ。それは、先ほどゲートムントが考えていたことと一致する。

 方針にブレがないからこそ、二人は余裕の態度で闘える。

「んじゃ、いつものクロスシフトで行くよ。準備お願い!」

「おう!」

 二人は顔を見合わせると、今一度武器を強く握ると、しっかと構えた。フレイムリザードは、その様子をじっと見ている。何かを仕掛けるつもりかもしれないと、二人は気を引き締めた。




〜つづく〜

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