2話
何だかんだで結局雷は喫茶店
「Mist」の前に居た。
時間も丁度一時を回ったところで約束の時間には充分間に合うのだが…
「…なんか気が乗らねぇんだよな〜…面倒くせぇし…。」
雷は店に入る事を躊躇っていた。と言うのも京子が回して来る仕事を受けてろくな目にあった事がないからである。
今回の仕事も大抵その例に漏れない厄介な物に違いない…雷はそう考えていたのだ。
「何してるの?さっさと中に入りなさい。それともこんな所で話す気なのかしら?」
…がしかし、まあ、選択の余地は無い様だ。仕事を受けるにせよ断るにせよ、先ずは仕事の内容を知らなければならない。
雷は内心嫌々ながらも
「…分かったよ。…んじゃ、まあ、邪魔するぜ?」
京子に従うままに店の中に入って行った。
店の中はログハウスをイメージさせる落ち着いた雰囲気を醸し出している空間で、オーナーのセンスの良さが手にとる様にわかる。
東京という大都会の中に在りながらそういった独特の安らげる空間を作り出していた。
「まったく何をしているのかと思えば…惚けた顔して店の前に突っ立ってるなんてね。行動のトロさは折り紙付きなのね。」
店の優しい雰囲気を軽くぶち壊す毒舌。
この知的な美女は、雷に対して辛く当たり過ぎる傾向にあるようだ。
「あぁ?そりゃねぇだろ?一応時間は守ってんだぜ?」
透かさず反論する雷。…がしかし、
「あら、口答えする気?それに時間通りに来ってあんな所につったってちゃ意味ないのよ。そもそも男なら約束の十分前には来なさいよね。約束通りなんて当たり前通り越して愚かしいのよ。」
…雷が哀れになるような(むしろ哀れなり雷)無茶を散々まくし立てる京子。
「…トカイコワイ、トカイコワイ…」
遂には意味不明な現実逃避に追い込まれる雷。
…情けない限りである。
「…ふぅ、まあ、くだらない無駄話は置いといて仕事よ。し・ご・と。」
…落ち込んでいる雷を落ち込ませる原因となった本人は気に止めもせず仕事の話へ強引に持って行く。
「…トカイコワイ、トカイコワイ…トカイコワイ。」
「じゃ、仕事の内容を話すわね。」
…哀れなり雷。