1話
雷は不機嫌だった。
本来なら未だに惰眠を貪っていたであろう時間に叩き起こされたからである。
…が会社や学校に行くなら確実に遅刻する時間だったりしたのだから文句は普通は言えなかったりする。
「…あぁ、京子の奴!!こんな朝っぱらから電話してくんなよな!!」
…彼には関係なかった様だ。
彼は昨夜留守電を設定し忘れた己の愚行を呪っていた。
…つくづくだらしない男である。彼は今朝の電話の内容を思い出していた。
………………
「誰?」
雷が不機嫌そうに電話に出ると、
「私よ。」
相手も随分無愛想だったりした。
「和田志さんですか?いやぁ、多分番号間違えてますよ。じゃあ、そういうことで。失礼します。」
軽口で相手を誤魔化しつつ、電話に出てしまったことを壮絶に後悔し、ちゃっかりと電話を切ろうとする雷。
「待ちなさい。殺すわよ?」
…誤魔化せるはずもなかった、というか事態を悪化させただけの様だ。
誰もが聞いてしまったことを後悔するような絶対零度の言霊を吐いたのは、霧島京子。一応一流の陰陽師だったりする。
普段は小さな喫茶店を経営しているオーナーだ。
セミロングの艶やかな黒髪が映える知的な美女である。
本来なら優しい彼女もつまらない軽口でちゃっかりと逃げようとした雷に御立腹の様だ。
「ひぃぃ!?ごめんなさい。ごめんなさい。京子様!!調子に乗ってました。ごめんなさい。」
…物凄い卑屈っぷりである。
「…まあ、いいわ。分かれば…それより仕事よ。昼に私の店に来て。」
あきれた感が声に出ている京子が言うと、
「えぇぇ〜、俺今日オフの日なんだけど…。」
「ホントに殺されたいのかしらね?」
「いえ、謹んで御受け致します。では一時に。」…ガチャッ。
悲しいほど即答だった。