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Ep.1

深夜1時過ぎ、首都高速都心環状線には、静寂は無かった。トラックのタイヤが路面を蹴る音、大きな羽を付けた車が吐き出す甲高い音、白煙と共に聞こえてくるスキール音。そんな中、タイヤの鳴いている声が聞こえてくる。その声の正体は、グレーのNDロードスター。そのドライバーは、小さな頃からレーシングパイロットを志していた青年だった。その青年の名前は「福谷涼城」。

某日、箱崎PA

カシュッと缶コーヒーの蓋が開く。そのコーヒーを半分程飲んでロードスターのタイヤを覗いた。

「ぼちぼち新しいタイヤでも買いてぇなぁ」

そんなことをほざいていると隣に白いクーペが止まる。赤いホンダのエンブレムをきらびかせた初代インテグラだった。

「どーもー!」

と夜とは思えないハイテンションで語りかけてきた青年は同い年に思えた。

「なんですかいきなり大声出して...」

福谷は気だるそうに答える。

「自分天田と申します!さっきからずっと後ろで走りを見てたんですよ!」

「あの煽ってきたインテの方でしたか、何の用で?」

インテグラのドライバー、天田史郎はウキウキとして質問する。

「いやーあなたかなり速いですね!見た感じノーマルなのに全く追い付けなくて!」

「そりゃ伊達にC1流してませんよ、あなたこそピッタリくっついてたじゃないですか。」

「くっつくだけで精一杯だったんですよ!スゴいッスネ!」

福谷は缶コーヒーを飲み干し、ゴミ箱に投げ入れ、運転席のドアを開ける。

「あ!ちょっと待って下さいよ!」

それを天田が止めた。

「どうせなら一発バトルでもしませんか!?」

福谷は渋い顔をしながら

「ハァ、しょうがないですねぇ、C1一回りだけですよ」

天田はそれを聞くなり飛び跳ねて自分の車に乗り込む。

「やったー!じゃあ、C1に入ってからスタートで!」

そう言うなり彼はPAを飛び出していった。福谷もヤレヤレと言いながらそれに着いていった。

江戸橋JCTを過ぎると2台ともエキゾーストを響かせて内回りを回って行く。蛇のように一般車を追い抜きながらスピードを上げていく。竹橋を過ぎると霞ヶ関へ向かうカーブがある、互いにブレーキランプを光らせて突っ込んで行く。その瞬間、福谷のロードスターが前に出た。鼻先を捻るようなコーナリングはFRの回頭性によって実現する芸当だろう。

「ッ!」

天田はその立ち上がりを見守っているわけではない。アクセルを開け、チェンソーのような音を奏でて走る。VTECの甲高いサウンドを耳で受け取りながら走って行くのだ。霞ヶ関のコーナー区間を抜け、一ノ橋JCTへ向かって行くが彼は焦っていた。天田は一ノ橋JCTのコーナーが全く攻めれないのだ。免許取り立ての頃にこのコーナーで車を擦って以降苦手としていた。せめて前に出て蓋をしようとしていたが後ろにいてはどうにもならない。谷町JCTを過ぎた辺りにある一ノ橋JCTへのアプローチとなるS字コーナーがあった。インコースに一般車がいたために両者追い越し車線へ進むが天田はフェイントをかけるように車線変更した。

「何してんだ?」

福谷がそんなことを呟いた時には既にイン側にインテグラがいた。

「!」

フェイントモーションの慣性にFF特有のオーバーステアが重なり通常ではあり得ないスピードで曲がって行く。

「クッ!」

だがその勢いを殺さんばかりにフルブレーキをかける。そんな隙を福谷が逃す筈がない。

「何故こんなところからブレーキを!?」

アウトサイドからインへスパッと切り込んだロードスターは水を得た魚のように一ノ橋を過ぎていった。天田はそこで負けを確信した。

深夜、箱崎PA

「いやー速い速い!置いてかれちゃいましたよ!」

「いや、俺が速いんじゃない。お前が遅かったんだ。」

冷静に、そしてストレートに福谷は言った。

「何故あそこでフルブレーキをかけた?あのままクリアしていけば完璧なオーバーテイクだった筈だ。」

天田は弱点を突かれたように呟いた。

「いやーどうにも攻めれなくてですねぇ。」

福谷は考えながら声を出した。

「そう...か...」

そんなとき、一組のカップルの話し声が耳に入った。

「ねーぇー!この後ホテル行かないー?」

どうやら女性の方は酔っているらしい。

「バーロー、そんなベロベロの状態でホテル行ったところでヤれねぇだろどーせ。テメーはすぐ寝んだからさ!」

「そんなことを言わないでよぉー!」

そんな会話を聴きながらハッとしたように腕時計を見る。

「いっけねもう1時半かよ!明日の1限落とせないのに!」

「あら?学生さんでいらっしゃる?」

「そうだよ!俺はもう帰って寝るわ!」

慌てた様子で車に乗るとすぐに出発していった。

「...連絡先聞き忘れたな。」

そんなことをボヤきつつ、天田も自宅へ帰っていった。

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