【異世界×恋愛】島生まれの『エドっ子令嬢』は本日も学園の悪徳貴族をフルボッコ
有名作『坊っちゃん』をオマージュした作品。
個人的には普通に読めちゃうと思うけれど、「そういうやつね」とそっと閉じる気持ちも分かる……
親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている。
わたしがエドという島国に暮らす田舎の令嬢だから損をしていると思うのか。
しかし、そう確信せざるをえない出来事が、わたしの人生にはいくつもある。
たとえば、わたしがまだ幼年学校に通っていた頃の話だ。校舎の二階の窓枠に腰かけて校庭を眺めていたら、下で剣術の素振りをしていた男の子に大声でからかわれたのだ。
「おい、そこのお嬢様。高みの見物か? どうせそこから下りてくる度胸もないくせに。弱虫―!」
――何が弱虫だ。このわたしを見くびるなんて、いい度胸じゃないか。
頭に血が上ると、わたしはそのまま窓枠に立ち上がる。
「見ていろ!」
そして、勢いよく飛び下りてしまった。その瞬間、地面がぐらりと歪み、足首に激痛が走る。声を上げるのも忘れ、脳天がしびれるような衝撃が足を通って突き抜けた。
結果は、ねん挫――しかも結構ひどいやつだ。
それでも、わたしは負け惜しみを隠さなかった。這うようにして保健室へ行き、手当を受けたあと、駆けつけた父にこっぴどく叱られたのだけれど、思わず言い返してしまう。
「二階から飛び降りてねん挫なんて、そんな令嬢がいるか!」
そう怒鳴る父に対し、わたしは歯を食いしばりながら、
「次はねん挫せずに飛び降りてみせます!」
と反射的に言ってしまったのだ。父は呆れかえり、母はため息をつく。
「ああ、娘の品位が……」
けれど、わたしにとってはそれくらいが当たり前だった。生まれつき、頭より体が先に動いてしまうのだから仕方がない。
もう一つ、今でもはっきりと思い出せるのがナイフ事件だ。
ある日、大陸から輸入されたという珍しくて美しいナイフを手に入れたわたしは、その輝きを幼年学校の仲間に自慢していた。陽の光を受けてキラキラ反射するナイフに、みんな目を丸くしていたが、そのうちの一人が言った。
「ピカピカ光るのはいいけど、切れ味はたいしたことないんじゃないの?」
この挑発を聞き流すことなど、わたしにはできない。
「切れないわけがない。何だって切ってみせるわ!」
すると相手は、鼻で笑うようにこう言ってきた。
「じゃあ、おまえの指を切ってみろよ。ほら、自分の指が一番切りやすいだろ?」
指ぐらい、どうってことない。
――なぜあのとき、そんな浅はかな考えに至ったのだろう。
いま思えば冷や汗ものだが、そのときのわたしはすでに頭に血が上っていた。何の迷いもなく、右手の親指の甲にナイフをスッと入れたのだ。
「……っ!」
少し血の気が引いた。が、幸いナイフは小さく、骨が固かったおかげで指そのものが切断されるには至らなかった。けれど、皮膚はしっかり傷つき、鋭い痛みが走り、血が少しにじんでくる。
もちろん、翌日は傷の手当と父からの雷がセットで待っていた。あれから長い年月がたった今も、そのときの斜めの傷痕は右手の親指にくっきり残っている。
正直、バカげた武勇伝だと自分でも思う。
こうして喧嘩や暴れ回る事件は日常茶飯事だった。
男の子に混じって腕力勝負をふっかけたり、友達と畑を荒らして大人を困らせたり……
父はいつも嘆いていた。
「こんなじゃじゃ馬娘、碌な大人にならない……」
母も、いつも涙ぐんでいた。
「乱暴だから、将来嫁の貰い手があるか心配だわ……」
無理もない話だ。
それでもわたしにしてみれば、「やりたいからやる。言われて腹が立つからやり返す」というだけの単純な理屈で生きていたのだ。
そんなわたしを評価してくれたのは、幼馴染のシンだけだった。
「まっすぐで、気持ちのいい性格をしているよ」
シンはわたしより背が少し高いくらいで、あまり丈夫ではないのか、いつも病弱そうな細い体をしていた。そして、いつもわたしにそんな声を掛ける。
「お世辞なんて嫌いよ。わたしをからかってるだけじゃないの?」
つっけんどんに突っぱねると、シンはいつも柔らかい微笑みを浮かべて言うのだ。
「本当だよ。僕は君のそういう真っ直ぐで臆さないところが羨ましいんだ」
シンはいつも目を細めながら話す。静かな口調と物腰には穏やかな大人っぽさが滲んでいた。もしかすると、病弱な分、落ち着きがあったのかもしれない。
彼のそんな態度を間近で見ると、どうにも調子が狂う。
普通にケンカを売ってくる輩なら「うるさい!」で蹴散らして終わるだけなのに、シンにはそれができない。わたしがバカ正直に突っかかっても、まるで柳のように受け流されてしまうのだ。
――とはいえ、わたしもシンが嫌いじゃない。
むしろ好きなほうだ。
乱暴者のわたしを前にしても、シンは嫌な顔一つ見せずに「かっこいいね」と褒めてくれる。それが嘘か真かは分からないけれど、少なくともわたしにとっては心地よい言葉だった。
わたしはジャジャ馬かもしれない。それでも構わない。
――そんなふうに思えたのは、シンの言葉があったからだと思う。
もちろん、その「まっすぐ」さが、わたしの人生において数々の火種を燃やし続けているのも事実だ。これが、親譲りの無鉄砲というものだ。
◇◇◇◇
そんな騒々しい日々もあっという間に過ぎ去り、わたしは無事に卒業を迎えた。最後まで退学にならずに済んだのは運が良かったのか、それとも少しは成長した証なのか――とにかく、卒業式のあとで校長先生に呼び止められたのだ。
「大陸に渡った先の王国にある魔法学園で、教師の募集が出ているんだ。もし興味があるなら、応募してみないかね?」
わたしの実家はそこそこ良い家柄ではあったが、父から譲られたのは無鉄砲さだけで、正直、身の振り方はあまり考えていなかった。だからこそ、この話を聞いたとき、わたしはすぐに「やります!」と答えていた。
まさに親譲りの向こう見ず、というわけだ。
そうして卒業後すぐに、大陸へ渡る準備を進めている矢先。父も母も、ぽっくりと立て続けに亡くなった。二人とも持病があったのは知っていたが、まさか同時期に逝ってしまうなんて……さすがのわたしも驚きを隠せなかった。
兄は家督を継ぎ、屋敷の切り盛りを始めると同時に、わたしにそれなりの大金を持たせてくれた。
「おまえは好きに生きるといい。大陸のほうで立派にやってみろ」
実に気持ちのいい態度だった。兄とは幼いころから喧嘩ばかりしていたが、最後に見せてくれたその潔さに、わたしは少し胸が熱くなった。
結局、それ以来わたしと兄は一度も会っていない。――それでもわたしは、兄がくれた金と、自分の無鉄砲な性分を頼りに、大陸へ渡る決意を固めたのだ。
出発の日が近づいたある夕暮れどき、シンがわたしを訪ねてきた。やはり彼だけは、わたしの旅立ちを名残惜しんでくれているようだった。
「行っちゃうんだね。でも、また会おうね?」
シンのかすれた声を聞くと、なぜか胸がきゅっと痛む。わたしは普段なら見せない弱さを、彼の前でだけは素直にさらけ出したくなった。
だから何の照れもなく、こう言った。
「うん、また会いたい。……絶対に」
それは誓いでもあったし、自分への決意表明でもあった。
◇◇◇◇
大陸へ渡る船の旅は思ったよりも快適だった。エドの海とは違い、波も比較的穏やかで、空も広い。地平線の向こうにどんな国が待っているのか想像するだけで、胸が高鳴った。
そして王国の港町に降り立ち、さらに馬車を乗り継いで向かった先が――わたしの新たな職場、王都の魔法学園だった。
王都はわたしの生まれ育ったエドよりもずっと温暖で、街並みものんびりしている。行き交う人々は朗らかで、初めて訪れる異国の空気にわたしはときめいた。
ところが、ひとたび魔法学園の門をくぐると、そこには見えない火花が飛び交っていた。
『キツネ目』の学園長、そして副院長で『アカフク』とあだ名をつけた赤い大礼服を好む嫌味な貴族――この二人を頂点として、教師や生徒、さらには外部の貴族や商人までもが入り乱れた派閥争いが繰り広げられていたのだ。
着任初日に『キツネ目』から「教壇に立つ前に、この学園の力関係を理解しておくべきだ」と説かれたときは、正直うんざりした。そんなものに興味はないし、面倒な人間関係に巻き込まれるつもりもない。
着任早々、困ったことがもう一つ。
わたしの大陸語はまだまだ訛りが強いらしい。挨拶回りをしようと廊下を歩けば、すれ違う生徒たちがくすくす笑っているのが分かる。
「エド訛りの先生だってさ……」
「発音が変だよな。ぷっ」
見下すような視線を浴びるたび、わたしは内心腹が立った。けれど、ここで殴りかかっても仕方がない。教師として赴任した以上、最初から暴力沙汰を起こすのはさすがに得策じゃない――と理性が制止する。
しかし、そんなわたしの自制心も、その日のうちに試されることになる。
赴任先の下宿では浴場の栓が勝手に抜かれ、入ろうと思ったときにはお湯がすっかり流されていた。それどころか、部屋には大量のコオロギが放たれていて、わたしの寝床を跳ね回る始末。
翌朝わたしは、血走った目でその犯人を探し回った。聞き込みの結果、それが騎士課の生徒グループの仕業だと分かると、わたしは迷わずそいつらを中庭に呼び出した。
「人の部屋にコオロギ放つとはいい度胸じゃないか!」
わたしは自分の魔法で巨大な風のロープを生み出し、犯人たちをまとめて柱に縛り上げた。さらに逆さ吊りにしてやると、一人が「わ、わるかったってば!」と泣き叫ぶ。
「わるかった? 笑わせるな。昨夜、わたしが眠れなかったぶん叩きのめしてやる!」
そう言ってわたしは、彼らに魔法で風をぶつけ、数発は軽い打撃を加えた。実際には大怪我はさせないよう手加減はしたけれど、見かけは相当派手だ。
周囲に野次馬の生徒が集まり、青ざめた様子で囁き合っている。
「あ、あの先生、ただ者じゃない……」
「エドっ子先生、こええ……」
この一件が瞬く間に学園中に広まり、わたしは「エドっ子先生」という二つ名で呼ばれるようになった。畏怖の混じった視線を向けられることが増えたが、その一方でわたしを面白がる生徒も増えた。
さらに意外だったのは、わたしが補習を丁寧にこなしている姿を生徒がしっかり見ていたことだ。補習は嫌がる生徒も多いが、わたし自身は「習っていない、できない」という者には真剣に向き合う。雑に放り出すことはしなかった。
そんな誠実さ(自分で言うのもなんだけど)が意外と評価されたのか、何人かの生徒が「先生って怖いけど面倒見がいいよな」と噂してくれたらしい。
やがてわたしは、ただの問題教師ではなく、一目置かれる存在になっていった。「エドっ子先生」としての名声はわたしの耳にも届くようになる。
「おい、あの先生に逆らったら大変だぞ」
「でも、意外と面倒見がいいらしいよ」
――二階から飛び降りてねん挫をした少女が、まさか大陸でこんなふうに呼ばれる日が来るとは思ってもみなかった。
◇◇◇◇
さて、この魔法学園にはわたし以外にも、個性的な教師がたくさんいた。
たとえば、副院長『アカフク』の腰巾着として有名な『タイコモチ』。アカフクがどんな無茶な命令を出しても「はいはい」と従い、時にはご機嫌とりの嘘を平気で口にする人間だ。
それから、気弱な薬草学教師『ヒョウタン』。もともとは『マリア』と呼ぶにふさわしい令嬢と婚約していたのに、どうやらアカフクが横槍を入れているという。だからか、いつも暗い顔をしており、「まいったなあ……」とぼそぼそ呟いている姿をよく見かける。
もう一人、わたしが特に気に入ったのが、物理教師の『マウンテンストーム』。名前の通り体は山のように大きく、そして性格は熱く剛直だ。アカフクや貴族の妥協案にも「そんなの卑怯だ」と真正面から文句を言う。実に痛快で、わたしの無鉄砲さとはまた違う意味での「正直者」だと感じる。
問題は、そのアカフク自身だ。赤い大礼服をまとい、時折「マリアとの逢瀬がどうだった」などと淫らな話を自慢気に披露する。さらに新聞に圧力をかけて、マウンテンストームを中傷する記事を書かせたり、給料の値上げを餌に同僚を操ろうとしたり……
――わたしは、そういう「権力と金で他人を動かす」やり方が大嫌いだ。陰でコソコソ策略を練る奴には、ろくな人間がいないというのがわたしの持論でもある。
◇◇◇◇
あれから三年。
さすがにわたしも、ひと通りの慣れは身に着けていた。
エド訛りも少しは矯正され、生徒ともそれなりに意思疎通がうまくなった。時には「うわ、エドっ子先生!」と逃げ腰の子もいるが、補習をしっかり受けに来る生徒も増えてきた。わたしにとっては悪くない環境だ。
しかし、この三年の間もアカフクの悪評は広まる一方だった。
偉そうにしているわりに、公金の使い込みや裏取引、ましてや人の婚約話への介入など、醜い噂は絶えなかった。
そしてある日、婚約事件の真相が白日の下にさらされる。
――要するに、ヒョウタンが心底惚れ込んでいたマリアとの縁談を、アカフクが強引な手段でぶち壊し、そのまま自分が横取りしたというのだ。
その話を聞いたとき、わたしは怒りで拳を震わせた。わたし自身、卑怯な振る舞いが嫌いというだけではない。ヒョウタンは確かに気弱だが、生徒に慕われる優しい教師でもある。そんな彼が一度の恋を踏みにじられ、しかも今もなおアカフクに怯えて生きているなんて、あまりに不憫だった。
ちょうど同じころ、マウンテンストームもアカフクのやり口に激怒していたらしい。彼も新聞社に誹謗中傷する記事を載せられ、元々、腸が煮えくり返るばかりだ。
わたしたちはそれぞれに怒りを募らせ、ついに行動を決意する。
――そう、アカフクと腰巾着のタイコモチが、どこかの酒場で祝杯を上げると聞いたのだ。どうやら「ヒョウタンの婚約を奪い取った記念」だそうで、我慢も限界だった。
その夜、マウンテンストームとわたしは連れ立って酒場の裏口に忍び込んだ。すでにアカフクは赤い大礼服姿でどんちゃん騒ぎ、タイコモチが周囲に愛想を振りまいている。店員たちも大貴族の威光に媚を売っていて、まさに鼻につく光景だ。
「行くぞ……」
低く呟いたマウンテンストームが酒場の扉を蹴破る勢いで開けた。わたしもその後ろから飛び込んでいく。店内が悲鳴と怒号でいっぱいになった。
「何の騒ぎだ! きさまら!」
アカフクが立ち上がり、顔を真っ赤にしてわたしたちを睨む。わたしは一歩前へ出て、グラスをテーブルに叩きつけた。
「よくもまあ、人の婚約者を横取りして祝杯とはな……教師の風上にも置けないとは、このことだ!」
マウンテンストームも怒鳴る。
「それだけじゃない。裏金や賄賂、不正をやりたい放題だと聞いたぞ!」
アカフクはうろたえつつも、「証拠があるのか!」と悪あがきをする。すると、酒場にいた客の一部が声を上げた。
「そいつ、学園の費用を私用に流用してたっていう噂を聞いたことがあるぞ!」
「婚約者を無理やり奪うようなやつが、まともなわけがない!」
こうなると形勢は完全にわたしたちのものだった。アカフクとタイコモチは慌てふためき、それでもどうにか逃げようとするが、マウンテンストームが腕でがっちりと二人の肩をつかむ。
「離せ! 暴力だぞ、これは!」
「上等だ、かかってこい!」
わたしも熱くなり、ついそのままタイコモチに拳を見舞ってしまった。ゴツン、という鈍い音が店内に響く。
「暴力沙汰にしたいわけじゃないが、てめえらみたいな卑怯者には、言葉じゃ分からないだろうからな!」
そう言い放ち、わたしはさらに追い打ちをかけるように「公衆の面前でおまえたちがやった悪事を全部白状してもらう!」と宣言した。
結局、アカフクとタイコモチは横領の証拠を酒場の客たちにも見抜かれ、大騒ぎになった。
後日、二人は「乱暴された! 訴えてやる!」と口汚く叫んでいた。
しかし、わたしは鼻で笑う。
「訴えるなら勝手にしろ。こんな学園にはもう義理はない!」
そう言いつつ、その場で辞表を叩きつけることにした。マウンテンストームも同時に「こんな腐った組織に留まる意味はない」と叫び、わたしの後に続いた。
◇◇◇◇
こうしてわたしたちは学園を去った。
わたしは退職金代わりの俸給をしっかり受け取ると、荷造りをして王都を出る。最初はせいせいした気持ちだったが、馬車に揺られていると妙に胸が騒ぐ。
もし帰るなら、やはりあの島国エドしかない。わたしの故郷へ。
そして――シンのいる場所へ。
エドの港町に着き、しばらく風にあたりながら波止場を眺めていたとき、不意に静かな声がした。
「おかえり」
振り向くと、そこにはシンが立っていた。以前よりも少しだけ背が伸びたけれど、その優しい眼差しは昔と変わらない。
「どうしてここに?」
「君が帰ってくるかもしれない、って噂を耳にしたから。……待ってたんだよ」
その穏やかな笑顔を見た瞬間、わたしの胸はじんわりと温かくなる。
まるで今まで張り詰めていた糸がゆるんで、ほっと溶けていくような感覚だった。
「なあ、シンの横が……なんだか、わたしの帰る場所みたいだ」
わたしは素直にそう漏らした。
するとシンの目が少し潤んだように見えた。
次の瞬間、自分の中から言葉がこぼれる。
「ねえ、わたしと結婚してくれない?」
世間の常識から見れば、女性からの逆プロポーズは珍しいかもしれない。だけど、わたしはもはや恥じらいなど感じなかった。シンの横で、ずっと生きていきたい。
シンは大きく息をつき、そして照れ臭そうに微笑む。
「ありがとう。……こちらこそ、一生君のそばにいたいよ」
こうしてわたしたちは夫婦となった。
エドに小さな家を買い、わたしは細々と魔法を教える仕事を続け、シンは文書を翻訳する内職を請け負って、二人で慎ましく暮らす。
やがて子どもが生まれ、家の中はますます賑やかになった。
そんなある日、王国から一通の手紙が届いた。
差出人はマウンテンストーム。彼が書き綴った近況報告には、例のアカフクが校内での信頼を完全に失い、自滅寸前だという話があった。
「やっぱりなあ……」
わたしは思わず笑みがこぼれる。あれほど卑怯なことばかりしていれば、いつか天罰が下るに決まっている。
マウンテンストームの近況も書かれており、どうやら正々堂々と新しい職を得て、生徒たちを伸びやかに指導しているらしい。
――わたしも見習わないとな。
子どもをあやしながら、シンの方をそっと見ると、彼は柔らかな笑顔でわたしを見返してくれる。
「アカフクみたいな卑怯者には、絶対になりたくないな。わたしはシンと、この子を一生かけて守っていくよ」
その言葉に、シンは静かに頷く。わたしはこの瞬間の幸せを、誰よりも強く噛みしめる。
――こんな風に穏やかで温かい気持ちになれるのも、親譲りの無鉄砲が遠回りさせてくれたおかげかもしれない。
何度も失敗をして、何度も無茶をしたからこそ、今ここで大切なものを見つけられたのだろう。わたしは子どもの小さな手を握り、シンの優しい笑顔を見つめながら、もう一度心に誓う。
――この家族を、絶対に裏切らない。何があっても守り抜くのだ、と。




