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リストからなくなった物語たち  作者: ぜんだ 夕里


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10/13

【コメディー】2,000,000.000メガトンパンチを使える3,000,000,000年生きた超絶イケメンの吸血鬼は今日もクソほど静かで穏やかな廃寺でお茶を400,000リットル飲む

最近アップロードしましたが、すぐにリストから消えてしまったかわいそうな子です……

はじめは題名を「3000兆年生きた……」とかにしようと思ったけれど、宇宙すら誕生していないと気づきスケールダウンして、名前が中途半端になりました。

でもこういうお話も好きなんです!

 俺は特に名前もなく突然生まれた存在だった。


 人生のほとんどを名前で呼ばれずに生きてきた。

 最近になってようやく、ヴァンパイアだとか吸血鬼だとか、そんな風に呼ばれるようになった。


 もういつ生まれたかなんて忘れ果てるほど昔のことだ。感覚的に言えば、たぶん三十億年ぐらい前だろうか?


 その頃はまだ植物と呼ばれるものもなくて、ほとんどが海ばかりの場所だった。

 俺はたまに存在する岩の上で寝て過ごしていた。


 するとある時、海の中にちょっと緑っぽいものができた。


「お、なんか始まった」


 面白いなぁと思ってたまに見ていると、それが「わかめ」みたいな葉っぱとして海を漂うものになった。


 いやぁ、あれは見ていて飽きなかった。


 それがほんのちょっと前ぐらい――億年単位だったかもしれないが――に、彼らが頑張って岩の間ににょきにょきと生えてきて森になったんだ。


 ずっと岩の上で生きていたのは俺だけだったから、あれは感動したよね。

 灰色の世界に色が差した瞬間だった。


 すると、それを追いかけるようにトカゲみたいなものがたくさん海から上がってきた。

 あいつらも緑が恋しかったんだろうか。


 一気に俺の寝床である岩の山がにぎやかな場所になった。


 嬉しかったよね。

 仲間が増えたみたいで。


 そんなにぎやかな場所で幸せに浸ってうとうとと寝ていると、今まで遠巻きに遠慮がちに見ていたトカゲみたいなものたちが、少しずつ大きくなってきた。

 彼らは群れて動き、走り、時には空を飛び、なんとも愉快だった。


 だが、急に俺の体をかじったりしてきた。


 彼らはのちの世で「恐竜」などと呼ばれていたのだったか。

 足とか腕とか、適当なところをかじられて起きる日が数百年ぐらい続いた。


 さすがに鬱陶しくなってイラついた俺は、威嚇する意味で地面にパンチした。

 軽く小突く感じで。


 すると森だった場所に巨大なクレーターができた。


 あれ? と思った瞬間、森とにぎやかだった動物たちが突如として全部なくなってしまった。

 視界から消えたと言う方が正しい。


 しばらくすると、急に寒い気候になって、トカゲたちがたくさんいなくなった。

 ……というか、ほとんどいなくなった。


 いや、焦った。

 本当に焦った。


 あんなににぎやかだったのに、また静かな世界に戻ってしまった。


 それ以来、「怒っちゃだめなんだ」ということを俺は骨身に染みて知った。

 できるだけイラつかないように、穏やかに生きることにした。

 それが仲間たちと長く暮らすコツなんだろう、と。


 寒くなった星で、まあでも寝るにはちょうどいいかとゆったり寝ていると、また森ができた。

 今度は前の森よりもっと丈夫そうで、種類も多いみたいだ。

 生物というのは、失敗から学ぶらしい。俺と同じだ。


 そして、最近になって。

 本当にごく最近だ。数百万年ぐらいだろうか。


 猿から進化したらしい、俺によく似た生き物が地上を歩き始めた。

 二本の足で立って、俺みたいに岩の上をうろうろしている。


 初めて見る「仲間」だ!


 そう思って見ていると、彼らは俺と比べ物にならないほどひ弱だった。

 ぺらぺらで、すぐに壊れてしまいそうだ。


 これは迂闊に近寄れない。

 昔みたいに、ちょっと小突いたら死んでしまいそうだ。


 だから、遠巻きに彼らをたまに観察して遊んでいた。


 すると彼らは、お互いに児戯のような喧嘩を繰り返していた。

 石とか木の棒とかで殴り合っている。

 見ているこっちがハラハラする。


 そんなことをしつつも、彼らは急激に数を増やして世界中に広まっていった。

 トカゲたちよりずっと賢くて器用らしい。


 彼らは数が多いだけあって多くのものを生んでいった。

「言語」というものも彼らが作り出した。


 最初は「ウガー」とか「ギャー」とか、トカゲたちとあまり変わらなかったのに、いつの間にか複雑な音の組み合わせで意思を伝達するようになっていた。


 あれは面白い発明だ。

 俺もこっそり練習した。


 ふと数百年前という、本当にごく最近。

 俺の寝床にやってきた彼らが、俺を見て言った。


「お前はヴァンパイアか?」


 その言葉は俺も練習して知っていた。

 どうも俺は「ヴァンパイア」と彼らに呼ばれる生物らしい。


 初めて名前(?)をもらった瞬間だった。

 悪くない響きだ。


 彼らは俺を見ると変なものを投げつけたり、先の尖った棒を突きつけてきたりした。

 銀とか、十字の形をした何かとか、ニンニクとか。

 ニンニクは普通に臭いからやめてほしかった。


 だがここで怒って地面を叩いたら、どうなるか。

 また長い冬が来て、彼らがたくさん死んで、世界が静かになってしまう。


 それは嫌だった。


 だから俺はできるだけ彼らから逃げ回ることにした。


 逃げ回っているうちに、山奥に彼らが作った「寺院」というものを発見した。

 彼らの中でも特に静かな格好をした者たちが集まる建物らしい。


 寺院の者は俺に大層驚いていた。

 まあ、そうだろう。彼らにとって俺は「ヴァンパイア」という、よくわからない存在だろうから。


 だが、しばらく俺がそこに座って彼らの様子を眺めていると、彼らも危害を加えるつもりがないと分かったらしい。

 友好的に接してくれるようになった。


 そこで、彼らは俺に「宗教」という者を教えてくれた。


 どうも宗教とは、「あまり怒ってはならない」ということを、世界の成り立ちとか、架空のすごい存在とかを仮想して伝えるものらしい。


 あまり怒りたくない今の俺にはちょうど良い概念だ。

 俺が恐竜を絶滅させた(かもしれない)あの日から、ずっと考えていたことと同じだった。


 この寺院にいた聖職者が寿命でいなくなると、俺は彼のマネをすることにした。

 彼がやっていたみたいに、この廃寺――もう誰も来なくなったから――で、静かにお茶を飲んで過ごす日々だ。


 心が落ち着く。

 イラつきそうなことがあっても、お茶を飲むとすっと消えていく気がした。


 ただ、問題があった。

 彼が使っていた「コップ」なるもので飲んでも、まったく飲んだ気がしない。

 小さすぎる。


 そこで、どんどん飲む量が増えていった。

 最初は近くの樽で、次に大きな水瓶で。


 最近では近くにある湖から、一日四十万リットルぐらい汲んできて飲んでいる。

 これぐらいないと飲んだ気がしない。


 お茶の葉の備蓄は当然すぐになくなった。

 聖職者が残してくれたものはほんの僅かだった。


 だから、俺はこの寺院の横に大きなお茶畑を植えた。

 地道な作業だったが、数十年という瞬きする間に立派な畑になった。

 これで毎日、心置きなくお茶が飲める。


 そうして心を落ち着かせていると、最近になってまた彼らがやってきた。

 今度は変なピカピカした服を着ている。


 彼らは俺が作ったお茶畑を指さして、なぜか「これは王国の土地だ」などと、よくわからないことを言って明け渡せと言ってくる。

 俺が作ったのに。


 ここで怒っては、またこの生物たちが死滅しかねない。

 彼らはひ弱なんだ。


 俺はにっこりと、できるだけ穏やかに笑いかけた。


 その場で、40万リットルの水を入れた巨大な容器(岩を削って自作した)を、手の摩擦熱で一瞬で沸かした。

 じゅわあああ、と湖が一瞬で沸騰するような音が静かな山に響く。


 そこへお茶の葉を適当に放り込み、湯気が立ち上るそれを一口に飲む。


「ぷはぁ」


 俺は彼らに向かって、優しく対応した。

「お茶を飲むと、怒りを忘れる。お前たちにも振舞ってやろうか? たくさんあるぞ」


 なぜか彼らは顔を真っ青にして、「ひぃ」とか「化け物」とか言いながら慌てて逃げていった。

 もう来なくなった。


 不思議だ。

 お茶は美味しいのに。



 ◇



 生物とはどんどん進化して、頑丈になっていくらしい。

 トカゲたちも最後の方は結構硬くなっていた。

 彼ら、人間も、いつか俺と同じぐらいの寿命と頑丈さを持った生き物になるだろうか?


 もしそうなれば、本当の意味で「仲間」になれるだろうか?

 一緒に、この40万リットルのお茶を飲みながら、昔話ができるだろうか。


 今日も俺は手の摩擦熱で40万リットルぐらいのお茶を沸かし、それを一口に飲んでは、そんなことを考える日々を過ごす。


 ああ、今日も茶がうまい。




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