【インタールード:アマネのノイズレス日記】
回路の言葉で気持ちを伝えられる人なんて、きっとこの先も現れないと思ってた。
オペアンプに恋して、部屋にはんだごての匂いが染みついて、女の子らしさなんてどこかに置いてきた。
そんな私の言葉に、返してくれる人がいた。
意味を読み取って、さらに次の段階の動作を返してくれる人がいた。
相馬トオル。
最初は、ただの観察だった。
この人はどういう回路を組むのか、どんな視点でノイズを見るのか。
でも、いつの間にかその視線は、彼自身の思考回路を覗くようになっていた。
一緒に設計した回路が安定動作するたびに、私の心も穏やかになる。
ふたりの帰還ループがズレたとき、少し不安になる。
けど、それでもまた調整すればいい。
トリマを回すみたいに、少しずつ、少しずつ、信号を整えていけばいい。
彼と話していると、思うの。
——“あ、今、波形が重なった”って。
それが嬉しい。
それだけで、生きている感じがする。
私は、彼ともっと回路を組みたい。
未来という基板の上で、まだ見ぬ機能を、ふたりの設計図で描いていきたい。
きっとそれは、±3.3Vの恋。
でも、無限大の可能性を持った、帰還型のラブストーリー。