【第3章:帰還ループの中で】
アマネが電子工作部に加わってから、日々の空気が変わった。
それまで静まり返っていた部室には、回路図を囲んで意見を交わす声、はんだづけの合間に交わす笑い、そして時折、二人の間にだけ流れる沈黙があった。
その沈黙は、誤解や気まずさのそれではなかった。まるで、オペアンプの入力端子に加えられた微小な信号が、帰還ループによって安定した電位へと整えられるように、二人の心を均す時間だった。
ある日、文化祭に向けて製作中の光センサ付きオーディオアンプの設計中、トオルはふと口を開いた。
「これ……入力側のインピーダンス、高すぎるかも。センサの出力、弱いから、ノイズ拾いやすい」
「じゃあ、エミッタフォロワでも入れる?」
アマネの即答に、トオルは思わず笑ってしまった。
「……同じこと、考えてた」
アマネもふっと微笑み、視線を重ねた。
視線の交差は、まるで信号線と信号線が一点で交差し、完全に整合する瞬間のようだった。
「最近、なんか不思議なんだよな」
トオルがつぶやいた。
「昔は、一人で設計する方が絶対に効率いいって思ってた。誰にも干渉されないし、ミスも全部自分の責任になるからって。でも、今は……