6.皇太子ジェラール
ジェラールは、イグネイシャスと話し終えると、乗ってきた馬に乗り皇城へ戻る。
孤児院のそばでは、ルーカスが馬に乗って見守っていた。
「ジェル?何があったんだ?俺お前が倒れた時、ヒヤヒヤしたぞ」
「瘴気に当てられた」
「な・・お前ら王族は、俺たちと違って強い魔力のせいで、瘴気に当てられやすいから気をつけろって皇様からもいわれてるだろ」
「ああ・・不覚だった。だが、あの女の子が助けてくれた」
「え?あの子平民じゃないのか?」
皇国の平民は、魔力を持たない。
「俺もそう思っていた。そばにいたでかい犬は、アイゼンフィールド国に本来いるはずのフェンリルだ」
「あっ?どうしてそんな国の宝みたいなヤツが、この国にいるんだよ」
「わからないから、母上に聞くしかない。あの犬がそういった」
ジェラールとルーカスは、馬でかけながら、今の出来事を話している。
ジェラールは、話しながら、気持ちの整理をしていく。
「ただいま帰りました」
ジェラールは、皇帝であるエドワードの執務室へ行く。
「ジェラールか・・どうした?そんな鋭い視線をするなんて、何かあったのか?」
「はい。ありました。母上をお呼びください。
「シルヴィアか?そういえば。そろそろお茶の時間だな。そろそろ来ると思うぞ?」
エドワードがそういうと。扉を思いっきり開けて、シルヴィアが入ってきた。
「エッディお疲れ様。あら?お茶の時間なのに、珍しいお客様ね。お茶の用意を四人分お願いね」
シルヴィアはそう言うと、侍女のアイリスにお茶をお願いする。
「今日の差し入れはね、料理長おすすめのプリンなのよ」
シルヴィアが、明るくなったのはここ2年のことだ。
それまでは、妹のサラヴィアの行方を心配していたが、絶対見つかるといって希望を捨てないでいた。
「コレ・・俺からの差し入れです」
ジェラールは、何も言わずにエドワードとシルヴィアの前に、パンを差し出した。
「あら?珍しいパンね・・なんだか・・似ている?まさかね」
シルヴィアが、一口食べると目からポロポロと涙が溢れてきた。
「サラの・・サラヴィアの侍女をしてたエマの味だわ・・エマが・・エマがこの国にいるのね?」
ジェラールは、その質問に答えることはできなかった。
なぜなら、ジェラールは一度もエマを見たことがなかったからだ。
様子を伺っていたエドワードは、「百聞は一見にしかずだ。直接明日そのお店に伺おう」
エドワードがそのように結論を出した。
「ちょっと。お兄様だけずるいじゃない」
ノックもせずに入ってきたのは、ジェラールの4歳年下の妹マリアベルだ。
「マリアベル様、もう少しお淑やかにお願いします」
アイリスがお願いしても、マリアベルはどかっと座りながら「今訓練していて疲れたんですもの。このパンもらいましょ」と作法を気にせず食べ出した。
「女の子なんだから、そんないつまでも騎士服なんて・・」
「お母様?私は、魔法剣士になりたいんですわ。立派な淑女なんてい・や・よ」
ジェラールは、うるさいマリアベルとの剣術の練習が嫌で、マリアベルが来る日は孤児院でアイザックにひっそりと教わっていた。