5.リリアベルの魔法
翌日リリアベルは、朝早くからイグネイシャスを連れて山へ薬草をとりに出かけた。
この街は薬剤師や医師の数が少なく、孤児院の子どもたちまで手が回っていないのが現状だ。
イグネイシャスに教えてもらいながら、少しずつ作れる薬を増やしている。
「わん」イグネイシャスは、吠えるとリリアベルに伝えてきた。
『昨日会った男の子は、訳ありな匂いがする。気をつけろよ』
リリアベルは「訳ありなんて、私もそうだもん・・弟2人はお父さんにもお母さんにも、似ているけれど私は違う・・でも大切に育ててもらってるから、それが2人の答えなんだろうなって思ってる。それに私には、イグネイシャスがいるから・・訳ありでも、思い悩むことがないんだよ。そばにいてくれてありがとう」
「わん」『お礼を言われることではない。なんとなくあの国にいたくない・・そうおもっただけだ。本来なら、王のそばにいなきゃいけなんだが・・今はお前のそばがいい』
リリアベルはそれを聞いて(イグネイシャスってどこかの犬なのかな?)としか、思わなかった。
リリアベルは、今日も弟たちがいると言われている孤児院へ出かけることに決めた。
相変わらず昨日の男の子は、剣を思いっきり振り翳している。
アイザックに並ぶあの男の子は、今に素晴らしい騎士にもなれそうな予感がリリアベルはしていた。
休憩時間になると、男の子の周りには黒い靄がかかり、苦しみ出した。
「うっ・・はっ・・あぐぅ・・・」
「どうしたの?お父さん・・この黒いの何?」
リリアベルは、男の子の周りに蔓延る黒い靄に、気持ち悪さを感じていた。
「すまないが・・俺は魔力がないから見えないんだ」
孤児院にいる子どもたちは、ガーランド王国のものだ。
ガーランド王国の国民は、そもそも魔力を持たない。それは王族も同じだ。
そのため。この場にはイグネイシャスを除いてリリアベルだけがそのモヤをみることができる。
リリアベルは小声でイグネイシャスに、問うてみる。
「この靄はどうしたらいいの?」
「わん」『お前のもつ、光魔法でどうにか消せるものでもある。ただ・・お前は・・』
イグネイシャスが全部伝え切る前に、リリアベルは手を翳して「お願い・・ジェルくんを助けて」
思っていたよりも魔力が吸い取られる感じがする。
ジェルの呼吸が、落ち着き、上半身を起こしたところで、
リリアベルは「よかった」とジェルの腕の中で気を失った。
「リリア?おい!大丈夫か?」
ジェルが、揺さぶってもリリアは、何も答えない。
「わん」『だから全部説明し切ってないのに、無理をするからだ』
「お前話せるのか?」
「わん」『お前も、アイゼンフィールド王家の血を受け継いでるから、俺の話す言葉がわかるんだろ。ったく・・心の準備ができてないのに、無理するからだ。おい。お前このパンをお前の母親に食べさせろ。そしたら答えはわかるはずだ』
イグネイシャスはジェルに伝え終えると、アイザックがジェルからリリアベルを預かり、抱き抱えられるタイミングとほぼ同じで孤児院を後にした。