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人間転生  作者: スマイラー
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第二話:鬼やばい転校生(後編)



―――ほらな。やっぱりヤバイ奴だった。




転校初日。それも自己紹介で堂々と自分は元鬼だと言い張るイタい女子中学生。



確実に関わらない方がいいタイプの奴だ。



それも、容貌に関しては何ら汚点の無い、ここにいる男子たちが期待したような可憐な少女だった。




しかしその身だしなみときたら、常軌を逸しあものがあり、上からまるでサンゴのような乱れた髪に着衣も悪く、制服のボタンは幾つが外れていて内から肌色を覗かせていた。



腰からはだらしなくも垂れた白シャツを、ヒラヒラと(なび)かせて。


ひと目見て彼女がどういう存在か分かった。



彼女の人間性(×)が滲み出るように顕れていた。



(…"自己紹介"というより"事故(・・)紹介"だな。)



こういった場において第一印象は大事であるのに、このざまとなると彼女には災難だがクラスの腫れ物になること間違いないだろう。



とはいえ、一瞥でどういう者か分かるという点では、ある意味良い自己紹介であったともいえようか。



だがはっきり言って、とても"女の子'とは形容し難い極めて下劣で品の無い――――



そんな少女とは似つかわしくない、獣のような女だった。



「貴様ら人間とは馴れ合う気はない!!くれぐれもオレをわずらわせるなよ」




何言ってるんだこいつ。


こんな奴こっちから願い下げだ。



第一お前も人間だろ。




教室中がざわめき出す。生徒たちは皆騒然としていた。



かわいそうに。きっと自分を特別な存在とでも思い込んで今まで疑わなかったのだろう。

 


育った環境が悪かったのか。それとも親が悪かったのだろうか。



「はい。ええと、(つき)夜野(よの)美来乃(みらの)さんです。とても元気な自己紹介でした…ね?皆さん仲良くしてあげてください!」



これには担任もあからさまに困っているご様子だ。



「オレはミラだ!…美来乃などではない!!」



「ええと…でも名簿にそう書いて…」


教師が手元の資料をパラパラとめくる。



「まぁいいんじゃないんですか?…本人がミラだと言っているのだから、そうみんなで呼ぶようにしましょうよ」


見兼ねたクラスの…たしか学級委員をやっている女子生徒(名前は思い出せない)が場を取り繕う。



「そ、そうですね。では席に着いてましょうか。ではミラさん、あの席に座ってください」



「オレに命令するな!」

そんなはしたない言葉を吐きながらも席へと向かう。



教師がミラとかいう転校生を誘導するため指差したのは、先月から学校に来なくなった生徒の空席もとい、僕の隣の席だった…。



最悪だ。なるべく関わらないようにしようと思っていたのに、よりにもよって隣の席とは…




「なんか面白そうな転校生だな?」

とその空席とは反対側の僕の隣席にいる、明るくお調子者の松井が呑気に話しかけてくる。



こいつ一人でうるさいのは十分なのに、彼らみたいな奴に両隣から挟まれるとなると荷が重い。



もしあの奇抜な転校生が来ることを事前に知っていたのなら、僕は全力でこの空席の不登校者を学校に行くよう尽力したことだろう。



ていうか今はまだ五月だぞ?…中学三年に進学してたった一ヶ月で不登校とか何があったんだよ。


そんなにこのクラスが嫌だったのか?

それとも家族が死にでもしたのか?




例の転校生がこちらへと向かってくる。



僕は心の中でこっち来んなと必死に念じてマジマジと見つめていたので、彼女と目が合う。



気まずくなってすぐ僕は目を逸らした。   




少々失礼だっただろうか。



後になってそんな考えも起こったが、それは杞憂だったようで、本人は気にした素振りもなく…



自分の席らしい空席の傍まで来ると、「よろしくな」と向こうから声を掛けてきた。



僕は「よろしく」と返したが、それは文化的な通例のような、謂わば社交辞令みたいなもので、正直よろしくして欲しくないところだ。



転校生は席に着くや否やまるで稀人(まれびと)でも見るかのように僕の方を興味深そうにじっと見つめていた。



「その目はどうした?」



「め?」




「その目につけている眼帯のことだ。オシャレか?」



「そうそう!実は今流行りの中二病なんだ」



答えたのは僕はなく、僕の右隣に着席していた松井だった。



いつの間にかこちらに身を乗り出してきて、転校生に夢中のようで話に介入してくる。



「オレはこっちのパッとしない奴に言ったんだが…」



あれだけ意気揚々と自己紹介した転校生も、松井のテンションには少し押され気味だ。



それより誰がぱっとしないんだ?

まさか僕のことじゃないだろうな。



「こいつ、初めからずっとその眼帯つけてるんだ。それがカッコいいと思ってるんだろう。こりゃあ重度の中二病だな」



「"ちゅうにびょう'ってなんだ?…病気なのか?」



「まぁそんな感じだ」


松井は僕が答える間もなく勝手に話を進め、からかってくる。



別にカッコいいだなんて思ってないし。



「違う!これはケガだ」



「じゃあそっちの左腕に巻いている包帯は?」




「これもケガしたんだ」




「どうだかなぁ〜」

松井はどうにも信じていない様子で、鼻で笑った。



ちょいちょいムカつく奴だ。



「ふ〜ん。恥ずかしい奴なんだな」



今転校生にすごい侮蔑と憐れみのある目を向けられた気がする。   



その目なら、こっちの松井という奴に向けてくれ。きっと向け慣れているだろうから。




幸先悪し。これからの学校生活が不安で仕方がない…



案の定彼女がやって来た今日は、いつもより幾らか騒がしい一日となった。



というのも、ミラときたら授業中にも関わらずしつこく話し掛けてくるのだ。



それも、例の自分が鬼だといういたい空虚な妄想を一方的に。



「オレはガキん頃からめちゃ強くてな。いつも他の鬼たちとケンカしてたんよぉ」



聞いてもいないのにヤンキーが昔の武勇伝を語り始めるみたいに、淡々とそんなことをダラダラ口走っていた。



これでは授業に集中できたものじゃない。



まぁ元から集中はしていないが、煩わしくて仕方がないぞ。




これじゃあ落ち着いて寝れもしない。




とうとうこれを使うときが来たか。




よし、無視だ。無視しよう。



「―――つまり!オレは最強で強くて、泣く子も黙る鬼だってことだ!!―――」


僕は転校生から顔を背け、頭を机に突っ伏せる。



「なぁおいどうしたんだ?…おーい!おい!おい!もう一回初めから話すぞ。ええと―――」



冗談じゃない。


それでも彼女は身体を揺さぶりながら、猛コールと共に途切れることなく話し続けてくる。



どうやらこの子には、自分が無視されているという考えはないようだ。



「無視してるんだけど?…」



「なんだそうだったのか。反応がないから死んだのかと思ったぞ」



冗談だよな?…


まぁたしかにこんな変な奴にずっと絡まれてたら死にたくもなってもおかしくないが。



「なぁ頼むから一瞬黙っててくれないかな?」



「なんでだ?」



「ちょっと静かにして欲しいんだ…」



「…………」




頼んでみたら、意外と言うことは聞いてくれるタイプみたいだ。






「なぁもう喋っていいか?」



彼女は3秒と経たず話し掛けてきた。




どうも、この美来乃と距離を置いて関わらないようにするのは難しいらしい。





ここから僕と彼女の切っても切れない腐れ縁と言うような奇妙な関係が始まるのだった。



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