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はじめての変身②

 しっかりと目をつぶっているはずなのに。そこはただただ真っ白な世界だった。

 たしか、さっきまでは……

 光のクリスタルが光った。そうしたら、脳裏にキーワードが浮かんで。それを唱えた。そうすることが当たり前に思えたから。


 緋色が覚えているのはそこまでだった。

 眩しい光に包まれ、それから、何も見えなくなった。

 とっさに膝を抱えて、小さくなっていたように思う。

 身体が溶けて、周りの世界と混ざり合うような、そんな言いようのない感覚が襲ってきて。

 ……あれ? わたし、何しようとしてたんだっけ?

 意識までが溶けていってしまいそうな、そんな世界で。

 ……そうだ、悟くん。悟くんを助けるんだ!

 散らばりかけていた緋色の意識(かけら)が集まる。集まった意識(かけら)意思(おもい)となって、そしてそれは強い意志(こころ)を形づくっていく。その意志を核にして、一度は光に溶けて散った緋色の身体が、形を持ち始める。


 いつの間にか、眩しい光は消えていた。

 ゆっくりと瞼を開く。刹那、強い風が吹きつけて。そのスカートを、フリルを、髪の毛を揺らしていく。

 身体が勝手に動く。

 そしてわたしは、びしりと両足を踏み開き。

 そしてわたしは、左手を腰に当てて。

 そしてわたしは、右手に作ったピースサインを眼もとに当てて微笑み。

 そして今、高らかに名乗りを上げた。

「まぎがある・スカーレット! ここに見参!」


 どうしてそうしたのかは、判らない。

 でも、そうすることに違和感はなかった。

 いや、そうするべきだと思った。

 だって……幼いころから幾度も幾度も思い描いていた、魔法少女になれたのだから。


 悟を今にも襲わんとしていた戦闘員たちは、突然現れた光球に目を奪われていた。そして、突然現れた魔法少女に目が点になっていた。そしてそれは、悟も同じことで。


 緋色……いや、スカーレットが見渡すと。

 悟と、それを襲おうとしていた戦闘員たちと、ついでに通りかかっていた野良猫までが、その姿にくぎ付けだった。突然現れた魔法少女を、皆が()()()()()()


 そう、彼らは見上げていたのだ。

 そしてスカーレットは、見下ろしていた。

 抉れた窪地の中央に立っていたにもかかわらず、だ。


 そう、その魔法少女は。

 巨大だ(でかか)った。


 ――ずん。

 そのかわいらしい容姿とは裏腹に、重々しい響きを上げて、スカーレットは一歩を踏み出した。豊かな胸がぶるんと揺れる。野良猫が慌てて逃げだしていった。

 窪地の縁を乗り越えると、魔法少女のその巨大さが、いっそう際立つ。

 大柄な大人よりも二回りほども大きいはずの戦闘員だったが、スカーレットと比べるとまるで大人と子どもだ。

 近づくスカーレットに気おされるように、最も近くにいた戦闘員が一歩、二歩と後ずさる。

 その顔はマスクに覆われていて、表情をうかがい知ることはできないが、その黒い眼には怯えとも、恐れともとれる色が浮かんでいた。


「ぎぃー」

 遠方に控えていた戦闘員――こいつだけマスクの色が違う。隊長なのだろうか? ――から、叱責するかのような声が発せられた。それを聞いて、後ずさっていた戦闘員の目の色が変わる。それは比喩ではなくて。実際に戦闘員の眼は黒色から緑色へと変わっていた。

 緑目の戦闘員に、それまでの怯えは消えていた。大きくその両腕を振りかぶると、渾身の力を込めてスカーレットへと掴み掛か……

「いやっ」

 ――ぶぉん。

 ――どごぉーん。

 かわいらしい悲鳴がスカーレットの口から洩れるのと、、緑目の戦闘員が路地のブロック塀へと叩きつけられるのは、ほぼ同時であった。

 突然の攻撃に驚いたスカーレット。無意識のうちに突き出した右腕が、突っ込んできていた戦闘員の胴体を突き飛ばしたのだ。

 ……え?

 その手に残る感触。そのあまりの軽さに、スカーレットは戸惑っていた。

 だが、直感的に理解もしていた。その巨体に秘められた力を。


 そう。

 ……大きさは正義なんだ!

 ……魔法少女が強いのは、物理的に大きいからなんだ!

 ――ずがぁーーん!

 雷に打たれたような衝撃がスカーレットの、いや、緋色の脳裏を走り抜ける。


 ……ええぇ。かわいくて、可憐で、優雅で、幼気(いたいけ)で、それでも強かった魔法少女たちが。実はデカ女だったっていうの? そんなぁ……

 悲嘆にくれたスカーレットは、その場に座り込みそうになっていた。

 いや、それはアニメの魔法少女だから違うだろ! そんなツッコミが吹っ飛ばされた戦闘員のほうから聞こえた気がしたが、それは気のせいだろう。


「ぎぎぃーー」

 スカーレットが自分の世界に入り込んでいる内に、ふたたび隊長戦闘員からの声が上がった。悟を囲むように配置されていた戦闘員たちが、その標的をスカーレットへと変更する。

 スカーレットは、はっと我に返った。

 そうだ、今は悟を守らなきゃだった。

 悟へと視線を走らせる。突然のことに足が動かないのか、じっとその場に立ち尽くしている。その目がスカーレットに助けを求めているように思えた。


 連携して襲い掛かってくる戦闘員たち。

 そのパンチを華麗に避けて――ぱこん!

「ぎゃっ」

 そのキックをすっと避けて――げしっ!

「いたっ」

 そのタックルを軽やかなステップでかわして――どたん!

「ふぎゃっ!」

 スカーレットは自分の足にけつまづいて倒れ込んでいた。

「ちょっとぉ、どぉしてぇーーー」

 スカーレットの魂の叫びが響き渡る。

 イメージはできているのに、その通りに身体が動いてくれない。

 それはそうだろう。

 それまで普通の、しかもどちらかというと小柄で華奢な分類の女の子だったのだ。そんな身体しか動かしていなかったのだから、その感覚で巨大な魔法少女の身体を思うように動かせるわけがないのだ。

 ――ぽか。

 ――すか。

 ――ぽかすか。

 一発一発は大したことの無い戦闘員の攻撃なのだが。それでも塵も積もればなんとやら、しだいにスカーレットの耐久力が削りとられていく。


 こどものケンカのように、腕を、足を、ただ振り回すことしかできないスカーレット。

 そんな攻撃が冷静になった戦闘員たちに当たるはずもなく。ただ体力を消耗するだけでしかない。

 ――ぽか。

 ――すか。

 ――ぽかすか。

 正確に攻撃を当ててくる戦闘員たち。

 何もできず、一方的に攻撃を受けるしかないこの状況。まともにケンカをしたことも無い女の子の精神には耐えられるものじゃない。

 体力(からだ)より先に、気力(こころ)が折れる。

「……いや、もうやめて……」

 抵抗することすら放棄して、少女はその場に座り込んでしまった。

 両腕を顔の前にあげて、ぎゅっと目を閉じて、ただその身を守ろうと丸く縮こまって。


 最後に目に映った、悟の寂しそうな、残念そうな表情が脳裏に焼き付いていた。

 ……ごめん、悟くん。わたし、助けられなかった。助けられなかったよ……


 ――ぽかすか。ぽかすか。

 戦闘員たちの攻撃は続く。

「もうやめてよぉ。だれかたすけて……」

 少女が声を絞りだした、その刹那。


 一迅の風が吹いた。


ついに魔法少女になれた緋色。その強さの理由、その一端を肌で感じ取りましたが、それだけでは実戦で通用せずに……。さあ、心の折れた少女はどうなってしまうのか? 

ひとまずここまでで更新は一休み。再開は春頃の予定です。連載再開したらわかるように、ブックマークして頂けると幸いです。再開までの間、お時間ございましたら前作「彼女のその手をつないだら ~はじめてのスキーは異世界でした~」https://ncode.syosetu.com/n6889hx/(こちらは完結済み)をお楽しみいただけますと、わたくし諸手を挙げて喜びますです。はい。

では、また次回!

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