攪乱
「お待たせ」
「待たされた」
シアンの言葉に、スカーレットはふくれっ面で答える。
それでも。
シアンの声色が、先ほどまでより明るい。
それに気付いて、スカーレットは安堵していた。まだまだ普段通りとはいかないけれど。
それでも。
何かの希望が見える気がして。
赤と青、二人の魔法少女が並び立った。
ツインテールにまとめたピンクゴールドの髪と朱色のミニスカートが揺れる。ふわり。
豊かな胸を支えるように両腕を組み、半歩だけ左足を前に出して、スカーレットが左半身に立つ。
青みがかった黒髪から白銀の髪へと滑らかにグラデーションしているポニーテールと藍色と水色のミニスカートが揺れる。ふわり。
引き締まったウエストラインに左手を当てて、半歩だけ右足を前に出して、シアンが右半身に立つ。
ここから、BGMが切り替わって、さあ、反撃開始だ! そう思わせるような決めポーズであった。
「それで」
スカーレットは、びしっとポーズを決めたまま、ぽつりと呟く。
「どうする事になったの?」
「まずはね、私たちが、あの白い怪人の気を引いて攪乱するの」
「ふむふむ」
「とにかく、あの白い怪人を引き付けるの」
「ほうほう」
「…………」
「……で?」
「以上、おわり。とりあえず、それだけ」
「はぁ? ちょっと、それでどうにかなるの?」
スカーレットは、ついつい決めポーズを崩して、シアンの方へと向きを変えてしまう。
両腕で支えていた豊かな胸が、支えを失って大きく揺れる。ふるん。
しかして、シアンは、決めポーズを崩さないままで、その問いに答える。
「それはね……かくかくしかじかで」
「ふむふ……や、かくかくしかじかじゃ分かんないって」
「やっぱり通じなかったか。実はね……」
シアンはそう言って、ラウタートンが怪人のエネルギーを吸収して大きくなっていること、そのまま巨大化し続けるとどうにもヤバいことになること、まぎがある囮作戦のことを手短かに伝えた。
「とりあえず、分かった」
スカーレットは改めてポーズをきめる。びしり。
「でも、さ」
「なに?」
スカーレットは、さっきからずっと思っていた疑問を口にする。
「まずは、こっちを向いてもらわないと、だよね」
「……確かに」
そう、さっきからポーズを決めて待っているのに。
びしっと、魔法少女の登場をアピールしているのに。
一向に、ラウタートンは振り向いてくれていないのだった。
ひゅう、っとタンクローリーの隙間を風が吹き抜けて。二人の魔法少女のスカートが、静かに揺れた。ふわり。
さて、いつまでもポーズを決めていても始まらない。
「左右から、交互にあいつの視界に入ろう」
シアンからの提案に、スカーレットが頷く。
「わかった。チャンスがあったら接近してみてもいい?」
「無理はしないでね。とりあえず小脇に抱えてる怪人を奪うための攪乱が目的だから」
「りょーかい!」
「じゃあ、わたしから行くね」
そう言って、シアンが左手へと駆け出す。それを見て、スカーレットは右手へと駆け出していった。
何故か、ぼんやりと立っているように見えるラウタートン。その左手からシアンが走り込んでいく。ぐるりと正面へと回り込んだところで、ラウタートンと目が合った。虚ろな目をした悟の顔がシアンを見おろしている。
「ちょっと、また大きくなってない?」
見上げるシアン。
先ほどまでよりも、さらに一回りほど大きくなっているようだ。
――ずしん。
ラウタートンが一歩を踏み出す。重々しい音が響く。
――ずしん、ずしん。
さらに一歩、二歩とシアンの方へと歩みを進める。シアンをしっかりとターゲットに定めたようだ。
……よし。
シアンは心の中でガッツポーズをつくる。
こっちを見ているラウタートンを、もっと引きつけるんだ。そう考えて、シアンは立ち止まった。
――とーん、とーん。
挑発するように、その場で軽やかに跳ねるシアン。さらに近づいてくるラウタートン。
と、その目前を何かが横切った。赤い何かが。
もちろん、それはスカーレットだ。ラウタートンの右手から回り込んで、突っ込む機会を窺っていたのだ。
突然現れたスカーレットに驚くラウタートン。
急停止しようとするが、なんとも急には止まれない。一歩、二歩、三歩と踏み出して、ようやく止まった。
「ぐるぅぅ」
悔し気な唸り声をあげて、ラウタートンが左へと顔を向ける。そこには赤い魔法少女が立っていた。
「ほら、こっちだよ!」
両手を叩いて、気を引こうとするスカーレット。ぱんぱん。
「こっちにもいるよ!」
こちらも同じように、両手を叩いて、気を引こうとするシアン。ぱんぱんぱん。
左から、右から、声がかかる。ラウタートンはその度に顔をそちらへと向け、踏み出そうとするんだけど、その度に反対側から呼び止められる。
そんな二人の陽動が効いたのか。
「ぅぅ、ぐるるぅ?」
……ああ、どうしよう……そんな心の声が聞こえてきそうな声を上げて。そして両手で頭を抱え始めるラウタートンであった。
であったならば、当然。
――どさっ。
ラウタートンの足元に転がる元甲冑の怪人だった青年。
「今だっ!」
声と共に飛び込んできたのは、ムジークと蛇頭の怪人であった。




