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その手を離させないで

作者: 七志

色々悲しい大人の恋愛を、女性目線で、かつ、手を主役にして書いてみました。

少しでも切なさや、悲しさなど、読んでくださった方の心を動かせる文章になっていたら嬉しいです。

指が触れ合う。

絡み合って、それぞれの指どうしが優しく包み込み合う。

冷たかった指先がじんわり温かくなっていった。

しっかりと結ばれた右手と左手。

簡単には解けない。


この感情は相手を思う愛なのか、自分よがりの恋なのか。

そんな事はどうでもよかった。

ただ、彼を離したくない。

どこにもいかないで欲しい。

そばにいて欲しい。

そんなチクチクする思いが溢れ出す。

包み込む手はの力は、強くなる一方だ。


もう片方の手が私の頬に触れる。

包みこむように優しく。

私は目を瞑った。

手のひらが頬を撫でる。

温かく大きな手。

この時だけは、安心する。

親指で眉や瞼を優しくなぞる。

思わず口元が緩む。


その手は私の顔から離れず、そのまま頭に移動していく。

手の甲でゆっくり髪に触れる。

手のひらが後頭部を優しく支え、包み込む。

髪を何度も撫で下ろす。


ずっとこの時間が続けばいいのに。

そう思うと、また心がチクチクした。

小さな声で何か囁いた。

言われると、少し嬉しい反面、悲しさが覆いかぶさって辛くなる。

聞こえたけど、聞こえないふりをした。

囁くのでなく、大きな声ではっきり言って欲しい。

全ての人に聞こえるような声で。

誓いを込めた声で。

あなたのそばにいつもいる人にも、いっそのこと届いてしまえばいいんだ。

そして、私だけのものになって欲しい。

でも、その思いは言葉にはならない。

この時間が終わってしまうのが怖いから。


唇へと人差し指が優しく当たる。

親指、小指、かわりがわりに、弾力を確かめるように。

愛でるように、優しく何度も。

少しだけ瞼を開けると、隙間から見える彼の顔を見る。

この瞬間がたまらなく愛しい。

そして、とてつもく切なくて悲しい。

忘れるために、また目を瞑った。


唇に、優しく柔らかいものが触れる。

何度もゆっくりと。

何かを確認するように。

絡み合い、離れては、また触れ合う。

切ない音を発しながら。

もしも、私だけのモノだったら、心は満たされただろう。

でも、淋しさが募っていくばかり。

不安と切なさが強まっていく。

先は見えない。

いい結末が予想できるわけない。

発展的なことは、この先何一つないだろう。

この時間を、ただ純粋に楽しめたら、どんなに楽だったろうか。

どれだけ幸せだった事か。


彼の右手と、私の左手は、今も解かれないまま、しっかりと結ばれている。

むしろ、私の方が強く掴んでいるようにも思える。

手のひらに汗をかいていた。

雫が潰れるほど強く掴む。

離したくない。


頭から首元へ、反対の手はゆっくり移っていく。

指先で首筋をさらりと、なぞりながら、滑り落ちていく。

背中に優しく触れる。

擽ったさと快感の間。

心地よい感覚に溺れていく。

そのまま、手と指先は私の胸元へ移動していく。

手が胸の頂上に到着すると、私の心は高揚感に包まれる。

全てのことがどうでもよくなる。

頭の中が真っ白になる。

今、この瞬間だけは私のもモノだと思える。


でも心はチクチクしたまま。

いずれは解ける手。

絶対に来ることのない安定。

瞬間襲ってくる虚しさ。

必ず終わりがあることを知っている絶望感。

自然と目尻から水滴が溢れる。

雫が頬を伝う。

虚しさが強くなる。


それでも、今繋いでいるこの手が。

嘘で作られたこの関係が。

切なさと汗にまみれた手と手が。

今、私が私でいられる。

必要とされる小さな喜びを感じられる時間。

偽りの幸せでもいい。


この手を離さないで欲しい。


私は、反対の手で、彼に強く抱きついた。

この関係が続いて、終わりが遠のく事に期待して。

彼を思う気持ちが、どうかあの人の事なんて忘れて。

私だけが、彼の心を包み込むようにと、心の底から願いながら。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

高評価、感想よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の心情が手という媒介を通して伝わらせようとする構成が斬新でおもしろかったです。 ハッキリと主人公の立場を名言しないことで、なんだか主人公の立場を主人公が知りたくないという精神の不安…
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