屋根裏の少年
僕の家には屋根裏部屋がある。そこは鍵がかかっていて、誰も入ることが出来ない。父さんも母さんも、屋根裏部屋のことを一切話そうともしない。
ある夜、どうやって入ったか僕は、屋根裏部屋を覗いた。そこには、僕と背格好の似た少年が居た。声をかけようとするが、声が出ない。
こっそり少年の様子を伺うと、どうやら星が好きらしく、天体望遠鏡を覗いたり、窓から顔を出して、夜空を眺めたりしていた。壁際に重ねられた本のほとんどは、宇宙とか星座とか科学の本だった。
少年は、僕の存在に気づいていないらしい。僕はしばらく、その背中を眺めていた。なぜだか、なんとなく懐かしい気持ちになった。そして、涙がこぼれた。
目の前が歪んで、僕はその場に倒れた。気が付くと、父さんが心配そうに僕を見つめていた。いつもの朝だった。僕は涙を流していた。父さんは、そんな僕の頭を撫でていた。
今の今まで見ていた光景を、僕は父さんに話した。うまく話せなかったけど、父さんは頷きながら最後まで聞いてくれた。
「父さん…?」
父さんは、涙を堪えているように見えた。
「行ってみるか?…屋根裏」
「えっ…?いいの?」
父さんは頷いて、少しだけ笑顔を見せた。
僕は、父さんの後をついて行った。カチャッと音がして、屋根裏部屋の鍵が開いた。「開けてみ」と、父さんが言った。
僕は頷いて、恐る恐る左手でドアノブに触れた。ゆっくりとドアを引くと、埃と共にふわっと空気が舞った。さっきと同じ匂いがした。
目の前に広がるのは、天体望遠鏡、窓、壁際に重ねられた本の山など、今の今まで見ていたもの全てだった。ただ1つ、少年の姿はなかった。
「おいで」
父さんは、屋根の高さに合わせて屈んだまま、僕を窓際へ手招きした。
「そっくりだな…」
「ん?」父さんの顔を見た。
「あのな…」
「うん」
「7年前…10歳の男の子がここにおってな。星が大好きじゃった」
「10歳の男の子…」僕は、さっきまで居たあの少年を思い浮かべた。
「その子は、あまりに星が好きすぎて、夜中にこっそりここに来て…1人で夜空を見よったんよ」
僕は黙って、父さんの話の続きを待った。
「そしたら…ここから…落ちてしもうて」
父さんは、窓の外へ視線を向けた。
「…兄ちゃんだ」
「…えっ」
「お前には、兄ちゃんがおった」
「お兄ちゃん…」
そうか。あれはお兄ちゃんだったのか。
窓を開けると、サーッと風が通り抜けた。ふと、風に乗って何か声が聞こえた気がした。