この城の地下には化け物がいる
ある人は一緒に働くメイドから、ある人は誰もいないはずの耳元で、ある人はそう書かれた紙を拾った
どこでソレがうまれたのかもう分からない
だけどみんな信じている、ぼくは言わずもがな
実際、城の地下には開けられない扉がある
ぼくの目の前にあるこの扉だ
ぼくは何回も試したけど開けられなかった
この扉の向こうに行きたくて仕方なかった
気になって仕方なかった
もしかしたら次は開くかもしれないと手を伸ばし
何か聞こえるかもと耳を当てた
たまに遠くから何かが聞こえるんだ
多分、人の声
何か争うような声
ひどい咳の音
聞こえると少し落ち着いた
だってあることの証明だから
だけど最近何も聞こえなくなった
この扉に何回耳を当てたのだろう
ぼくはひどく馬鹿にされてるような気分だった
もう二度とこの扉は開かないと誰かに言われてるようだった
その扉を見るとひどく気分がわるくなる
だけど近くに行くのをやめられなかった
ある日人の声が聞こえた
とても久しぶりだった
その声は近くから聞こえた
もしかしたらこの扉が開くのかもしれない
ずっとずっと待ち望んでいたんだ
扉が開く
扉は開くんだ
やっと開いたんだ
「扉を開けてくれてありがとう」
こうして亡国の化け物は解き放たれた
何も知らぬ旅人によって
戦争や疫病で国が滅んでから永い時が経っていた
それでも化け物は恨んでいたのだ