表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ヒロイン、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢なんかにさせません!~  作者: 浅海 景


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/79

36 作戦会議

翌日レアとフルールに事情を打ち明ければ、自分のことのように憤慨する二人の姿があった。

「お可哀そうに、さぞ恐ろしかったでしょう」

「随分と卑劣な真似をする者がいるのですね」

案じてくれる声がじわりと胸に染み入る。だから言ったでしょうというような表情を浮かべるクロエの眼差しは優しい。


クロエの提案により昼食を摂りながら、これからの対応を話し合うことになった。人に聞かれたくない話でもあり、セルジュとリシャールにも共有しておく必要があることから、王族専用スペースでの食事となる。初めて訪れる二人は緊張した様子だったが、すぐに話の内容に集中しそれどころではなくなったようだ。


対応策の前に誰が何の目的で嫌がらせをしたのかという疑問には、ずっと考えていたのかフルールが発言する。

「アネット様は優秀なので、それに嫉妬した者ではないでしょうか?」


勉強の妨げになるよう教科書の表紙を切り裂いたのではないかという推測だった。中身に被害がなくても教科書を見るたびに思い出して嫌な気分にさせようという考えは、単純に教科書を盗まれるより悪意が強いとアネットは感じた。


「わたくしはリシャール様とアネットが親しくしていると悋気を起こした令嬢の仕業だと思いますわ」

教科書を選んだ理由は特になく単純に怖がらせようとしたのではないかというクロエの発言も、頷けるものがある。嫌がらせ自体に意味があり、教科書を選んだ理由は特にないのかもしれない。


「……どちらも正解なのではないでしょうか?」

推測が飛び交うなか、ずっと考えこんでいたレアがおずおずとした様子で切り出した。


「リシャール様に思いを寄せる令嬢が犯人だと仮定します。リシャール様と親しくなった理由がアネット様の優秀さにあると考えて、勉強の妨げとして教科書に嫌がらせをしたのではないでしょうか?加えてリシャール様よりアネット様のほうが成績上位であることも許し難いと考えていれば、自分の行動でリシャール様が首位を得ることになれば、お慕いしている方の役に立てたと満足することができます」


レアの言葉に一瞬沈黙が下りる。アネットは細やかな心理状況を勘案したその推測がひどく腑に落ちた。


「…俺のせいか」

「まあ、そういうわけでは…!不快な思いをさせてしまい申し訳ございません」

ぽつりと漏らすリシャールにレアが慌てて謝罪する。


「ええ、悪いのは嫌がらせをした方ですわ。リシャール様にはずっとお気遣いをいただいておりましたもの。感謝しかありませんわ」

アネットもレアの言葉を補うように声を掛けるが、リシャールは固い表情を崩さない。


「レア嬢の発言は説得力があるね。もしその推測通りならリシャールがアネット嬢に近づかなければ今後嫌がらせに遭うことはないだろう」

穏やかな声でセルジュはアネットに視線を合わせながら告げる。暗にどうしたいかと尋ねられたアネットに迷いはなかった。


「それでは嫌がらせをした者の思い通りになります。私の大切な方たちにご迷惑を掛かるようであれば、リシャール様と距離を置くことも止むをえませんが、良からぬことをした者が利を得るような行動を取りたくはありませんわ」


屈したくないという思いもあるが、アネットはリシャールのことが嫌いではない。話してみれば知識の幅も広く考え方も柔軟で、リシャールとの会話を楽しむようになっていた。身勝手な理由で奪われることを不満に感じる程度に心地よいと思っているのだ。


「ならば犯人を特定し、嫌がらせを阻止しないといけないな。何か良い考えはあるだろうか?」

セルジュの問いかけにフルールが口を開いた。


「リシャール様とアネット様の仲睦まじいご様子を見せつけて周囲の反応を窺うのはどうでしょうか?」

「賛成できないな。それはアネット嬢を囮にする行為だ。どんな危険な目に遭うか分からない」


リシャールからの素早い指摘にフルールははっと気づいて、申し訳なさそうにアネットに詫びる。アネットは気にしてないというように首を横に振った。アネットとて同じことを考えていたのだ。

「私もフルール様と同じことを考えていました。リシャール様がご迷惑でなければですが」


悪意から傷付けられる可能性はどこにだってある。正体不明の相手に怯えて過ごすより、多少のリスクがあったとしても犯人が分かれば対応のしようもあるのだ。

アネットの主張にクロエは迷っているようだが、有効な手だとは認識しているようで否定の声は上がらなかった。この場で明確に反対しているのはリシャールだけだ。


「リシャール様、ご迷惑は重々承知しておりますが、これで動きがなければ他の可能性も視野にいれて対処しなければなりません」

先日リシャールも危惧していたように、アネットだけでなくクロエやルヴィエ家に対する嫌がらせである可能性もまだ0ではないのだ。


苦い表情を浮かべたリシャールにアネットはもう一押しだと感じた。

「一人きりにはなりませんし、リシャール様も側にいて頂けるのであれば心強いですわ」


男性の自尊心をくすぐるであろう言葉を選んだのだが、何故かリシャールの目元が染まる。

疑問に思ったアネットだが、セルジュの言葉に遮られた。


「では決まりだね。アネット嬢は基本的にリシャールと一緒に行動して、それ以外では友人たちといるようにして欲しい」


昼休みの残り時間も迫り結論が出たこともあってアネットはそのことに言及せず、これからについて思考を切り替えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ