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転生ヒロイン、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢なんかにさせません!~  作者: 浅海 景


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27 詫びの品

(今日も今日とて面倒くさいわ)

「アネット嬢、先日の詫びだ」

「まあ、お気遣いなく。リシャール様からの贈り物など恐れ多いですわ。―お姉様、本日の付け合わせのトマト、召し上がりました?甘くてとても美味しいですわ」


さらりと受け流せば、リシャールが呻き声を漏らすがアネットの知ったことではない。

そんなことよりも、トマトを口にすべきかどうか迷っているクロエに有益な情報を届けることのほうが大事だった。クロエが密かに苦手にしているものは酸味の強いトマトと調理していないピーマンだ。


「アネット嬢、一応受け取ってやってくれないか。気に入らなければ返品していいから」

セルジュの取り成しに仕方なく受け取り、包みを開くと艶やかで美しいチョコレートが出てきた。形に残らない物なら受け取ってもいいだろう。

「ありがとうございます、リシャール様。それでは遠慮なくいただきますわ。お姉様、お一つどうぞ」

アネットが勧めるがクロエは小さく首を横に振る。


「私は結構よ。それよりも何があったのですか?」

クロエに心配を掛けたくないからと昨日の呼び出しについて、曖昧に伝えていたがこうして目の前でお詫びの品を差し出されたことで、気になってしまったようだ。

クロエの視線がリシャール、アネット、セルジュの順番に移動する。クロエに嘘を吐きたくないが、あまり公言したいことでもない。


「俺がアネット嬢の髪を掴んでしまったんだ。それで――」

「お姉様、あくまでも事故のようなものでしたし、きちんと謝罪していただきましたわ」

反省を示すつもりか正直に打ち明けるリシャールの言葉に被せるように、アネットは慌ててフォローを入れる。クロエが眉をひそめてリシャールに冷やかな眼差しを向けたからだ。


「リシャール様、アネットが謝罪を受け入れたのであれば、その事についてわたくしから申し上げることはございません。ですが、わたくしの妹に二度と関わらないでくださいませ。アネット、行きましょう」

「はい!」

淡々と感情を見せずに言い切ったクロエに、アネットは勢いよく返事する。呆然とするリシャールとセルジュを置いて、アネットはクロエに続いて王族専用の食事スペースを後にした。


人気のない廊下に出るとクロエは静かにアネットに向き合った。思わず視線が下を向いてしまうのはクロエの心情を正しく理解しているからである。

(あう、お姉様珍しく怒ってらっしゃる)


「アネット、どうして言わなかったの?」

「ごめんなさい。リシャール様も悪気があったわけではないし、そんなに大したことではなかったので…」

「大したことでしょう。こんなに綺麗な髪を乱暴に扱うなんて、信じられないわ…」

頭を優しく撫でられて久しぶりの感触に心が温かくなる。


「……わたくしは貴女の姉なのよ。酷いことをされたら守ってあげたいの。頼りないかもしれないけど、今度からちゃんと教えてちょうだい」

顔を上げると悲しそうなクロエの瞳と目が合った。良かれと思って口にしなかったことが、逆にクロエに嫌な思いをさせる結果になってしまったことをアネットは反省した。あんなに一方的な物言いはクロエにしては珍しく、それだけ自分のことを思ってくれたのだと思うと、涙が出そうなほど嬉しい。


「お姉様、心配かけてごめんなさい。それから庇ってくれて嬉しかったです。ありがとうございます」

そう告げればクロエの口元が綻び、空気が緩んだ。よしよしと撫でられる感触にアネットは安堵と喜びを覚えたのだった。



「随分と下手を打ったものだね。クロエがあんな風に怒りを露わにするのは珍しいことだよ」

何事もそつなくこなす従弟にしては珍しい失態に、セルジュが漏らすとリシャールはますます居心地が悪そうに肩を落としている。

「分かっている…。だが誤魔化すわけにもいかないだろう。あれは俺が悪い」


「そもそも何で最初からあんなに攻撃的だったんだ?アネット嬢のことは以前から伝えていただろう」

権力に媚びる人間関係に煩わしさを覚え、基本的に冷淡な対応をするのはいつものことだが、リシャールはアネットに対して特に冷ややかな目を向けていることにセルジュは気づいていた。


「……お前狙いだと思ったんだ」

遠慮のない口調が馴れ馴れし過ぎると感じたリシャールはアネットを警戒していた。セルジュがクロエを大切にしていることは分かっていたが、その妹にも随分と気を許しているのが気にかかった。セルジュがそういう対象に思っていなくても、勘違いして王家の定めた婚約に余計な邪魔が入らないようと気を回していた矢先に、アネットがあの時の少女だと分かったのだ。


「アネット嬢が初恋の相手だなんて、難儀なことだね。彼女はよくも悪くもクロエしか興味がない」

リシャールの弁解を聞いたセルジュが呆れたような口調で言った。

「違っ、初恋とかそんなんじゃない。ただもう一度会いたいと思っていただけで……」

ただ親切にしてもらった相手にそこまで普通は気に掛けない、そう思うがセルジュは口にしなかった。


家柄も容姿も申し分ない従弟は幼い頃から、女性から狙われることが多かった。なかには純粋な好意もあったのだろうが打算や駆け引き、ドロドロとした嫉妬などが原因で女性不振なところがある。

たった一度、安い揚げ菓子を分けてもらった少女にお気に入りのリボンを渡し、街に行くたびにその姿を探していた従弟の初恋を心から応援してあげたいと思う。


(とはいえ、クロエもあれで随分と過保護だからね。道のりは険しそうだ)

傷心の従弟を慰めながら、セルジュは自分の大切な婚約者への取り成しについて頭を悩ませていた。


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