25 お茶とスイーツと令嬢トーク
クロエにお茶会の件を話すと、戸惑いながらも了承してくれた。
「わたくしも参加してよいの?同い年の方と何を話して良いか分からないから、退屈させてしまうかもしれないわ」
「大丈夫ですわ。お姉様は思ったことをそのままお伝えすればいいんですよ」
そわそわと落ち着かない様子のクロエを宥めつつ、ミリーとジョゼに協力を頼む。楽しみにしていた週末はあっという間に到来した。
「残りのお茶菓子はミリーが作ってくれるのよね?忘れ物はないかしら?」
アネットの部屋では手狭のためクロエの部屋でお茶会を開くことになっている。荷物の確認をしていると、ジョゼが呆れたような表情を浮かべている。
「アネット様、ご自身のご準備がまだ終わっておりません」
その言葉にアネットは首を傾げた。友人たちとのささやかなお茶会に着飾る必要などないだろう。
「小さくとも普段と違うものを身につけるのが、嗜みでございますよ。アクセサリーや髪飾りなどちょっとしたものでもおしゃれになり、話題に繋がるのです」
もともと着飾る機会もなければ興味もなかったが、ジョゼが言うのならそれが正しいのだ。
「でも装飾品なんて、ほとんど持っていないし…。あ、そうだわ!」
そっと宝箱を開けるとクリーム色のリボンがあった。随分と前に一度だけ出会った少年に押し付けられたものだが、いい加減もう時効だろう。
「クロエ様、アネット様、この度はお招きいただきありがとうございます」
フルールとレアが丁寧に礼を述べるが、緊張した様子である。このままだと互いに緊張してぎくしゃくした雰囲気になりそうだ。
(だけど我に秘策あり、なのよ!)
「まあ、何て可愛らしいの!」
「このような素敵なお菓子初めて見ますわ!」
二人が目を輝かせているのは鮮やかな色とりどりのマカロンと小山のように小さなシュークリームを積み重ねたクロカンブッシュだ。もちろん定番の焼き菓子も準備している。
美味しいお茶とスイーツがあれば、会話も滑らかになるだろうと見立て通りの反応にアネットは嬉しくなった。
「喜んでいただけて何よりですわ。どうぞ召し上がってください」
「あの、わたくし達はしゃぎすぎてしまって。お見苦しいところをお見せして申し訳ございません」
静かなクロエを前にレアが恥ずかしそうに告げた。
「……そんなことございませんわ。私も初めてマカロンを見た時、何て綺麗で可愛いお菓子なのかしらと感動しましたの」
クロエの答えに固い雰囲気が和らぐ。
「本当に、いただくのが勿体ないぐらいですわね」
そう言いながらもマカロンを口に運ぶと、それぞれ満足そうな溜息が漏れた。
それからはお気に入りのお菓子やカフェ、最近流行りのドレスやアクセサリーなど令嬢トークに花が咲く。
アネットは前者にクロエは後者に関しての興味関心が強いため、話題に困ることなく場が盛り上がり、あっという間に時間が過ぎた。
「素敵なお茶会でしたわ」
「とても楽しい時間を過ごすことができました。もし、クロエ様がよろしければ、ランチにお誘いしてもよろしいですか?」
最初に来た時よりも随分と緊張が解けた様子のフルールがクロエに訊ねる。
「……嬉しいわ。是非」
クロエの顔が綻び、ふわりと柔らかな笑みが浮かぶ。それを見たフルールとレアが固まった。
(お姉様のデレ顔、最っ高ですよねー!!)
いつものクールな表情とのギャップもさることながら、可愛いという言葉では足りないほどの破壊力なのだ。同性でも見惚れてしまうこと間違いなしだと確信していたが、客観的にも証明されたようだ。
顔を赤らめたフルールとレアが帰ったあと、クロエから声を掛けられた。
「アネット、ありがとう。今日はとても楽しかったわ」
嬉しそうなクロエを見て、お茶会を開いて良かったとアネットも心から嬉しくなる。
「それに、その髪型も素敵ね。レア様もおっしゃっていたけど、とても似合っているわ」
髪を片方にゆるくまとめて、リボンで結んだ髪型は好評だったし、邪魔にならずに予想以上に楽だった。
「本当ですか?じゃあ明日もこの髪型にしますね」
クロエから褒められて調子に乗ったことを、翌日後悔するはめになるとはこの時のアネットは知るよしもなかった。




