24 魅力が伝わらないのは勿体ない
入学式から二週間、あれからほとんどの同級生とは友好的な関係を築けている。気の強そうなロザリーは別として、基本的には礼儀正しく大人しい子女たちが多いようで助かった。
「お姉様、本日はフルール様たちとお昼をご一緒することになりましたの」
「そう、分かったわ」
基本的にはクロエとセルジュといることが多いが、たまには二人きりにさせてあげようという気遣いを見せるアネットにクロエは表情を変えずに答える。
ふと視線を感じて顔を向けると、リシャールと目があった。にっこり微笑むとアネットはリシャールに話しかけた。
「リシャール様、よろしければご一緒にいかがですか?たまには殿下以外の方々と交流を深めるのもよろしいかと思いますわ」
「結構だ」
にべもなく断るとリシャールはそのまま教室を出て行った。
(これでよし)
アネットだけでなくリシャールも結構な割合でセルジュと一緒に食事を摂ることが多い。アネットが気を利かせたところでリシャールがセルジュといれば、お邪魔虫になってしまうし男性2人と食事をするのはクロエにとって少々外聞が悪いだろう。
「相手にされるわけないじゃない、恥ずかしいわ」
教室を出る前に嘲笑が聞こえてきたが、稚拙な陰口に思わず笑みが浮かぶ。
(これぐらいなら全然ウェルカム。むしろ分かりやすくて助かるわ)
隣にいたレアが眉をひそめたが、アネットの様子を見て何も言わずにいてくれた。察しの良い子だなと思い、ますます好印象だ。
広いカフェテリアは予約をすれば個室もあるが、アネット達は空いている席を探して腰を下ろした。
「アネット様、先ほどの態度はご立派でしたわ。あんな風に思い違いをするほうが恥ずかしいことだと思います」
フルールが毅然とした態度で言うと、レアがこくこくと首を縦に振っている。
「他の方ならともかくアネット様はリシャール様に興味がございませんもの」
「ありがとうございます、フルール様、レア様。ですが、年頃の男性を気軽に誘うなど少々はしたなかったですわね」
貴族社会は男性優位、女性は一歩引いているほうが好ましいとされている。女性から男性に積極的に声を掛けることはあまりなく、デビュタント前ならそこまでうるさく言われることはないとはいえ気にする人は気にするのだ。
「わたくし達は分かってますわよ。お姉様と殿下がお二人で過ごす時間を作って差し上げるためですわよね」
アネットのシスコンぶりを正しく理解し、引かなかった二人だけにアネットの意図はあっさりバレていた。
「本当にアネット様はお姉様が大好きですよね。クロエ様は確かにお美しいですけど」
フルールの言葉が少しだけ気にかかってアネットは聞きなおした。
「何かお姉様のことで気にかかることがおありなのでしょうか?」
「いえ、そうではありませんわ。クロエ様はお美しいし凛としたところが素敵なのですが、お近づきになるには恐れ多い方だと思ってしまって。アネット様はとても気さくに話しかけてくださるので」
アネットはそれを聞いてちょっと反省してしまった。セルジュとアネットがクロエを独占してしまった結果、同級生たちとの間にうっすらと壁が出来てしまっていることに、今更ながらに気づいたのだ。
もともと人見知りがちなクロエは自ら積極的に話しかけるタイプではないし、未だに同級生に話しかけることに緊張している節がある。あまり感情をださないクロエだが、緊張している時はさらに表情がなく、美貌と相まって雪の女王さながらに冷たい印象を与えてしまうのだ。
(このままお姉様の魅力が伝わらないのは勿体ないわ)
姉の友達づくりのお手伝いまでするのは少々行き過ぎだろうか。こんな時のアネットの判断基準は単純である。クロエが喜んでくれるかどうか、それだけだった。
(お姉様は同年代の令嬢たちと関わる機会がなかったから、気になっているのは確かよね)
そうと決まれば話は早い。
「フルール様、レア様、よろしければ今週末お部屋でお茶会などいかがでしょうか?」
「まあ、よろしいのですか?」
「お誘いありがとうございます」
まずは少人数の女子会から始めよう。




