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転生ヒロイン、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢なんかにさせません!~  作者: 浅海 景


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18 推しのデレと王子様

(やっぱりお姉様はすごいわ)

一緒に過ごすことで改めてクロエの実力を思い知ったような気分だった。出来ていると思っていた貴族の振る舞いもクロエを見ていると、自分の拙さがよく分かる。滲み出る気品は一朝一夕で身に付くものではないのだ。


賞賛の眼差しで見つめていると、クロエが僅かに眉をひそめて言った。

「そんなに見ないでちょうだい。……恥ずかしいわ」

怒っているわけではなく、ただ照れている時の表情だと気づいた時には「尊い!!」と心の中で絶叫したものだ。


「お姉様の所作が美しくて見惚れてしまいました。丁寧で上品な佇まいで本当に素晴らしいです!」

「……ありがとう」

ぽそりと小さな声でお礼を言うクロエの耳が真っ赤に染まっている。


(お、お姉様がデレたーーーーーーー!!可愛いすぎです!!!)

アネットが感動で打ち震えていると、クロエがポケットから何かを取り出した。


「まだ練習中だけど、良かったらあげるわ」

それは小さな一輪の花が縫い付けられたハンカチだった。刺繍も貴族令嬢の嗜みだが、アネットはまだ習っていない。大体7~8歳から習うものだと聞いていたのに、もうそこまで習っているのかと感心するとともに、詰め込み教育ではないかと不安になる。

だがそれよりも―。


「いいんですか?!お姉様の手作りの品を頂けるなんて、一生大事にします!!」

「…ハンカチなんだから使ってちょうだい。…あの、アネットが作った栞はまだあるかしら?」

ぎゅっと両手を握り締めた仕草から緊張が伝わってくる。気にしてくれていたのだとアネットは心が温かくなるのを感じた。


「はい、あります。明日持ってまいりますね」

嬉しくて満面の笑みを浮かべたアネットにクロエは僅かに口元を綻ばせた。



「明日はセルジュ殿下がいらっしゃるの」

目を伏せてクロエはそう教えてくれた。数日前から邸内がそわそわした雰囲気なのは察していた。聞かされていない以上、義母は恐らく自分を殿下に会わせるつもりはないのだろう。


謹慎が解けたあともミリーの協力を得て、一緒にお茶をしたり図書館で勉強することも多くなった。デルフィーヌが快く思わないためこっそりとだが、クロエとの仲は良好だ。


「お姉様の婚約者の方ですよね。どんな方なのですか?」

「そうね。紳士的でとてもお優しい方だわ。初めは緊張したけれど、お茶会の時に何かと気遣ってくれたの」

頬に赤みが差していつもは凛とした瞳が今はどこか溶けたように甘い。


(お姉様は殿下のことをお慕いしているのね。これが意に沿わない結婚だったら何としてでも阻止するところだったけど、安心したわ)

王族との婚約をどうにかしようなど無謀にも程があるが、クロエが関わっているのなら何とかしようと思ってしまう。



「今日は第二王子殿下がいらっしゃるの。部屋から一歩も出ることは許しません」

目覚めて早々デルフィーヌがアネットの部屋に押しかけ、言いたいことだけ言ってすぐに出て行った。


特に王子に会いたいとも思わないし、むしろ面倒だと思っていたのでアネットはあっさりとそれを受け入れる。だがジョゼは納得のいかないようだ。


「アネット様もルヴィエ侯爵令嬢ですのに…」

「お姉様の婚約者なのだから、私は会えなくても平気よ」

まだ幼いこともあって、月に1度面会の機会を設けている。12歳ごろに本婚約を迎えれば王城でしっかりと教育を受けることになるそうだ。


アネットとしてはクロエと過ごす時間が短くなるので、今ぐらいのペースでちょうど良いのだが。

部屋から出ないとはいえ、ダラダラ過ごすわけにもいかず大人しく本を読んでいるとノックの音が聞こえた。


「アネット様、第二王子殿下がお呼びですので中庭にお越し下さい」

急いできたのか、額に汗をにじませてミリーが言った。

「でもお義母様は部屋にいなさいと…」

「王子殿下のご要望のほうが優先されますので。―失礼いたします」


瞬く間にいつもより質の良いドレスとアクセサリーを準備されて、身嗜みを整えられると急き立てられるように部屋を出た。


「やあ君がクロエの妹だね」

陽光が反射して眩い金色の髪に翡翠色の瞳がアネットを見た。

「アネットと申します。お目にかかれて光栄です」

「楽にしていいよ。子供だけのお茶会なのだからね」


柔らかい笑みは確かにクロエが言っていたように優しい人柄を感じられる。

(だけど王族に対するマナーはまだ習ってないんですよねー)

突如巻き込まれたお茶会にアネットは笑顔を貼りつけたまま、内心焦っていた。


「クロエとはあまり似ていないんだね」

(そりゃあ母親が違いますからね)

浮かんだ言葉は口にせず、別の言葉に変換して答えた。


「ええ、お姉様は妖精のように可憐で美しい方ですから」

アネットの言葉にセルジュは目を丸くして、クロエは恥ずかしげに顔を伏せた。

「……ああ、確かにクロエは美しいな」


「そうなんです!ですがお姉様は美しいだけでなく、気品の中に可憐さもあって、凛とした雰囲気ですが本当はお優しくて、それからとても努力家で素晴らしい方ですわ!!」

我が意を得たとばかりに言葉を募らせるアネットを見かねたクロエが声を掛ける。


「アネット……やめて。セルジュ殿下がお困りだわ」

「ははは、アネット嬢はクロエのことが大好きなのだな。クロエもいつもよりリラックスした雰囲気だし新鮮だな」


耳が真っ赤に染まっているのに気づいたセルジュが、そう告げるとクロエはますます身の置き所をなくして朱に染まった頬を隠すように俯いた。


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