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転生ヒロイン、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢なんかにさせません!~  作者: 浅海 景


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17/79

17 罰というかむしろご褒美

「うゎああああああああああ………」

熱は下がり頭痛もなくすっきりとした気分になるはずが、最低最悪の気分だった。2日前のやらかし具合を思い出して、アネットはひたすらベッドの中で悶えている。


(嫌われた…確実に、今まで以上に……ううっ)

せっかくクロエが本音を明かしてくれたのに、熱で浮かされていたとはいえ、抱きついて号泣するなどあり得ない失態だ。


「お姉様に迷惑を掛けるなんて……もう侯爵家にはいられない………家出して一人で生きて行こう……」

子供でも雇ってくれそうなところを真剣に考えていると、ノックの音がしたが無視する。今後どう生活するかを考えるのに忙しいのだ。


(都会であれば下働きだけど、農村であれば農作物の収穫とか人手が必要そうなところのほうがいいかしら?)

考えに没頭していると、不意にドアが大きく開いた。


「起きていらっしゃるなら、返事ぐらいしてください。もう風邪は治ったと聞いていますが、まだどこか体調でも悪いのですか?」

元気なのにベッドでだらだらしているのか、とシリルの心の声が聞こえた気がする。だがそれよりもシリルの背後の存在に気づくなり、アネットは勢いよく居住まいを正した。


(ど、どどどどうして、お姉様がいるの?!)


長身のシリルの陰に隠れていて見落としてしまったが、上品さがにじみ出る佇まいは見惚れてしまうほどだ。実際にしばしクロエを見つめていたのだが、自分の恰好に気づいてベッドから抜け出して居住まいを正した。


「お見苦しいところをお見せしてしまって、申し訳ございません」

遅いと分かっていながら、丁寧にお辞儀をして非礼を詫びる。

「クロエ様、このとおりアネット様もまだまだ幼く、足りないところだらけなのですよ」

子供とはいえ本人のいる前でそういう物言いはいかがなものか。むっとしたアネットだったが、続くシリルの言葉で一転する。


「ですから、共に学ぶことで互いに良い刺激を受けることになるでしょう」

「えっ?!」

驚きのあまり、思わず淑女らしくない声が出てしまい慌てて口を押えるアネットをシリルは呆れた表情で、クロエは感情の読めない顔で見つめている。


「シリル、私がお姉様と一緒にお勉強するの…?」

恐る恐る確認すると、あっさりと肯定が返ってきて余計に混乱する。

「クロエ様もアネット様も悪いことをしたので、一緒に部屋で謹慎してもらいます」

アネットは元々クロエと義母への言動を理由に罰を言い渡されていたが、クロエは何もしていない。


「お姉様は何も悪いことなどしてないわ」

周りの期待に応えようと懸命に努力をしているクロエが、どんな悪いことをしたというのだろう。反射的に言い返したアネットだったが、それに反論したのはクロエだった。


「嘘を吐くのは悪いことだわ」

静かに答えるクロエに対してアネットは口を噤んだ。デルフィーヌを庇ったことを指しているのだと分かったが、何故それを撤回する気になったのか、クロエの考えが分からない。


「別々だと効率が悪いですし、二人でいれば専属メイドが甘やかすこともないでしょう。休むときは自室ですが、それ以外は5日間図書館で過ごしていただきます」

既に決定事項らしくシリルは淡々と説明したが、その口調が罰を与えるという割には柔らかいように感じて、アネットは首をひねった。



静かな図書館ではページを捲る音がやけに大きく聞こえる。本の内容は一向に頭に入ってこないが、クロエの邪魔をしないようにただ大人しくするために本を開いているだけだ。


(謝りたいけど、話しかけられない!!……そもそも話しかけることすら迷惑なのでは?!)


心の中で葛藤していると、ぱたりと本を閉じる音がして顔を上げるとクロエがこちらを見ていた。


(お姉様と目があった?!心の声が漏れていたとか?それとも視界に入るのもやっぱり嫌?)


「ミリー、お茶を淹れてちょうだい」

視線をずらしてクロエが静かに命じたのを聞いて、ちょうどアネットの後方に用があったのだと胸を撫でおろしかけたが、クロエはすぐにアネットに視線を戻した。

「……どうして今日は大人しいの?」


「あの、ごめんなさい。お姉様にご迷惑ばかりおかけしているから、せめて邪魔にならないようにと思って…」

動揺しているせいで、たどたどしい口調になってしまった。クロエに恥じないような妹になろうと頑張っていたのに、最近ではみっともないところばかり見せている。

落ち込むアネットだったが、クロエは気にした様子もなく言った。


「邪魔ではないわ。妹の面倒を見るのも姉の役割だもの」

「……妹」

クロエがアネットのことを初めて妹だと言ってくれた。それだけではなく、アネットの面倒を見るのが当たり前だとも―。


「ちょっと、どうして泣いているのよ?!」

「う、嬉しすぎて…。ひっく、お姉様大好きです!」

「もう、仕方ないわね」

呆れたような口調だったが、今までとは違いそれは確かに温もりが込められた声だった。

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