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転生ヒロイン、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢なんかにさせません!~  作者: 浅海 景


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12 停滞からの後退?

ルヴィエ侯爵家に引き取られて3ヶ月が経った。

顔を合わせるたびにアネットはクロエに必ず一度は話しかけるのだが、相変わらず関係性の改善は見られない。ただ曖昧な質問や具体的な回答が必要な会話は黙殺されることに気づいてからは、イエスかノーで答えられる言葉を掛けるようになった。


「ごきげんよう、お姉様。今日もいいお天気ですね。庭園のロリエローズがとても綺麗ですが、ご覧になりまして?」

「……いえ」

「よろしければ後ほど一緒に行きませんか?」

「忙しいの」


一緒に過ごす機会を得ようとお茶や庭の散策などに誘うが、答えはいつも同じだ。実際クロエが忙しいのは本当らしく、通常の教育に加えて王子の婚約者としての教育もかなりの時間を割いているようだった。


アネット自身も専属の家庭教師がついて地理や歴史、算数と国語などを学んでいるが、午後のお茶の時間には終わるため、夕食までの数時間は自由時間となる。子供らしく遊んでも、勉強時間に充てても、のんびりとお昼寝することも可能だ。


こっそりとクロエを確認するが、目に見える部分に暴力の形跡は見当たらない。義母も将来娘が王族に嫁ぐと分かっているので、服の下でも痕が残るような暴力は振るわないだろうと思っているが、安心できなかった。

傷痕が残らないぐらいの暴力でも痛みはあるのだ。


それに最近では目の下の隈が目立つようになっていて、顔色の悪さも気になっている。だからこそ二人で話したいと思っているのだが、なかなかうまくいかない。


「ジョゼ、最近お姉様がお疲れのご様子なの。理由を探ってきてちょうだい」

そう言ってアネットが1枚の紙を渡すと、ジョゼはすぐさま部屋を出て行く。


勉強に力を入れるのはもちろんのこと、アネットはメイドの懐柔を試みていた。自由になるお金もなく、また侯爵家のメイドはそれなりに待遇が良いので小遣い程度で懐柔されない。

なので持っている知識を活用することにした。


甘いものが好きなメイドは多く、先日のマカロンの件でキッチンメイドはアネットに好意的になっていた。料理長も自分の不用意な発言でお茶会を台無しにしてしまったことに罪悪感を抱いている。

それを利用してこの世界にはないお菓子を料理長に作ってもらい、それを賄賂にメイドを懐柔することにしたのだ。


クロエの様子を伝えるだけで、美味しく珍しい菓子がもらえるとあって時間をおかず、クロエの近況がアネットの耳に入るようになった。


「さて、宿題でもしようかな」

知識を得ることは嫌いではない。前世でも頭がいい訳ではなかったが、勉強は出来たほうだったし、真面目な性格だったのだ。


(可愛げのない性格だったけどね)


だから人に好かれることはほぼなかった。そのおかげで義母や一部の使用人から嫌悪されても受け流すことが出来るのだと思うと、過去の経験も有難く思えてくる。


クロエの学習内容に追いつけば、一緒に授業を受けられるかもしれない。そんな淡い期待がやる気に繋がっていたのだが、それがどう捉えられるかをアネットは考慮していなかった。



微かなドアの開閉音で人が入ってきたことを察したアネットが振り返ると、そこにはクロエの姿があった。邸内の図書館には出入り自由のため、アネットは気分転換も兼ねて自習を行うこともしばしばだったが、クロエと遭遇するのは初めてのことだ。


「お姉様!」

予想外の場所で会えた嬉しさで、アネットは淑女モードのまま急ぎクロエの元に歩み寄った。


「何かお探しですか?よければ私もお手伝いいたします」

勢い込んで話しかけたアネットだが、すぐにクロエの視線が腕の中の書物に注がれていることに気づく。


「もしかして、こちらをお探しでしたか?それならばお姉様がお持ちください。私は一度読んだことがありますので」

宿題に使う資料として選んだものだったが、それがなくても他の本でも代用できる。そう思って伝えたのだが、クロエの表情は何故か険しくなっていく一方だ。


「……何故この本を」

クロエの話す言葉はいつも短い。だがアネットは正確にクロエの意図を理解して答えた。

「宿題を解くための参考用にと思ったのです。隣国の歴史は我が国の歴史を知る上でも必要でしたので。あ、でも他の本でも代用できますし、なくても仮説は立てられますので大丈夫ですわ」


クロエが必要な本を、気を遣わせることもなく譲ることができるのだと思っていたのに、何故かクロエは感情を堪えるように口を引き結び両手を握り締めている。

どうして、と思うより先にクロエが差し出した本を払いのけた。


本は空中を舞い、重い音を立てて床に落ちた。開いたページが折り曲がってしまい、咄嗟に拾い上げるアネットにクロエが冷たい声音で告げる。


「平民の娘が気安く話しかけないでちょうだい。貴女が妹だなんて私は絶対に認めないわ」


バタンと荒々しくドアが閉まる音がしたが、アネットは凍り付いたようにその場から動けなかった。

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