第九話
僕は、食べ終えるとお礼を言って、また一階の掃除の続きに戻った。先生は、まだ仕事があるということで、二階にいるそうだ。
割烹着を着て、頭に三角巾を固く結ぶ。
「よし!頑張るぞ!」
ガラクタに囲まれながら、声を張り上げた。
僕は、誰かに雇ってもらえたことに胸が高鳴っていた。ここでなら、上手くやっていけるかもしれない。そうだ。今度は、気をつければ良いのだ。
今度こそ、失敗しないようにしなくてはー…。
そう、強く決心した。
棚の埃はあらかた落とし切ったので、今度は床を箒で掃き出していく。一階はお客さんが靴を履いたまま歩き回れるように、土間になっていた。
数回繰り返し掃いて、ようやく元の床の色が見えて来る。店の扉をあけて、そのまま砂埃を外へと掃き出していった。
「だいぶ綺麗になったかな!」
扉の外で、大きく伸びをして額の汗を拭った。
次は窓硝子でも拭こうかな?
そう思いながら顔を上げると、扉の外側に貼られていた物に目についた。随分と古びたステッカーのようで、今にも剥がれそうになっている。
「…何だろう?」
何やら文字や模様が描いてある様だが、黒ずんでいてよく見えない。手を伸ばして触ると、それは簡単に剥がれてしまった。
「えっ!….と、取れちゃった!!」
そのボロボロのステッカーを片手に右往左往する。
とりあえず、後で先生に確認して謝ろう。
そう思い、割烹着のポケットにそれをしまった。
「先生は、まだお仕事をされているし、窓硝子を拭いちゃおうかな!」
もう一仕事だ!と店内へ戻り、雑巾とバケツを探す。
箒やちりとりが入っていた階段下の物置にあるかと思い、奥へ行こうとした時だった。
チリン…チリリン………
季節外れの風鈴の音が、店内に響く。
どこから?と思い、音の先を見上げると、店内と家の境目にある梁に風鈴が一つ吊るされていた。
「なんでこんな所に風鈴なんて…。」
首を傾げていると、
「すみません。」
背後から、女性の声が聞こえた。
「あっ!いらっしゃいませ!」
慌てて振り返ると、そこには藤色の着物を着た長い黒髪の女性が佇んでいた。