表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大正妖怪デモクラシー  作者: 一色明
第三章 呪縛
83/90

第九話

 ぐるりと周囲を見渡すと、そこは大きな台所だった。

 立派なコンロに、広い調理場、おまけに硝子戸の食器棚まである。硝子の向こうには、花模様のティーカップや皿が綺麗に並べられており、随分と可愛らしいものだった。

 

 どうやら僕達が入った扉は、この台所の勝手口だったようだ。人の気配がないことに、とりあえず安堵する。


「なんとか中へ入れたけど、この後はどうする?弟さんの居場所は分かるの?」


 僕が尋ねると、彼女は廊下に繋がる扉をそっと開け、慎重に外を覗きながら答えた。


「分かる……って言いたいところだけど、この屋敷なんか変だわ。色んな気配の色が混ざり合ってて気持ち悪い。」


 そうして、目を擦り顔を顰める。しばらく目を凝らして廊下を眺めていたが、やがて諦めたように言った。

「とりあえずここから移動しましょ。歩きながら気配を探して辿るわ。」

 そう言うと、彼女は覗きこんでいた扉を大きく開けた。そして、堂々と廊下へと歩き出してしまう。僕もその後へと続くが、彼女ほど堂々とできずに緊張に身を縮めた。



 屋敷の中は、異様な静けさに包まれていた。



 廊下は曲がり角が幾つもあり、至る所にドアがあった。まるで迷路のように似たような景色ばかりが続き、並ぶドアの色は色とりどりで目がチカチカしてしまう。

 床には深紅のカーペットが敷かれており、足音が立たなかった。不法侵入してしまっている身としては有難いが、これでは屋敷の人に近づかれたとしても足音が聞こえそうにない。

 

 僕は小さな声で、隣を歩く彼女に話しかけた。


「ねぇっ、こんなに堂々と歩いていて大丈夫かな?見つからない!?」

「大丈夫よ。今のところ人の気配はしないし、さっさと見つけてこんな所早く出ましょ。」

 コソコソと小声で話しながら、また曲がり角を曲がる。

 この屋敷は随分と広いようで、歩いても歩いても突き当たりにならなかった。こんな広さでは、万が一にでも彼女と逸れてしまったら、再度会うのにとんでもなく骨が折れそうだ。


「ねぇ、あんたも見えるんだよね?」

 思考していると、唐突に話しかけられて驚いた。

 隣を少し見上げると、此方を見つめる彼女の瞳と視線がかち合う。その質問に、戸惑いながらも頷いた。

「ふーん……。私、こんな変なのが見える人間なんて、自分以外に初めて会ったわ。」

 その言葉は、世間話をするくらいの軽やかさだった。つられて、僕も口が軽くなる。

「でも、僕は君みたいに色は見えないんだ。」

「え!じゃあ、どんな風に見えるのよ。」

「えっと、僕は気配を辿ったりはできないんだけど……。」

 僕の言葉に驚く彼女は、その吊り目がちな瞳を丸くした。

 こうして見ると、猫のようだと思う。

 僕は、言葉に悩みながらも答えてゆく。

「でも、死者の顔とか手足とかが、はっきりと見えるんだ。だから、他の人が見えていない者との区別がつきづらくて。だから、つい普通に人と話しているつもりなのに、周りからはよく変な目で見られちゃう感じかな……。」


 ははっと苦笑いすると、彼女は僕から視線を外した。



「ねぇ………。」



 不意に彼女の声が、静かに響いた。

 その瞳は、真っ直ぐに前を見据えている。


「私達、なんでこんなのが見えるんだろうね。」

 彼女は、先程までと同じ軽やかさで言葉を紡ぐ。

「うちさ、私のせいで父親が出て行ったの。気持ちが悪い、呪われた子だなんて罵られたわ。そのうちに、母親も男作って出て行っちゃった。ほんとに最悪よね。まぁ、弟がいたからいいけど。」

 突然の彼女が語った話に、僕は息を呑んだ。

「あんたは?」

 そう問われて、気がつけば僕も話していた。

「育ててくれたじいちゃんは理解してくれたけど、学校とか近所の人とか、叔母さんは……、駄目だった。」

「両親は?」

「分からない。僕が小さい時に死んでしまったから。」

「そう、親いないんだ。」

 彼女は、静かに言った。

「でも、お祖父さんに理解してもらえて良かったじゃない。私も、弟だけは分かってくれたわ。」

 "弟"と声にする度に、彼女の言葉には優しさが滲んでいた。厳しい表情も少し和らぐ。きっと、彼女にとって弟はとても大切な存在なのだろうと感じた。


「じゃあ、早く弟さん見つけないとだね。」


 そう僕が言うと、彼女は強く頷いた。そして、立ち止まったかと思うと、徐に此方に向き直る。

 不思議に思って僕も止まると、彼女はまじまじと呟いた。

「あんた、いい奴ね。」

「えっ!?あ、ありがとう……?」

 急に褒められたことに驚き、思わず照れてしまった。視線に耐えかねて、僕は視線を床へ外した。



「ね、ねぇ!そういえば探すのに、弟さんの特徴を聞いてなかったんだけど……。」



 いたたまれずに話題を変えようと、そう呟いた時だった。



 ガコンッッ!!!



 突然、大きな音が響き渡った。


「はっ………?」


 とぼけた声が漏れる。


 何故なら、僕が見つめていた筈の床が姿を消したのだ。


 次の瞬間、視界が大きく揺れ動いた。

 体は急激に落下する感覚に襲われる。



「ぅわぁああああああっ!!!!」

「キャァアアアアアアッ!!!!」



 僕達の絶叫は、突然現れた大きな穴にのまれて掻き消された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ