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大正妖怪デモクラシー  作者: 一色明
第三章 呪縛
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第七話

 それは、すらりとした長身に、落ち着いた色合いで仕立てられた上等な羽織と着物を身につけた男だった。


 そして、彼の向かい側にもう一人いた。


 その大きな背にすっぽりと覆われて、その姿ははっきりとは見えない。けれど、赤い椿模様の振袖が見え隠れするので、おそらく小柄な女性なのだと分かった。僕は、女性のことは分からないが、彼の後ろ姿ならよく見知っていた。


 


 せんせいー…。




 口から溢れ落ちそうになった言葉を手で塞いで呑み込んだ。

「仕方ない。違う道を探すわよ。」

 横の彼女は僕の戸惑いには気が付かなかったようで、辺りを見渡し迂回する経路を模索していた。そのまま固まって動けなくなった僕は、彼女に背中を引き摺られるようにしてその場から連れ去られる。


 だが、僕はそれどころではない。


 遠のいてゆく光景から目が離せなかった。

 此方に、彼らの声までは聞こえてこないが、その姿は花を眺めながら穏やかに談笑しているように見えた。小柄な相手に視線を合わせるように時折傾げる首が、一つに括られた長い髪をさらりと揺らしていた。そんな、穏やかな光景な筈なのに、どうしてだろうか。




 僕の額には、冷たい汗が伝った。




 次の瞬間、




『謹慎!』『留守番!』『戸締まり!』




 頭の中で、走馬灯の如く文字が駆け巡る。




 そして、




『花!』『女性!』『二人きり!』





 僕の少ない知識が、ある言葉を叩き出す。頭の中で、剣道着を着た小さな人生の先輩が答えてくれた。




『逢瀬』


 

 その言葉が浮かんだ瞬間、全身が火照った。

 あ、あの先生が、女性と逢瀬!!!!


 だが、はたと気がつく。

 留守番の約束を破っただけでなく、飄々とする彼が普段あまり見せない様な私生活を暴いてしまったことまで知れたら……?頭の中で、神々しい朱雀が火をふいた。




「や、焼かれる……!!!!」




 今度は、一気に全身の血の気が失せる。

 こんな所で雇主の思わぬ逢瀬を眺めている場合ではなかった。顔は赤くなったり青くなったりと忙しく、ぐるぐると思考が纏まらない。



 けれど、不意に頭の中に引っかかるものがあった。

 思わず、僕を着物ごと引っ張って引き摺る彼女に視線を戻す。




 どうして、こんな屋敷で逢瀬をー…?



 

 そう考えた時だった。

 突然、目の前の彼女が立ち止まる。僕は、またもや彼女の背に飛び込んでしまった。そして、今回は踏みとどまれずについに彼女を背中から地面へと押し倒してしまう。 


「わっ、ご、ごめんなさ………!」


 慌ててその身を起こした時だった。

 彼女の目は丸く開かれ、目の前の一点に注がれている。 

 その口が、そっと開いた。

「私、迷路みたいなこの道を、強い光の残像を辿ってここまで来ちゃったんだけさ。」

「え?う、うん?」

「それ、辿っちゃ駄目な奴だったみたい。」

「………はっ?」


 彼女の震える指先が指す方を、僕見た。



「あれ、流石に私でもハッキリみえるわ。」



 その言葉と同時に、目の前が眩く光った。

 顔をあげて光を放つものの姿を捉えた瞬間、僕も同じく目を見開いてしまう。


 


 僕達の目の前には、白銀に輝く大きな虎がいたのだ。




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