第三話
第二話誤字修正しました。申し訳ありません。
時たま自分でも驚く誤字脱字をしていて戦慄します。
強風に煽られながら、ようやく家まで辿り着いた僕は店の扉の中へと急いで滑り込んだ。
乱れた髪や着物もそのままに、カウンターの上に買い込んだ荷物を静かに降ろすと、抱えた猫を見つめて思案する。このまま抱いていては何もできないけれど、こんなに良く寝ているのに降ろして起こしてしまうのも忍びない。
考え込んでいると、ふっと肩が軽くなる感覚があった。
どうやらクロが肩から降りたようだ。彼は、普段は体を小さくして僕の肩の上にいることが多いが、こうして黙って離れてフラリと何処かへ行くことも度々ある。
僕は、とりあえず猫を抱いたままカウンターの隣に置いてある丸椅子へと座った。
籠の中に入っているニシンは干物のものをもらったし、籠の中身の整頓は後回しにしても問題ないか…と、家事の算段をしつつ、一人呟く。
「先生の許可をもらわなくちゃ、さすがに家の中へは連れ込めないからなぁ……。」
仕方なく、猫を抱きながら僕も休憩することにした。
猫を膝上に寝かせて片手でその体を支えつつ、もう片方の手で着物の砂埃を軽く払った。顔にもじゃりじゃりと嫌な感触がしたため、眼鏡を外して手で拭う。見れば眼鏡にも砂が付いており、後で綺麗にしなければと思いながらカウンターの上にそっと置いた。
その後は、することもなく、店内をぼうっと眺めながら膝上で寝入っている頭を撫でてやる。
店の中は、眼鏡がなくても静かで穏やかだった。
先生は、逢魔が時のみ退魔の護符を外して客を受け入れるが、その他の時は必ず扉に護符を貼っていた。
それでも念のため、普段は眼鏡を外すことはあまりしないのだが、今日ばかりは仕方がない。
僕は、久しぶりに眼鏡を介さない景色を少し不思議な気持ちで眺めていた。
そうしているうちに、冷たい風で冷えた体に、猫の温もりがじんわりと広がってゆく。こんな日に外へと出たせいで、思いの外体は疲れているようだ。
温もりに引き摺られるように、次第に僕の瞼は重たくなる。
『私は今夜は遅くなる。夕餉の支度は要らないよ。それから、帰ったら店の戸締りはしっかりしなさい。』
先生の言葉が頭を過ぎる。
「あ……、戸締りしてないや。」
しなくちゃ……、と鈍る頭で呟くが、僕の意識は心地よい眠りの中へ落ちていった。
誰かの声で、僕の意識は浮上した。
「………っと、あ…た………、おき……よ!」
誰かが、僕を呼んでいる。
だれ?せんせい?さこんじさん?
でも、この声はー……?
「おんなのこ?」
呟きながら瞼を持ち上げた瞬間、目の前いっぱいに、見ず知らずの女の子の顔が広がっていた。突然現れた大きな吊り目に睨まれて「ひぇっ!」と喉から情けない声が漏れる。
すると、女の子は甲高い声で叫んだ。
「ちょっと、あんた!やっと起きたわね!!」
見れば、僕と同じ年頃と思われる女の子が此方を見下ろしていた。おかっぱ頭に臙脂色の縞着物を着た彼女は、僕の胸倉を掴んで強く揺さぶっている。膝の上にいた筈の猫は、カウンターの上で女の子に向かって毛をこれでもかと逆立てながら威嚇していた。
「だっ……、だれ?」
思わず質問すると、倍の声量で怒鳴られた。
「それはっ!こっちの台詞よっ!!」
僕は、事態が飲み込まないまま、されるがままにガクガクと揺さぶられ続けた。頭が酷く揺れて、眩暈がする。
どういうことだ?ここは先生の店だよな?
すると、揺れる景色の中で彼女が叫んだ。
「私の弟を返してっ!!!」
その勝気そうな大きな瞳には、確かな怒りが宿っていた。




