第六話
「これはっ!あんまりだっ!!」
狭く埃っぽい室内に、僕の悲鳴がこだました。
「全く、うるさい餓鬼だなぁ。その口縫ってあげようか?」
彼は煙管を片手に静かに言った。その言葉尻は柔らかいのに、言葉は全然柔らかくない。僕は、慌てて口を閉じたが、埃を吸って咳き込んだ。
僕は今、白い三角巾と割烹着を着せられている。
そして、右手にはハタキ、左手には雑巾だ。
僕が頼まれたのは、一階の骨董品店の掃除だった。
元来、僕は家事掃除が得意なので、二つ返事で了承したのだが、それが間違いだった。
ここは、いつから掃除をしていなかったのだろうかと思うくらい酷い汚れの巣窟だったのだ。先程から単身で何十年物か分からない埃達と戦い、もうすでに根気負けしそうだった。
そして、ハタキで埃を薙ぎ払いながら、次々と訳の分からないガラクタ達と対峙する。
「これは、何ですか!?」
「あぁ、それは有難い阿弥陀如来像だね。」
「こっちは!?」
「おや、懐かしい。獅子の置物だ。」
「これは!?」
「文楽人形だよ。これは、ガブと言われる物だね。」
ほら、と彼が綺麗な女性の首だけの人形を動かすと、途端にその顔は般若のような恐ろしい顔になり、僕は腰を抜かしそうになった。
こんな調子で、次から次へとガラクタが出てきて掃除が終わりそうにない。
埃を落とした後を雑巾で拭いていると、棚の奥にある硬い物と手がぶつかってしまった。
ガタン!
勢い良く棚から落ちたのは、古い木箱だった。
「わっ!すみません!!」
蓋が開き中身が飛び出してしまった。それは、漆黒の弓と弓弦だった。黒く艶やかな弓に一瞬目を奪われるが、我に返り、慌てて拾おうとする。
すると、いつの間にか傍に来ていた彼が先に手を伸ばし、さっさとその弓を木箱に仕舞った。
「…気をつけてね。」
そう言うと、そのまま手に持ち踵を返した。
「今のは…?」
僕が尋ねると、彼は振り返らずに答えた。
「破魔弓だよ。」
「はまゆみ?」
「魔除け、厄祓いの御守りだよ。男子が生まれると、正月の縁起の祝い物として贈られたりするだろう?弓を射って魔を滅するってね。」
「…うちは、親がいなかったから。」
彼は振り返って、優しく言った。
「まぁ、これは玩具じゃなくて、うちに代々伝わる本物の弓だからね。怪我をするといけないから、もう触っちゃいけないよ。」
そう言われて、素直に頷ずく。怒られなかったことにホッとしつつ、他の物も壊さないように気をつけようと気を引き締め直した。
「それじゃあ、私は仕事の続きがあるから二階にいるよ。何かあれば、声をかけてね。」
彼はそう言うと、二階に上がっていた。
その姿を目で追いつつ、緩んだ三角巾を結び直した。
「よし!がんばるぞ!」
そうして、むん!と気合を入れながら、僕は店の奥の棚へと手を伸ばした。