第十四話
二人で自己紹介をしながら、並んで商店街を歩く。
僕と話しながら歩く信介くんの手には、大事そうに花が握られていた。
「信介くんは、本当に珠代ちゃんが好きなんだね。」
僕がそう言うと、信介くんは真っ直ぐ前を見ながら頷いた。
「とうぜんです。あんなにすてきなじょせいはいません!」
あまりにも迷いのない返答に微笑ましい気持ちになる。
「珠代ちゃんのどんな所が好きなの?」
「すべてです!」
僕は調子に乗って、全身全霊で恋に身を捧げる五歳児に、野暮な質問ばかりしてしまう。しかし信介くんは、清々しい程に気持ち良く答えてくれる。そのせいだろうか。僕は、ついつい聞きすぎてしまった。
「いつから好きなの?」
そう尋ねた時だった。
一瞬、信介くんの歩みが止まる。
瞳は真っ直ぐに前に向けられたまま、どこか遠くを見ているようだった。
「…いつからでしょう?」
その瞳は、迷子の子供のように揺らいだ。
「信介くん?」
僕が、聞き返した時だった。
「もう一度、考え直しておくれよ!!」
大きな声が、商店街に響いた。
声がする方をみると、そこは珠ちゃんの簪屋からだった。店からは、只ならぬ気配がした。
僕と信介くんは顔を見合わせて、どちらも同時に走り出す。
店へ飛び込むと、そこには先程祠で会ったばかりの奥さんと、珠ちゃんのご両親と思われる人が揉み合っていた。
「奥さん…、なんと言われても、もう決まったことなので…。」
「そこをどうにか!あんたん所にまで抜けられたら、ますます此処は錆び付いてしまうよ!!」
「そう、言われても………。」
奥さんは、膝をついて床に額がつくほど頭を下げていた。それを、ご両親が必死に止めている。
その後ろには、顔を青くして俯く珠代ちゃんがいた。
「おたまさん!」
信介くんが叫ぶと、珠代ちゃんは顔を上げた。
「信介くん…。」
泣き出しそうに、顔が歪められる。
その時、背後から大きな声がした。
「やめなさいっ!!」
振り返ると、会長さんが息を切らせて立っていた。
そのまま勢いよく店の中へ入って行くと、奥さんの腕をつかんで立たせる。
「何度も言っただろう。もう、決まったことなんだ。これ以上、簪屋さんを困らせちゃいけない。」
「あんた、そんな事言ったってっ…!」
「もうこの件はお終いだ。簪屋さん、迷惑をかけたね。」
そう言うと、会長さんは僕達に目もくれずに、奥さんの腕を引いて店から出て行った。
ご両親は顔を見合わせて困り果てている様だった。
珠代ちゃんは、青い顔のまま、フラフラとこちらへ近づいてきた。
「ご、ごめんなさい。お見苦しいところを…。」
震える声で、僕達に謝る。
そして、ご両親に少し出てくることを告げると、僕達と一緒に店から出た。




