第十一話
次の日、僕は再度犬神様の祠を訪れた。
珠ちゃんが言っていた様な"何か"が、もしかしたらここには、隠れているのかもしれない。
そう思い、もう一度調べることにしたのだ。
祠の後ろには、雑木林が広がっている。
背の高い木々のせいで、ここだけが昼間だと言うのに薄暗かった。祠を囲む空気は、ひんやりと冷たい。
僕は、眼鏡を外して、祠の周りをゆっくりと歩いた。
神経を研ぎ澄ませて、出来る限り気配を探る。
ここは、どこまでも静かだ。民家から少し離れているためか、人の声すら届かない。
静寂の中、時折吹く風だけが、葉を騒めかせた。
しかし、どんなに目を凝らしても、耳を澄ませても、何も変化は現れなかった。
「犬神様…。」
僕の呟きに、答える声はない。
やはり、ここには何もいないようだ。
諦めて、もう一度珠ちゃんの所へいってみようか…。
そう思った時だった。
不意に背後に気配を感じた。
その瞬間、悍ましい血の匂いと、何かが腐り落ちているかのような悪臭が鼻をつく。
これは…、人間の匂いじゃない。
そう認識した途端に、額から汗が吹き出した。
振り返ろうとするが、体が恐怖に震えて動かない。
動け!動け!
強く念じ、一歩足を踏み出した時だった。
「あなた…、もしかして猫吉さん?」
穏やかな、老女の声だった。
その声に導かれて振り返ると、着物姿の小柄なお婆さんが佇んでいた。




