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大正妖怪デモクラシー  作者: 一色明
第二章 輪廻
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第十話


「モフモフで、フワフワで、温かったから!…だ、そうです。」



 以上です、と僕はお茶を一口啜った。


「君は、何の話をしていたんだったかい?」


 先生は夕餉を食べ終えたようで、箸を置いて言った。


「だから、犬神様ですよ!『どうして犬神様だって分かったの?』って訊いたら、珠ちゃんがそう言ったんですってば。」

「モフモフで…?フワフワ…。」

「温かったそうですよ!」


 先生は黙り込んだまま、頭を抑えてお茶を飲んだ。


「祠には行ったかい?」

「はい。…でも僕が行った時には、あそこには何もいませんでした。」

「だろうねぇ。」


 ご苦労様、と一言言うと、先生は立ち上がった。

 黙ったまま食器を流しへ運び、さっさとこの部屋から出て行こうとしている。


「先生!」


 僕は、慌てて呼び止めた。振り返らない背中に、湧き上がる疑問をぶつける。

「先生も、珠ちゃんを嘘つきだと思いますか?」

 そう口にした途端"嘘"という言葉に胸が苦しくなり、僕は先生の答えを聞くのが怖くなった。


『うそつきっていわない?』


 頭に、いつかの幼い声が響いく。

 ギュッと目を瞑ると、思いの外近くで声が聞こえた。


「思わないよ。」


 ゆっくりと目を開けると、目の前で僕を見下ろしている優しい瞳と目が合った。

「子供は、ただ自分に正直なだけさ。その言葉をどう捉えるかは、受け取る大人次第だ。」

 まるで言い聞かせるように、先生は言った。


「嘘つきじゃないよ。」


 その言葉を聞いた時、僕はどうしようもなく泣きたくなった。

 珠ちゃんの話をしていた筈なのに、なぜか僕が救われたような気持ちになったのだ。


 僕も先生も、それ以上は何も言わなかった。

 沈黙の中、先生の手が微かに動いた時だった。



 その沈黙は、突然破られる。



 チリリ…チリリリン…



 来客を告げる風鈴の音が響き渡った。


 先生は、すぐに踵を返す。

 僕もついて行こうとするが、止められてしまう。


「君は、いつものように部屋の奥にいなさい。決して、その眼鏡は外す事のないように。」

「今日は、僕も行きたいです!」

「だめだ。まだ自分の身を守る術も知らない者を、連れては行けないよ。」



「ぼ、僕だってっ…!」

 そう叫んだ時には、もう目の前に先生はいなかった。



 僕は、いつもこうだった。

 あの河川敷以降、風鈴を揺らす来客は度々訪れるが、僕は会わせてもらえない。


「僕だって…………。」


 この先に続く筈の言葉は、一体何だろうか。


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