第二話
気がつくと、僕は河川敷の岩陰に打ち寄せられていた。空は、すっかり闇に包まれており、秋の夜風に冷たく頬をなでられ目が覚めた。
雨は、止んでいた。
ゆっくりと体を起こすと、体の至る所に痛みが走る。
辺りを見回すが、あの男達は居なくなっており、暗闇が広がるだけだった。
「ここ…、どこ?」
そう呟いたつもりだったが、川の水を飲んだせいか、肺までがギシギシと痛み、声が思うように出せなかった。
とりあえず、立ち上がり一歩ずつ歩き出す。
真っ暗で灯りもないが、幸い月夜に照らされて辺りは目視できた。
けれど、河川敷を抜けても、民家がポツポツと数件立ち並んでいるだけで、ここはどこか寂れている雰囲気だった。どうやら、僕は、町の中心地にあったあの橋から随分流されて、町の外れまで来てしまったらしい。
必死に体を動かして、行く当てもなく歩くが、川の水に濡れた体は冷え切り、手足の感覚はなかった。
つかれた…。
ねむい……。
もう、僕の体力は限界だった。
その時、一軒だけニ階に小さな灯りが灯っているのが見えた。何とか体を引きずり、その軒下まで辿り着く。
どうやら、そこはお店のようだった。
ガラス越しに覗く店内は真っ暗で、よく見ると、訳の分からないガラクタのようなものがひしめき合っている。二階の小さな灯りを頼りに、僕は店の引き戸を数回叩いた。
「お願いです、だれかいませんか!」
しかし、お腹に力が入れられず、掠れた声は酷く小さいものだった。思うように声が上げられず、このままでは誰にも気がついてもらえそうにない。
僕の目には、熱い涙が込み上げてきた。
「お願い。だれか…、助けてっ。」
その時だった。
「…おや?」
透き通るような、穏やかな低い声が響いた。
声の先を見上げると、この店の二階の窓から、誰かがこちらを覗き込んでいる。月明かりの逆光で、その顔は見えなかった。
「ぼくを、たすけてください。」
精一杯、声を振り絞る。
言い終えると、体の力が抜けて、その場に倒れ込んでしまった。意識が、遠のいていく。
くすり、と笑う気配がした。
「何かと思ったら、随分汚い野良猫じゃないか。」
僕は、人間だ…。
遠くで聞こえた言葉に反論することも出来ずに、ついに僕の意識は完全に途切れてしまった。