第十七話
雨は、一刻一刻と強くなっていく。
僕は足早に歩いたが、じいちゃんに会えないまま正福寺まで来てしまった。
山門を前に、首を傾げる。
「あれ?まだ住職様とお話してるのかな?」
中へ入ろうか思案する。すると、視界の端に見覚えのあるものを見た気がして、視線を向けた。
そこには、林があった。
途端に嫌な汗が、身体から吹き出す。
そうだ。この寺は、あのおじさんを案内した寺じゃないか。そして、あの林はー…。
バクバクと心臓が嫌な音をたてた。
その林の入口に、見慣れた物は落ちていた。
「まさか、見間違いだ…。」
そう自分に言い聞かせながら、林の手前へ来た。
落ちていた物を拾い上げると、それは手拭いだった。いつもじいちゃんが首から下げていたものに模様も、形も、そっくりだ。
でも、まさか…。
自分の勘違いではないかと思おうとした。
けれど、強く握りしめた時、雨に濡れたそれからは間違いなくじいちゃんの香りがした。
「…っ!じいちゃん!!」
僕は、顔を林に向けた。
木々の向こうはどこまでも暗く、揺れる葉がまるで自分を手招きしているようだった。
じいちゃんが、この先にいるかもしれない。
そう思うと、僕は行くしかなかった。
「じいちゃん!!」
林へ、一歩踏み出した次の瞬間、腕を強く後方へ引かれた。突然のことに、驚いて振り返ると、そこにはじいちゃんがいた。
「だめだ!こんな所でなにしてる!?」
じいちゃんは顔を赤くして大きな声で言った。
「じいちゃん!?どこにいたの!!?」
僕も、負けないくらい大きな声が出た。
じいちゃんが僕の腕を掴んだまま話した。
「住職様と先程までお話をしていたんだ。天気も悪いし、もう帰ろうとして境内を歩いていたら、手拭いが風で空に飛ばされて…。拾いに来たらお前がいた。」
そう言いながら、じいちゃんは僕の手を見た。
「ああ、傘を届けに来てくれたのか。こんなに天気が悪いのに、風邪が悪化したらどうするんだ。」
怒った顔が、呆れたように少し和らぐ。
「だって!じいちゃんが遅かったから!僕、心配で、心配で…っ!」
気がつくと、僕の目には涙が溢れていた。
安心した途端に、熱の怠さが体を襲う。
じいちゃんは、苦笑いしながら僕の涙を掌で優しく拭ってくれた。
「それは、すまなかった。家に帰ろう。」
そう言って、じいちゃんが差し出してくれた手を握り返した時だった。
「こいつか。お前の未練になる人間は。」
男の声が、耳元で囁いた。
それは、忘れもしないあのおじさんの声だった。
「逃がさない。」
ふふっと笑った吐息が、耳を掠めたような気がした。
次の瞬間、雷鳴が響いた。
眩しくて目を瞑ると、凄まじい音のあとメリメリと木が傾くような音がした。
目を開けた時には、目前には巨木が迫ってきていた。
木が倒れてくる!と分かった時、強い力で体を押された。地面に強く頭と体を打ち付けられる。地面を揺らす程の音を聞いたのを最後に、僕の意識は途切れた。




