第十三話
「お前の見えている世界は、他の人には見えていないものなんだ。」
そう、僕に教えてくれたのはじいちゃんだった。
僕は、裕福な家庭に生まれた。仲の良い両親と優しい使用人に囲まれて、僕はとても愛されていた。今思えば、あの頃が人生の絶頂期だったように思う。
ところが、5歳の時、両親は一遍に死んだ。家に強盗が入ったのだ。
月が綺麗な夜だった。
皆が寝静まる頃、犯行は行われた。
大きな物音で目が覚めた僕は、寝ていたベッドから、突然使用人に抱き抱えられて、外へと連れ出された。使用人の肩越しに見えた廊下は血で染まり、鉄臭い香りに満たされていた。玄関へ出る前に見えたリビングでは、月明かりに照らされ父と母が、血まみれで倒れていた。
「坊っちゃん!ここに隠れていて下さい。私は通報をして、必ず、必ずまた迎えに来ます。どうか、何があっても声を出さないで。静かにしていて下さい!」
そう言って彼女は、僕を庭の木の影に隠した。
そして、彼女は迎えに来なかった。通報をするために屋敷に戻った彼女は、通報後、受話器の前で殺されていたらしい。僕を迎えに来たのは、駆けつけた警察官だった。
夜が明けて、生き残った父の執事と、離れて暮らしていたじいちゃんが警察署に迎えに来てくれた。
「言いつけられた仕事に出ている間に、こんなことになるなんて…、あぁ、坊っちゃんだけでも生きていてくれて良かった!!」
そう泣き崩れた執事に、僕は訊いた。
「ねぇ、みんなが、貴方が手引きしたって言ってるよ?」
「なっ!何を仰っているのですか、坊っちゃん!」
執事の顔色が変わった。僕は、不思議だった。
「だって、見て。みんなが、貴方を囲んで指差してるじゃない。「犯人だ」って。じいちゃん、どういう意味?」
ほら、と僕が指差した先にいた執事は、家の使用人達に囲まれていた。皆が一斉に、人差し指を彼に向けながら呟いていた。
「犯人だ。」「手引きした。」「どうして。」「死にたくなかった。」「許さない。」「お前も死ね。」
皆が言っている事が、僕には理解できなかった。
「みんなが、怒ってるよ?謝った方がいいよ。」
「な、なにを…。」
執事はガタガタと震え始めた。
今度は、傍にいた警官とじいちゃんの顔色が変わり、執事は警官に、僕はじいちゃんに腕を引かれた。
その時に、じいちゃんに訊かれた。
「お前には何が見えている?」
僕は答えた。あの家で働いていた使用人の皆だと。
皆が呟いていることが分からないから教えてほしいと僕が言うと、ずっと黙って僕の話を聞いてくれていたじいちゃんが、静かに首を振った。
「あの家で働いていた者は皆死んだ。お前の見えている世界は、他の人には見えないものなんだ。」
じいちゃんが言うには、どうやら、僕の目には死んだ人間が映るらしい。
でもこの時、僕は何を言われているのか理解できなかった。だって、僕の目には、『死んだと言われた人間』も『生きている人間』も、何の違いもなく同じように視えていたのだから。
その日のうちに執事は逮捕され、僕はじいちゃんに引き取られることになった。




