第一話
この物語を開いていただき、ありがとうございます。
作者は歴史が苦手なのに、ちょっぴり時代ものです。雰囲気だけ楽しみつつ、温かい目で拝読して頂けたら幸いです。
曇天の空の下、僕はひたすら走っていた。
やがて、降り始めた雨は僕を容赦なく濡らしていく。
着物は着崩れ、履いていた草履もどこかへ脱げてしまっていたが、それでも裸足で地面を蹴った。
「待ちなさいっ!」
後ろからは怖い大人達が、僕を捕まえようと追いかけてきている。けれど、僕は捕まるわけには行かなかった。
先程、あの大人達に打たれた注射跡がジクジクと痛み、だんだんと視界は霞みがかってきていた。それでも、朦朧とする意識を無理矢理叩き起こし、懸命に走った。
けれど、川の上にかかっている橋を渡ろうとした時、その先にも男がいて、橋の上で立ち往生してしまった。
足を止めた時、後ろから大きな手に掴まれる。
「捕まえたぞ!大人しくしなさい!!」
一人の男に腕を掴まれ、恐怖で震えた。
「やめて!離して!!」
その腕を、無我夢中で振り払う。
それは、一瞬のことだった。
僕の体はぐらりと傾き、手摺りの向こう側へ投げ出された。咄嗟に男が手を伸ばしたが、それでも届かずに、僕の体は真っ逆さまに落ちていく。
ドボン!!!
大きな水飛沫を上げ、僕は川に落ちた。
最後に見えたのは、曇天の空だった。
あぁ、青空がみたかったな…。
濁った水の中、勢い良く水流にのまれていく。
冷たい水に包まれた僕は、急激な眠気に逆らえずに、その視界は完全に暗闇にのみ込まれた。