表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/204

訪問者

暑い日が続いていますね。

そんな中のオリンピック❗️アスリートの頑張りに勇気を貰えます。

英州(エイシュウ)は、ひとしきり思いを伝えるとすっきりしたのか、次の夜伽(ヨトギ)の相手を見つけないと、などと言っている。


今しがた、(シバ)しゆるりと待てと言ったばかりなのに。


(アキ)れてしまうが、目の前で真剣に悩んでいる栄州(エイシュウ)をみていると、笑えてしまうから不思議(フシギ)なものだ。小さく笑っている悧羅(リラ)見咎(ミトガ)めて、なにか?と怪訝(ケゲン)そうに(マユ)をひそめている。それに、なんでもない、と手を振ってみせるが栄州(エイシュウ)の顔は不満気(フマンゲ)なままだ。


「まあ、その様に()かずともよかろう?」


「また、そんな悠長(ユウチョウ)なことを」


栄州(エイシュウ)が溜め息混じりに小言を始めようとした時、失礼いたします、と声がした。声がする方に2人も視線を向けると、先ほどとは違う女官(ニョカン)()して(ヒカ)えていた。何じゃ、と問う悧羅に女官が顔を上げる。


咲耶(サクヤ)さま、お越しにございます」


そうか、と悧羅が(コタ)える間もなく、戸の陰から桜色の揺蕩(タユタ)う髪を持つ鬼女(キジョ)が現れた。(ヒタイ)には真珠色(シンジュショク)の1本角がある。咲耶(サクヤ)は笑顔で室内に足を踏み入れようとして、思いとどまった。悧羅だけかと思って来てみれば、栄州(エイシュウ)がいたからだ。


また、面倒(メンドウ)なおじさまが…、とは思えど口に出すわけにはいかない。栄州(エイシュウ)は、悧羅にとっては相談役(ソウダンヤク)(ツト)めている。里で暮らす者にとっては、上官(ジョウカン)にあたるからだ。(ウヤウヤ)しく()して礼をとる。


(オサ)におかれましては、ご健勝(ケンショウ)でなによりでございます。月の診察に(サン)じました。栄州(エイシュウ)さま、久しくお目にかかれず御無礼(ゴブレイ)(イタ)しておりましたが、お変わりございませんか?」


伏したままの咲耶(サクヤ)に、悧羅は大義(タイギ)じゃの、と(ネギラ)い、栄州(エイシュウ)は、心遣(ココロヅカ)いいたみいる、とだけ()べる。


「月の診療であれば、(ワレ)は場を離れまするよ。(オサ)への良き相手も探さねばなりませぬしね」


悧羅に対し礼を取り、立ち上がると、咲耶(サクヤ)(ソバ)を通り抜ける時には、頼む、と言い残して去っていった。


足音が聞こえなくなってから、咲耶(サクヤ)はようやく顔を上げる。女官(ニョカン)がさがると、途端(トタン)に、ああ、だるっ、と(クダ)けた口調(クチョウ)になり顔を(ホコロ)ばせながら悧羅の元まで小走りに寄ってきた。


「何なの、おじい。どうせ、また、物忌(モノイ)みがとか夜伽(ヨトギ)の相手を、とか言いにきたんでしょ。(アキラ)め悪いわぁ」


「まあ、そう言うな。栄州(エイシュウ)(ワラワ)のことを思いやっての事だ。実際、相談役として世話にもなっているし。厚意(コウイ)無下(ムゲ)にはできん」


咲耶(サクヤ)の言葉に苦笑して、一応は栄州(エイシュウ)のことも(カバ)っておく。

 

「お人好(ヒトヨ)しは治らないもんなのね、あんたも」


屈託(クッタク)なく話しかける咲耶(サクヤ)の姿は、(ハタ)から見れば打首(ウチクビ)にされかねないところだ。けれど、悧羅は気にした様子ではない。咲耶(サクヤ)とは、歳も近く幼い頃から同じ学舎(マナビヤ)ですごしていた。1本角自体も少なく、鬼女(キジョ)ともなれば尚更(ナオサラ)で、学舎(マナビヤ)での扱いは、まあ(ヒド)いものであった。そんな環境もあってか、自然と交流を深め、何でも言い合える仲になっている。幼き頃から隠していた華の(シルシ)のことも、咲耶(サクヤ)にだけは話していた。内密(ナイミツ)にして欲しいという悧羅の願いは破られる事なく、先代(センダイ)身罷(ミマカ)られ、(シルシ)の持ち主を探す里を挙げての大捜索(ダイソウサク)になっても咲耶(サクヤ)は口を割らなかった。


しかし、先代(センダイ)を失い土地まで荒廃(コウハイ)した当時の里の(タミ)には、名乗り出るのを待つなどという余裕をみせることは出来なかった。

一軒一軒(イッケンイッケン)(メグ)り、その場で(コロモ)を脱がせるという暴挙(ボウキョ)に出たのだ。男鬼(ダンキ)ならまだ、どうにかなったが、鬼女(キジョ)まで同様のことが行われていると知った時に、悧羅は覚悟を決めて(ミズカ)ら申しでると咲耶(サクヤ)に伝えた。


「ふうん、あんたがそれでいいならいいけど。(オサ)になったからって、私は変わんないわよ。あんたはあんたなんだから」


(オサ)になると言うことは、今まで里で築きあげた関係も(クズ)れるということだ。立ってしまえば、全てのものが()して(ヒカ)え、許しを与えるまで視線をあわせることはない。ましてや、屈託(クッタク)なく話せる者もいなくなると思っていた悧羅に咲耶(サクヤ)の言葉は予想外であり、救われた。


「まあ、一応は?人目のあるところでは(ウヤマ)ってるふりくらいはしてあげるわよ」


見た目に反して豪快(ゴウカイ)に笑う。咲耶(サクヤ)が友としていてくれることが嬉しかった。


しばらく思い出に浸っていると、ところでさ、と咲耶(サクヤ)が切り出す。


「東西周辺は特に目立った動きはないよ。南も、この間の(アヤカシ)騒ぎをあんたが沈めたから、感謝こそすれ、敵対の意思はないみたい。むしろ、必要であれば精気(セイキ)も差し出しますって勢い」


そうか、と咲耶(サクヤ)の言葉に悧羅は(ウナズ)いた。(シラ)せをしながらも咲耶(サクヤ)の手は止まることはなく、必要な診療を手際(テギワ)良くこなしている。


この里は、山を切り開いて作った。人の国のほぼ真ん中に位置していたため、鬼神(キジン)の里となったことで、人の国も4つにわけられることになった。一つ一つの国の大きさはさほどでもないが、一応それぞれに(アルジ)がたっている。人の国を4つに分断したことで、必然的に死角が出来る。念のために、里全体を結界で(オオ)ってはいるが、異変を感知出来るのは(ジュツ)行使(コウシ)した悧羅だけで、そこから指示を出したのでは、例え人相手であろうとも負傷者が出るかも知れなかった。

悪意を持って侵入するとも限らないし、侵入されてしまった後で騒ぎになっても後々(ノチノチ)面倒(メンドウ)なのだ。

それらを考えて、街の四方に悧羅が信を置いている者の(ヤシキ)を周囲を見渡すように置いていた。


咲耶(サクヤ)(ヤシキ)はその中の南を監視(カンシ)している。


「ただね、北が何となくきな臭いっていう話。実際は(シラ)せを待たなくちゃならないけど、なんとなあく気にはしといたほうがいいかも」


それにも悧羅は(ウナズ)く。


北か。(アルジ)の名はなんだったか。あまり人の国に干渉(カンショウ)しないため、人の名前など、すぐに忘れてしまう。

なにより、寿命が短すぎるので頻繁(ヒンパン)に変わったとの趣旨(シュシ)文書(モンジョ)が送られてくる。これが、計4つともなれば、名前など覚えておけるはずもない。


荒泉新條頼政アライズミシンジョウヨリマサ。人の国でもあまり良い(ウワサ)は聞かないし、なんか色々画策(カクサク)しては失敗してるって話よ」


悧羅が北の主の名前を思い出せないことに気づいたのだろう。咲耶(サクヤ)が助け舟をだした。


ああ、そういえばそんな名前だった気がする。


なんにせよ、人の国で上手くいかないからと鬼の国に手を出そうものならどうなるのか、少し考えればわかることだろうに。それも見えていないのだとしたら、大したことはない。単なる小物だ。


「わかった。北に監視の目を多く()いてみることとする」


小物であれど、里の(タミ)害為(ガイナ)されることがあってはならない。

悧羅の言葉に、そうしといて、と咲耶(サクヤ)(ウナズ)いた。そのまま、横になるように指示される。

言われるがまま横になると、咲耶の(テノヒラ)下腹部(カフクブ)()れた。


「やっぱり物忌(モノイ)みの時期は(キズ)が浮かんでくるね。痛みはない?」


大事(ダイジ)ない。時折(トキオリ)引き()る程度であるし、物忌(モノイ)みの時には(ハダ)は出さぬでな。物忌(モノイ)みが終われば、またゆらりと落ち着こう」


咲耶(サクヤ)(テノヒラ)の下には、(オビタダ)しい数の刺し(キズ)がある。今は、もちろん乾いているし、新しい出血などもない。


ただ、この(キズ)を見るたびに咲耶(サクヤ)(クヤ)しく思う。


何故(ナゼ)もっと早くに気づいてやれなかったのか。

何故(ナゼ)、あんな状況で懇願(コンガン)せねばならないほどに悧羅が追い詰められなければならなかったのか。


自分が立ち入る問題でないことは、重々承知(ジュウジュウショウチ)している。それでも、何もできない自分が悔しかった。

その思いを打ち消すように、咲耶(サクヤ)はいつも通りに振る舞う。


「ちょっと肌が乾燥してるみたい。水分と栄養、ちゃんととるように。あんたは、ただでさえ食が細いんだから。妲己(ダッキ)にも心配かけちゃうよ」


咲耶(サクヤ)の横で、行儀(ギョウギ)良く待っていた妲己(ダッキ)も、思わず(ウナズ)いている。


“ぜひ、もっと言って差し上げてくれ”


2人に責められて、悧羅は、わかった、と(コタ)えるしかなかった。

ありがとうございました。

更新が立て続けになってますが、構成を忘れないうちにサクサク描いていきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ