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無二《ムニ》

更新します。

(ミヤ)(モド)った(シン)たちの姿に啝咖(ワカ)玳絃(タイゲン)唖然(アゼン)と口を開けてしまった。(カミ)隊服(タイフク)(ミダ)れ、忋抖(カイト)のものなど(ヒモ)(ソデ)が引き千切(チギ)られてしまっている。怪我(ケガ)だけはしていないようだからそこは一安心(ヒトアンシン)しても良いだろう。が、それよりも(クビ)(カシ)げてしまうのは、部屋(ヘヤ)に入るなり(スワ)り込んだのは(ミナ)同じなのに、悧羅(リラ)を引き寄せて(ヒザ)に乗せたのが舜啓(シュンケイ)だからだ。よほど大変だったようだから、(シバラ)くすれば落ち着くかと思っていたが、夕餉(ユウゲ)や湯が終わっても悧羅(リラ)を見つけると(ヒザ)に乗せてしまう。


「え…っと、ちょっと待って?何がどうすれば()()()()()()になるの?」


流石(サスガ)不思議(フシギ)に思って(タズ)ねた玳絃(タイゲン)の前でも、舜啓(シュンケイ)(ヒザ)(スワ)らされ、しっかりと身体(カラダ)(ウデ)まで(マワ)されて身動きが取れない悧羅(リラ)(ヒザ)には、飛びつくように皓滓(コウサイ)灶絃(ソウゲン)が抱きついて頭を(アズ)けてしまう。そういえば(モド)ってきた時も(メズ)らしく(シン)悧羅(リラ)(カカ)えあげていなかった。


「…取られたんだよ」


あー、と頭を()きながらぶすっと(ツブヤ)(シン)に、加嬬(カジュ)が茶を差し出してくれる。


()()()ずーっと我慢(ガマン)してきたんだと。悧羅(リラ)(ヒザ)に乗せたり抱き上げたりって()()()()()()は、(オレ)しか出来ないって思ってたんだってさ」


「え?そうじゃなかったの?昨日まで、父様(トウサマ)だけの特権(トッケン)だと思ってたけど。ねえ?」


「うん。(カイ)兄様(アニサマ)(ベツ)にしなきゃだけど、()()()変わらないって思ってたんだけど?え?もしかして?」


啝咖(ワカ)一緒(イッショ)になって首を(カシ)げていた玳絃(タイゲン)が、ぱあっと顔を(カガヤ)かせた。


「その()()()だよ。忋抖(カイト)(クワ)わったから我慢(ガマン)するのも止めるんだって。あー、(オレ)悧羅(リラ)が…」


「うっわあ!」


頭を(カカ)える(シン)他所目(ヨソメ)に、歓喜(カンキ)の声を上げて玳絃(タイゲン)まで悧羅(リラ)の前に()け寄って手を取った。


「そうだよね。(カイ)兄様(アニサマ)(ユル)されてることが(オレ)たちに(ユル)されないなんて無かったんだよ!うっわ、気付(キヅ)いたの(ダレ)最高(サイコウ)じゃないか!」


取った手に口付(クチヅ)けてしまう玳絃(タイゲン)に、ああ!、と(シン)忋抖(カイト)(ソロ)って(サケ)ぶ。


「ちょ!玳絃(タイゲン)()()()()()駄目(ダメ)!」


「えー?子が母にするのの何が駄目(ダメ)なのさ?」


揶揄(カラカ)いながら(ホオ)口付(クチヅ)けられている悧羅(リラ)も、おや、と(ワラ)ってしまっている。


「じゃあ(オレ)たちもいいってことじゃないか」


「何だ、もう我慢(ガマン)しなくていいの?」


(タガ)いに手を合わせて走りよる瑞雨(ズイウ)憂玘(ウイキ)まで(クワ)わって、あーあ、とますます項垂(ウナダ)れてしまう(シン)を、忋抖(カイト)がぱしりと(ハタ)いて気を取り(モド)させようとするが、なかなかに上手(ウマ)くいかない。


悧羅(リラ)(ワラ)ってないの!ほら、父様(トウサマ)もしっかりして!本当にちゃんと線引(センビ)きしないと、こいつら(セキ)を飛び越えちゃうって!」


「いやもう無理(ムリ)だろ。お前に(マカ)せるからどうにかしといて。加嬬(カジュ)珩冥(ギョウメイ)は?(イヤ)しが無い」


父様(トウサマ)!!」


早々(ソウソウ)に考えることを放棄(ホウキ)した(シン)忋抖(カイト)(イサ)めるが聞きはしない。珩冥(ギョウメイ)妲己(ダッキ)()ている、と伝えられてますます(カタ)を落としているばかりだ。


「そうだ!姉様(アネサマ)加嬬(カジュ)啝咖(ワカ)()()()()で良いの?」


「え?だって母様(カアサマ)って特別(トクベツ)だし。むしろ私もしたい」


「いいなあ。私もぎゅってしたい」


「そうでございますねえ。(オサ)であれば(イタ)(カタ)ないかと。どちらかといえば、()()(コラ)えておられたものと思いますよ。さすがは(ワタクシ)皓滓(コウサイ)(サマ)です」


(シン)(タヨ)りにするのを止めて3人に助けを求めたが、どうやら無駄(ムダ)だったらしい。ふふっと媟雅(セツガ)加嬬(カジュ)啝咖(ワカ)微笑(ホホエ)まれて、ほらね?、と舜啓(シュンケイ)皓滓(コウサイ)灶絃(ソウゲン)(ムネ)()る。


「あーもう、悧羅(リラ)(モド)ってきて。父様(トウサマ)(スナ)になっちゃうって」


「ん?(スナ)にはなんないぞ?どうにか()()だろうし」


父様(トウサマ)、そういうことじゃない」


はあ、と(アタマ)(カカ)えた忋抖(カイト)の横で、呑気(ノンキ)に茶を(スス)(シン)一瞥(イチベツ)を投げるが何処(ドコ)()く風だ。


悧羅(リラ)()()()()()()()()()のは(オレ)だけだって、()()()()()()くれてた方がまあ良かったんだけど、仕方(シカタ)ない」


仕方(シカタ)ないじゃないって。どうするんだよ、止められなくなるよ?」


苦笑(クショウ)しながら嘆息(タンソク)する姿に(アキ)れてしまう。加嬬(カジュ)が差し出してくれた茶を、(レイ)を言って受け取ってから(スス)り始めると(シン)(カタ)(スク)めて見せた。


頃合(コロア)いだったってことなんだろ。だって悧羅(リラ)なんだぞ?(ソバ)にいたら()れたくなるのは分かるだろ。心配(シンパイ)しなくったって(オレ)やお前だけが(ユル)されてるところまでは()み込まないって」


普通(フツウ)のいい(トシ)した子は、母親を(ヒザ)に乗せたり(ホオ)口付(クチヅ)けたりしないもんなんだよ」


母様(カアサマ)なのよ?」


見つめる(サキ)で子どもたちの好きにさせている悧羅(リラ)嘆息(タンソク)してしまう忋抖(カイト)(ワラ)(シン)の間に、よいしょと啝咖(ワカ)(スワ)る。へえ、と忋抖(カイト)の右耳に()められた(カザ)りを目にすると手を()ばして(アラタ)め始めた。


普通(フツウ)の母と(クラ)べちゃいけないの。()()姿(スガタ)で800()えてるとか信じられないもの。私より(ワカ)く見られるんだから」


啝咖(ワカ)()れるたびに銀糸(ギンシ)()れて、忋抖(カイト)首筋(クビスジ)花弁(ハナビラ)(ギョク)が当たる。


「まあねえ」


「私だって自慢(ジマン)したいもの。私はいつでも母様(カアサマ)に好きに()れられるんだぞーって」


忋抖(カイト)(カザ)りから(シン)(カザ)りに手を(ウツ)して啝咖(ワカ)が、ね?、と(シン)(ウデ)に自分のを(カラ)ませた。


父様(トウサマ)だって()()()()()自慢(ジマン)したり(アマ)えたりしたかったんだけど、(オサ)えちゃってたんだよね。別に(アマ)えたって父様(トウサマ)母様(カアサマ)(コマ)ったりはしなかったんだろうけど」


「え?なに啝咖(ワカ)(アマ)えたいの?()っこしてやろうか?」


(ウデ)()()られた(シン)幼子(オサナゴ)にするように啝咖(ワカ)(カカ)え上げると、きゃあ!、と(ウレ)しそうな声を立てた啝咖(ワカ)(シン)(ヒザ)(オサ)められた。


「なーんだよ啝咖(ワカ)あ。父様(トウサマ)(アマ)えたいなら()()()()()良かったんだぞ?」


「あはは、(クスグ)ったいって!だって(アマ)えたくても父様(トウサマ)母様(カアサマ)から(ハナ)れることがなかったんじゃない」


「それは、ごめん」


ぐりぐりと啝咖(ワカ)背中(セナカ)()り寄る(シン)(ツツ)まれた啝咖(ワカ)が、本当に幼子(オサナゴ)のようで忋抖(カイト)苦笑(クショウ)してしまう。


「これからたくさん(アマ)えさせてくれたら(ユル)してあげるよ。たまには一緒(イッショ)に過ごしたり共寝(トモネ)してくれたりする?」


きゃはは、と(ワラ)い続ける啝咖(ワカ)に頭を押し付けていた(シン)が、その言葉でぴたりと止まった。そのまま啝咖(ワカ)を抱きしめて、悧羅(リラ)の名を(サケ)びながら(イソ)いで見やっている。


「どうしよう!可愛(カワイ)(ムスメ)から、とんでもなく可愛(カワイ)いお(ネガ)いされた」


ふるふると(ヨロコ)びで身体(カラダ)(フル)わせながら顔を(ホコロ)ばせた(シン)に、おやまあ、と悧羅(リラ)微笑(ホホエ)んでいる。


「それはよろしゅうあった。しかと堪能(タンノウ)せねばなるまいよ」


「うん、()()()()ね。啝咖(ワカ)、お(ユル)しが出たから何時(イツ)でも何処(ドコ)でもどれだけでもいいぞ?」


にこにこと御機嫌(ゴキゲン)(シン)に、はあい、と良い返事をした啝咖(ワカ)は、ね?、と(ワラ)いながら忋抖(カイト)を見た。何に対して同意(ドウイ)(モト)められているか分からない忋抖(カイト)苦笑(クショウ)を深めるしか無い。


「だから()()()()()()()と思うのよ。私たちって何気(ナニゲ)我慢(ガマン)してきたじゃない?(オサ)近衛隊(コノエタイ)隊長(タイチョウ)の子ってのは勿論(モチロン)だけど、(イソガ)しい2人の手を(ワズラ)わせないようにって子どもなのに無理(ムリ)してたところもあったでしょ」


「まあそれはね、(タシ)かにあった」


(シン)悧羅(リラ)の子であるということを(ワズラ)わしく思わなかった事が無い、と言えば()()(イツワ)りになる。(オサ)近衛隊(コノエタイ)隊長(タイチョウ)という大役(タイヤク)を2人が(ニナ)っていなければ、と里の友とその親との(カカ)わりを見て羨望(センボウ)(イダ)いたこともあった。

(アマ)えたい(サカ)りの子どもであったのに両親に(ハサ)まれて(ネム)った記憶(キオク)は少ないし、何の目的もなく手を(ツナ)いで(トモ)に里を(メグ)ったことなど無いに(ヒト)しい。

強請(ネダ)れば当たり前のように受け入れてくれていたが、本当は()()()()()()()()()()()

本当は(サミ)しかったのに、()()を言えなかったし言ってはならないと思ってきた。(ワズラ)わせてはならない、と自分の心を(オサ)えつけていたのは2人の子であれば(ミナ)同じだろう。


(アマ)えたいのに(ワズラ)わせちゃ駄目(ダメ)だって考えて、(マワ)りの視線(シセン)を気にしすぎて迷惑(メイワク)かけちゃ駄目(ダメ)だって余計(ヨケイ)に自分たちを(オサ)えつけてさ。私たちの父様(トウサマ)母様(カアサマ)(スゴ)格好良(カッコウヨ)くて綺麗(キレイ)なんだぞって自慢(ジマン)することも嫌味(イヤミ)になるんじゃないかって(コワ)がってたしね」


実際(ジッサイ)、聞く(ヤツ)が聞いたら嫌味(イヤミ)にしか聞こえないってのはあるしなあ」


「そうそう。(アマ)えたーい、自慢(ジマン)したーいってのよ。何も(ワル)いことなんかじゃないのに、特に()()()()()はね?」


(イマ)だに(シン)(クスグ)らている啝咖(ワカ)に、とん、と(ムネ)(タタ)かれて忋抖(カイト)(カタ)(スク)めてしまう。(シン)悧羅(リラ)()ている、というだけで乗し()けられた期待(キタイ)(ホカ)姉弟妹(シテイマイ)よりも大きかった。むしろ出来て当然(トウゼン)だと(マワ)りが思っていたことも知っているし、小耳(コミミ)(ハサ)んでしまったこともある。それは能力(チカラ)だけでなく外見(ガイケン)にまで(オヨ)び、()()()()(ジョウ)恋仲(コイナカ)相手(アイテ)になって欲しいとまで(ネガ)われた。


どんなに()ていても別物だ、と(サケ)びたくなったことは1度や2度ではない。

かといって()ていることが(ウレ)しくなかったわけでもない。

ただ、忋抖(カイト)啝咖(ワカ)も自分自身を見て()しかっただけだ。


忋抖(カイト)()ている、という現実(ゲンジツ)を本当の意味で受け入れられたのはほんの数十年前(スウジュウネンマエ)からでしかない。


「今は良かったって思えてるけどな」


「うん、それは私も同じなんだけど。だからね、小さい(コロ)(アマ)えたり自慢(ジマン)出来なかった分を、今、(ミンナ)取り(モド)したいんだって思うのよ。忋抖(カイト)忋抖(カイト)のままで良いって言ってくれる2人だから思う存分(ゾンブン)やっていいって、あんたが教えちゃったのよ」


ほら、と(シメ)された先では悧羅(リラ)(ヒザ)に乗せたいと虫拳(ムシケン)が始まっているようだ。ころころと(ワラ)っている悧羅(リラ)が、母であり1番年嵩(トシカサ)があるはずなのに、どうしたことか1番歳下(トシシタ)に見えてくる。とはいえただの()として見たならば、絶世(ゼッセイ)美女(ビジョ)眉目秀麗(ビモクシュウレイ)な男たちを(ハベ)らせているようにも見えて(ワラ)えてきてしまう。


「うーん、()としてはあんまり良くないわねえ。子どもにはあんまり見せたく無い。樂采(ガクト)は?」


「あいつはもう()れてるよ」


啝咖(ワカ)も同じようなことを考えたのか苦笑(クショウ)している。そこはやはり双子(フタゴ)だからなのだろうか?いい歳をした男たちが悧羅(リラ)(マト)わりついているのに、樂釆(ガクト)飄々(ヒョウヒョウ)として哀玥(アイゲツ)身体(カラダ)(アズ)けている。


母様(カアサマ)って話し方とか()()()()だから余計(ヨケイ)に落ち着いて見えるのかな?んー、でも若い。ねえ、父様(トウサマ)母様(カアサマ)って(イク)つくらいで身体(カラダ)()まってるの?」


少し見上げるように聞いた啝咖(ワカ)(ヒザ)に置いたまま、ゆらゆらと()れながら聞かれた(シン)悧羅(リラ)を見やった。


「前に言ってたのは28くらいとか?でも、ちょっと若返(ワカガエ)ってんだよね。最初に()った時よりは上だと思うけど感覚的(カンカクテキ)には25、6ってとこじゃないか?」


少し考えながら答えた(シン)忋抖(カイト)啝咖(ワカ)もぎょっとしてしまった。30前後で成熟(セイジュク)する者が多い里で28で()まったということも早めであり(オドロ)きだが、若返(ワカガエ)っていると感じていたことも勘違(カンチガ)いなどではなかったからだ。


「え?何それ、私より若い。もしかして()()それ進んでる?」


若返(ワカガエ)りか?いや、ないよ。ただ、()()が本当の悧羅(リラ)全盛期(ゼンセイキ)だったんだろ。そこまで巻き(モド)されたって感じ」


父様(トウサマ)が居なかったから?」


手を(タタ)いて言う啝咖(ワカ)言葉(コトバ)(シン)苦笑(クショウ)した。(シン)(ソバ)に居れなかった500年、悧羅(リラ)精気(セイキ)()っていない。その分、本来(ホンライ)能力(チカラ)が本当の意味で華開(ハナヒラ)くことはなく、生命(イノチ)(ケズ)ることでどうにか立ってくれていた。身体(カラダ)成熟(セイジュク)本来(ホンライ)完成(カンセイ)から(オク)れたのも、そのせいだと思われても仕方(シカタ)ないだろう。(シン)(カタワラ)に居ることさえできていれば、()()()までの無理(ムリ)をさせずに済んだはずだ。


「じゃあ父様(トウサマ)は?」


若返(ワカガエ)っているのは悧羅(リラ)だけではない。(シン)にも感じていたことだから当たり前の疑問(ギモン)だったのだが、聞かれた(シン)はきょとりとしている。


(オレ)?んー、(マワ)りからはそう言われるんだけど、あんまり分かんないんだよ。そんなに変わった感じしないし」


「いやいや、変わってるって。え?じゃあ(イク)つで()まってたんだよ?」


手を()りながら(イナヤ)(シメ)忋抖(カイト)啝咖(ワカ)に、(シン)が頭を(ヒネ)った。


「32、3くらいだったかな?でも、その(コロ)って本当に必死(ヒッシ)だったから気付(キヅ)いた時には()まってたんだよ。だからあんまり(タシ)かじゃない」


「ええっと、じゃあ単純(タンジュン)悧羅(リラ)と同じくらい(サカノボ)ってるとして…、29!?」


「いやだ、同い年!?」


ひいっと頭を(カカ)えた忋抖(カイト)啝咖(ワカ)(シン)(ワラ)い出した。そうはいっても800年生きてきているし、(オニ)(アヤカシ)にとって(トシ)など大きな問題でも無い。ただの年月(ネンゲツ)()(カサ)ねだ。同じような身体(カラダ)成熟度(セイジュクド)であれ、()てきた経験(ケイケン)(オモ)さはどうしても(チガ)ってくる。


悧羅(リラ)(ワカ)くて綺麗(キレイ)なんだから、まあいいだろ。()でる(ジカン)沢山(タクサン)あるってことだしね」


「何言ってんの。悧羅(リラ)()いたって充分(ジュウブン)魅力的(ミリョクテキ)だよ」


「はいはい。2人の母様(カアサマ)への惚気(ノロケ)充分(ジュウブン)よー」


(シン)(ムネ)に頭を(アズ)けながら啝咖(ワカ)不毛(フモウ)(アラソ)いを止めると、くすくすと(ワラ)う。忋抖(カイト)()()()()()気付(キヅ)いたのは血族(ケツゾク)の中では多分(タブン)啝咖(ワカ)が早かった。忋抖自身(カイトジシン)自覚(ジカク)する前から()()()()()()()と気になっていたし、本人が()()だと思っていなくても態度(タイド)視線(シセン)無意識(ムイシキ)の内に(マギ)れ込んだ想いはそうそう(カク)せるものでもない。(ハラ)の中から一緒(イッショ)だったからなのか啝咖(ワカ)忋抖(カイト)の間だけの(ツナ)がりのようなモノもある。


忋抖(カイト)の心が(シズ)めば啝咖(ワカ)も痛む。

啝咖(ワカ)が泣けば忋抖(カイト)()れる。


(オモ)()(オモ)いで(ツナ)がりあってしまうから、本当の意味(イミ)忋抖(カイト)(スク)い上げられたのを1番喜んでいるのは啝咖(ワカ)だろうし、(シン)悧羅(リラ)感謝(カンシャ)してもしきれないのも啝咖(ワカ)だろう。


本当にどうすれば()()()風になれるのか、()()われるなら1度くらい頭の中を(ノゾ)いてみたいものだ。


「ねえ、父様(トウサマ)ついでだからもう1個きいていい?」


「何でもいいぞ。可愛(カワイ)(ムスメ)のお(ネガ)いなら、父様(トウサマ)が何でも答えましょう」


ぎゅうっと抱きしめられて啝咖(ワカ)が声をあげて(ワラ)いだす。


母様(カアサマ)って前から()()()()()()()()()たの?私もあんな風になれるかな?」


質問が2つになってしまったが考え始める(シン)は気にもしていないようだ。啝咖(ワカ)が知りたいことなら答えると言った言葉に(ウソ)は無いらしい。


「いや?最初(サイショ)()った時は啝咖(ワカ)みたいだったよ。姿形(スガタカタチ)は変わらなくても800年は生きてきてるし、()()()()()()()()()()()()()()()で、なりたくてなったわけじゃないさ。でも、長いこと()()()()()から、今はあっちの方が(ラク)みたいだし、無理(ムリ)して(モド)さなくても良いって言ってる」


「え、なに?そんなに大変だったの?」


目を見開(ミヒラ)啝咖(ワカ)の頭を、そりゃあね、と(シン)()でる。話として聞かせていても見てきたわけではないのだから、啝咖(ワカ)が思い(エガ)けるのも、()()()()だ。学舎(マナビヤ)()たちから悧羅(リラ)足跡(ソクセキ)功績(コウセキ)を教えられても、(シン)のように見てきたわけではないし、ましてや血を()ぜたわけでもない。知り()ることなど、ただの結果(ケッカ)でしかないのだ。


(ササ)えてくれる者がいないとそうなるさ。ひとりで立ち続けるって決めさせちゃってたから。(ダレ)にも弱いところを見せられないのは、自分の首を自分で()めてるようなもんだからね。そうさせちゃってたのは(オレ)だけど」


実際(ジッサイ)のところ(シン)だって知らなかったのだ。手を(ハナ)してしまったことに後悔(コウカイ)するばかりで、()()()悧羅(リラ)がどんな(ウズ)に巻き込まれているのかなど見えていなかった。

(ソバ)に行けて姿が見えるようになっても、何に()え、何を(アキラ)め、何を1番切望(セツボウ)しているのかさえ見えていなかった。


血を()ぜることを(ユル)された、あの瞬間(シュンカン)まで。


あの時流れ込んだ悧羅(リラ)の想いと()てきたすべての表情(カオ)を、(シン)生涯(ショウガイ)(ワス)れることはないだろう。


苦笑(クショウ)を深める(シン)(ヒザ)の上で、うーん、と啝咖(ワカ)が頭を(ヒネ)った。


父様(トウサマ)は自分の(セイ)だってばっかり言うけど、私はそうは思わないけどね」


自嘲(ジチョウ)する(シン)の左手を啝咖(ワカ)が取って自分の前に持ってくる。うん?、と苦笑(クショウ)する(シン)(チギ)りの(キズ)をなぞりながら、ねえ?、と忋抖(カイト)にも同意を(モト)めた。


「だって()()が無かったら私は私として生まれてなかったかもじゃない?忋抖(カイト)とも双子じゃなかったかもしれないし、もしかしたら父様(トウサマ)の子でも無かったかもしれないでしょ?」


「お前と双子じゃなかったら(オレ)は何だったんだろうねえ?父様(トウサマ)悧羅(リラ)の子じゃない自分なんて考えられないよな」


「そうなのよ。父様(トウサマ)はぜーんぶ自分が悪いって思ってるみたいだけど、母様(カアサマ)だって自分で考えて自分でやったんだから、そんなに自分を()めることないのよね。でなきゃ私が私であることも、忋抖(カイト)忋抖(カイト)としていれることだってなかったんだもの」


くるりと(シン)(チギ)りの(キズ)啝咖(ワカ)忋抖(カイト)に向けると、ぴんっと指で(ハジ)かれた。


「そうしたら()()(オレ)のモノだったかもよ?父様(トウサマ)の方こそ、ちょっと()を降ろしてもいいんじゃない?(オレ)もいるんだから、()()()()(サキ)一緒(イッショ)(ササ)えられるしね」


ふふっと(ワラ)忋抖(カイト)(シン)苦笑(クショウ)してしまう。


生意気(ナマイキ)だって言いたいけど、それもそうか。お前がいるもんな」


「何だったら全部(マカ)せてもらってもいいよ?あ、悧羅(リラ)だけね。あとはまだまだ父様(トウサマ)がいないと始まんないから」


「それは良いトコ取りっていうんだよ。荊軻(ケイカツ)(シカ)られる役割(ヤクワリ)(モラ)ってくれてとんとんだ」


「それはごめんなさい」


両手を()げて降参(コウサン)(シメ)した忋抖(カイト)と、それを揶揄(カラカ)(シン)啝咖(ワカ)が、くすくすと(ワラ)いだした。


母様(カアサマ)の頭の中が分かるなら1日くらい()()わりたいって思ったけど、やめといたほうが良さそうね。父様(トウサマ)忋抖(カイト)の2人なんて、受け入れきれずに(ツブ)れて(コワ)れそう」


あはは、と(ワラ)啝咖(ワカ)(シン)忋抖(カイト)が顔を見合(ミア)わせた。啝咖(ワカ)の言うことには、多分(タブン)()()()()()意味(イミ)(フク)まれているのが知れて、苦笑(クショウ)するしかない。


啝咖(ワカ)啝咖(ワカ)のまんまで充分(ジュウブン)だよ。何にも変わらなくったって良い、自慢(ジマン)の子だからね」


「お前が悧羅(リラ)()わったって父様(トウサマ)(オレ)もすぐ気付(キヅ)くからね?それに()()()()()(ジカン)まで一緒(イッショ)にする気は毛頭(モウトウ)ない」


「え?そうなの?(タノ)しそうなのに」


きょとりとしながら首を(カシ)げる啝咖(ワカ)を抱きしめながら、(シン)がにやにやと(ワラ)い始めた。どうやら悪戯心(イタズラゴコロ)に火が()いてしまったらしい。やばい、と(タス)けを(モト)めて悧羅(リラ)を見たが相変(アイカ)わらず男子たちに(カコ)まれている。変わったのは皓滓(コウサイ)(ヒザ)に乗っている、ということくらいだ。


あー、駄目(ダメ)だ。


揶揄(カラカ)われる先しか見えなくなって忋抖(カイト)が頭を(カカ)える間も、(シン)啝咖(ワカ)は話を進めている。とりあえず(アキラ)めて勝手(カッテ)に話して、勝手(カッテ)に終わってくれるのを(ダマ)って待つしか無い。


絶対(ゼッタイ)(タノ)しいと思うんだけどなあ。父様(トウサマ)(イヤ)なの?」


(イヤ)ってことはないよ?でも、悧羅(リラ)は1人しかいないから無理(ムリ)させちゃうかな」


「え?でも日に何度もより良いんじゃない?(タト)えば昼間(ヒルマ)忋抖(カイト)で夜が父様(トウサマ)とか、そっちのほうが無理(ムリ)しそう」


真面目(マジメ)な顔をして何の話をしているのやら、と忋抖(カイト)嘆息(タンソク)してしまう。(ホウ)っておいて先に()てしまおうかとも思う。


「だってよ、忋抖(カイト)?」


(オレ)を巻き込まないで」


話を()られるが手を()って()なす。

別にそういう(タノ)しみ方があっても良いとは思うが、忋抖(カイト)()()()()()とは思わない。

というか自分の手以外で()とされる姿など見たいとも思わないし、それが悧羅(リラ)であれば尚更(ナオサラ)だ。

もしも、(マン)が一、(カリ)()()()()()としたら、きっと忋抖(カイト)悧羅(リラ)(コワ)してしまう。

これまでだって(シン)への遠慮(エンリョ)悧羅(リラ)への負担(フタン)を思えば、あまり無理(ムリ)をさせられなかったのに。

けれど忋抖(カイト)悧羅(リラ)のものだと知らしめられたことで、もう遠慮(エンリョ)配慮(ハイリョ)もしなくて良くなった。

本当は今、この時でさえ舜啓(シュンケイ)たちから取り上げて(カイナ)(オサ)めたいのを(コラ)えているというのに、この2人は。


「もう、忋抖(カイト)。せっかくなんだし(タノ)しんだ者()ちよ?」


「だよねえ。あ!じゃあ悧羅(リラ)(ノゾ)めば良いの?聞いてみる?」


絶対(ゼッタイ)やめて!悧羅(リラ)まで巻き込まない!」


本当に悧羅(リラ)()ぼうとする(シン)を、忋抖(カイト)(アキ)れながら止めた。話を聞けば悧羅(リラ)一緒(イッショ)になって揶揄(カラカ)うのは目に見えている。それで()などと言おうものなら、本当に()()()()()()()()


「本当に(カタ)いんだから。あ、もしかして忋抖(カイト)、どっちかを()け入れてる時に、もう1人はどうするの、なんて考えてる?」


「は?いやそういうことじゃなくて」


きょとりとしたままの啝咖(ワカ)(ナダ)めるように忋抖(カイト)(カタ)(タタ)くと、それまで調子(チョウシ)に乗っていた(シン)が、ん?、と(マユ)を上げた。


大丈夫(ダイジョウブ)大丈夫(ダイジョウブ)()()()があるでしょ?」


「うん!?」


にこっと(ワラ)って自分の口に指を当てた啝咖(ワカ)に、(シン)がむせこんでしまった。もともと(ジョウ)()わすことに対して奔放(ホンポウ)なのが啝咖(ワカ)だ。どうせ()わすなら(タノ)しめ、というのを弟妹(テイマイ)たちにも教えていたのも啝咖(ワカ)だ。()()()()性格(セイカク)だと分かっているのだから、一緒(イッショ)になって話を盛り上げれば、とんでもない火種(ヒダネ)を落とされることなど分かっていただろうに。


なにが悲しくて双子の妹の閨事情(ネヤジジョウ)まで聞かされなくてはならないのか。


大きく嘆息(タンソク)して(シン)を見ると、頭を(カカ)えてしまっている。()()()()こと自体を()める気はないのだろうが、つい口に出してしまうところだけはどうにかしたいのだろう。


父様(トウサマ)、しっかり(ムスメ)に教えてやらないと。特に灶絃(ソウゲン)っていう、ぶっ飛んだ唯一(ユイイツ)持っちゃってるんだから。()()と合わさると、とんでもないことになるよ?」


「えー…、忋抖(カイト)手伝ってくれない?(オレ)だけじゃ話にならない気がする」


()だ。一緒(イッショ)になって揶揄(カラカ)うからでしょ?」


べっと(シタ)を出して忋抖(カイト)が立ち上がると、皓滓(コウサイ)(ヒザ)の上から悧羅(リラ)を引き取って子どものように抱き上げる。


「あーもう!兄様(アニサマ)!」


悧羅(リラ)を取られてしがみつこうとする弟たちを足で(ハラ)うと、不満(フマン)の声が上がったが(ホウ)っておく。


(オレ)、明日休むから。父様(トウサマ)は、しーっかりと啝咖(ワカ)に教え直しといて。あ、灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)は今日、父様(トウサマ)共寝(トモネ)するらしいから樂采(ガクト)のこと(タノ)んだ」


「え?ちょっと忋抖(カイト)!まだ今日どっちって決めてない!」


(ウルサ)い。調子(チョウシ)に乗った(バツ)だよ」


あはは、と(ワラ)いながら部屋を出ると悧羅(リラ)まで声を上げて(ワラ)い出した。どうせ聞こえていただろうに悧羅(リラ)面白(オモシロ)がって止めもしなかったことくらい、聞かなくても分かる。


「ほんに啝咖(ワカ)ばかりは、(ワラワ)にも読めぬことを(モウ)すもの」


父様(トウサマ)父様(トウサマ)だよ。一緒(イッショ)になって(オレ)揶揄(カラカ)うから、()()()()の」


さっさと道を辿(タド)って自室(ジシツ)に入ると寝所(シンジョ)まで一直線(イッチョクセン)に進んで、整えられた寝所(シンジョ)(スワ)りながら御簾(ミス)()ろす。(ダレ)であろうと()()()悧羅(リラ)の姿を見せるわけにはいかない。


「だいたい悧羅(リラ)だって()()()()嗜好(シコウ)はないでしょ?」


よいしょ、と悧羅(リラ)(ヒザ)に乗せると、くすくすと(ワラ)いながら身を起こして忋抖(カイト)の右耳に顔を近付(チカヅ)けた。


「そうさの、(シン)忋抖(カイト)物足(モノタ)りぬと(モウ)さば考えねばなるまいが」


「じゃあ、大丈夫(ダイジョウブ)。むしろやっと遠慮(エンリョ)なく(コワ)していい(ユル)しをもらえたのに、()きるとかない」


寝間着(ネマギ)をずらして(ムネ)()い付くと、(カザ)りを手に取ろうとした悧羅(リラ)身体(カラダ)(フル)えてしまう。ちりり、と小さな音を立てて光る(カザ)りが、仄暗(ホノグラ)寝所(シンジョ)の中で()らめき始めた。


「おや、遠慮(エンリョ)などと。手を()いておったように聞こえてしまうではないか」


「それはそうでしょ?()りてたんだから、本当の意味で思い通りになんてできるはずがない」


小さく嘆息(タンソク)して白い(ハダ)()を立てると赤く(アト)が残る。

本当は今までも(ハダ)を合わせる(タビ)に、忋抖(カイト)のモノだと(キザ)みつけたかった。

(ナメ)らかで陶器(トウキ)のような(ハダ)のすべてに、(アト)を残したかった。

悧羅(リラ)忋抖(カイト)との一時(ヒトトキ)を、ほんの一瞬(イッシュン)でも思い出してくれるように。

(アト)を見て忋抖(カイト)()しいと願ってくれるように。

悧羅(リラ)(カイナ)(オサ)める(ゴト)に、忋抖(カイト)の中に()(ケモノ)じみた(ミニク)(アサ)ましい(カンガ)えなど悧羅(リラ)は知らないだろう。


(シタ)(クチビル)()わせていくと甘い声が少しずつ聞こえてくる。自分の手が悧羅(リラ)()とし始めていると思える、唯一(ユイイツ)(ジカン)だ。


「この表情(カオ)と声は(オレ)のなんだから、たとえ父様(トウサマ)でも見せてやれないね」


ぽすりと悧羅(リラ)寝所(シンジョ)に押し(タオ)すと、するりと首に(ウデ)(マワ)された。引き寄せられるように口付(クチヅ)けると(マワ)されている(ウデ)に力が入る。


「ではもう手は()かぬのかえ?」


手加減(テカゲン)しなくてよくなったもん」


悧羅(リラ)身体(カラダ)彼方此方(アチラコチラ)(アト)を残して行くと、おやまあ、と揶揄(カラカ)うような声がした。そこまで変わりはしないと思っているのだろうが、(アマ)い。


「そんな余裕(ヨユウ)見せてていいのかな?」


深く口付(クチヅ)けながら悧羅(リラ)(アシ)中心(チュウシン)(ユビ)()わせると、びくりと身体(カラダ)(フル)わせて(カサ)ねた(クチビル)からくぐもった声がした。手が動き始めると反射的(ハンシャテキ)(アシ)を閉じようとするが、片脚(カタアシ)忋抖(カイト)身体(カラダ)で押さえつけているから無理(ムリ)だろう。


「ごめんね?我慢(ガマン)しなくて良くなったから、意地悪(イジワル)するよ」


口付(クチヅ)けは()かずに片手(カタテ)(ウデ)の中に(トド)めおく。動きを(フウ)じて脚の間だけの刺激(シゲキ)を速くすると、悧羅(リラ)のしがみつきも強くなる。(カラ)ませていた(シタ)がくぐもった声とともに1度(ハズ)れると、(ウデ)の中で悧羅(リラ)がびくりと()ねた。


「あれ?()()(ソト)なのに」


(ハズ)れた(シタ)(カラ)め取って、より逃げられないように引き寄せながら悧羅(リラ)の中に指を入れてかき混ぜ始めると、(コラ)え切れない甘い声がくぐもったまま忋抖(カイト)の耳に(トド)く。これまで何回も聴いてきた声なのに、どういうわけか今日は一段(イチダン)(アマ)く聞こえてくる。


「や…っ、(カイ)っ、とっ」


「んー、()じゃないでしょ?」


(イキ)()ぐように口付(クチヅ)けから()げようとするのを引き(モド)して、都度(ツド)手の動きを変えると悧羅(リラ)(ナン)なく()ててしまう。立て続けに何度も()てさせると、いつのまにか押し(モド)すように(ムネ)に当てられた手が小さく(フル)えてくる。口付(クチヅ)けを()くと、()て続けたことと(イキ)上手(ウマ)()げなかったことで、()れた呼吸(コキュウ)を繰り返している悧羅(リラ)が見えた。(ウル)んだ目と、(アカ)()まり始めた(ハダ)と、()れる吐息(トイキ)全てが(イト)おしくて(タマ)らない。


(カイ)()


(フル)える声で名を()ばれるだけでぞくりとしてしまう。


「まだまだ。意地悪(イジワル)するって言ったよね?」


(ツイバ)むように口付(クチヅ)けながら手を動かすと、ふるふると頭を()って見せる。


「…やっ…、ちが、うっ」


「…こっちじゃないの?」


ぐるりと悧羅(リラ)の中で手を(マワ)すと、甘い声とともに身体(カラダ)仰反(ノケゾ)らせたが()てる寸前(スンゼン)忋抖(カイト)の動きが止まる。


「分かった、こっちかな?」


するり、と悧羅(リラ)身体(カラダ)から手を(ハナ)した忋抖(カイト)(アシ)の間に顔を(ウズ)めた。(チガ)う、と止めようとした悧羅(リラ)の声が(アエ)ぎに変わってしまう。先程(サキホド)寸前(スンゼン)で止められたところにぬまりとした感覚(カンカク)()うと背中を(シビ)れが走った。強い刺激(シゲキ)(アタ)えられているわけでもないのに、ゆっくりと()め上げられ、吸い付き、時にナカに入られては()てることを止められなくなる。せめて休ませてくれ、と願うと一旦(イッタン)()()から(ハナ)れてはくれるが、ほんの一時(イットキ)だ。足先(アシサキ)からなぞるように忋抖(カイト)の舌と(クチビル)()うように上がってきては、また同じように(ナブ)られる。


()てすぎて目の前が(シラ)んでくると、身体(カラダ)何処(ドコ)かで(ツメ)()が立てられて(モド)される。()らされすぎて、もどかしくて名を()んでも口付(クチヅ)けが(カエ)ってくるばかりで、また(ナブ)られる。名を()ぶだけでは(コタ)えてもらえないのは分かったけれど、(ネガ)おうにも顔も見えない。()て過ぎて力も入らず、与えられる刺激(シゲキ)(フル)わされながら、どうにか半身(ハンシン)を起こす間にも何度も()てさせられてしまう。ようやく(ウデ)()ばして忋抖(カイト)の顔に()れられた時には、与えられる刺激(シゲキ)は強くなりすぎていた。


忋抖(カイト)(ハイ)…、って?」


(アエ)ぎの中から(カス)れるように出された声に、悧羅(リラ)に与えられる刺激(シゲキ)が止む。視線(シセン)()げた忋抖(カイト)に、(アカ)火照(ホテ)った肢体(シタイ)が見えた。

()(ヨジ)ってどうにか半身(ハンシン)を起こしたものの、すぐに(クズ)れて落ちそうな姿(スガタ)

目は(トロ)け、()き出される吐息(トイキ)の熱で(クチビル)まで(ウル)ませた悧羅(リラ)に名を()ばれて、忋抖(カイト)は大きく嘆息(タンソク)するしかない。


「…悧羅(リラ)()()()()てないよ?」


あまりに(ナマメ)かしい姿に口付(クチヅ)けながら押し(タオ)す。

このまま、勢いのままに(ツラヌ)いて(コワ)れるまで()き上げて、声が()れるまで甘く()かせたい。

(イヤ)だと(ウッタ)えられても、()てと願われても、ひたすらに()めて(アマ)い声で名を()ばせたい。

()てても意識(イシキ)手放(テバナ)しても引き(モド)して、求めて(スガ)りつかせたい。


()き立つ衝動(ショウドウ)必死(ヒッシ)に押し(コロ)す。


忋抖(カイト)が入ってくれなんだ」


少しばかり(ホオ)(フク)らませる悧羅(リラ)忋抖(カイト)(ワラ)えてくるが、(コラ)えられないのは忋抖(カイト)だって同じだ。入るために当てがうと待ちきれないように()(ヨジ)ってくる。


意地悪(イジワル)するって言ったでしょ?もう待てないの?」


「そう(モウ)しておるに。たんと待たされたえ?」


しなやかにするりと首に(マワ)された(ウデ)も、忋抖(カイト)(ムカ)え入れるために開かれ立てられた(ヒザ)も、冷たくなって小さく(フル)え続けている。悧羅(リラ)の全てで忋抖(カイト)()しいと(ウッタ)えてくれているかのようだ。


「でも入ったら出れないよ?悧羅(リラ)(コワ)れるまでやめない。良いのかな?」


忋抖(カイト)(コワ)したいと(ノゾ)(オナゴ)(ホカ)におらぬのならば」


ふふっと微笑(ホホエ)まれて忋抖(カイト)はもう一度大きく嘆息(タンソク)する。


そうだ、()()()()()()()()のだ。


忋抖(カイト)がどれほどの(ヨク)を出しても、意地悪(イジワル)な姿を見せても、(ナサ)けなく(ナミダ)ばかり(ナガ)しても悧羅(リラ)()()()()()と言ってくれる。

それなのに時折(トキオリ)見せる独占(ドクセン)という名の(オリ)容易(タヤス)忋抖(カイト)(カラ)め取って(ハナ)さない。(ハナ)れられるなら(ハナ)れてみろ、とでも言うように容易(タヤス)()とされる。()とされた先にあるのは()い上がることなど出来ない(ヌマ)なのに、悧羅(リラ)(シズ)められるなら、(サイワイ)でしかない。


悧羅(リラ)以外に(オレ)()()()()()(ノゾ)むと思う?」


「ならば(コワ)してもらわねば。忋抖(カイト)の手で、忋抖(カイト)のすべてでの。(ワラワ)に全部くりゃるのであろ?」


(アデ)やかな微笑(ホホエ)みに見つめられて、忋抖(カイト)はがっくりと項垂(ウナダ)れてしまった。少しだけ中に押し入ると悧羅(リラ)が息を()んでいる。


「いらないって言われても、もう(ハナ)れてやれないもんね。(オレ)は全部あげたけど、悧羅(リラ)は他に何くれるの?」


ゆっくりと進むが、いつもよりも中が(セマ)い。うねり、(カラ)みつき、(シボ)り上げられて、(タズ)ねながらも、きっつ、と(ウメ)いてしまった忋抖(カイト)は、息を()みながら出された言葉に動きを止めた。


「すべ、て」


「は?」


(オク)まで入ってしまうと()てさせてしまうのが分かって、ぴたりと止まった忋抖(カイト)不満(フマン)そうに悧羅(リラ)が見上げている。


「なに言ってんの。()()()()(モラ)えるものなんかないって。それこそ全部とか無理(ムリ)でしょ?」


するっと(ホオ)()でてやると、悧羅(リラ)が目を細めた。(タズ)ねたものの、さすがにこれ以上何か(モラ)えるなどとは忋抖(カイト)も思ってはいない。()()以上の(ヨク)をかいてはならないのも分かっているし、本当にもう充分(ジュウブン)なのだ。


「なれど忋抖(カイト)のすべてを(モラ)い受けるとなれば、(ワラワ)相応(フサワ)しきものを差し出さねばなるまいよ?」


「血の誓約(セイヤク)(ハナ)(シルシ)も、(ソロ)いの(カザ)りも民達(タミタチ)からの(イワイ)も、(モラ)えるものは全部もらったよ。悧羅(リラ)()()()()()()()()()(ミト)めだってもうもらってる。心だって半分くらいは(オレ)のものでしょ?ほら、もうないじゃない」


指折(ユビオ)り数えて見せると、片手(カタテ)では()りなくなっていることに忋抖(カイト)(オドロ)いてしまった。(カナ)うことなどないと思っていた願いは(カナ)えられ、今では身に(アマ)るくらいになっている。10年前では決して考えられなかったことだし、考えてはならないとまで思っていたのに。


「そうさのう、あとわずかばかり(ワラワ)差出(サシダ)さば、忋抖(カイト)(シン)と同じほどには持てようて」


「だからもう出せるものないでしょ?無いもの考えるより、(オレ)(モラ)えないもの数えた方が速い」


もう!、と(カタ)を落としながら(ホオ)口付(クチヅ)けると、びくりと身体(カラダ)(フル)わせている。それでも手を伸ばして顔を(ツツ)んでくれる悧羅(リラ)は、首を(カシ)げて微笑(ホホエ)んでいた。


「おや、ならば何を持たぬか()うてみい」


「えー、いまあ?」


出来れば今は全部(ワス)れて悧羅(リラ)(オボ)れたいのに、(ホオ)(クスグ)ってくれる忋抖(カイト)(イト)しい(ヒト)は、()()(ユル)してはくれないらしい。


「心の(オコリ)は無きものにしておかねば、(ワラワ)(コワ)しとうても(コワ)し切れまいよ」


まるで()()()()()()()のように、悧羅(リラ)忋抖(カイト)(ホオ)(クスグ)り続ける。


「ほれ、この(サイ)じゃ。()うてみればよろしかろう。忋抖(カイト)(ノゾ)むのは何ぞ?忋抖(カイト)が心から()っするのはどのような()(カタ)じゃ?」


揶揄(カラカ)うように出された言葉(コトバ)忋抖(カイト)苦笑(クショウ)してしまう。

()()()()()()言葉(コトバ)

()()()()()()状況(ジョウキョウ)

()()()(ノゾ)んだモノだって(カナ)うはずがなかったのに(カナ)えてくれた。

忋抖(カイト)が今()み込んでいることを伝えても、きっと悧羅(リラ)(ワラ)って受け入れてくれるだろう。


我慢(ガマン)するなって言われたんだったなあ」


ぽつりと(ツブヤ)くと、ふふっと悧羅(リラ)(ワラ)っている。


()()()より随分(ズイブン)欲張(ヨクバ)りになったんだけど、良いのかな?」


「思うておるだけでは(カナ)わぬものもあろう。()うてみらば(ナン)ぞ出来ることもあるやもしれぬ」


ほれほれ、と(ウナガ)されてしまって、ますます苦笑(クショウ)してしまう。


「んー、じゃあ心?」


「もう()し出しておるな」


「じゃあ精気(セイキ)交換(コウカン)?」


「受け(ナガ)してはおらなんだが?」


父様(トウサマ)と同じ道を(モラ)えたら、(オレ)からも受け入れてくれる?」


「道が()しゅうあるのか?ならば王母(オウボ)()わねば。道がなくとも忋抖(カイト)(ユズ)ってくりゃるなら(コバ)むことなどありはせぬ」


思いついたことを次々に言ってみるが、悧羅(リラ)は当たり前のように(コタ)えてくれる。精気(セイキ)だけは(シン)からしか受け取らないと決めていたはずなのに、それさえも忋抖(カイト)のために()てるなど、(シン)忋抖(カイト)優劣(ユウレツ)などつけない、と言ってくれているに(ヒト)しいことだ。


「えー、じゃあ子どもとか?」


「それは(テン)(マカ)するとしよう。(サズ)かりもの(ユエ)


くすくすと(ワラ)う顔に忋抖(カイト)が、するりと悧羅(リラ)下腹(シタバラ)に手を()ばす。(ナメ)らかな陶器(トウキ)のような(ハダ)であるのに、()()だけは()()れてざらりとした感触(カンショク)が伝わってくる。


そういえば()()疵痕(キズアト)も、今日まで幾度(イクド)(ハダ)(カサ)ねたのに()れることも見ることも無かった。いつの間にか(カク)されてもいなかったことに、ははっと(ワラ)えてしまう忋抖(カイト)(ホオ)悧羅(リラ)が、とんとんと指で(タタ)いた。本当に()しいモノを言え、とでも言いたげな動きの中で右手の手首の消えない(キズ)が見えた。


忋抖(カイト)が本当の意味で()しいもの。

手に入らないと分かっているから、(モラ)えたもので充分(ジュウブン)だと言い聞かせなければならないモノ。

どんなに悧羅(リラ)が受け入れてくれても、変えられない唯一(ユイイツ)()()


こればかりは、どうしても変えられない。

そんなことは分かっているのに。


それでも『言え』と言われているような気がしてしまう。

もう(イツワ)るな。

もう(コラ)えるな。

もう(カク)すな。

すべて()き出して(サラ)け出してしまえ、と。


「…(チギ)りたかったなあ…」


ようやく出した忋抖(カイト)本音(ホンネ)悧羅(リラ)の指が一瞬(イッシュン)だけ動きを止めたが、すぐにまた動いて今度は(クチビル)をなぞり始める。


「…ようやっと()うてくれた」


ほうっと小さく嘆息(タンソク)する悧羅(リラ)に、忋抖(カイト)苦笑(クショウ)してしまう。

言ったところでどうにかなるようなものではない。

だから()えて言わなかっただけだ。

言っても(コマ)らせるだけだったから、言えなかったという方が正しいかもしれない。


(チギ)りは、ちと難儀(ナンギ)じゃのう」


(ムズカ)しいじゃなくて、無理(ムリ)なの。分かってるって」


「なれど忋抖(カイト)とは血の(シバ)りも(ムス)んでおるに、大した(チガ)いはないのだが」


「だから、大丈夫(ダイジョウブ)だって。分かってるから」


ふむ、と考え始める悧羅(リラ)忋抖(カイト)(カタ)(スク)めて(ヒタイ)を付けた。これ以上問答(モンドウ)(ツヅ)けると、とんでもないことを言い出しそうだ。


「もう充分(ジュウブン)だから、あんまり考えないでよ。それより(コワ)させて?」


くすくすと(ワラ)いながら口付(クチヅ)けると、ふふっと悧羅(リラ)(ワラ)って忋抖(カイト)(クチビル)(ツメ)を立てた。ぴりっとした痛みに首を(カシ)げていると、悧羅(リラ)自身も指に(ツメ)を立てている。


「えっ?何してんの!?」


じわりと(ニジ)む血を(ナガ)めてしまうが、口に(フク)んでは(キズ)(カサ)なってしまう。(アワ)てて(イヤ)そうとした忋抖(カイト)の手を悧羅(リラ)(ハバ)む。


(チギ)りと(シバ)りの(コト)なりなど小さきもの。(チギ)りは(タガ)いの(ダク)の上で血を()ぜる」


「え?まあそうだね」


誓約(セイヤク)(シバ)りは、どちらか一方(イッポウ)()(ムス)ぶ」


「え?ああ、そうなの?そういえば(オレ)だけだったね」


確かに(シバ)りを強く望んだ方だけに(キズ)を付け、()いこまれた血の()わりに(シルシ)(モラ)えた。


「ふたつ、(タガ)いのすべてが流れこまぬこと」


何を言わんとするのかがわからなくて、きょとりとしてしまう忋抖(カイト)悧羅(リラ)がくすくすと(ワラ)ってみている。


(ワラワ)()てきたことなど忋抖(カイト)は知りとうないと思うておったが。もしや()らぬが(ユエ)心苦(ココログル)しゅうなるかえ?」


「ん?」


ますます首を(カシ)げる忋抖(カイト)悧羅(リラ)微笑(ホホエ)みを深くする。


(チギ)りを()ててやりましょう、とは言えぬが(ユル)してたも。(シン)(ワラワ)唯一(ユイイツ)(ユエ)


「そんなの知ってる」


「なれど忋抖(カイト)は、(ワラワ)無二(ムニ)。ならば(ワラワ)のすべてを知っておらねばなるまいよ」


「ん??」


きょとりとし続ける忋抖(カイト)(キズ)悧羅(リラ)が血を付けると、()()()()記憶(キオク)身体(カラダ)()け抜けた。濁流(ダクリュウ)の波に()まれるように忋抖(カイト)身体(カラダ)(メグ)った()()は、あまりにも()()。思わず、うわっと頭を()って追い出したくなるほどの()(リョウ)(タオ)れ込むと、悧羅(リラ)(ウデ)()ばして(ツツ)んでくれた。


「ほれ、()()()()()であろ?」


ぎゅうっと抱きしめられた忋抖(カイト)身体(カラダ)が、小さく(フル)えているのは自分でも分かる。(イキ)()ぐことも苦しくなるほどの思いを、大きく息を()いて少しずつ落とし込む。ぽんぽんと背中(セナカ)(タタ)悧羅(リラ)が、その細い身体(カラダ)(カカ)えてきたものは、忋抖(カイト)想像(ソウゾウ)(ハル)かに(シノ)いでいた。


とてつもなく大きく、とてつもなく苦しい。


その根底(コンテイ)にある(シン)への(オモ)いと渇望(カツボウ)

(オサ)としての重圧(ジュウアツ)生命(イノチ)背負(セオ)覚悟(カクゴ)


そして、忋抖(カイト)への(オモ)いと願い。


「…()()(オレ)(アズ)けて良かったの?」


まだ(フル)え続ける(ウデ)悧羅(リラ)の細い身体(カラダ)を抱きしめると、すりっと()()ってきた。


(シン)と共に(ササ)えてくりゃるのであろ?」


「…聞いてたんだ?」


ふうっと息を()くと、聞こえただけだ、と悧羅(リラ)(ワラ)う。


唯一(ユイイツ)(シン)が知っておることを、無二(ムニ)忋抖(カイト)が知らぬなど可笑(オカ)しなこと。()()()()()()()()()、と()うたは(イツワ)りではないに」


(モラ)いすぎだよ。返せるものが見つからない」


こんな形で悧羅(リラ)の800年を(モラ)えるとは思っていなかった。(モラ)ってはならないと思いこんでいた。どんなに色々なことを(カナ)えられても『(チギ)り』と『唯一(ユイイツ)』だけは変えられないと分かっていたのに、悧羅(リラ)は本当に容易(タヤス)く手を伸ばしてくれる。

(ナガ)れ込んだ思いの中の忋抖(カイト)は、子としての(ジカン)から、ひとりの男として姿を変えていた。

悧羅(リラ)の中で本当に『無二(ムニ)』だと位置付(イチヅ)けられていた。


忋抖(カイト)を受け入れると決めた(トキ)から。

(スク)いあげると(シン)と決めた(トキ)から。

忋抖(カイト)が本当に悧羅(リラ)(カタワラ)にいることを決めれた日まで。

ずっと忋抖(カイト)の心の(トゲ)を抜く(トキ)を待ってくれていた。


これほどのものを(モラ)い受けて、安息(アンソク)の場まで(モラ)えて、何を返せば良いのかが本当に分からない。


「返すなど。(ワラワ)はもう忋抖(カイト)のすべてを(モロ)うてしもうておる」


(ヤス)すぎだって。()り合いがとれない」


顔を上げて悧羅(リラ)を見ると、おや?、と(ワラ)われてしまう。


「里の女子衆(オナゴシュウ)手籠(テゴメ)にされかかるような(オノコ)じゃて。そのような(オノコ)を2人も(カタワラ)に置くるなど()りを(ハラ)わねばなるまいよ」


くすくすと(ワラ)い続ける(クチビル)(ツイバ)むと、ますます悧羅(リラ)(ワラ)う。


「じゃあ悧羅(リラ)()しいって思ったものがあったら言って。全力(ゼンリョク)(カナ)えてあげる」


伝えながら深く口付(クチヅ)けてぐっと押し進むと、悧羅(リラ)身体(カラダ)がびくりと(フル)える。


本当に何もかもがあの時と同じで(ワラ)えてきてしまう。(チガ)うのは忋抖(カイト)の立ち位置(イチ)だけだ。()きしめていた(ウデ)(ユル)めて()き上げ始めると、唐突(トウトツ)(アタ)えられ始めた快楽(カイラク)悧羅(リラ)から(アマ)い声が飛び出してくる。()()()()()らした上、中に入ったままで止まっていたのだ。話している中でも忋抖(カイト)自身も()め付けられ続けて、ともすれば呼吸するごとに持っていかれてしまいそうだった。()め続けると先程(サキホド)寒気(サムケ)(フル)えなど無かったもののように、(タガ)いの(ハダ)(ネツ)を持つ。()れる息遣(イキヅカ)いも、しっとりと(アセ)ばんで火照(ホテ)った身体(カラダ)も、(アエ)ぎを()らす(クチビル)も、この瞬間(シュンカン)悧羅(リラ)だけはすべて忋抖(カイト)のものだ。


()める速さはそのままに忋抖(カイト)悧羅(リラ)子袋(コブクロ)(トラ)えると、(アマ)い声がより(アマ)くなる。仰反(ノケゾ)ってくる身体(カラダ)(カタ)(オサ)えて(トド)めると、背中に(マワ)されていた(ウデ)(スベ)り落ちようとした。


悧羅(リラ)(ハナ)しちゃ駄目(ダメ)


(カタ)く閉じられた(マブタ)口付(クチヅ)けると背中(セナカ)(ツメ)が立つ。こつりと子袋(コブクロ)の入口を(トラ)えるたびに息を()んで身を(ヨジ)る姿がいじらしくて、()()()()に当たるように動きを変える。途端(トタン)に大きくなる(アエ)ぎと()ねようとする細い身体(カラダ)片脚(カタアシ)(ツカ)んで(モド)す。


「…っ!やあ…っ!っか…、…かいっ…!忋抖(カイト)っ!」


()(カエ)身体(カラダ)必死(ヒッシ)にしがみついて、(ハナ)れないように(アラガ)悧羅(リラ)から名を()ばれる。開けられた(マブタ)(オク)(ウル)んだ(ヒトミ)から(ナミダ)(コボ)れた。ますます()め立てると何度も名を()ばれる。


その意味を忋抖(カイト)()()()()()()


「…いいの?」


()()(シン)だけに(ユル)されていること。


「…も、うっ!む、りっ!…かい、とっ、忋抖(カイト)っつ!」


「…本当にいいの?」


()れた息の中から(タズ)ねると、勢いよく顔を(ツカ)まれて引き()せられた。半身(ハンシン)()かせて深く口付(クチヅ)けた悧羅(リラ)が、()()()()()()()(ハゲ)しく()ねて()てると、()め付けられて忋抖(カイト)(ヨク)()き出してしまう。くぐもった声と(ハナ)されようとする(クチビル)を追いかけて(フサ)ぎながら、起こされた半身(ハンシン)を引き寄せて(サラ)(オク)に入って()(ミダ)していく。


悧羅(リラ)()てるときに名を()んで口付(クチヅ)けをせがむのは(シン)だけのはずなのに。

(シン)が与えるすべてのものを取り(コボ)すことがないように、(スガ)って(モト)めていたのに。


()()まで忋抖(カイト)(ユル)すなど。


「…どれだけ(サイワイ)にしてくれる気だよ…」


(ウデ)の中で(アエ)(トロ)けた姿が(ニジ)んでしまう。


「あっ!…まっ…ってっ!…今っ、ま、だっ!」


「待たない、待てるわけない。待っては駄目(ダメ)


より深く入った忋抖(カイト)刺激(シゲキ)と、(ヨク)の熱で続けて()てている悧羅(リラ)()()けずに(ノボ)りつめて()てていく。ぐりっと悧羅(リラ)最奥(サイオウ)より深く入り込むと、身体(カラダ)強張(コワバ)ったのが伝わった。


「うん、()()()()?」


(スワ)った(ヒザ)悧羅(リラ)を落とし込んで(オサ)えつけながら、上に()げるのを(ハバ)んで、()()だけを()めて()き上げると子袋(コブクロ)が降りてきたのがわかる。


「あっ!…やっ、だあっ!…そこ、っ!んあっっ!」


ちかちかと(シラ)んでくる視界(シカイ)の中で、白銀(ハクギン)(カミ)()れていた。灰色(ハイイロ)(マナコ)悧羅(リラ)の目を(トラ)えて(ハナ)さないだけでなく、ひたすらに()き上げられて声を出すことも(イキ)()ぐことも(ユル)してもらえない。開かれた(アシ)忋抖(カイト)身体(カラダ)(カラ)み付けると、ますます(オク)忋抖(カイト)()れて、悧羅(リラ)(オク)から()()()()りあがってくる。一度だけ(シン)との間で(カン)じた()()()()()は、あの時よりも(イキオ)いを()して悧羅(リラ)身体(カラダ)意識(イシキ)(ウバ)おうと触手(ショクシュ)を伸ばしてくるようだ。


「やあっ、だぁっ!忋抖(カイト)っ!ナニ…っか、()()か、っがっ…!!」


「うん、来るね。大丈夫(ダイショウブ)(コワ)がらなくていい」


「…んあっ!やっ、だあ!…い、やっ!…来る、のっ!()ちゃ…うっ!!」


(セマ)りくる快楽(カイラク)で何も考えられなくなる悧羅(リラ)首筋(クビスジ)に、忋抖(カイト)(シタ)(クチビル)()う。強く()い付いて(アカ)(アト)()けていると、また名を()ばれた。冷たくなってきている悧羅(リラ)の手足がより強く忋抖(カイト)(カラ)め取る。


「あ…っ!…か、っいとっ!やあっ!…や、あだあっ!忋抖(カイト)!」


(シラ)意識(イシキ)を名を()ぶことで手放(テバナ)さないようにでもしているのだろうか。それでも、この刹那(セツナ)、この瞬間(シュンカン)に名を()ばれることが忋抖(カイト)(サイワイ)を与えてくれる。

まるでこの世に忋抖(カイト)悧羅(リラ)の2人しかいないような、そんな恍惚感(コウコツカン)に、ますます(タギ)ってしまう。


「…おねっが…っ!…忋抖(カイト)っ!」


「もっと、たくさん()んで」


「…も…っ!…か、いとっ!忋抖(カイト)っ!… 忋抖(カイト)っ、忋抖(カイト)ぉっ!」


「うん」


上に()ねそうになる悧羅(リラ)を強く抱きしめて、深く口付(クチヅ)けて(シタ)(カラ)ませると、悧羅(リラ)身体(カラダ)がこれまでで1番強く、1番(ハゲ)しく()ねる。痙攣(ケイレン)する悧羅(リラ)忋抖(カイト)を深く()み込んで(ツナ)がった(トコロ)から、生温(ナマアタタ)かい水が流れた。忋抖(カイト)下腹(シタバラ)()()が伝って、悧羅(リラ)の手足がだらりと投げ出されても動きが止むことはない。悧羅(リラ)意識(イシキ)手放(テバナ)そうとするのを(クチビル)()んで(ツカ)まえる。追い()ちをかける動きに悧羅(リラ)からの(アエ)ぎも大きくなっていく。逃げようとするたびに追いかけて口付(クチヅ)けて、何度も名を呼んでもらいながら()てさせ続けて、ようやく忋抖(カイト)が2度目の(ヨク)()き出すと熱すぎる熱に悧羅(リラ)意識(イシキ)が、また(シラ)む。


(タオ)れこまされると、まだ受け入れている最中(サナカ)に動き出されて容易(タヤス)(ノボ)らされる。布団(フトン)(ツカ)んでしまうと(ホド)かれて、手を(カラ)ませて()いつけられては()げ場など何処(ドコ)にも無い。


手加減(テカゲン)しないって言ったでしょ?まだまだ」


()れた息で耳元で(ササヤ)くように告げられて、かかる熱い吐息(トイキ)でさえも悧羅(リラ)身体(カラダ)()であげる。(カラ)め取られた手に力を込めると、(ハナ)れてしまわないようにより強く(ツナ)がれた。


「かい、とぉ…っ、こわっ…し、てえ…っ」


翻弄(ホンロウ)されながらも(ウッタ)えた()()には、(ムサボ)るような口付(クチヅ)けが返された。


「最初から()()()()()()ちようとしても(ユル)さないから、ちゃんと全部受け取ってよ?しっかり(コワ)されて」


ふはっと(ワラ)ったような忋抖(カイト)の声は聞こえたけれど、姿(スガタ)(ニジ)んでしまって見ることができない。それでも、()れる(カザ)りの光と忋抖(カイト)(カオ)りが確かに()()にいると伝えてくれる。ひたすらに()(ソソ)忋抖(カイト)の想いを受け止め続け、悧羅(リラ)が声も出せなくなるまで()わされた(ジョウ)は、2人が同時に()ててそのまま(ネム)りにつくまで一才(イッサイ)休息(キュウソク)(ユル)されることはなかった。




(シン)忋抖(カイト)悧羅(リラ)の姿を見れたのは、その3日後。

(ツト)めを()えていつものように中庭(ナカニワ)()り立った(シン)に、縁側(エンガワ)に居た子どもたちが(ソロ)って、しいっと指を立てた。

その意味など聞かなくても分かる。

見えた景色(ケシキ)(シン)も、ふはっと(ワラ)ってしまう。


(シン)を待っていただろう忋抖(カイト)哀玥(アイゲツ)身体(カラダ)(アズ)けて()ているし、その(ヒザ)には悧羅(リラ)の頭が置かれている。妲己(ダッキ)(ツツ)まれた悧羅(リラ)からも(オダ)やかな寝息(ネイキ)が聞こえてくる。


これまで何があっても(スワ)って(シン)(モド)りを待っていた悧羅(リラ)からは考えられないことだ。


けれど。


(ヤス)らげる場処(バショ)が増えたかな。…良かったね、悧羅(リラ)


ふふっと(ワラ)いながら悧羅(リラ)(ホオ)()でると忋抖(カイト)の手の中で、(カザ)りが光っている。忋抖(カイト)の耳には付いているし、(シン)も外したりはしていない。となれば悧羅(リラ)の分だろう。


父様(トウサマ)一緒(イッショ)につけるんだって兄様(アニサマ)言ってたよ?」


(カザ)りを目に()めたのが分かったのか、皓滓(コウサイ)が小さく教えてくれる。


「まーた、(ミョウ)遠慮(エンリョ)してたのか?」


苦笑(クショウ)してしまう(シン)に、(ミナ)(カタ)(スク)めている。


忋抖(カイト)だからね」


「できれば(ミンナ)一緒(イッショ)にっても言ってたよ」


「っていうか、(オレ)らも()しいって。ああ、()()()()()()で、じゃないからね」


くすくすと(ワラ)う子どもたちに、(タノ)んでみれば?、と(シン)(ワラ)ってしまう。


さしずめの問題は今夜返してもらえるか、だ。


3日()りに見れた悧羅(リラ)寝顔(ネガオ)に、自然と顔も(ホコロ)ぶ。(ホオ)()で続けていると、ふいに妲己(ダッキ)から名を()ばれた。ん?、と視線(シセン)を向けると深々と頭を下げている。


“ヌシが()(アルジ)伴侶(ハンリョ)となってくれたこと、心から(レイ)を言う”


「ええ?何、どうしたのさ?」


目を丸くする(シン)妲己(ダッキ)が、くっくっと(ワラ)う。


“ヌシがおらねば(アルジ)のこのようなお顔を見ることなど、()()()()()()であろうよ。()しむらくは1度くらいは()(クダ)いてやりとうあったがな”


「…死ぬんですけど…」


“だからだ。もう(ユル)してやるから、ヌシも()を降ろせ。()ろした分は(ワレ)(アズ)かろう”


ふわり、と尾が頭に置かれて顔を(カク)されるが、目の前が(ニジ)んできた今は丁度(チョウド)良い。


“もう充分(ジュウブン)()いたろう?なれど(アルジ)()()泣かすようなことがあれば、しかと()(クダ)いてやるから(アン)じておけ”


「…しないし…。だから死んじゃうんだって」


(カク)してくれていても、(フル)える声音(コワネ)はどこまで誤魔化(ゴマカ)せただろう。どん、と背中(セナカ)に抱きつかれて廻された(ウデ)樂抖(ガクト)のものだと分かるが今は()り向けそうにない。廻された小さな手に手を(カサ)ねると、妲己(ダッキ)の尾が何本も頭に乗せられる。


旦那様(ダンナサマ)小生(ショウセイ)からも心からの感謝(カンシャ)を。(アルジ)を苦しめんとして造られた小生(ショウセイ)を受け入れてくださったばかりか、大事な若君(ワカギミ)まで(スク)いあげてくださるなど。旦那様(ダンナサマ)の宝を共にお(マモ)りさせていただける、これほどの(ホマレ)はございませぬ』


するりと伸びてきた(ヘビ)の尾が伝う(ナミダ)(ヌグ)ってくれた。


旦那様(ダンナサマ)(アルジ)伴侶(ハンリョ)であられ、忋抖若君(カイトワカギミ)御父君(ゴフクン)であられたことを、(テン)感謝(カンシャ)を申し上げねば』


「…(オレ)のほうこそ、だよ。忋抖(カイト)(マモ)ってくれてありがとう、哀玥(アイゲツ)


はあ、と大きく(イキ)()くと樂采(ガクト)が強くしがみついてくる。ぽんぽん、と手を(タタ)くが(ハナ)れない(ヌク)もりに、ますます(ナミダ)(アフ)れてきてしまう。


“ほんにヌシは変わらぬな。声をあげよ、()きだせ、(コラ)ゆるな。ヌシが若君(ワカギミ)に伝えたことなど、その(ムカシ)のヌシに言わねばならぬことだ。()()(コロ)のように(ワレ)にしがみつかぬのか?”


「…うっさい」


くっくっと(ワラ)い続ける妲己(ダッキ)の尾を(ツカ)むと、ごしごしと顔を(コス)られた。


“ヌシの(ツミ)などとうに(アワ)となって消えておるわ。(バツ)とて十分(ジュウブン)(ツグノ)うた。ヌシが()やんでも()やみきれぬ500年など、ヌシが(モド)ったときに、すでに()められておる”


「それは言いすぎ」


尾を(ツカ)む手に力を込めてしまうが妲己(ダッキ)は、ふふん、と(ハナ)()らした。


“ヌシが(ワレ)(アルジ)にくれた(サイワイ)は、もう(アルジ)の手の中に(オサ)まりきれておらぬ。それが見えておらぬはずもなかろうに。()りぬと言うならヌシはさらに欲張(ヨクバ)れ。他でもない、(ワレ)がヌシを見張(ミハ)り続けてやろうて”


「ありがたいような、(コワ)いような、だよ」


“ヌシを引き(タオ)せるモノなど(ワレ)の他におるまい?しかと(マカ)されてやるから、(アン)じておけ。(サイワイ)になれぬなど口にしたときは、がぶりと()らわせてやる”


「だから死ぬからね?結局(ケッキョク)()みたいだけじゃないか」


大きく嘆息(タンソク)すると、するすると尾が(ハナ)れていく。頭を()いてしまった(シン)(ホオ)に、()わりにするりと手が()びてきた。ばっと顔を上げた(シン)の前に悧羅(リラ)(スワ)って(ホオ)()れてくれているのが見える。


「お(モド)りやし」


(アデ)やかに微笑(ホホエ)まれて広げられた(カイナ)に飛び込むと、張り付いていた樂采(ガクト)ごと(ツツ)まれる。


「ただいま」


()り寄るとさらりとした悧羅(リラ)(カミ)が流れ落ちて(シン)身体(カラダ)(クスグ)っていく。ふふっと(ワラ)悧羅(リラ)(カミ)(シン)(カク)した。


妲己(ダッキ)(ユル)された」


「おや、それはよろしゅうあった」


()()(サイワイ)になれって(シカ)られた」


「おやおや、妲己(ダッキ)(モウ)すことならば(サカ)らえぬの」


だよねえ、と嘆息(タンソク)する(シン)にくすくすと悧羅(リラ)(ワラ)い声が()ってきた。


「これ以上、どうやって(サイワイ)になれっていうんだか」


「なんの。(シン)(カタワラ)におってくりゃるなら、(ワラワ)(サイワイ)にすればよいであろ。容易(タヤス)いこと」


当たり前のように出された言葉に(シン)悧羅(リラ)(マワ)した(ウデ)に力を込めてしまう。


(カエ)場処(バショ)なんて悧羅(ココ)しかない」


「ならばすぐにでも(サイワイ)にせねばなるまいて」


ふふっと(ワラ)いを(フク)んだ声が(シン)の耳に近付(チカヅ)いた。ちりり、と(ソロ)いの(カザ)りが()れるほどに(クチビル)近付(チカヅ)けられると、耳を()まれた。ん?、と(クビ)(カシ)げた時は(オソ)かった。


「…おかえりなさい、(シン)…」


小さく(ササヤ)かれた吐息(トイキ)()じりの()()は、(シン)以外に聞こえてはいなかっただろう。ばっと(カオ)を上げた(シン)の顔が、あっという間に(シュ)()まると、その場にへたり込んだ。


「い、い、い、いまっ!今っ!?」


狼狽(ロウバイ)して顔を(シュ)()める(シン)に、子どもたちがきょとりとしたが、次にはにんまりと悪戯(イタズラ)(ワラ)いながら、わらわらと(シン)を取り(カコ)み始めた。


「あれー?父様(トウサマ)、どうしたのー?」


「うわっ!()()じゃん?(メズラ)しい!」


「え?こんな(シン)初めて見た!悧羅(リラ)、何言ったの?」


「あーもう!(ウルサ)い!やめろって!(サワ)んな!」


顔を(カク)そうとする(シン)()(ツカ)んで(ノゾ)く子どもたちに(シン)(アラガ)うが、彼方此方(アチラコチラ)から伸びる手が多すぎて(ハラ)いきれない。あはは、と声を上げて(ワラ)悧羅(リラ)に、もう!、と(シン)(ホオ)(フク)らませてみたが、残った声音(コワネ)余韻(ヨイン)(スサ)まじい。


「これは、()()駄目(ダメ)だからね!(ホカ)には絶対(ゼッタイ)駄目(ダメ)っ!!」


「えー?(オレ)も?」


背伸(セノ)びをしながら悧羅(リラ)の横に(スワ)った忋抖(カイト)も、(シュ)()まった(シン)を見てにやにやと(ワラ)っている。


「500年早いっ!!悧羅(リラ)、ぜーったい駄目(ダメ)だよ!?」


(シン)必死(ヒッシ)嘆願(タンガン)をどこまできいてくれるかは分からない。声を上げて(ワラ)い続ける悧羅(リラ)を見やりながら、子どもたちの手を(ハラ)った(シン)妲己(ダッキ)に飛びつくと、背中にしがみついたままだった樂采(ガクト)から、うわっ!、と声が上がった。


“ざまはないな。なれど(サイワイ)などまだあると分かったろう?”


破壊力(ハカイリョク)が強すぎる」


くっくっと(ワラ)妲己(ダッキ)の尾に(ツツ)まれて(シン)はぼやくしか無い。

けれど、妲己(ダッキ)の言う通り、まだまだ(サイワイ)(ツカ)めそうだ。


「あー…、もう。ほんとに(カナ)わない…」


妲己(ダッキ)(カク)れたままで、ちらりと悧羅(リラ)を見やると目が合った。


「見てろよ!知らないからな!?」


まだ(シュ)()まったままの耳を、子どもたちに()()られながら伝えた言葉に、悧羅(リラ)はころころと(ワラ)っていた。

お楽しみいただけましたか?

読んでいただいてありがとうございます。

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