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唯一《拾弐》【ユイイツ《ジュウニ》】

更新します。

突如(トツジョ)として名を出された忋抖(カイト)(カタ)まりながらも(シン)荊軻(ケイカツ)に向かって(クビ)(カシ)げた。


「どういうこと?何で(オレ)の名が()()で出るの?」


見つめる先で(シン)は頭を(カカ)荊軻(ケイカツ)までも、さてどうしたものか、と思案(シアン)しているのが伝わってくる。


「…父様(トウサマ)()()()と思うけど何か(タクラ)んだりしてた?」


(アタマ)(カカ)えたままの(シン)から、いやあ、と歯切(ハギ)れの(ワル)い声が聴こえて、まさか、と忋抖(カイト)悧羅(リラ)を見ると(オダ)やかに微笑(ホホエ)んでいるばかりだ。


父様(トウサマ)()()()だよね?馬鹿(バカ)()()()考えてないよね?」


悧羅(リラ)から(シン)視線(シセン)(ウツ)して、何でもないことのように聞こえるように忋抖(カイト)(タズ)ねた。


忋抖(カイト)唯一(ユイイツ)と決めた相手が悧羅(リラ)であることを知っている者は少ない。忋抖(カイト)自身が、そうだと公言(コウゲン)することを(コバ)んでいるから、(シン)悧羅(リラ)()()気持ちを(オモンバカ)ってくれていた。


「知られて(コマ)ることでもないし、忋抖(カイト)もその方が(ラク)になれるのに」


(コト)ある(ゴト)(シン)(スス)めてくれてはいたが、どうしても()と言えなかった。別に()じることでもないのだから(カク)しておかずとも良いのは分かっている。気付(キヅ)いている者、それとなく忋抖(カイト)(ニオ)わせた者もいるし、それで何が変わるということでもないことも分かってはいる。けれど、それでも(シン)悧羅(リラ)にこれ以上の()らぬ心労(シンロウ)をかけたくはないのだ。


父様(トウサマ)?」


(コタ)えを(モト)める声が(フル)えそうになるのを(マワ)りに気取(ケド)られないように、忋抖(カイト)必死(ヒッシ)()()()()()()()問いかける。それには大きな嘆息(タンソク)が返ってきた。


「…あー、樂采(ガクト)?1個だけ(オシ)えてくれるか?()じゃないと駄目(ダメ)なんだよね?()()()(オレ)忋抖(カイト)の2人()()ってのも駄目(ダメ)なのかな?」


頭を(カカ)えるのをやめた(シン)(ヒザ)の上の樂采(ガクト)(タズ)ねると、樂采(ガクト)が、だめだよ、と言い切っている。


「今、お話ししないと(トウ)さまもだけど(シン)くんが悲しくなるよ?出来なくなってずっと考えて、ずっと(トウ)さまに(アヤマ)っちゃうから」


「…なるほどね、()が本当に頃合(コロア)いだってことか」


ぽん、と樂采(ガクト)の頭に手を置いた(シン)が小さく何かを(アキラ)めたように嘆息(タンソク)すると場の(ミナ)見廻(ミマワ)している。


「ちょっと吃驚(ビックリ)させるけど、まあ大丈夫(ダイジョウブ)かな?」


見廻(ミマワ)した先に灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)見留(ミトド)めて(ウナズ)いてから、最後に視線(シセン)忋抖(カイト)にしっかりと(サダ)める。見廻(ミマワ)した中には気付(キヅ)いているような者もちらほらと()るようだし、灶絃(ソウゲン)が良い糸口(イトグチ)を作ってくれた。ここで(シン)が1つや2つ、事実を伝えたとしてもしっかりと()み込んで受け入れてくれる(ハズ)だ。え?、と身構(ミガマ)えた忋抖(カイト)悪戯(イタズラ)微笑(ホホエ)んで見せると何を口に出すのか(スデ)勘付(カンヅ)いているようだ。やめてくれと言わんばかりに小さく首を()り続ける忋抖(カイト)に、ふふっと(ワラ)いが出てしまう。


荊軻(ケイカツ)


忋抖(カイト)を見つめたままの(シン)()ばれた荊軻(ケイカツ)から、その日1番の嘆息(タンソク)が飛び出した。


「…まったく…、紳様(シンサマ)(オサ)(ワタクシ)を何だと思っていらっしゃるのでしょうね。()()()()()()と、やはり身支度(ミジタク)くらい(トトノ)えさせていただきたかったものです」


小言(コゴト)を言いながら()かんだ荊軻(ケイカツ)鬼火(オニビ)が、ゆらりと()れると一通(イッツウ)書状(ショジョウ)に変わった。真っ白な()()を手にすると荊軻(ケイカツ)忋抖(カイト)()ぶ。


忋抖若君(カイトワカギミ)、お(アラタ)め下さいますか?」


「…は…?」


()し出された書状(ショジョウ)(オモテ)には何も書かれていないが、(スミ)に小さく、大刀(ダイトウ)()まった(チョウ)(ハス)(モン)が押されていた。

(ハス)は言わずもがな悧羅(リラ)象徴(ショウチョウ)

大刀(ダイトウ)()まる(チョウ)(シン)花押(カオウ)

それら2つが合わさった()()(モン)意味(イミ)を知らない者など、里の中には()ない。


(シン)悧羅(リラ)()(ツラ)ねて出す時にのみ使(ツカ)われる(モン)だ。使われたのはほんの(カゾ)える(ホド)忋抖(カイト)がしっかりと記憶(キオク)しているのは玳絃(タイゲン)灶絃(ソウゲン)が生まれた以降、血族(ケツゾク)慶事(ケイジ)があった時だけだ。


()()(シル)されているということは。


身震(ミブル)いした忋抖(カイト)の様子がおかしいことに気付(キヅ)いた(ミナ)が、わらわらと忋抖(カイト)を取り(カコ)むと、荊軻(ケイカツ)が差し出している書状(ショジョウ)を見て一様(イチヨウ)(イキ)()んでいる。


「…父様(トウサマ)…」


蒼白(アオジロ)く血の()退()いた顔で忋抖(カイト)(シン)を見ると、にっと苦笑(クショウ)されてしまう。


「いい加減(カゲン)(ハラ)(クク)れ」


かたかたと(フル)えながら忋抖(カイト)書状(ショジョウ)を受け取ると、荊軻(ケイカツ)がにっこりと微笑(ホホエ)んだ。御無礼(ゴブレイ)を、と一言(ヒトコト)()べながら忋抖(カイト)(カタ)に優しく()れた荊軻(ケイカツ)がゆっくりと呼吸(コキュウ)をするように(ウナガ)してくる。


忋抖(カイト)若君(ワカギミ)大事(ダイジ)ございません。心穏(ココロオダ)やかに、よくよく(アラタ)めてくださいますよう」


(オダ)やかな声に忋抖(カイト)も大きく(イキ)()いて、自分を落ち着けにかかった。 

そうだ、落ち着かなければならない。

()()に書いてあることが忋抖(カイト)が思っていることとは(チガ)可能性(カノウセイ)だってある。

動揺(ドウヨウ)していたら中身(ナカミ)(コト)なった時、(ミナ)不審(フシン)がられてしまう。

(ハラ)(クク)れ』とは言われたが、忋抖(カイト)(オオヤケ)にしたがらない(コトワリ)(シン)悧羅(リラ)も分かってくれているのだし、忋抖(カイト)()()()()充分(ジュウブン)()たされている。


(ミョウ)なことなど書かれている(ハズ)がない。


もう一度大きく嘆息(タンソク)して忋抖(カイト)がゆっくりと書状(ショジョウ)を開くと、飛び込んできた文字(モジ)(ノゾ)き込んでいた(ミナ)から、は?、と声が上がった。


(メイ)、と書き始められたその文は忋抖(カイト)から思考(シコウ)呼吸(コキュウ)(ウバ)った。ざわつき始める声の中で忋抖(カイト)はただひたすらに、その文を見つめていることしかできない。


(メイ)

近衛隊(コノエタイ)副隊長(フクタイチョウ)忋抖(カイト)

里長(サトオサ)悧羅(リラ)思人(オモヒビト)(ニン)ずる

心身(シンシン)()

命尽(イノチツ)くるまで

悧羅(リラ)(カタワラ)をかるることなく

(イツク)しみつづくること

()誓約(セイヤク)により(ムス)ばるるため(ヤブ)ることあたわず》


末尾(マツビ)(シン)悧羅(リラ)の名が(ツラ)ねられた()()は、忋抖(カイト)の手の中でくしゃりと(ユガ)んでしまう。


「…なんだよ…、…これ…、なんでっ…」


ぐしゃり、と書状(ショジョウ)(ニギ)()めた忋抖(カイト)(イキオ)いよく(シン)()()った。


「何のつもりなんだよ!何考えてんだよっつ!!こんなっつ!!」


(イキオ)いの(アマ)忋抖(カイト)(シン)胸倉(ムナグラ)(ツカ)むと、(シン)(ヒザ)から樂采(ガクト)が、わっと(スベ)り落ちた。これまで見せたことのない忋抖(カイト)剣幕(ケンマク)に場の(ミナ)言葉(コトバ)(ウシナ)う。(スベ)り落ちた樂釆(ガクト)荊軻(ケイカツ)が引き()せて(カバ)った。


忋抖(カイト)っ!!」


「「兄様(アニサマ)っ!!」」


今にも(シン)(ナグ)りかかりそうな忋抖(カイト)舜啓(シュンケイ)灶絃(ソウゲン)玳絃(タイゲン)が後ろから羽交締(ハガイジ)めにして止める。


「こんなこと(オレ)(ノゾ)んでないっ!!知ってただろっ!?…なんでっ!なんでだよっつ!!」


(オサ)えつけられても忋抖(カイト)(シン)(ハナ)さずに、()さぶろうとする。


「「忋兄(カイアニ)、待って!待ってって!!」」


(オサ)えつけていた3人に瑞雨(ズイウ)憂玘(ウイキ)(クワ)わって止めるが、それでも忋抖(カイト)(セイ)することが出来ない。それはその場の者たちがこれまで見たことのない初めて目にする忋抖(カイト)の姿だった。

優しく(オダ)やかで、自分のことよりも他者(タシャ)のことを(オモンバカ)り、(ダレ)よりも先に他者(タシャ)の傷に気付き()沿()ってくれる。

それがいつも見てきた忋抖(カイト)の姿だ。

自分を(リッ)する(スベ)を知り、いつ如何(イカ)なる時でも他者(タシャ)の前で声を(アラ)げることをしない。

姿形(スガタカタチ)だけでなく、その()(ヨウ)まで(シン)生写(イキウツ)しだと言われる所以(ユエン)()()にある。


その忋抖(カイト)形振(ナリフ)(カマ)わず()らいついているというのに(シン)は、ふふっと(ワラ)うと、ぽん、と忋抖(カイト)の頭に手を乗せて()で始めた。


「…っざけんなっつ!!」


(コラ)え切れずに()り上げた忋抖(カイト)(コブシ)(シン)(トド)間際(マギワ)、おやおや、と栄州(エイシュウ)の声がした。


「何ぞ(サワ)がれておるようですな。(オサ)紳様(シンサマ)からのお()びなどとは、かくも(メズラ)しきことと(サン)じましたが。はてさて」


睚眦(ガイシ)(ムカ)えに来たと思ったら…、何の(サワ)ぎだ?」


体躯(タイク)を部屋の中に(スベ)り込ませている睚眦(ガイシ)の背に乗ったままの栄州(エイシュウ)に手を()しながら、枉駕(オウガイ)(マユ)()せたが、栄州(エイシュウ)の目は(ユカ)()てられている書状(ショジョウ)(トラ)えた。()りると同時に片脚(カタアシ)を引き()りながら進んで()すと、丁寧(テイネイ)に開きながら(アラタ)めている。何だ?、と(ノゾ)き込む枉駕(オウガイ)も、一瞬(イッシュン)だけ目を開いたが、すぐに状況(ジョウキョウ)把握(ハアク)した。


「すまぬの、栄州(エイシュウ)枉駕(オウガイ)


「すまぬと(モウ)していただく道理(ドウリ)がございませぬな」


ふふっと(ワラ)う2人に悧羅(リラ)がほんの少し(カタ)(スク)めてみせた。枉駕(オウガイ)はともかく栄州(エイシュウ)は、ここ数年で随分(ズイブン)()いた。定命(ジョウミョウ)が近い、と顔を合わせる(タビ)に言う程に目に見えて()いが進んでいる。それでも、()()()()()()()()()相談役(ソウダンヤク)(ニン)返上(ヘンジョウ)()()()()()()()()()


「ほんに、(オサ)はこの老骨(ロウコツ)最後(サイゴ)まで喜びをくださるな」


書状(ショジョウ)(タタ)みながら栄州(エイシュウ)微笑(ホホエ)むと、よいしょ、と立ち上がる。手を()そうとする枉駕(オウガイ)丁寧(テイネイ)()すと、(シン)忋抖(カイト)(トナリ)()してから、(オノコ)5人に(オサ)えられた忋抖(カイト)の顔を見た栄州(エイシュウ)(シワ)()った顔でくしゃりと(ワラ)った。


「何というお顔をなされておられる、忋抖若君(カイトワカギミ)


栄州(エイシュウ)の目に(ウツ)ったのは、蒼白(アオジロ)()()を無くした今にも泣き出しそうな忋抖(カイト)の顔だ。自分のまかり知らぬところで話を進められ、この様な形で知らされて(イカ)りで頭に血が(ノボ)っても仕方(シカタ)がないというのに、忋抖(カイト)の頭の中には(シン)悧羅(リラ)への心咎(ココロトガ)めだけが渦巻(ウズマ)いているのだろう。


(カワ)(ホネ)(シワ)の乗った手を()ばして、栄州(エイシュウ)忋抖(カイト)の顔に()れる。


「…(ジイ)…」


「そうですとも、(ジイ)(サン)じましたぞ。うんうん、(オドロ)かれたのですなあ、(オソ)ろしかったのですなあ。ほれほれ、(ジイ)(ウデ)が落ちる前に、若君(ワカギミ)(スワ)ってはくださらんか?」


よしよし、と幼子(オサナゴ)をあやすような栄州(エイシュウ)の声に忋抖(カイト)が、ぐっと(イキ)()む。


久方(ヒサカタ)ぶりに(マゴ)の顔を見れたというのにそのようなお顔をなされて。(ジイ)(サン)じましたのでな、もうご(アン)じなされよ」


かさついた手で(ホオ)()でられて、忋抖(カイト)から少しずつ怒気(ドキ)退()いていく。ふう、と大きく嘆息(タンソク)した忋抖(カイト)(シン)から手を(ハナ)すと、かくん、とその場に(スワ)り込んだ。忋抖(カイト)(オサ)えていた(オノコ)たちにも手を(ハナ)すように伝えてから、栄州(エイシュウ)忋抖(カイト)の頭を()でる。


「ほんに紳様(シンサマ)(オサ)にも(コマ)ったものですな。(ジイ)可愛(カワイ)(マゴ)にこのような顔をさせるなど。(ジイ)がしっかと(シカ)りますでの」


ちらり、と栄州(エイシュウ)に見られた(シン)が、(ワル)い、と嘆息(タンソク)しているのを見てから、栄州(エイシュウ)(タタ)んだ書状(ショジョウ)忋抖(カイト)の前に置いた。


若君(ワカギミ)心咎(ココロトガ)められたのは()()ですかな」


置かれた書状(ショジョウ)をまた(ニギ)(ツブ)そうとする忋抖(カイト)の手を栄州(エイシュウ)がそっと止めて、うんうん、と何度も首肯(ウナズ)いて見せる。


他者(タシャ)に知られることが(オソ)ろしゅうあるか?」


「…(チガ)うよ…」


苦々(ニガニガ)しく()き出された忋抖(カイト)の声は()れていた。


他者(タシャ)から非難(ヒナン)されるのが(オソ)ろしゅうあるか?」


栄州(エイシュウ)の声に忋抖(カイト)が首を()る。

そんなものは最初から覚悟(カクゴ)が出来ていた。


「ならば紳様(シンサマ)(オサ)心労(シンロウ)をかけず、お(マモ)りしたかった、といったところかの」


静かに言い当てられて忋抖(カイト)は言葉に()まってしまう。(シン)悧羅(リラ)忋抖(カイト)()りかかる(ゴウ)非難(ヒナン)(スベ)(トモ)背負(セオ)うと言ってくれた時、本当に素直(スナオ)(ウレ)しかった。そのままで良いのだ、と(ミト)めてくれた時も心から感謝(カンシャ)した。だからこそ、決して2人の足を引っ張ることがあってはならない、と自分に()した。何があっても(オオヤケ)にせず、ほんの一時(ヒトトキ)だけの悧羅(リラ)との蜜月(ミツゲツ)さえあれば、それだけで(ミタ)されていたし、何より忋抖(カイト)(シン)から悧羅(リラ)(ウバ)おうなどとは(カンガ)えもしていなかった。


忋抖(カイト)()(ヨウ)は、灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)とは(チガ)う。どんなに(シン)悧羅(リラ)大丈夫(ダイジョウブ)だと言ってくれていても、必ず2人に対する心無(ココロナ)い声が出てくる。

(ホカ)でもない忋抖(カイト)忋抖(カイト)として()り続ける(カギ)り。

忋抖(カイト)悧羅(リラ)(イト)しく(オモ)うことを(アキ)らめない(カギ)り。


だからこそ()(ゴト)のままにしておきたかった。忋抖(カイト)(オモ)いが知られなければ2人に対する非難(ヒナン)の声だけは()けられる。忋抖(カイト)(オモ)いを公言(コウゲン)しないことで2人を(マモ)れるなら()()()()()()()()()()

ありのままでいい、と言い(スク)い上げてくれた(シン)悧羅(リラ)忋抖(カイト)が返せるものなど、ほかに無かったから。


言葉に()まったまま(ウツム)いてしまった忋抖(カイト)の頭が、栄州(エイシュウ)によって優しく()でられ(ツヅ)けている。


「ほんに(ジイ)幸福者(コウフクモノ)ですな。このような心優(ココロヤサ)しき(マゴ)を7人も持てた上、曽孫(ヒマゴ)までおる。しかしながら、(マゴ)(ウレ)いを()らさねば(テン)(カエ)っても、おちおち休んでなどはおられぬの。どれ、(オサ)


ふむ、と(ヒゲ)()でながら立ちあがろうとした栄州(エイシュウ)を止めると、悧羅(リラ)栄州(エイシュウ)(ソバ)に動いた。


「あいすまぬ、(オサ)を動かしてしもうた」


ふわり、と悧羅(リラ)(カオリ)がして忋抖(カイト)身体(カラダ)が、びくりと(フル)えたが顔を上げることはできない。今、悧羅(リラ)の顔を見てしまったら(シン)にぶつけてしまったように、悧羅(リラ)にまで暴言(ボウゲン)()いてしまうかもしれなかった。(ウツム)いたままの忋抖(カイト)(カタ)を、ぽんぽん、と(タタ)いてから栄州(エイシュウ)悧羅(リラ)微笑(ホホエ)みかける。


(オサ)、すまなんだが、この老骨(ロウコツ)(ミジカ)生命(イノチ)(アズ)かっていただけますかの?」


(オダ)やかな声音(コワネ)で出された言葉に忋抖(カイト)だけでなく、その場の子どもたち(ミナ)驚愕(キョウガク)してしまう。


「「「「「(ジイ)!?」」」」」


「…何、言ってんだよ(ジイ)…」


(フル)える声音(コワネ)()びながら、ようやく顔を上げた忋抖(カイト)栄州(エイシュウ)(ウデ)(ツカ)むが、()いた顔はただ柔和(ニュウワ)微笑(ホホエ)んでいる。


「おやおや、何もおかしなことではございませんぞ。(ジイ)(オサ)(ツカ)えることができ(モウ)したことを、今生(コンジョウ)(ホマレ)と思うておる。かような()(アルジ)であれば、生命(イノチ)()きるまで(ソバ)におりたいと(ネガ)うは至極当然(シゴクトウゼン)()やまれるは、もう少し(ハヨ)(シバ)ってもろうておくべきであった」


のう、と目を(ホソ)める栄州(エイシュウ)悧羅(リラ)も、ほんに、と苦笑(クショウ)した。もう少し早く、誓約(セイヤク)(シバ)りを(ムス)んでおけば栄州(エイシュウ)()いも幾許(イクバク)かは(ユル)やかだったろう。けれど、(テン)からの(ムカ)えが足を(カラ)め取っている今の栄州(エイシュウ)では、悧羅(リラ)誓約(セイヤク)(ムス)んでも恩恵(オンケイ)を受けることはできない。(コトワリ)の上で粛々(シュクシュク)生命(イノチ)が終わるのを待たねばならない。それを分かっているのに、忋抖(カイト)のために身を差し出せと言う悧羅(リラ)()(トナ)えない姿に、有難(アリガタ)いというしかない。


若君方(ワカギミガタ)姫君方(ヒメギミガタ)、よく(オボ)えておりなされ。誓約(セイヤク)(シバ)りは(ホマレ)(シン)から(ノゾ)もうと本来は()などもらえぬもの。1000年前など(ホッ)する者ばかりでございましたぞ?ましてや忋抖(カイト)若君(ワカギミ)は、(オサ)からの(ニン)まで受けられておる。それも紳様(シンサマ)のお(ユル)しの(モト)でですぞ?これが何を意味するかお分かりか?」


(ウデ)()かれた忋抖(カイト)(ウデ)を優しく()でながら、栄州(エイシュウ)微笑(ホホエ)んだ。(イマ)だ泣きそうな顔をしたままの忋抖(カイト)が、ふるっと首を()ると、やれやれ、と栄州(エイシュウ)(シン)を見る。見られた(シン)苦笑(クショウ)しながら頭を()いていた。


()()()って言っただろうが…、何でいつまでも我慢(ガマン)するんだよ」


はあ、と大きく嘆息(タンソク)して(シン)忋抖(カイト)()()ぐに見据(ミス)える。


「何度も言ったろ?我慢(ガマン)するな、()しいならちゃんと言えって。お前にとっての(オレ)悧羅(リラ)(マワ)りの声(ゴト)きで(ツブ)されそうか?()()()()()()()()で、()()手放(テバナ)すと思うか?(ホカ)でも無い(オレ)が良いって言ってんのに、お前を()める(ヤツ)が一体何処(ドコ)に居るんだよ」


あーもう!、と立ち上がった(シン)が今度は忋抖(カイト)胸倉(ムナグラ)(ツカ)んだ。


「お前ばっかり我慢(ガマン)すんな!そんなんで(オレ)悧羅(リラ)一緒(イッショ)(サイワイ)になんてなれるわけがないだろ!()()が本当に心から(サイワイ)になれないと何の意味もないんだぞ?これまで(オレ)たちがお前に言ってきたことを、もう一回よく考えろ!お前の目で、ちゃんと見ろ!」


(ツカ)んでいた胸倉(ムナグラ)(ハナ)されて(ホウ)ける忋抖(カイト)の前で、悧羅(リラ)鬼火(オニビ)がひとつ()らめいている。さて、と(ツブ)やいた栄州(エイシュウ)居住(イズ)まいを(タダ)して(スワ)(ナオ)すと、ふふっと荊軻(ケイカツ)枉駕(オウガイ)が横に(ナラ)んだ。


「よもや栄州殿(エイシュウドノ)だけではございませんでしょうな?」


「そうでございますよねえ、枉駕(オウガイ)。ともに800年御側(オソバ)におりましたのに、よもや置いて行こうなどとは。(ワタクシ)どもの(オサ)が、かように(ジョウ)(ウス)御方(オカタ)でしたなど、まだまだ(ワタクシ)のまかり知らぬことがありそうです」


ねえ?、と見られた悧羅(リラ)苦笑(クショウ)(フカ)くすると2人の前にも鬼火(オニビ)()らめいた。


「…ほんに良いのか?(ワラワ)(テン)(カエ)るまで、其方(ソナタ)らも共におらねばならぬのだえ?」


(ワズ)かに(ユガ)んだ微笑(ホホエ)みに3人が声をあげて(ワラ)い始めた。


「ではあと1000年は(カト)うございますね。まだまだ(シカ)らせていただけそうです」


(ハナ)そうなどと思っておられるなら、さっさと(ハナ)しておられただろうに。何を今更(イマサラ)


(ジイ)は先にお(イトマ)いたしますよ」


「「「ほんに強欲(ゴウヨク)御方(オカタ)だ」」」


(ワラ)い合った3人が指先(ユビサキ)(キズ)を付けると、落ちた血がぽたりぽたりと鬼火(オニビ)()い込まれて、高く高く()え上がる。


()誓約(セイヤク)()(シバリ)において(ワラワ)よりかるることまかりならず。(ワラワ)定命(ジョウミョウ)()きし(トキ)のみ誓約(セイヤク)(ヤブ)りてあたわず」


「「「(イナ)」」」


口上(コウジョウ)()べる悧羅(リラ)に、3人が微笑(ホホエ)んで(イナヤ)(トナ)えた。


(オサ)定命(ジョウミョウ)()きました(トキ)(ワタクシ)どもも(トモ)に、と」


「それ以上こき使われてはかなわんからな」


燃え上がる(ホムラ)の向こうで悧羅(リラ)が、物好(モノズ)きだの、と微笑(ホホエ)んだ。


(ユル)す」


その一言(ヒトコト)とともに燃え上がった(ホムラ)が、3人を一瞬(イッシュン)だけ(ツツ)むとかき消えた。ほんの(ワズ)かの間に起きたことに場が(シズ)まり返る。


「またお付き合いが(ナゴ)うなりましたね、(オサ)


満足(マンゾク)そうな荊軻(ケイカツ)に、悧羅(リラ)微笑(ホホエ)むと、ふわりとまだ(ホウ)けている忋抖(カイト)に向き直ってからそっと手を取った。


「すまぬの忋抖(カイト)。なれど(ワラワ)其方(ソナタ)手放(テバナ)しとうのうなってしもうた。忋抖(カイト)が良いと(モウ)してくりゃるなら、(ワラワ)定命(ジョウミョウ)()きるまで(カタワラ)におってはくれまいか?」


()え切った手を取って(ネガ)悧羅(リラ)を見る目が一度大きく見開(ミヒラ)かれると、(ウソ)だ、とぽつりと忋抖(カイト)(ツブヤ)く。それに静かにゆっくりと悧羅(リラ)が首を()って(イナヤ)を示す。


「…(ウソ)だよ、こんなの…」


(ワラワ)忋抖(カイト)(イツワ)りを(モウ)したことがあったかえ?」


「…なに、…考えてんだよ…っ、ほんっ…とに…」


悧羅(リラ)(ツツ)忋抖(カイト)の手が小さく(フル)えだすと灰色(ハイイロ)(マナコ)(ウル)み始めた。


「…な、んでっ!…父様(トウサマ)悧羅(リラ)も本当に馬鹿(バカ)じゃないの?なんで(オレ)なんかのためにこんな…っ。…()()()()で良いって、ずっと言ってたのに…。何で聞かないんだよ…っ」


込み上げてくる(ナミダ)(コラ)え切れずに(コボ)し始めた忋抖(カイト)身体(カラダ)を、悧羅(リラ)がするりと抱きしめた。


(シン)(モウ)しておったであろ?特別(トクベツ)じゃ、と。(ワラワ)唯一(ユイイツ)(ヒト)しゅうある、と申したはず。何より(ワラワ)(ヨク)(フコ)うある、と重鎮達(ジュウチンタチ)にも申されてしもうた。忋抖(カイト)(ワラワ)の者であると教えておかねば、いらぬ(ムシ)がついてしもうて(ハラ)い切れぬし、そろそろ(ワラワ)悋気(リンキ)(コラ)え切れぬようになってしもうての。…すまぬが堪忍(カンニン)してたも」


「…(ユル)すもなにも…、(オレ)が何より望んでたものだ。…(ノゾ)んじゃいけなかったものなのに…」


ぎゅうっと悧羅(リラ)を抱きしめて泣きじゃくる忋抖(カイト)の背を(タタ)きながら、悧羅(リラ)鬼火(オニビ)()かべると、荊軻(ケイカツ)書状(ショジョウ)()べた。燃え上がる書状(ショジョウ)口上(コウジョウ)のように文字を吐き出すのを見やりながら悧羅(リラ)忋抖(カイト)の耳を()む。たらりと流れ出した血が()いこまれるように鬼火(オニビ)(カラ)み取られると、(ホムラ)に変わって高く(ノボ)った。


「…悧羅(リラ)(オレ)悧羅(リラ)(カエ)(トキ)には()れていって。置いていかないで、(ソバ)にいさせて、絶対(ゼッタイ)(ハナ)さないで」


(ワラワ)忋抖(カイト)(ハナ)せると思うてか?置いてゆけと(ネガ)われようとも()れてゆく」


ふふっと(ワラ)った悧羅(リラ)(トモ)忋抖(カイト)(ホムラ)(ツツ)まれると、身体(カラダ)奥底(オクソコ)で何かが強く(ムス)ばれたのを忋抖(カイト)は感じた。


「ちゃんと()った?」


すぐ間近(マヂカ)(シン)の声がして、忋抖(カイト)の耳を()()って何やら(アラタ)めているようだが、今この時だけは忋抖(カイト)悧羅(リラ)(ソバ)から動きたくない。


「分かってるからそのままでいいぞ。うん、()()()()()()ね」


(アラタ)めた忋抖(カイト)の耳には、悧羅(リラ)()んだ(トコロ)に、小さな(ハス)が3つ浮かび上がっている。よし、と忋抖(カイト)の頭を()でながら重鎮達(ジュウチンタチ)の指を見ると、そこにも小さな(ハス)(ハナ)がある。ほっと安堵(アンド)する(シン)に、父様(トウサマ)は?、と忋抖(カイト)(タズ)ねた。


(オレ)(チギ)りを(ムス)んでるし、元から一緒(イッショ)だから大丈夫(ダイジョウブ)なんだよ。…だけど悧羅(リラ)?何も()()()すぐ見えるとこに付けなくても良かったんじゃないの?」


(アキ)れたような(シン)に、悧羅(リラ)は、おや?、と微笑(ホホエ)みながら忋抖(カイト)をより抱きしめた。


灶絃(ソウゲン)(モウ)しておったであろ?見ゆる(トコロ)に付けねば(ワラワ)の者じゃと知らしめられぬ。しかと分からせねばならぬ(ユエ)(ソロ)いの物でも(ツク)ろうかとも思うておる」


「それはもちろん(オレ)の分もあるんだよね?」


(シン)(ヨク)(フコ)うあるものよ」


当然(トウゼン)、と(ワラ)(シン)忋抖(カイト)()でていると、(ズル)い、と彼方此方(アチラコチラ)から声が上がり始めた。


(オレ)たちだってずっと一緒(イッショ)にいたい!」


「私たちもよ!父様(トウサマ)忋抖(カイト)と、重鎮(ジュウチン)の3人だけだなんてあり得ない!」


予想(ヨソウ)していた言葉に(シン)荊軻(ケイカツ)苦笑(クショウ)してしまう。とはいえ、本当に長い(ジカン)を生きることになってしまうのだ。今の悧羅(リラ)であれば荊軻(ケイカツ)が言う通り、あと1000年は()るがないだろうし、誓約(セイヤク)で血の(シバ)りを(ムス)べば少なからず悧羅(リラ)からの恩恵(オンケイ)が流れ込む。忋抖(カイト)(カン)しては(シン)悧羅(リラ)()()()()()()欲しくて、強引(ゴウイン)に引き()んでしまったが、(ササ)えがなくては長い(セイ)を生きることは(ギャク)に苦しむことが増えることにもなる。そんなに長い(ジカン)を過ごしていく覚悟(カクゴ)があるのかを(タズ)ねる(シン)に、子どもたちは喜々(キキ)としている。


「ほんの少しの(ツラ)いことより母様(カアサマ)父様(トウサマ)といれる(ジカン)が増えるほうが(ウレ)しいに決まってる」


「それに皆で一緒にいれば、何かあったって(タテ)になってやれるでしょ?あと1000年()びるくらい定命(ジョウミョウ)とさして何も変わらないし」


一片(イッペン)(クモリ)も無い答えに、だって、と(シン)悧羅(リラ)を見ると、少しばかり(コマ)ったように苦笑(クショウ)している。子どもたちだけならいざ知らず、系譜(ケイフ)(ツラ)なる舜啓(シュンケイ)加嬬(カジュ)のことが気になるのだろう。そっと(チギ)りの(キズ)(カサ)ねると色濃(イロコ)くその思いが流れ込んできた。


「まあ、そうだよねえ」


(カタ)(スク)めた(シン)磐里(バンリ)加嬬(カジュ)()ぷ。ぱたぱたと走ってきた2人に(コト)のあらましを話して聞かせると、まあ!、と2人が(アキ)れたような声を出した。


「まさか、加嬬(カジュ)(ワタクシ)のみ残されるおつもりでございましたか?何とまあ(サミ)しゅうありますことでしょう」


「本当でございます。磐里(バンリ)(ワタクシ)がおらずして、どのようにしてお過ごしになられるおつもりでしたのやら」


まったく!、と嘆息(タンソク)する磐里(バンリ)加嬬(カジュ)剣幕(ケンマク)(シン)もたじろいだ。元々、忋抖(カイト)だけのつもりだったのだが話が大きくなり過ぎてしまっている。


「まさか荊軻(ケイカツ)枉駕(オウガイ)()()()()なんて思ってなかったからね。(オレ)もちょっと戸惑(トマド)ってんだよ」


大きく嘆息(タンソク)して頭を()(シン)の背中を舜啓(シュンケイ)が思い切り(ハタ)いた。いって、と(ウメ)(シン)の耳をそのまま舜啓(シュンケイ)が引っ張っている。


「だいたい忋抖(カイト)だけ(ズル)いんだよ。最初に悧羅(リラ)(ユズ)ったのは(オレ)なんだけど、そこんとこ(ワス)れてんじゃない?で、悧羅(リラ)の子って1番目は(オレ)ですけど?」


(ワス)れてないって。忋抖(カイト)に関しては年季(ネンキ)(チガ)うから、そこは()み込んでくれ」


「ふーん、…まあそこら辺は忋抖(カイト)に聞くから良いけどさ。だけど!(シン)がいない間、悧羅(リラ)(ササ)えてたのは(オレ)なんだからね?悧羅(リラ)も置いて行こうなんて考えたら怒るよ?」


ふんっ、と耳から手を(ハナ)した舜啓(シュンケイ)にじろりと(ニラ)まれて(シン)悧羅(リラ)も小さく(ワラ)うしかない。ただ幼子(オサナゴ)たちは成熟(セイジュク)した時にそれぞれの意思をきいてからと話がまとまったが、樂采(ガクト)だけは今が良い、とごねた。


誓約(セイヤク)してしまわば樂采(ガクト)定命(ジョウミョウ)(ミジ)こうなってしまうに」


()いて聞かせる悧羅(リラ)樂采(ガクト)は、もう!、と(ホオ)(フク)らませて見せる。


「そんなの悧羅(リラ)ちゃんが長生きすれば良いだけでしょ!」


当たり前のように言い切った樂采(ガクト)(ミナ)がきょとりとしたが、確かにと(ウナズ)けてしまった。


「ほら、早く!」


うふふっと(ワラ)樂采(ガクト)に背を押されるように、10(トオ)と3つの鬼火(オニビ)(アラワ)れて()らめき始めた。


()(アルジ)()(アルジ)


小生(ショウセイ)どもをお(ワス)れではございませぬか?』


(オレ)の背に乗っておけば、皆同じ(トコロ)(カエ)れるぞ】


喜々(キキ)として()()眷属(ケンゾク)たちの(コウベ)其々(ソレゾレ)()でながら悧羅(リラ)は、すまぬ、と()びてしまう。


(ワレ)らの(アルジ)は広き()において悧羅(リラ)(サマ)(タダ)おひとり。(タガ)うモノに(ツカ)えよ、と申されてもその(メイ)のみは承服(ショウフク)いたしかねましょう”


『まことそうでございますね。若君方(ワカギミガタ)姫君方(ヒメギミガタ)ならいざ知らず』


(オレ)(アルジ)()れこんだだけだ】


さあ、と()べる眷属(ケンゾク)の前にも3つの鬼火(オニビ)(アラワ)れた。


(ミナ)が思い思いの箇所(カショ)(キズ)を付けると、血がするりと吸い込まれていく。


()誓約(セイヤク)()(シバリ)において(ワラワ)よりかるることまかりならず。(ワラワ)定命(ジョウミョウ)()きし(トキ)(トモ)()てゆかん」


「「「「()」」」」


(ワラ)いを(フク)んだ声を巻き込んで鬼火(オニビ)(ホムラ)に変わるのを見つめていると、(シン)悧羅(リラ)(ホオ)口付(クチヅ)けた。


簡単(カンタン)(カエ)れなくなっちゃったねえ」


「ほんに、なれど(ハナ)れておったよりも(ナゴ)(トモ)におれるようになったは(ヨロコ)ばしゅうあるの」


くすくすと(ワラ)い合っていると部屋の(ホムラ)が消えた。わらわらと各々(オノオノ)についた(ハス)(イン)の位置を確かめ合っている姿を微笑(ホホエ)んで見ながら、荊軻(ケイカツ)悧羅(リラ)に声を掛けた。


慶事(ケイジ)()ろしますのは明日(アス)昼前(ヒルマエ)(ヨロ)しゅうございますね。忋抖若君(カイトワカギミ)につきましても、同じく」


「よきに」


微笑(ホホエ)んで(コタ)えた悧羅(リラ)(ウデ)の中で、びくりと忋抖(カイト)(フル)えると(サラ)に強く抱きつかれる。


「どうした?忋抖(カイト)?」


見えている耳を()()りながら、きょとりと(シン)(タズ)ねると、余計(ヨケイ)悧羅(リラ)にしがみついていく。


「いや…、ほんとに大丈夫(ダイジョウブ)かなって…」


ぼそりと(ツブ)やかれた声に(シン)悧羅(リラ)は目を合わせて苦笑(クショウ)する。ふはっと(ワラ)いながら忋抖(カイト)(カミ)をかき()ぜた(シン)は、荊軻(ケイカツ)()んだ。


「悪い、荊軻(ケイカツ)(オレ)悧羅(リラ)(ニン)なんだけど、()()()()返してもいいか?」


突拍子(トッピョウシ)もない発言に重鎮達(ジュウチンタチ)一瞬(イッシュン)、は?、という顔をしたが(シン)忋抖(カイト)を見たことで言わんとすることが知れた。ああ、と大きく(ウナズ)きながら重鎮達(ジュウチンタチ)も目を合わせて苦笑(クショウ)する。ほんの少しの荒療治(アラリョウジ)を手助けしなければならないようだ。


(ニン)をお返しになりたいとは(オサ)近衛隊(コノエタイ)隊長(タイチョウ)(ニン)のこと、でございましょうか?」


「そうそう」


理由(ワケ)をお(ウカガ)いしても?」


ふふっと(ワラ)い出しそうになったのを(コラ)えたのは荊軻(ケイカツ)だけではない。栄州(エイシュウ)枉駕(オウガイ)など(スデ)(コラ)え切れず(カタ)(フル)わせている。


「だって忋抖(カイト)が里の民達(タミタチ)に知れたら(オレ)悧羅(リラ)の名が傷付(キズツ)くって言うんだよ。灶絃(ソウゲン)も気にしてたし、だったら()めた方が話が早いだろ」


灶絃(ソウゲン)の名に栄州(エイシュウ)枉駕(オウガイ)荊軻(ケイカツ)を見ると、手でだけ灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)(シメ)して教えておいた。2人も声を上げて喜びたいのだろうが、今は声を出しては(ワラ)いだすと思ったのか必死(ヒッシ)(コラ)えてくれている。


「そうでございますねえ、では慶事(ケイジ)と共にその(ムネ)()ろすといたしましょう」


「は!?」


()(オドロ)いたのか忋抖(カイト)が勢いよく荊軻(ケイカツ)を見た。


「特に(コマ)るということでもございませんし。それで若君方(ワカギミガタ)御心(ミココロ)(ヤス)らかになると紳様(シンサマ)がお考えなのでしたら、よろしゅうございますよ」


「いやいや!荊軻(ケイカツ)さん、何言ってんの!駄目(ダメ)でしょ!?」


ふふっと(ワラ)荊軻(ケイカツ)忋抖(カイト)が急いで首を()るが身体(カラダ)悧羅(リラ)から離したくはないようで動こうとはしない。その(サマ)にもまた苦笑(クショウ)しながら荊軻(ケイカツ)も、いいえ、と言ってのけた。


他者(タシャ)(サイワイ)面白(オモシロ)可笑(オカ)しく話す者たちなど(ホウ)っておいて良いのです」


「いや、そんな…ええ?」


言葉を(ウシナ)忋抖(カイト)荊軻(ケイカツ)が少し大仰(オオギョウ)に頭を(ヒネ)って見せ始めた。


「…となれば私共(ワタクシドモ)が里に残り(タミ)(マモ)道理(ドウリ)もございませんね。…(オサ)、次は何処(イズコ)(サト)(カマ)えましょう?またヒトの子の(クニ)にでも()りられますか?」


「それもよろしゅうあるの。どれ、枉駕(オウガイ)其方(ソナタ)ちいとばかり良き(トコロ)(サガ)して(マイ)りゃ。栄州(エイシュウ)がおるに心地良(ココチヨ)(トコロ)での」


「かしこまりまして」


くすくすと(ワラ)いながら(メイ)を出す悧羅(リラ)枉駕(オウガイ)も、わはは、と(ワラ)う。(シン)など、そこでは何して過ごそうか、などと話しだしてしまって忋抖(カイト)が、ちょっと待ってってば!と声を張り上げた。


「いやいやいやいや、無理(ムリ)だって!何言ってんの!っていうか出て行くのに荊軻(ケイカツ)さんたちまで来たら一緒(イッショ)じゃない!?」


(オサ)近衛隊(コノエタイ)隊長(タイチョウ)()を捨てる、と言っているのに他の(トコロ)で里を(カマ)えて、またその()()くなど矛盾(ムジュン)している。何よりまた一から里を(キズ)くなど途方(トホウ)もないことだ。


「そうは申されましてもねえ、紳様(シンサマ)(オサ)()めると(オオ)せでございますし、此処(ココ)では若君方(ワカギミガタ)御心(ミココロ)が休まらない。となれば新地(シンチ)(ウツ)理解(リカイ)してくれる者たちとだけ過ごす方がよろしい。ああ、ご(アン)じなさらずとも500年もあれば里は(ウルオ)いますし、(オサ)から離れよと(モウ)されましても()()(ムズ)かしくなってしまいましたので。私共(ワタクシドモ)も付いて行かねばならないのですよ。本当に(コマ)ったものです」


手を()げた荊軻(ケイカツ)の指に誓約(セイヤク)(ハス)が見えている。確かに(ハナ)れられないのだろうが、だからと言って(オサ)近衛隊(コノエタイ)隊長(タイチョウ)(ニン)容易(タヤス)()くなど馬鹿(バカ)げている。


そう、馬鹿(バカ)げた話だ。


そこでようやく忋抖(カイト)も、あ、と気付(キヅ)く。ばっと(シン)を見ると悪戯(イタズラ)()みを(タタ)えながら、忋抖(カイト)の頭を()で続けているのが見えた。


「…(ハカ)ったね?」


じろりと(ニラ)むと(コラ)え切れなくなった(シン)(ハラ)(カカ)えて(ワラ)い始めた。


「だってお前!いつまでも、つまらないことばっかり気にするからさあ!」


父様(トウサマ)っ!!」


ひーひーと(ハラ)(カカ)える(シン)(ハタ)くと余計(ヨケイ)(ワラ)い転げている。釣られるように重鎮達(ジュウチンタチ)まで(ワラ)い出して、もうっ!、と忋抖(カイト)悧羅(リラ)に抱きつくと、そちらもまた小さく(カタ)(フル)わせて(ワラ)っている。


悧羅(リラ)まで?もう、こっちは真剣(シンケン)(ナヤ)んでんだよ?」


「おやまあ、それはすまぬことをした。なれどこれでようと分かったであろ?(シン)(ワラワ)にとりて、忋抖(カイト)らの方がどれほど(イト)しゅうあるか。名も()()しゅうない。(ミナ)にしかと見せておいでやし。忋抖(カイト)(ダレ)の者であるか、との」


くすくすと(ワラ)われながら()まれた右耳(ミギミミ)(サワ)られて、忋抖(カイト)(アキラ)めるしかない。わかったよ、と(カタ)を落とすと満足(マンゾク)したのか(シン)忋抖(カイト)の耳を()()った。


「だいたい、()()見た(ダレ)かが(ミョウ)なこと言い出せるなら、そっちに会ってみたいもんだけどね。()()にまた(ソロ)いまで着けられたんじゃあ、どっちが(ツレアイ)か分かんないぞ?」


「いったいって!(オレ)見てないんだし分かんないだもん。そんなに(チガ)うの?」


ぎりぎりと()()られながら(タズ)ねる忋抖(カイト)に少し待つように悧羅(リラ)が言うと、(シルシ)の見せ合いが終わったのか子どもたちが(ソバ)(スワ)り始めた。そこでようやく荊軻(ケイカツ)栄州(エイシュウ)枉駕(オウガイ)に、灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)のことを伝えると、場に居た磐里(バンリ)加嬬(カジュ)まで大喜びしている。啝咖(ワカ)もこれだけの(サワ)ぎの中では(カク)れていることが出来なくなったようで、顔を見せていた。


「何とまあ、心魂(シンコン)(ツガイ)とは。(ジイ)が生きておる内に、()()(マミ)えるなど、ほんに長生きはするものですなあ」


何処(ドコ)()き物でも落ちたように(オダ)やかな顔をした啝咖(ワカ)の手を栄州(エイシュウ)が取ると、うんうん、と(ウナズ)く。


灶絃若君(ソウゲンワカギミ)(カタ)()(オロ)してくださったか。そうかそうか。若君(ワカギミ)(オロ)()くすまでは今(シバラ)くかかろうが、ようと(アマ)やかしておやりなされ」


(マカ)せて、啝咖(ワカ)(アマ)やかすのは得意(トクイ)だ」


にっと(ワラ)って(コタ)えた灶絃(ソウゲン)(ウデ)はしっかりと啝咖(ワカ)(マワ)されている。それにくしゃりと(ワラ)った栄州(エイシュウ)(イトマ)()げると、荊軻(ケイカツ)枉駕(オウガイ)()すことを()げた。


(キュウ)()びたてて(ワル)かったな」


「なんの、()()()()寝所(シンジョ)に飛び込みました(ユエ)、これで手打(テウ)ちでよろしいかと」


「あー、あったねえ。でも、これじゃあ()り合いがとれないよ?」


睚眦(ガイシ)栄州(エイシュウ)を乗せながら、にやりと(ワラ)枉駕(オウガイ)(シン)(カタ)(スク)めた。


枉駕(オウガイ)(アマ)やかしてはなりませんよ。(ワタクシ)など哀玥(アイゲツ)(クワ)えられたのですからね」


「いや、それは本当にごめんって」


顔の前で手を合わせて見せる(シン)に、まあ、と荊軻(ケイカツ)微笑(ホホエ)む。


()()()()、長く共におらねばならぬようでございますし?その内にでも()びをいただけると思っておきますよ」


「…うわあ、…1番(コワ)いやつだ…」


少し青褪(アオザ)めた(シン)(ワラ)いを残して睚眦(ガイシ)が泳いでいくと、さあさあ、と磐里(バンリ)加嬬(カジュ)が茶を持って入ってきた。


一息(ヒトイキ)おつきくださいませ」


(レイ)を言いながら(ミナ)が受け取る中で忋抖(カイト)だけが動こうとしない。


忋抖(カイト)、そろそろ返してくんない?」


無理(ムリ)


無理(ムリ)って、お前」


(カブ)気味(ギミ)(イナヤ)を言う忋抖(カイト)に、おやまあ、と悧羅(リラ)(ワラ)いながら(アタマ)()でる。


「どれ、忋抖(カイト)。少しばかり(チャ)をもろうてゆるりといたそう。忋抖(カイト)(ツロ)うあったであろ?(ワラワ)忋抖(カイト)(ヒザ)()りておれば(ハナ)るることもなし(オソロ)しゅうもなかろう?」


「…それなら、まあ…。父様(トウサマ)が取らないならね」


くすくすと(ワラ)われながら悧羅(リラ)(ウナガ)されて渋々(シブシブ)と手を(ハナ)した忋抖(カイト)(ヒザ)悧羅(リラ)苦笑(クショウ)しながら(スワ)(ナオ)すと、すぐに背中(セナカ)から抱きしめられた。


樂采(ガクト)父様(トウサマ)(ヒザ)(スワ)ってて」


悧羅(リラ)を取られないように忋抖(カイト)が願うと、はあい、と良い返事(ヘンジ)をして樂采(ガクト)(シン)(ヒザ)(スワ)っている。


容赦(ヨウシャ)がないなあ、忋抖(カイト)。なあ、樂采(ガクト)?お前の父様(トウサマ)(オレ)意地悪(イジワル)するんだけど、(オコ)んなくていい?」


「右手だけなら()してあげるよ」


「いやいや、(ギャク)だろうがよ?」


苦笑(クショウ)する(シン)悧羅(リラ)の右手が()ばされて、嘆息(タンソク)しながら取ると(チギ)りの(キズ)(カサ)なる。


「なるほど、()ね」


「そのようだ」


悧羅(リラ)と目を合わせて(ワラ)い合うと、うわあ、と姚妃(ヨウヒ)(アキ)れて嘆息(タンソク)している。


「何だか父様(トウサマ)が2人いるみたい。母様(カアサマ)大丈夫(ダイジョウブ)?その2人って()てしなく(オモ)いよ?」


(タズ)ねる姚妃(ヨウヒ)首筋(クビスジ)に小さな(ハス)()いているのが見える。私、無理(ムリ)かも、と(アキ)れている姚妃(ヨウヒ)悧羅(リラ)はころころと(ワラ)って見せた。


()(ツブ)すほどに(オモ)うてもらえるなど(ウレ)しゅう思えど(ワズラ)わしゅうなどならぬよ。姚妃(ヨウヒ)とて()()()()()分かる時がこようて」


(アデ)やかに微笑(ホホエ)悧羅(リラ)に、そうかなあ?、と首を(カシ)げる姚妃(ヨウヒ)苦笑(クショウ)して見やりながら、そういえば、と(シン)(ミナ)(タズ)ねる。


「お前ら何処(ドコ)悧羅(リラ)(シルシ)入れたんだ?」


(シン)の問いかけに(ミナ)自慢気(ジマンゲ)(ウデ)(アシ)などを見せる中、啝咖(ワカ)が大きく嘆息(タンソク)した。


「どうした?」


首を(カシ)げた(シン)啝咖(ワカ)が、本当にどうにかして、と哀願(アイガン)する。


「そう、そうなのよ。普通(フツウ)に考えつくのは()()()()()()なのよ。身体(カラダ)何処(ドコ)かってそういうことよね。…なのに灶絃(ソウゲン)ったら…」


深い嘆息(タンソク)(ミナ)(イヤ)予感(ヨカン)(オボ)えると、にっと(ワラ)うと自分の左目を(シメ)した。


「「「「はあ!?」」」」


「そ、灶絃(ソウゲン)っ!ちょっとこっちに来い!」


何処(ドコ)までぶっ飛んでんだよ、お前は…」


(アワ)てて()(シン)に、えー?、と(ワラ)いながら灶絃(ソウゲン)()ると忋抖(カイト)も頭を(カカ)えている。(シャガミ)こんだ灶絃(ソウゲン)の顔を(ツカ)まえて(シン)(アラタ)めると灰色(ハイイロ)(マナコ)に、しっかりと(ハス)(キザ)まれてしまっている。


「お前はどうしてそう(ナナ)め上のことばっかりするんだよ?見え方は?どうもないのか?」


あーもう!、と嘆息(タンソク)する(シン)に、けらけらと(ワラ)いながら灶絃(ソウゲン)は手を伸ばされて悧羅(リラ)にも見せている。


「むしろ、前より見えるくらいだよ?だって母様(カアサマ)(シルシ)だよ?(ダレ)からでも見える(トコロ)がいいじゃない」


灶絃(ソウゲン)は見えずともよろしかったのかえ?」


苦笑(クショウ)する悧羅(リラ)(タズ)ねられた灶絃(ソウゲン)(カタ)(スク)めた。


()()なんていくらでもあるよ。(カガミ)でも水面(ミナモ)でも(ヤイバ)でも。啝咖(ワカ)もいるから目に(ウツ)れば見たい時に見れる」


にっと(ワラ)灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)嘆息(タンソク)しているばかりだ。忋抖(カイト)手招(テマネ)きされて動きながら、それに、とまた悪戯(イタズラ)(ワラ)う。


()()に入れたの(オレ)だけじゃないし?なあ、樂采(ガクト)?」


飛び出した名に忋抖(カイト)(オドロ)いて(ツカ)んでいた灶絃(ソウゲン)の顔を引き(タオ)した。父様(トウサマ)!、と忋抖(カイト)(サケ)ぶより先に(シン)樂釆(ガクト)の顔を(ツカ)んで上向(ウワム)かせて確かめている。


「…うっそだろお…」


漆黒(シッコク)瞳孔(ドウコウ)一輪(イチリン)(ハス)()いているのが見えて、(シン)は大きく嘆息(タンソク)してしまう。


「え?ここが1番良いよ?妲己(ダッキ)ちゃんも(アイ)ちゃんも(ガイ)ちゃんも一緒(イッショ)だし。(シン)くんもしてもらう?」


「うーん、樂采(ガクト)、そうじゃないんだなあ」


きょとりとして言い(ハナ)樂采(ガクト)苦笑(クショウ)して忋抖(カイト)に見せてくるように言うと、いいでしょ?、とにこにことして見せている。


「…いや、もう。この思い切りの良さは(ダレ)()たんだよ…。うん、樂采(ガクト)が良いなら良いんだけどね?(トウ)さまは今日、(シン)(ゾウ)が何個あっても()りなくなったと思うよ…」


がっくりと項垂(ウナダ)れた忋抖(カイト)に、ええ?、と樂采(ガクト)が目を丸くしている。


大丈夫(ダイジョウブ)だよ、(トウ)さま。びっくりした分はちゃんと返ってきたでしょ?」


とんとん、と耳を(シメ)されて首を(カシ)げる忋抖(カイト)(シン)()き出してしまう。


「確かに樂采(ガクト)の言う通りかもな。灶絃(ソウゲン)で1回、忋抖(カイト)で1回。最後に(シルシ)で1回。全部で3回だもんな。忋抖(カイト)(シルシ)と同じ数だ。返ってきてるじゃないか」


ははっと(ワラ)った(シン)の言葉に、子どもたちが3つ(ミッツ)?、と忋抖(カイト)を取り(カコ)み始めてしまう。わらわらと()ってこられて耳を引っ張られ続ける忋抖(カイト)悧羅(リラ)から手を(ハナ)してしまうと、すかさず(シン)(ウバ)い取って口付(クチヅ)けた。


「ちょ、ちょっと!いてえって!あー、ほら悧羅(リラ)取られたじゃないか!」


(ウルサ)い!ちょっと見せろ!!」


「第一!忋兄(カイアニ)に聞きたいこと山程(ヤマホド)あるんだからね!」


(ニギ)やかな中に(カコ)まれる忋抖(カイト)を見ていると(ワラ)い声が聞こえてくる。久方(ヒサカタ)ぶりに聞こえた忋抖(カイト)の心からの(ワラ)い声に(シン)悧羅(リラ)を強く抱きしめる。


「ありがとうね、悧羅(リラ)


「なんの、(ワラワ)の方こそ(レイ)を申さねばなるまいよ」


ふふっと(ワラ)いあって(フカ)口付(クチヅ)けていると、とんとん、と(シン)(カタ)樂采(ガクト)(タタ)いた。()り向いた(シン)に、ね?、と微笑(ホホエ)んでいる樂采(ガクト)には(シン)苦笑(クショウ)するしかない。


確かに()()()しかなかった。


「助かったよ、樂采(ガクト)。ありがとうな」


「どういたしまして」


ふふっと(ワラ)樂采(ガクト)が、ちょいちょい、と(シン)手招(テマネ)きする。ん?、と顔を近付(チカヅ)けるとこそこそと耳打(ミミウ)ちされた内容(ナイヨウ)に、(シン)はますます苦笑(クショウ)する。


(シン)くんと(ボク)だけの()めごとね?」


そう言って口に(ユビ)を立てた樂采(ガクト)は、幼子(オサナゴ)(コロ)忋抖(カイト)にそっくりで(シン)は声を上げて(ワラ)ってしまった。


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