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唯一【拾壱】《ユイイツ【ジュウイチ】》

更新します。

宮の中が()れたのは(アク)る日の夕餉(ユウゲ)(アト)だった。


(ヒサ)しぶりに夕餉(ユウゲ)(ジカン)にみんなが(ソロ)ったなあ」


(ヨロコ)(シン)悧羅(リラ)(カコ)んで、さてどう切り出そうか、と(カンガ)えていた灶絃(ソウゲン)の思いは樂釆(ガクト)一言(ヒトコト)で何なく打ち(クダ)かれた。


啝咖(ワカ)ちゃん、お(ヨメ)さんになれたでしょ?」


9つ(ココノツ)になった樂采(ガクト)皓滓(コウサイ)の横に(スワ)っているが、その(ウデ)には赤子(アカゴ)(ツカ)まっている。(ツカ)んだ樂采(ガクト)(ササ)えにして立っているのは、ひとつを(ムカ)えた皓滓(コウサイ)加嬬(カジュ)の子だ。珩冥(ギョウメイ)名付(ナヅ)けられた子は紅玉(コウギョク)(カミ)樂釆(ガクト)に押し付けながら立つと(スワ)るを()り返している。珩冥(ギョウメイ)手伝(テツダ)いながらそれも何でも無いことのように言った樂采(ガクト)に、は?、と(ミナ)視線(シセン)が集まった。


「え?樂采(ガクト)、いきなり何言ってんの?」


1番近くに居た皓滓(コウサイ)(タズ)ねながら忋抖(カイト)視線(シセン)を送るが、知らないよ、と手を()っている。いきなり言い当てられた啝咖(ワカ)(アワ)てたように立ち上がって樂采(ガクト)()()る間にも飄々(ヒョウヒョウ)として珩冥(ギョウメイ)の手をとって遊んでいる。


(ボク)言ってたでしょ。3年したら啝咖(ワカ)ちゃんはお(ヨメ)さんになれるって。なれたでしょ」


樂采(ガクト)!」


それ以上話させないように啝咖(ワカ)樂采(ガクト)を勢いよく()()せるのと、皓滓(コウサイ)珩冥(ギョウメイ)が転ばないように(ササ)えたのは同時だった。


啝咖(ワカ)態度(タイド)でその場の(ミナ)にも樂采(ガクト)の言っていることが真実(シンジツ)だと伝わったようだが、一様(イチヨウ)(カタ)まってしまっている。


これはやばいかなあ。


灶絃(ソウゲン)がちらりと(シン)を見ると(オドロ)き過ぎているのか一片(イッペン)も動かない。この中で(ドウ)じていないのは哀玥(アイゲツ)だけかとそちらを見ると忋抖(カイト)の横で、こちらもまた目を見開(ミヒラ)いていた。どうやら泣かせるなとは言ったものの()()()()とまでは考えていなかったようだ。


まあ、それはそうだろう。

(トウ)灶絃(ソウゲン)でさえ()そうとまで思っていなかったのだから。


だがまずはこの沈黙(チンモク)困惑(コンワク)をどうにかしなければならないだろう。とはいえどう切り出したらいいものかと(ナヤ)灶絃(ソウゲン)の見ている先で、ふふっと(ワラ)ったのはやはり悧羅(リラ)だった。


(シン)


(カタ)まってしまって動かない手から(サカズキ)を受け取りながら悧羅(リラ)(シン)(アシ)()れる。


「あー…っと…、うん、はい?!」


(ワレ)に返ったようだがまだ状況(ジョウキョウ)()み込めない(シン)(アシ)悧羅(リラ)が、ぽんぽんと(タタ)いた。


(シン)も心(オダ)やかではなかろうが、まずは話を聞いてやらねばなるまいよ?」


微笑(ホホエ)んで悧羅(リラ)()(シメ)した方を(シン)が見ると樂采(ガクト)を強く抱きしめたまま動けないでいる啝咖(ワカ)が見えた。啝咖(ワカ)(ウデ)(トラ)われた樂采(ガクト)が、啝咖(ワカ)ちゃん苦しい、とぼやいている声だけが部屋で唯一(ユイイツ)聞こえている。


確かにこれは(ホウ)けている場合(バアイ)ではない。

大きく嘆息(タンソク)して頭を2.3度()って気を取り(モド)す。


啝咖(ワカ)


()びかけた(シン)の声に啝咖(ワカ)身体(カラダ)傍目(ハタメ)からでも分かる(ホド)(フル)え上がった。(オビ)えさせないようにしたつもりだが、()()中で名を()ばれること自体(ジタイ)(オソ)ろしいのだろう。


啝咖(ワカ)ちょっとおいで?」


もう一度()んでみたが啝咖(ワカ)は首を()って余計(ヨケイ)樂采(ガクト)を抱きしめている。


「別に(シカ)ったりしないんだけどなあ」


やれやれ、と苦笑(クショウ)しながら立ちあがろうとした(シン)を、父様(トウサマ)、と灶絃(ソウゲン)()び止めた。


「何だよ?」


(シン)()り返ると悪戯(イタズラ)(ワラ)いながら灶絃(ソウゲン)がひらひらと手を()げている。


(オレ)なんだよね」


「なにが?」


(チギ)りの相方(アイカタ)


「……はい……?」


本日2度目の唐突(トウトツ)過ぎる話に(シン)はまた(カタ)まってしまった。


「だから啝咖(ワカ)(チギ)ったのは、(オレ)


「はあ?!」


ひらつかせていた手で自分を(シメ)して(ワラ)っている灶絃(ソウゲン)(シン)だけでなく、その場の(ミナ)驚愕(キョウガク)した。


灶絃(ソウゲン)!?あんた何してんの!」


「待って、まったく意味(イミ)が分かんない!」


「え?え?何で?何がどうなってんだよ!」


“【…若君(ワカギミ)…】“


何重(ナンジュウ)にも錯綜(サクソウ)する声で混乱(コンラン)した部屋で灶絃(ソウゲン)はけらけらと(ワラ)っているが、啝咖(ワカ)一層(イッソウ)小さくなっている。この状況(ジョウキョウ)には流石(サスガ)(シン)でも(サケ)びたくなってしまった。


「…あー…、まあ、とりあえず、だ」


(スワ)(ナオ)して大きく嘆息(タンソク)した(シン)手招(テマネ)きすると灶絃(ソウゲン)は、にこにこと(ワラ)いながら前に(スワ)った。


「ちょっと(ジュン)()って話してくれ…。頭ん中がぐちゃぐちゃだ…」


(ワラ)ったままの灶絃(ソウゲン)に伝えると(カタ)(スク)めている。


「もちろん。でもちゃんと(オレ)が話すから()()()はもうちょっとだけ、そっとしといてくれる?」


苦笑(クショウ)しながら灶絃(ソウゲン)(シメ)す方には啝咖(ワカ)がいる。確かに今すぐに啝咖(ワカ)を引き合いにだすのは(ツラ)いだろう。(ダレ)とも知らない者であったならば啝咖(ワカ)に聞かなければならないが、灶絃(ソウゲン)名乗(ナノ)り出た時に何も言わなかったということは(カバ)っている訳ではなさそうだ。


分かった、と(シン)(ウナズ)くと悧羅(リラ)妲己(ダッキ)(タノ)んでくれている。


「すまぬが啝咖(ワカ)(ソバ)におっておくれやし」


御意(ギョイ)に”


悧羅(リラ)背後(ハイゴ)(ハベ)っていた妲己(ダッキ)啝咖(ワカ)(ハベ)るのを見届(ミトド)けてから、(シン)灶絃(ソウゲン)に向き(ナオ)る。にこにこと(ワラ)っている灶絃(ソウゲン)(シン)も何から聞けば良いのか分からなくなってしまうが、()にも(カク)にも確かめなければならないだろう。


「それで、(チギ)ったっていうのは本当なのか?」


「あ、そっちから聞いちゃうの?うん、(チギ)った」


結果(ケッカ)から聞いた(シン)灶絃(ソウゲン)は、けろりとした顔で(コタ)えた。


(チギ)ったって、…お前ねえ」


(アマ)りにも何でもないことのように話す灶絃(ソウゲン)(シン)嘆息(タンソク)してしまった。『(チギ)りを(ムス)ぶ』ということがどのようなことであるのかは、子どもたちが(オサナ)(コロ)から教えていた。自分の生涯(ショウガイ)で命を()けても良いと思える唯一(ユイイツ)を見つけられるように、言葉(コトバ)でも態度(タイド)でも(シメ)してきたつもりだ。(シン)悧羅(リラ)唯一(ユイイツ)として過ごす日々の中で子どもたちも一緒(イッショ)()()()()()()()()()()()()()()(マナ)んでくれていると思っていたが勘違(カンチガ)いだったのかとも思えてしまう。頭を(カカ)えてしまいそうになる(シン)の考えを読んだのか灶絃(ソウゲン)(ワラ)った。


大丈夫(ダイジョウブ)父様(トウサマ)()()()()分かってるよ」


「なら良いんだけど、分かってるように見えないんだよなあ。何がどうしたらいきなり(チギ)るなんてことになるんだよ?」


「まあ、そうなるよねえ」


(カタ)を落とした(シン)苦笑(クショウ)しながら灶絃(ソウゲン)居住(イズ)まいを(タダ)した。


「いろいろな順序(ジュンジョ)を飛ばしたのは(モウ)(ワケ)ないって思ってるよ。ただ、父様(トウサマ)母様(カアサマ)(シラ)せや相談(ソウダン)もする(イトマ)()しかったってのはわかってほしい」


(イトマ)()しかったって、…何かあったのか?」


(イブカ)しんで(マユ)()せた(シン)灶絃(ソウゲン)は小さく首を()った。話せないことというよりは()()()では言えないことなのかと思っていると灶絃(ソウゲン)の口が『あとで』と形作(カタチヅク)った。(シン)悧羅(リラ)にだけ見えるようにした灶絃(ソウゲン)の行動で自分たちに(カカ)わることだと知れる。ぽん、と(アシ)(タタ)いた悧羅(リラ)も同じことを感じたようだ。(シン)が小さく()(シメ)すと心無(ココロナ)しか灶絃(ソウゲン)もほっと安堵(アンド)したようだ。


「でもいきなり(チギ)りを(ムス)ぶことまでしなきゃならなかったのか?灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)()()()(ナカ)じゃなかっただろ?」


「そうだねえ、6月(ムツキ)くらい前に1回だけ()()()()()()()()かな。でもその時だけだよ。昨日(キノウ)まで本当に何も無かったから」


「それでどうして(チギ)りまで(ムス)ぼうとするのか(オレ)には理解(リカイ)(ガタ)いんだよなあ。()()()()(ナカ)だった、とか()がれてたとかならまだ分かりやすいんだけど…。悧羅(リラ)、分かる?」


(アシ)に置かれたままの手を(ニギ)って悧羅(リラ)を見ると静かに微笑(ホホエ)んでいる。子どもたちから何か大事な話がある時に悧羅(リラ)が口を(ハサ)むことは少ない。(オサ)ではあるがその前に(シン)伴侶(ハンリョ)である、ということに(オモ)きを置いてくれているから(シン)が決めたことに(イナヤ)を伝えることもない。それだけ(シン)信頼(シンライ)してくれているからこそだ。もちろん(シン)(モト)めた時はきちんと(コタ)えてくれるが、あくまで血族(ケツゾク)のことの決定権(ケッテイケン)(シン)(アズ)けてくれている。


だが今の悧羅(リラ)(ニギ)った手を指でなぞっている。それは灶絃(ソウゲン)から話してもらわなければ(カク)たる言葉(コトバ)を伝えてやれないということなのだろう。


「そこに関しては(オレ)不可思議(フカシギ)(トコロ)があるから母様(カアサマ)に聞きたいトコでもあるんだけど。とりあえず確信(カクシン)として言えるのは(オレ)唯一(ユイイツ)啝咖(ワカ)だって教えてくれたモノがあった」


「教えてくれたモノ?」


きょとりとする(シン)灶絃(ソウゲン)はしっかりと深く(ウナズ)く。(ツナ)がった時の()()感覚(カンカク)をどう伝えればいいのか(ナヤ)んでしまう。灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)の間にしか感じられないことだし、理解(リカイ)(ガタ)いことだとも思うが伝えねば話が進まないし、むしろ(シン)なら分かるかも知れないとも思う。


「うーん、上手(ウマ)く言えないんだけど本能(ホンノウ)からくるのかなって思う。啝咖(ワカ)(ツナ)がると自分の意思(イシ)とは(カカ)わりなく()()()身体(カラダ)の中で起こるんだ。啝咖(ワカ)も同じらしいよ」


「…()こるねえ…。それってどんな?」


首を(カシ)げる(シン)がほんの少し目を開いたが、灶絃(ソウゲン)はしっかりと(ウナズ)いている。少し視線(シセン)()せた(シン)の手を(ニギ)る手にほんの(ワズ)かに力が込められた。


「ええっとねえ、…1番近いのは雷鳴(カンナリ)かなあ」


「うん?」


首を(カシ)げてしまったが、灶絃(ソウゲン)()わんとすることを(シン)()()()()()

()がれ続けた悧羅(リラ)をようやく(カイナ)(オサ)めることが出来た()()()()(シン)悧羅(リラ)の間にもあったものだから。


(ツナ)がれた時に走る身体(カラダ)()()ける()()痛みを言葉(コトバ)(アラワ)すのは(ムズカ)しいが、灶絃(ソウゲン)(アラワ)したものは(マト)()ているように思う。


「雲の中を(トオ)る時とか(ハジ)いた時とか、後にちょっと指先(ユビサキ)にぴりってしたの残るでしょ?あれに1番()てるかも」


「…うん」


確かに、という言葉を今は()み込んでおく。()()感覚(カンカク)不可思議(フカシギ)なもので(シン)()にも、今でも思い出したように時々起こる。悧羅(リラ)も感じてはいるようだが()()()()について特に話したことはない。何かを知ってはいるのは間違(マチガ)いないのだが(ワラ)ってくれているし、その程度(テイド)のものだろうと思っていた。悧羅(リラ)以外と(チギ)りを(ムス)びたいなど考えたことも無いが(マン)(イチ)悧羅(リラ)出逢(デア)えておらず(ホカ)の者と(チギ)っていたら、その者との間でも()()は起こっていたかもしれない。


その程度(テイド)のことだと思っていたのだが。

目の前でどう伝えようか考えあぐねて頭を(ヒネ)灶絃(ソウゲン)にとっては()()ではないらしい。


「だけど、それだけで(チギ)りまで(ムス)んだわけじゃないんだろ?」


「まあね、それが1番大きいとは思うんだけど、啝咖(ワカ)がずっと()げるからさ。最初は()げたいならそれでも良いかって思ってたんだけど、時々(トキドキ)すっごい(ムナ)しくて自分が(カラ)っぽになんの。見えてても本当に()()()るって分かるまで、見えない何かに引きずり込まれるっていうのかな。(オレ)だってそれが何か分かんないから()()めようとするじゃない?そうすると(ヨク)だけは()たされるんだけど、何処(ドコ)かは(カラ)っぽのまんまで余計(ヨケイ)(ムナ)しくなるんだ。でも啝咖(ワカ)()れると一瞬(イッシュン)()たされる。それこそ手が()れただけでもね。…父様(トウサマ)なら()()()()()()()()んじゃない?」


「…分かる」


当たり前の様に微笑(ホホエ)まれて(シン)は小さく嘆息(タンソク)した。

見えている、そこに()ると分かっているのに()ないような喪失感(ソウシツカン)

手を()ばせば(トド)くのに()ばせない虚無感(キョムカン)

()()()悧羅(リラ)の手を(ハナ)してしまった()()()から(チギ)りを(ムス)ぶまで(シン)の中にずっと()り続けたものだ。(ニン)を受ける(マバタ)きにも()たない一瞬(イッシュン)邂逅(カイコウ)がほんの一時(ヒトトキ)だけ(オノレ)(ミタ)してくれていた。


()()が分かんのは父様(トウサマ)母様(カアサマ)、後は(カイ)兄様(アニサマ)くらいかな?」


「そこで(オレ)を出すなよ」


にっと(ワラ)って見られた忋抖(カイト)(カタ)(スク)めて嘆息(タンソク)している。


「まあ良いじゃない。本当のことなんだから」


ふふっと(ワラ)った灶絃(ソウゲン)がまた(シン)()(ナオ)ると、で、と先を(ウナガ)される。


絶対(ゼッタイ)(ニガ)したくなかった。どうしても手に入れなきゃならないって思ったんだけど、見ることさえも(コワ)がって()け続けようとするんだもん。()げられるって、分かってくれないって思ったら絶望(ゼツボウ)しちゃって。()げられなくしちゃえば良いって身体(カラダ)が動いちゃった。で、やったら出来ちゃった」


「はあ?出来ちゃった…って、お前なあ!」


とんでもないことを言い出した灶絃(ソウゲン)(シン)は思わず(コシ)()かせてしまう。(チギ)りを(ムス)ぶには(タガ)いの(ダク)()る。一方(イッポウ)(オモ)いだけで()()てしまっては(ジョウ)()わすことが本能(ホンノウ)のひとつである(オニ)根幹(コンカン)()らがす事になるからだ。


「いや、(オレ)も出来るなんて思って無かったって。啝咖(ワカ)(ダク)って言ってくれてなかったし前約(ゼンヤク)ぐらいの(シバ)りか(シルシ)付けが出来たらいいなって思ってたんだもん。実際(ジッサイ)最初(サイショ)に出来たのは()()()()()()()()()()()()


「いやいや、お前…。(シルシ)付けるとかなら皓滓(コウサイ)の時に聞いたけど、前約(ゼンヤク)出来るなんて聞いたことないんだぞ?…あー、もう…」


「だよねえ、(オレ)も何で出来たか分かんないもん」


ついに(アタマ)(カカ)えてしまった(シン)灶絃(ソウゲン)は、またけらけらと(ワラ)い出した。


「まあ本当に前約(ゼンヤク)出来てたんだとしても、()()()()だったら母様(カアサマ)容易(タヤス)()いたと思うよ。それに本当に(チギ)りたいなら(ジュン)()えって父様(トウサマ)に言われるのも分かってたし、そしたら(オレ)がどんなに(イヤ)だって(ウッタ)えて今と同じ話をしても()かれてやり(ナオ)しってなっただろ?」


「…そこは話聞いてからどうしたいか2人に(タズ)ねた上で決めたと思うけどな。だけどそこまで分かってんなら止まっててくれよ…」


ああもう、とますます頭を(カカ)えてしまうと灶絃(ソウゲン)が手を()って見せる。


「止まったら啝咖(ワカ)はまた見ないフリして()げちゃったもん。(オレ)との(エニシ)が見えてるのに(ツカ)むことさえ(コワ)がってたし、()いたらもう考えることさえしなくなったと思う。意地(イジ)でも(エニシ)()ち切って(オレ)が近付くことも(コバ)んだろうね。(オレ)だってそうなってたらきっと(ツブ)れてたよ。だから(ダク)って言ってくれた時にしっかりと(ムス)んだんだ。(ホカ)(ミンナ)だったら待てたかもしれないよ、()()()1()()って。でも(オレ)にとっては()()(トキ)しか無かった、それだけなんだよ」


微笑(ホホエ)みながら言い終わると灶絃(ソウゲン)がゆっくりとその場に()す。頭を下げて行く灶絃(ソウゲン)の顔から()みが消えた。


「いろいろ飛び()して(オドロ)かせてしまってごめんなさい。でも生半可(ナマハンカ)覚悟(カクゴ)()()()()んじゃない。()したことは卑怯(ヒキョウ)だって言われても仕方(シカタ)ないけどやったのは(オレ)啝咖(ワカ)には一片(イッペン)()もない。全部後廻(アトマワ)しになって(モウ)(ワケ)ないんだけど、父様(トウサマ)母様(カアサマ)お願いします。(オレ)啝咖(ワカ)っていう唯一(ユイイツ)(マモ)っていく(ユル)しを下さい」


額付(ヌカヅ)いて(ユル)しを()灶絃(ソウゲン)()は、(シン)にしか分からない程でしかないが小さく(フル)えている。その背中に(シン)(ミナ)が気になっているだろう言葉をかけた。


「…一応聞くけど(アネ)ってなってるのはいいのか?前も言ったけど()()(キン)じてる訳じゃない。ただ(マワ)りは()()思ってる。()()()灶絃(ソウゲン)はどう考えてる?」


問いかけに(ユカ)に付けられた灶絃(ソウゲン)の手が(コブシ)を作った。


()(ツナ)がりでは、でしょ?そこは(クツガエ)せないし(クツガエ)そうとも思ってない。(オレ)たちが父様(トウサマ)母様(カアサマ)の子で姉弟(シテイ)なのは、変えられない事実(ジジツ)だしどうしようもないことだ。だけどそれが何?啝咖(ワカ)母親(ハハオヤ)だろうと姉妹(シマイ)だろうと、何の(ユカリ)のない里の(タミ)だろうと(オレ)啝咖(ワカ)(サガ)したし(エニシ)(ツナ)げたよ。()()()()()(アキラ)められるくらいなら、初めから啝咖(ワカ)()がしてた。(マワ)りがどんなに非難(ヒナン)したとしても、その声は全部(オレ)が受け止める。啝咖(ワカ)がずっと(ワラ)って(カタワラ)に居てくれるなら何でもするし、(ホカ)に何もいらない。だから、お願いします。(オレ)啝咖(ワカ)を護らせて下さい」


(コブシ)(ニギ)った手が(フル)えているのを(ナガ)めながら、(シン)は大きく嘆息(タンソク)した。くれ、と言われても(スデ)灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)(チギ)りを(ムス)んだという。(エニシ)()ち切らせることも出来はするが、きっと()()()()()()()()()()()だ。ちらり、と悧羅(リラ)を見ると多彩花(タオヤカ)微笑(ホホエ)んで灶絃(ソウゲン)の姿を見守っている。(シン)が動くまでは何もするつもりはないのだろうが(ヨロコ)んでいるのは(ツナ)いでいる手が教えてくれた。


まあ、丁度(チョウド)いいのかもしれないな。


()したままの灶絃(ソウゲン)と起こっていることに目を見開いて(サラ)(カタ)まっている啝咖(ワカ)、それを(オダ)やかに見守(ミマモ)っている忋抖(カイト)を見やってから(シン)はもう一度大きく(イキ)()いた。


哀玥(アイゲツ)、悪いんだけど荊軻(ケイカツ)大至急(ダイシキュウ)()れてきてくれ。(クワ)えてでもいい」


御意(ギョイ)


するりと哀玥(アイゲツ)が消えると(シン)は手を()ばして灶絃(ソウゲン)の身を起こさせた。


「やるもやらないも灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)が決めたなら()()()()()(イナヤ)なんてないよ」


小さく(フル)えている(セガレ)(カタ)をぽんぽんと(タタ)いてやると少しずつ力が()けていく。先に話だけでもしてくれていたら、とは思うが出来なかったと言う灶絃(ソウゲン)の言葉を(ウタガ)うつもりもない。血の(ツナ)がりのことも正直(ショウジキ)なところ本当にどうでもいいのだ。ただ、()()()()()()()(モノ)たちも居る中で、灶絃(ソウゲン)がどう思いどう動くのかを聞いておきたかっただけだ。


「だけどお前ひとりで全部の(タテ)にはなるな。何のために(オレ)悧羅(リラ)がいると思ってんだよ?」


ねえ、と悧羅(リラ)を見ると微笑(ホホエ)んで(ウナズ)きながら睚眦(ガイシ)()んでいる。


「すまぬが枉駕(オウガイ)栄州(エイシュウ)をここに。ゆるりとの」


哀玥(アイゲツ)とどちらが(ハヤ)いだろうなあ】


舜啓(シュンケイ)(カタ)に乗っていた睚眦(ガイシ)(メイ)を受けて(ワラ)いながら飛び()りると部屋を出るなり(リュウ)(テン)じて(オヨ)いでいく。それを見送って(シン)灶絃(ソウゲン)の頭を()でる。


灶絃(ソウゲン)(ワス)れるなよ?お前たちは(オレ)悧羅(リラ)(タカラ)なんだ。お前らが背負(セオ)うものも受け()いでくれるものも全部一緒(イッショ)(カカ)えてやるためにいるんだぞ?」


「…そんなの知ってるよ。でも醜聞(シュウブン)とか非難(ヒナン)とか、(オレ)がやらかしたことでまで父様(トウサマ)母様(カアサマ)迷惑(メイワク)かけるのは(チガ)うでしょ?」


(ラク)にするように灶絃(ソウゲン)(ウナガ)しながら(シン)も、よいしょとようやく上げていた(コシ)()ろした。


何処(ドコ)かで聞いたような言葉(コトバ)だなあ?」


ふはっと(ワラ)いながら忋抖(カイト)を見ると、(ウルサ)いよ、と苦笑(クショウ)している。あの時と同じ話を悧羅(リラ)や子どもたち(ミナ)の前でするとは思わなかった。


「そんなんで()らぐような(シン)(キズ)いてきたつもりはないよ。言いたい(ヤツ)には言わせとけ。お前らが何したって(マモ)ってやれるくらいの自信(ジシン)覚悟(カクゴ)もとっくの(ムカシ)から(オレ)らは持ってる。だから安心してちゃんと(タヨ)れ。ちゃんと(マモ)らせろ。それで、ちゃんと(サイワイ)になってくれ」


そうだ。

そんな覚悟(カクゴ)自信(ジシン)など本当にとうの(ムカシ)から持っている。

それこそ子どもたちを(サズ)かったと悧羅(リラ)が教えてくれる(ゴト)に。

()えてくれていく血族(ケツゾク)をこの手に()かせてもらえる(タビ)に。


「だけど父様(トウサマ)母様(カアサマ)()(キズ)がつかない?」


「そんなんなら()らないね」


まだ(カタ)灶絃(ソウゲン)(ヒタイ)小突(コヅ)くと(シン)(ミナ)(ソバ)に来るように(ユカ)(タタ)いた。わらわらと()って灶絃(ソウゲン)を取り(カコ)む中で啝咖(ワカ)灶絃(ソウゲン)の背の後ろに(スワ)ってしまう。こっち、と(シメ)すが(カク)れる啝咖(ワカ)の手を灶絃(ソウゲン)後手(ウシロデ)(ニギ)って(カバ)うと、ほっと安堵(アンド)したように表情(カオ)(ヤワ)らいでいて、それには(シン)苦笑(クショウ)するしかない。


(ウタガ)っていたわけではないが、どうやら本物(ホンモノ)のようだ。


(オレ)近衛(コノエ)隊長(タイチョウ)になったのは悧羅(リラ)(ソバ)に行くためだ。それはもう(カナ)ったから、立場(タチバ)とか名声(メイセイ)とか本当にどうでもいいんだ。そんなんが傷付(キズツ)くくらいでお前らを(マモ)れるなら安いもんだろ?何なら()てたっていい」


「そんなこと父様(トウサマ)にさせらんないよ」


まだ強張(コワバ)ったままの灶絃(ソウゲン)身体(カラダ)(シン)幼子(オサナゴ)をあやすように(タタ)く。


「なんで?」


父様(トウサマ)は里で2番目に強いんだから、そんな容易(タヤス)()てたりしたら母様(カアサマ)民達(タミタチ)(コマ)るだろ?」


少し不貞腐(フテクサ)れたような姿に、まあねえ、と(シン)苦笑(クショウ)しながら、ぽんと灶絃(ソウゲン)の頭に手を乗せる。


「確かに隊長(タイチョウ)って肩書(カタガキ)だし(タミ)(マモ)んなきゃってのはある。強いって言われればそうなんだろうさ。だけどそれは、全部お前らを(マモ)るための力だ。里だ(タミ)だ、とか近衛(コノエ)だからとかってのの前に(オレ)(オレ)で、お前たちの(オヤ)なんでね。悧羅(リラ)とお前ら以上に価値(カチ)のあるものなんてない。捨てて(マモ)れるっていうなら喜んでそっちを取る」


くしゃりと灶絃(ソウゲン)(カミ)をかき混ぜると、ぐっと(イキ)()んでいる。


「でも母様(カアサマ)(オサ)だ。そんなに容易(タヤス)()てさせることなんて出来ないもん」


「だってよ?悧羅(リラ)?」


背中(セナカ)(ツナ)がれている灶絃(ソウゲン)の手が強く啝咖(ワカ)の手を(ニギ)ったのが見えて、(シン)が声を掛けるとほんの少し悧羅(リラ)灶絃(ソウゲン)近付(チカヅ)いた。


「今この(トキ)()てて(カマ)わぬ」


(マヨ)いなく出された言葉に灶絃(ソウゲン)の目が(ウル)んだ。


「…そんなの無理(ムリ)だよ、母様(カアサマ)


少し(フル)える声音(コワネ)で言われた悧羅(リラ)は、何故(ナニユエ)に?、と微笑(ホホエ)みながら小首(コクビ)(カシ)げて見せる。


「何ぞ(ワラワ)()せぬことなどあろうはずもなし」


微笑(ホホエ)んだ悧羅(リラ)はするりと灶絃(ソウゲン)の顔を(ツツ)んで引き寄せると(ヒタイ)口付(クチヅ)けた。そのままぎゅっと悧羅(リラ)(カイナ)(ツツ)まれた灶絃(ソウゲン)から深い嘆息(タンソク)()れる。


(オサ)()など()しゅうもない。その()灶絃(ソウゲン)を苦しゅう思わすのであらば(ワズラ)わしいことこの上なし」


(ツツ)んだ灶絃(ソウゲン)の頭に()()悧羅(リラ)身体(カラダ)に、(コラ)えきれなくなった灶絃(ソウゲン)片手(カタテ)で強く()きついた。


「じゃあ悧羅(リラ)、2人で()めようか?」


「それも(ヨロ)しゅうあるのお。荊軻(ケイカツ)もそろそろ来る頃合(コロア)いじゃ」


さっさと()める話を進める2人に、ははっと、小さな(ワラ)いが聞こえると、悧羅(リラ)(ウデ)から出ながらようやく力の()けた灶絃(ソウゲン)が大きく嘆息(タンソク)している。


「ほんと父様(トウサマ)母様(カアサマ)って格好良(カッコウイ)い」


小さくはにかんだ灶絃(ソウゲン)(ホオ)にそっと口付(クチヅ)けてから、悧羅(リラ)(シン)(トナリ)(モド)ると、()わりに(シン)灶絃(ソウゲン)の頭を()でる。


「当たり前だろ、お前たちの親なんだぞ?だからしっかり(アマ)えてしっかり(タヨ)れ。馬鹿(バカ)なことばっかり気にしてたら、荊軻(ケイカツ)たちが来たらすぐに2人で(ニン)(カエ)すからな?」


頭から手を(ハナ)すと、うん、と灶絃(ソウゲン)(ウナズ)いた。よし、と(ワラ)(シン)の背に悧羅(リラ)の手が()えられると(カタ)から力が()けていく。どうやら(シン)も少しばかり()()っていたようだ、と(イキ)()くと哀玥(アイゲツ)が部屋に飛び込んできた。(クワ)えてでもと言ったのは確かだが本当に(クワ)えられている荊軻(ケイカツ)は、(ヤシキ)に引き上げていたのか官服(カンプク)姿(スガタ)ではない。どうやら上衣(ウワゴロモ)(マト)猶予(ユウヨ)(モラ)えなかったようで、(ユカ)に落とされて唖然(アゼン)としている姿(スガタ)などなかなか見れるものではない。


落とされて(ホウ)けながらも部屋の中を見廻(ミマワ)した荊軻(ケイカツ)は、ゆっくりと立ち上がって(ミダ)れた(コロモ)(ナオ)してから大きく嘆息(タンソク)した。


「いえ、お(サッ)(イタ)しますよ?お(サッ)(イタ)しますけれども」


いつものように近付(チカヅ)いてくる荊軻(ケイカツ)に子どもたちが場を()けると、また嘆息(タンソク)しながら()している。


「せめて身支度(ミジタク)を整えるお(ジカン)くらいは(イタダ)きとうございましたよ」


苦笑(クショウ)する荊軻(ケイカツ)(シン)苦笑(クショウ)するしかない。


「ごめん、(アセ)った」


「そうでございましょうとも。(オサ)紳様(シンサマ)をお止めにはなられなかったようでございますし。…面白(オモシロ)がっておられましたね?」


ちらりと一瞥(イチベツ)を投げられた悧羅(リラ)もくすくすと(ワラ)っている。里の官吏(カンリ)の中で悧羅(リラ)にこんな物言(モノイ)いが出来るのは荊軻(ケイカツ)くらいだ。


「すまぬ、なれど800年ともにおってくりゃるというに、(ワラワ)のまかり知らぬ荊軻(ケイカツ)がまだおるとは思わなんだえ」


(ワタクシ)でお(タワム)れになるのはおやめになって頂きたいものですよ。(オサ)御存知(ゴゾンジ)ないことなど片手(カタテ)()りております。(ギャク)もまた(シカ)りでございましょう?何でございましたら、これ以上(ワタクシ)でお(タワム)れになれぬよう喜んでお教えいたしましょうか」


やれやれ、と嘆息(タンソク)した荊軻(ケイカツ)悧羅(リラ)はころころと(スズ)(コロ)がすように(ワラ)っている。(オサ)、と(タシナ)めながらも荊軻(ケイカツ)灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)を見て、にっこりと微笑(ホホエ)んだ。


寿(コトホ)ぎを(モウ)()げましょうね、灶絃若君(ソウゲンワカギミ)啝咖姫君(ワカヒメギミ)


流れるように優美(ユウビ)()して(レイ)を取る荊軻(ケイカツ)に、(ミナ)(オドロ)()も無く(シン)(ワラ)い出した。


流石(サスガ)


「だから何で荊軻(ケイカツ)さんは分かるんだよお」


意味(イミ)が分からない、とぼやく瑞雨(ズイウ)に、おやおや、と荊軻(ケイカツ)が身を起こして微笑(ホホエ)んだ。皓滓(コウサイ)の時も今回も荊軻(ケイカツ)は何も聞くこともせず、さも当然(トウゼン)のように話を進めてしまう。その(タビ)困惑(コンワク)させられる(マワ)りの()にもなって()しい。


「その御様子(ゴヨウス)では(オサ)は何も(オオ)せになられておいでではないのでしょうねえ。(カナメ)はきちんとお話なさいませ。(ワタクシ)(イタ)して差し上げませんよ」


居住(イズ)まいを(タダ)しながら荊軻(ケイカツ)に見られた悧羅(リラ)(カタ)(スク)めた。


「そうは(モウ)しても程良(ホドヨ)頃合(コロア)いであろ?皓滓(コウサイ)()したことも灶絃(ソウゲン)()したことも。()されておらなんだなら其方(ソナタ)栄州(エイシュウ)のみしか知らなんだであろうしの。知らずとも粛々(シュクシュク)と進むもの。何より其方(ソナタ)がおってくりゃる(ユエ)大事(オオゴト)にはならぬでの」


「それでは(コマ)ります、と幾度(イクド)(モウ)し上げておりますでしょう?(ワタクシ)もいつまでお(ソバ)におれるか知れぬのですよ?」


「おや?それはちと難儀(ナンギ)してしまうのう。荊軻(ケイカツ)がおってくれねば、(ワラワ)(シカ)る者がおらぬようになるではないか」


くすくすと(ワラ)い続ける悧羅(リラ)が首を(カシ)げると荊軻(ケイカツ)がまた嘆息(タンソク)して、今度は(シン)一瞥(イチベツ)を投げた。


紳様(シンサマ)紳様(シンサマ)でございますよ?いつもいつも無理難題(ムリナンダイ)ばかり(モウ)されて。(ワタクシ)身体(カラダ)がいくつあっても事足(コトタ)らぬというものです。して、(オサ)?」


一通(ヒトトオ)りの小言(コゴト)を言って嘆息(タンソク)してから荊軻(ケイカツ)(ウナガ)すと、悧羅(リラ)の指が動いた。


心魂(シンコン)(ツガイ)じゃ」


「そのようにお見受(ミウ)(イタ)します」


(シメ)された灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)を見て荊軻(ケイカツ)微笑(ホホエ)むが、(ホカ)の者には何が何だか分からない。


「それって何?」


何より本人の灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)も分からずにきょとりとしている。それに、ああ、と荊軻(ケイカツ)微笑(ホホエ)む。


心魂(シンコン)(ツガイ)と申しますのは、(モト)より(サダ)められておる(オノ)片割(カタワ)れのことでございますよ。(コトワリ)として身体(カラダ)(キザ)まれているもの、とでも(モウ)しましょうか」


きょとりとする(ミナ)荊軻(ケイカツ)()いて聞かせる。話せ、といったものの悧羅(リラ)荊軻(ケイカツ)(マカ)せるのは分かりきっている。


(マミ)えることも(ムズカ)しいものなのです。(マミ)えたとしても気付(キヅ)かず流れることが(オオ)ございましょうねえ」


「何それ?分からない者の方が多いって、じゃあそうじゃなくて(ミンナ)(チガ)う相手と(チギ)ったりしてるってこと?それじゃあ(チギ)りって何の(タメ)のものなのさ?」


()き出すように玳絃(タイゲン)(ツブヤ)いた。

荊軻(ケイカツ)が言っていることが本当なら、今(チギ)りを(ムス)んでいる者たちは何なのか。

(コトワリ)で決められた者が居るのであればそちらを(サガ)さなければならないのではないか。

混乱(コンラン)したのは玳絃(タイゲン)だけではない。(チギ)りを(ムス)んだ者たちも、()()(アヤマ)りだと言われている面持(オモモ)ちになる。


「ああ、()()()()()()()()()()()


(ミナ)表情(カオ)を見た荊軻(ケイカツ)がにっこりと(ワラ)って手で(セイ)した。


(タシ)かに皆様方(ミナサマガタ)御身体(オカラダ)(コトワリ)(キザ)まれております。もちろん(ワタクシ)にも。ですがその(エニシ)はいつ(ツナ)がるとも分からない(ホド)に、(ホソ)(モロ)く消えやすいのですよ。出逢(デア)えることこそ(コトワリ)でございますから。あまり御気(オキ)になさらずともよろしゅうございます。()く言う(ワタクシ)(ツレアイ)()()()()()()()()()()し。そのような曖昧(アイマイ)なモノに(トラ)われずとも(オノ)が選んで(オノ)(ムス)ぶ。そちらの方がより(タシ)かなモノでございます。そうでございましょう、(オサ)


荊軻(ケイカツ)の声と共に(ミナ)視線(シセン)悧羅(リラ)に向かうと、ふふっと悧羅(リラ)(アデ)やかに(ワラ)って()(シメ)す。


其方(ソナタ)たちが(ナガ)(セイ)を共に()りたいと望む者こそ唯一(ユイイツ)、と(ワラワ)(モウ)しておったであろ?()()()間違(マチゴ)うてなどおらぬよ」


(オダ)やかに言い切る言葉(コトバ)(タシ)かなモノを感じて、その場の(ミナ)がほっと安堵(アンド)する。


(コトワリ)などと言うたとて見える(ハズ)もなし。(ムス)べたとて(ハカノ)うなることもあるであろ。泡沫(ウタカタ)のようなものであるならば、(ムス)んだ方をしっかと(ツナ)いでおればよい。()()()()()()()()()じゃ」


言った悧羅(リラ)が、のう?、と(シン)の手を取ると、しっかりと(ニギ)り返して(コウ)口付(クチヅ)けている。いつも通りの2人の姿に荊軻(ケイカツ)(カタ)(スク)めながら話を(モド)した。


「して、如何(イカガ)(イタ)しましょうか。慶事(ケイジ)()ろしますのはいつでも(ヨロ)しゅうございますが()は?」


「あー、それなんだけど()()(ムス)んでるみたいなんだよ」


悧羅(リラ)の手に口付(クチヅ)けるのをやめて(シン)が言うと荊軻(ケイカツ)苦笑(クショウ)した。


前約(ゼンヤク)ではなく?」


「しっかり(ムス)んじゃったんだって。だからそこは灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)の気持ち次第(シダイ)でいいよ。っていうか前約(ゼンヤク)出来るなんて聞いたことないんだけど?」


(ホオ)()灶絃(ソウゲン)荊軻(ケイカツ)が見ると(シタ)を出して見せている。そこにはくっきりとした(キバ)疵痕(キズアト)があって荊軻(ケイカツ)はますます苦笑(クショウ)してしまう。


またとんでもない(トコロ)に入れたものだ。


(キズ)2箇処(フタカショ)、…前約(ゼンヤク)でございますね。まあ心魂(シンコン)であるが(ユエ)()せたというところですか。(シバ)りは脆弱(ゼイジャク)でしたでしょう?」


「何で分かるの?」


(アラタ)めた荊軻(ケイカツ)が言うと灶絃(ソウゲン)が目を丸くしたが、(シン)から見せろと言われて顔を引っ張られている。引かれた分、(ハナ)れてしまう啝咖(ワカ)を他の者の目から守る(タメ)なのか、横手(ヨコテ)に抱き寄せて見えないように(カク)している。啝咖(ワカ)が落ち着くまで(サラ)されるのを自分だけにするつもりなのだろう。


「またなんてトコに付けたんだよ。へえ、ほんとに(キズ)が2つある…。うわあ、()()()は思いっきりいったなあ…」


「おやまあ、()()れておるではないか。啝咖(ワカ)(ワラワ)に見せてはくれぬかえ?」


(シン)悧羅(リラ)疵痕(キズアト)を確かめると部屋中から見せろと声が上がる。(オド)けるように(シタ)を出して見せる灶絃(ソウゲン)疵痕(キズアト)を見て、うわあ、とそれぞれから声が上がっているが、悧羅(リラ)に声をかけられた啝咖(ワカ)はそっと悧羅(リラ)(ムネ)に動いた。悧羅(リラ)上衣(ウワゴロモ)啝咖(ワカ)(カク)すと、啝咖(ワカ)がおずおずと(シタ)を出した。くっきりと(キザ)まれた2つの疵痕(キズアト)に、ひょっこりと(ノゾ)きこんだ(シン)灶絃(ソウゲン)の頭を(ハタ)く。


灶絃(ソウゲン)、お前っ!もう少し加減(カゲン)しろよっ」」


「いったいなあ!仕方(シカタ)ないじゃんか!()()()余裕(ヨユウ)無かったんだもん!」


もう!、と頭を(サス)灶絃(ソウゲン)荊軻(ケイカツ)()はどうするのか、と(タズ)ねると、うーん、と(シバラ)く考えている。


啝咖(ワカ)がしたいならするけど、多分()ずかしがって(イヤ)だって言うと思うんだよねえ。啝咖(ワカ)?」


無理無理無理無理(ムリムリムリムリ)!」


「ほらね?」


悧羅(リラ)(カク)されたままの啝咖(ワカ)の声がようやく部屋に聞こえて(ミナ)もようやく微笑(ホホエ)んだ。


父様(トウサマ)絶対(ゼッタイ)しなきゃならないってんなら、啝咖(ワカ)が本当に落ち着いてからでいい?あと、(キズ)って(ホカ)(トコロ)が良いとかあるのかな?」


()そのものは絶対(ゼッタイ)ってほどじゃないかな。(キズ)場処(バショ)についてはあんまり良く知らないけど、()()()()()に付ける(ヤツ)なんて見たことない」


「いひゃい!」


べっ、とまた出された(シタ)(シン)(ツカ)んで荊軻(ケイカツ)に向ける。(ツカ)まれた手を(ハタ)灶絃(ソウゲン)苦笑(クショウ)しながら荊軻(ケイカツ)も少し考えた。


箇処(カショ)については大事(ダイジ)ないかと、(チギ)りは(ムス)ばれておるようでございますしね。見える(トコロ)(キザ)みますのも(マワ)りに知らしめるためでございますから。これからまた(チギ)りの(キズ)を別に、となれば一度(ムス)びを()きませんと」


「あ、()くのは無しで」


荊軻(ケイカツ)が言い終わらない内に(カブ)せる灶絃(ソウゲン)に、(シン)荊軻(ケイカツ)(ワラ)うしかない。


「お前なあ…」


「だって()いたら(オレ)泣いちゃうもん。(キズ)だって啝咖(ワカ)のだって分かればそれで良いんだし。残らなかったら意味がない」


なーんだ、と(カタ)(スク)めた灶絃(ソウゲン)に、とことこと樂采(ガクト)()ってくるとひょいっと口の中を(ノゾ)き始めた。突飛(トッピ)な行動をする時の樂采(ガクト)は何を言い出すか分からない。身構(ミガマ)えた(シン)荊軻(ケイカツ)(ソバ)忋抖(カイト)も寄る。手を伸ばせば(トド)位置(イチ)に皆がいるとはいえ、いつでも口を(フサ)げるようにしておくためだ。


樂采(ガクト)?」


()()()()


灶絃(ソウゲン)の口を(ノゾ)きながら、うーん、と樂采(ガクト)は何やら考えて灶絃(ソウゲン)耳飾(ミミカザ)りを触ると、今度は啝咖(ワカ)の方に動いて口の中を見ている。(シバラ)(ウナ)って、よし!、と(ウナズ)くと悧羅(リラ)耳打(ミミウ)ちした。話を聞いている悧羅(リラ)の目が一瞬(イッシュン)見開かれたがすぐに笑顔(エガオ)に変わる。


「いい?」


「とても」


耳打(ミミウ)ちを終えた樂采(ガクト)(タズ)ねると悧羅(リラ)微笑(ホホエ)んでいる。じゃあ、とまた灶絃(ソウゲン)(ソバ)に来ると左耳(ヒダリミミ)(カザ)りを樂采(ガクト)(サワ)る。


灶兄(ソウアニ)さま、これちょっと()りるね」


「え?何すんの?」


()りる』と言われても灶絃(ソウゲン)耳飾(ミミカザ)りは耳を(トオ)しているもので、(ハズ)すためには(カザ)りを切らないと取れない。


(イヤ)(カン)じがする、と(ミナ)が思っていると、行くよー、と樂采(ガクト)(カザ)りを引き千切(チギ)った。


「…っ!いってえっ!!」


「「「「樂采(ガクト)お!?」」」」


ぼたぼたと(ナガ)れ落ちる血と、耳を(オサ)える灶絃(ソウゲン)と周りの(サケ)びで場がまた(サワ)がしくなる。急いで(イヤ)そうとした荊軻(ケイカツ)を、()らぬ、と悧羅(リラ)の声が(セイ)した。


「ちょっとそのままでいてね」


にこっと(ワラ)うと樂采(ガクト)はまた啝咖(ワカ)の方に行っている。すぐそこなのだが悧羅(リラ)上衣(ウワゴロモ)(カク)れている啝咖(ワカ)の姿は皆から見えない。


啝咖(ワカ)ちゃん、ちょっと我慢(ガマン)してね」


ごそごそと何やら動く樂采(ガクト)(カゲ)から、いったあいっ!、と啝咖(ワカ)の声がすると灶絃(ソウゲン)が寄ろうとした。


啝咖(ワカ)?!」


灶兄(ソウアニ)さま、そのままね。()()()()


灶絃(ソウゲン)たちの方を見もせずに言う樂采(ガクト)の声は、何故(ナゼ)(イナヤ)を言わせない(ヒビ)きがある。


「うん、悧羅(リラ)ちゃんこっちお願いねー」


(モド)って来た樂采(ガクト)の手は()(マミ)れていて、(アワ)てた舜啓(シュンケイ)(サケ)んだ。


磐里(バンリ)加嬬(カジュ)手桶(テオケ)と水!あと手拭(テヌグ)いも!!」


「もう、舜兄(シュンアニ)さま大丈夫(ダイジョウブ)だって。(ボク)のじゃないもん。はい、灶兄(ソウアニ)さま耳出してね」


周りの喧騒(ケンソウ)などお(カマ)い無しに、樂采(ガクト)先程(サキホド)引き千切(チギ)った灶絃(ソウゲン)の耳を出すように言う。


「えー、もう(コワ)いんだけど」


「はやく!()()()()()()から」


()かされて渋々(シブシブ)灶絃(ソウゲン)が耳を(オサ)えていた手を(ハナ)すと、千切(チギ)られた耳に()()()が当てられた。途端(トタン)灶絃(ソウゲン)身体(カラダ)()()感覚(カンカク)が走り抜けたが、その痛みは(クラ)べものにならないほど()()


「…い…ってえって!!」


思わず動こうとした灶絃(ソウゲン)を、だめ、とまた樂釆(ガクト)が止める。


(トウ)さま、(ナオ)して」


「え?うん」


()ばれるままに忋抖(カイト)(イヤ)すと灶絃(ソウゲン)の耳と身体(カラダ)から痛みが消えた。


灶兄(ソウアニ)さま、もう一回お口見せて」


「もう何が何だかわかんないって」


開けられた灶絃(ソウゲン)の口を(ノゾ)き込んだ樂采(ガクト)が今度は、うん、と(ウナズ)いた。


()()()()()みたいだ」


にこっと(ワラ)樂采(ガクト)(ミナ)呆然(ボウゼン)としていると、灶絃(ソウゲン)(イキオ)いよく啝咖(ワカ)(ソバ)に寄る。


啝咖(ワカ)!?」


悧羅(リラ)上衣(ウワゴロモ)(カク)れていた啝咖(ワカ)の右耳が血塗(チヌ)られているのが見えて、ひゅっと灶絃(ソウゲン)が息を()む。(ウバ)うように()()せて(カク)すと、ほうっと安堵(アンド)嘆息(タンソク)が聞こえた。


大丈夫(ダイジョウブ)吃驚(ビックリ)しただけ」


ふふっと(ワラ)い声が聞こえて灶絃(ソウゲン)安堵(アンド)すると啝咖(ワカ)身体(カラダ)悧羅(リラ)上衣(ウワゴロモ)()けられた。いつのまに来ていたのか磐里(バンリ)()らした手拭(テヌグ)いを差し出して、2人の姿を見ていつものように、まあまあ、と微笑(ホホエ)むと灶絃(ソウゲン)の手に手拭(テヌグ)いを持たせる。そのまま樂采(ガクト)が使ったのだろう手桶(テオケ)を持って部屋を出ていってしまった。


樂釆(ガクト)!せーつーめーいー!」


自分と啝咖(ワカ)の耳を()きながら、一仕事(ヒトシゴト)()えたような樂采(ガクト)灶絃(ソウゲン)が言うと、きょとりとしているばかりだ。


「お手伝いしただけだよ」


「「「「何の!?」」」」


ますます意味が分からない、と(ミナ)が頭を(カカ)えると、とんとん、と樂采(ガクト)が自分の耳を(シメ)した。話が見えないが、ともかく、と荊軻(ケイカツ)が手を()ばす。


灶絃若君(ソウゲンワカギミ)失礼(シツレイ)(イタ)しますね」


先程(サキホド)千切(チギ)られた(キズ)()えているが、()()にある(カザ)りが(チガ)う。灶絃(ソウゲン)たち子どもたちが持つ耳飾(ミミカザ)りは、其々(ソレゾレ)成熟(セイジュク)した時に悧羅(リラ)(オク)ったもので個々(ココ)(コト)なる。悧羅(リラ)(ツイ)になっており装飾(ソウショク)(コノ)まない悧羅(リラ)唯一(ユイイツ)着けているものだ。左耳が子どもたち、右耳が(マゴ)としていたが流石(サスガ)()えすぎて(マゴ)の分は(マジナイ)で一つに(オサ)めている。


その(カザ)りが変わっている。

これが意味するものは何か?


実際(ジッサイ)(トシ)よりも(サト)物事(モノゴト)を見ているのが樂采(ガクト)という子だ。同じ年頃(トシゴロ)の子どもたちよりも、能力(ノウリョク)知力(チリョク)が頭ひとつ分()きん出ているのは荊軻(ケイカツ)も知っている。その樂采(ガクト)が何かに気付(キヅ)き行うことを悧羅(リラ)(ユル)した。


「これは啝咖姫君(ワカヒメギミ)のものでございますね。となれば」


視線(シセン)啝咖(ワカ)に落とすとそちらには灶絃(ソウゲン)(カザ)りがあった。


「ああ、そういうことでございますか」


『無い』と(ツブヤ)いた樂采(ガクト)を思い出して荊軻(ケイカツ)は大きく(ウナズ)いてしまった。樂采(ガクト)が『無い』と言ったモノ。


それは寿(コトホ)ぎの(マジナイ)だ。


「なるほど、と(モウ)しましょうか。何ともまあ(ムズカ)しいお手伝いをなさいましたね」


「でも上手(ジョウズ)にできたでしょ」


(ムネ)()って(ワラ)樂采(ガクト)苦笑(クショウ)しながら、荊軻(ケイカツ)(ミナ)に何が起きたのかを()く。


樂采(ガクト)灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)其々(ソレゾレ)の血を(マト)わせた耳飾(ミミカザ)りを入れ()えることで、本来(ホンライ)(ヤイバ)(モチ)いて行う()()わりとしたのだ。


()(モチ)いる小刀(コガタナ)には(ツク)る時に寿(コトホ)ぎの(マジナイ)(マト)わすもの。(カザ)りには(オサ)(マジナイ)がかけられておりますから、丁度(チョウド)よろしかったのでしょう」


「じゃあ間に合わないってのは何だったの?」


寿(コトホ)ぎの(マジナイ)が間に合わない、ということかと。(チギ)りの()で共に(マト)い、(ムス)びつきにほんの(ワズ)かに(サイワイ)があらんことを願うものでございますからね。(トキ)()ち過ぎては何の意味もございませんから。よくお気付(キヅ)きになられたものと感服(カンプク)(イタ)しますよ」


ふふっと微笑(ホホエ)んで荊軻(ケイカツ)樂采(ガクト)の頭を()でた。荊軻(ケイカツ)でさえ見逃(ミノガ)しそうになったことを気付(キヅ)いた子は、この先、里で大きな役割(ヤクワリ)(ニナ)うかもしれない。


「え?じゃあ(オレ)啝咖(ワカ)の分の母様(カアサマ)との(ツイ)がないじゃん!」


もっと(ホカ)(タズ)ねることがあるだろうに、灶絃(ソウゲン)悧羅(リラ)との(ツイ)の物が無くなったと頭を(カカ)えた。


「気になさるのはそこでございますか?若君(ワカギミ)らしくあられるとは思いますが、ご(アン)じなさらずとも(オサ)はもう一度(オク)ってくださいますよ。これらは(オサ)(ツク)られたものでございますから」


後程(ノチホド)の、(ワラワ)の左もまだ()いておるに」


くすくすと(ワラ)悧羅(リラ)灶絃(ソウゲン)がほっとしている。心魂(シンコン)(ツガイ)を見つけても悧羅(リラ)という存在(ソンザイ)が子どもたちにとっての絶対(ゼッタイ)であることは変わらないようだ。


微笑(ホホエ)荊軻(ケイカツ)に、はあ、と(ミナ)感嘆(カンタン)してしまう。樂采(ガクト)もそうだが荊軻(ケイカツ)もだ。その博識(ハクシキ)さ、物事を冷静(レイセイ)俯瞰(フカン)する思慮深(シリョブカ)さ、そして何事も(オダ)やかにこなしていく態度(タイド)行動(コウドウ)悧羅(リラ)側近(ソッキン)として共に過ごし()るがぬ治世(チセイ)を造った。荊軻(ケイカツ)()なければここまで磐石(バンジャク)なものにはならなかっただろう。


悧羅(リラ)ちゃんが荊軻(ケイカツ)さんを(ハナ)せないのが何となく分かったよ」


深く感嘆(カンタン)嘆息(タンソク)()瑞雨(ズイウ)荊軻(ケイカツ)悧羅(リラ)が共に微笑(ホホエ)んだ。


「おや、(ホマレ)なことを。ですが皆様(ミナサマ)(ガタ)、決して灶絃若君(ソウゲンワカギミ)と同じことをなさってはなりませんよ?灶絃若君(ソウゲンワカギミ)()()られたのは、心魂(シンコン)という(コトワリ)があったからこそ。同じことをしようとされても、出来て皓滓若君(コウサイワカギミ)のように(シルシ)を付けることまで。特に樂采小若君(ガクトショウワカギミ)のなされたことは真似(マネ)できるものではございません。よろしゅうございますね?」


間違(マチガ)えても一方的(イッポウテキ)他者(タシャ)尊厳(ソンゲン)陵辱(リョウジョク)するようなことがないよう、少し強めに言い聞かせると、しないし!、と(ミナ)が首を()る。にっこりと微笑(ホホエ)んだ荊軻(ケイカツ)(フタタ)火種(ヒダネ)が投げられた。投げたのは、やはり樂采(ガクト)だ。


「でも(チギ)りは(ムズカ)しくてもね、お約束(ヤクソク)はできるんだよ。いいよって言ってくれたらだし、強くないけど大好きな人にずっと(シバ)られていいやって思えたら出来るんだよ」


でしょ?、と屈託(クッタク)のない漆黒(シッコク)(マナコ)で見られて固まったのは荊軻(ケイカツ)(シン)だった。


樂采(ガクト)、ちょっと待とうか?」


できるだけ(オダ)やかに(シン)樂采(ガクト)を引き寄せて(ヒザ)に乗せるが、樂采(ガクト)はきょとりとしている。


「え?どうして?(ボク)()()()()()()()()()()(シン)くんと悧羅(リラ)ちゃんと荊軻(ケイカツ)おじちゃんが、どうやったら1番いいかなって考えてくれてるの。だから悧羅(リラ)ちゃんが枉駕(オウガイ)おじちゃんと栄州(エイシュウ)おじいちゃん()んでくれたんだもんね?」


樂采(ガクト)、本当にちょっと待とう?」


ぽんぽん、と(シン)樂采(ガクト)の頭を()でると(イヤ)だと首を()る。


「ぼくも見えても言っちゃいけないことならお口に出さないよ、(シン)くんと悧羅(リラ)ちゃんと(トウ)さまとお約束(ヤクソク)したから。だけど()()は言っていいし言わないとダメでしょ?(シン)くんも()()()()()でしょ?」


「…そうなんだけどね…。今じゃなくて枉駕(オウガイ)栄州(エイシュウ)が来てからでも良いんじゃないかな?」


どうにか(ナダ)ようとする(シン)樂采(ガクト)が、だめ!、と(メズラ)しく声を大きくした。


「今でなきゃダメ!でないとダメになるよ?だって、たくさん考えちゃうから。だから(シン)くん、お願い。ぼくの(トウ)さまにお約束(ヤクソク)させて!」


出された言葉に、は?、と忋抖(カイト)(カタ)まって言葉(コトバ)(ウシ)なった。

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