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唯一【捌】《ユイイツ【ハチ】》

更新します。

一軒(イッケン)露店(ロテン)の前で灶絃(ソウゲン)は大きく嘆息(タンソク)した。露天(ロテン)の中、店主(テンシュ)(ツクエ)()()しながら酒瓶(サカビン)()し出しているのが後姿(ウシロスガタ)でも()だと分かってしまったからだ。里の()も落ちて往来(オウライ)には良い気分(キブン)になった民達(タミタチ)(ニギ)やかに(サワ)いで()ぎていく。いくら安穏(アンノン)としているとはいえ(カリ)にも姫様(ヒメサマ)()ばれる(モノ)がおいそれと見せていい醜態(シュウタイ)ではない。


露店(ロテン)に向かって()を進める灶絃(ソウゲン)にも彼方此方(アチラコチラ)から、若様(ワカサマ)、と声が()けられる。立っているだけで素性(スジョウ)(ダレ)もが分かる、それだけ(シン)悧羅(リラ)の子であるということの(オモ)さが知れるというものだ。()けられた声に手を()って(コタ)えながら灶絃(ソウゲン)露店(ロテン)軒先(ノキサキ)(クグ)って()(ツブ)れている(アネ)(トナリ)(スワ)った。


()姉様(アネサマ)、帰るよ」


嘆息(タンソク)しながら頬杖(ホオヅエ)を付くと()()したままの啝咖(ワカ)の顔がゆっくりと動いて灶絃(ソウゲン)(トラ)えた。


「また来たの?…(ホウ)っといてもちゃんと(カエ)るってば」


(オレ)だって来たくて来てるんじゃないよ。(ホカ)に動ける(ヤツ)がいないんだからしょうがないだろ?」


「だから来なくていいって言ってるじゃない」


ゆっくりと身体(カラダ)を起こした啝咖(ワカ)店主(テンシュ)が新しい酒瓶(サカビン)(ワタ)すと、すぐに(アオ)り始めてしまう。(ハタ)から見れば啝咖(ワカ)身体(カラダ)はゆらゆらと()れて(スワ)っているのが不思議(フシギ)なくらいなのだが、(キャク)として(モト)められれば店主(テンシュ)(オウ)じないわけにはいかないのだろう。


親父(オヤジ)さん、もう2、3本お願いできる?」


「いやあ、姫様(ヒメサマ)。今日はもうやめときな?若様(ワカサマ)も来てくれたんだし、また明日おいで」


大丈夫(ダイジョウブ)灶絃(ソウゲン)は帰すから。とりあえず置いといて」


ちゃんと話しているつもりなのだろうが呂律(ロレツ)(マワ)らず、(タテ)(ヨコ)にと()れながら(タノ)啝咖(ワカ)根負(コンマ)けしたのか、店主(テンシュ)も言われた通りに酒瓶(サカビン)を置くと灶絃(ソウゲン)の前にも酒を入れた(サカズキ)を置いた。


姫様(ヒメサマ)()まれてるもんですよ」


ちらりと啝咖(ワカ)を見やりながら(ウナガ)されて(レイ)を言ってから灶絃(ソウゲン)(サカズキ)(アオ)る。途端(トタン)(ノド)()けつくような酒の強さに全身が熱くなった。


「なにこれ?!」


つい咳込(セキコ)んでしまった灶絃(ソウゲン)に今度は水を(ワタ)しながら店主(テンシュ)が首を()った。


「里で1番強い酒ですよ。(ヘビ)()けて造る、(オノコ)だってたったの一杯(イッパイ)()()()()んですがねえ。若様(ワカサマ)毎晩(マイバン)大変(タイヘン)でしょうが…、姫様(ヒメサマ)、何かあったんですかい?」


「それが分かれば苦労(クロウ)してないんだけどね。姉様(アネサマ)が読めないことするのはいつものことだから」


もらった水を()みながら苦笑(クショウ)する灶絃(ソウゲン)の前で店主(テンシュ)心配(シンパイ)そうに啝咖(ワカ)を見ている。


()()()()()って若様(ワカサマ)も分かってらっしゃるんだろう?姫様(ヒメサマ)は何もなく()()()(フウ)にはならないよ」


「…まあねえ…」


店主(テンシュ)一緒(イッショ)啝咖(ワカ)(ナガ)めながら灶絃(ソウゲン)も小さく嘆息(タンソク)した。


奔放(ホンポウ)に見える啝咖(ワカ)だが本当は()()()()()()()()くらい(ミナ)知っている。


あえて()()()()()()()()()()っているに過ぎない。


(オサ)の子であり尚且(ナオカ)悧羅(リラ)によく()姿形(スガタカタチ)であるが(ユエ)に付き(マト)期待(キタイ)は、灶絃(ソウゲン)たちが感じている重圧(ジュウアツ)よりも(ハル)かに重い。


それでも(シン)悧羅(リラ)の子である、ということは灶絃(ソウゲン)にとっても啝咖(ワカ)にとっても(ホコ)りだ。だからこそ2人の名に()じぬ()()いを心掛(ココロガ)けられているのは、姉や兄たちが()()()()()()()()と教えてくれたからだ。


そんな啝咖(ワカ)が外で、しかも民達(タミタチ)気安(キヤス)使(ツカ)露店(ロテン)で右も左も分からなくなるほど泥酔(デイスイ)するなど()()ない。だからこそ店主(テンシュ)でさえも啝咖(ワカ)らしくない、と(ヒョウ)するのだ。


「何かあったって容易(タヤス)く言う姉様(アネサマ)じゃないんだけど、里の(ミンナ)心配(シンパイ)かけてるのは(モウ)(ワケ)ないよ」


心配(シンパイ)くらいさせとくれ。若様(ワカサマ)姫様(ヒメサマ)()ってくださるから長様(オササマ)(サイワイ)だと(ワラ)っておられるんだから」


「何にも出来てないけどね?」


見ている(サキ)啝咖(ワカ)身体(カラダ)()れて(ツクエ)(ヒタイ)を打ちつけた音がした。


「あーあ、もう…」


がっくりと項垂(ウナダ)れた灶絃(ソウゲン)の横で店主(テンシュ)は、おやおや、と()らかった(ツクエ)片付(カタヅ)け始めた。


長様(オササマ)長様(オササマ)若様(ワカサマ)姫様(ヒメサマ)とは(チガ)うんだ。…あんまり背負(ショ)()みなさんなよ」


置いてあった酒瓶(サカビン)(フタ)をして啝咖(ワカ)の頭を()でてから店主(テンシュ)は別の(キャク)(トコロ)へと行ってしまった。(ツブヤ)くような言葉は気にはなったけれどとりあえずは(ツブ)れてしまった姉をどうにかするしかない。


「ほら姉様(アネサマ)、起きれる?帰るよ」


身体(カラダ)()すってみるとまだ(フカ)(ネム)ってはいなかったようで(アタマ)だけが灶絃(ソウゲン)に向けられた。


「やあだあ、まだ()むう」


「何言ってんだよ、もう()めないだろ?ほら、とりあえず立って」


「いーやーだー」


立ち上がらせようと手を取ると駄々(ダダ)()ね始める啝咖(ワカ)の目が(スワ)っていて、やれやれ、と灶絃(ソウゲン)は頭を()いてしまう。


「酒なら親父(オヤジ)さんが持たせてくれてるよ。何があったか知らないけどさ、()みたいなら付き合うから、とりあえず(モド)ろう?(ミンナ)心配(シンパイ)してんだよ?」


「…やだ…、(カエ)りたくない…」


上げられていた顔がまた()せられて、ぼそりと(ツブ)やかれた声に、ん?、と灶絃(ソウゲン)も顔を近付けた。


「なんで?」


「…母様(カアサマ)()る…」


「はあ?」


飛び出した言葉に灶絃(ソウゲン)は首を(カシ)げた。何があればここまで()(ツブ)れようとするのかは分からないが、意味もなく悧羅(リラ)の名を出すことなど啝咖(ワカ)はしない。それも(コバ)むような言葉を口にするなど()()()()啝咖(ワカ)であれば考えることすらしないだろう。


とすれば悧羅(リラ)の名を出さざるを()ないことがあったということになる。


「何があったの?」


(イキ)()きながら(タズ)ねてみたが啝咖(ワカ)は小さく首を()った。確かに悧羅(リラ)の名が出るような事を大衆(タイシュウ)の目がある場では言えないが、この塩梅(アンバイ)では(ミヤ)(モド)ってしまっては余計(ヨケイ)に口を()らなくなるのは目に見えている。ようやく(ユル)んだ啝咖(ワカ)の口を開かせる別の場処(バショ)がないものか、と頭を(カカ)える灶絃(ソウゲン)背中(セナカ)からどんっと抱きつかれたことで考えを一旦(イッタン)止めた。


若様(ワカサマ)じゃないかあ!」


あははっ、と(ワラ)う声の(ヌシ)灶絃(ソウゲン)()()()()()()()。そろり、と顔だけで見やると(フカ)(ミドリ)の髪と真珠色(シンジュショク)一本角(イッポンヅノ)が見えた。


「…あー、…久しぶり、袽華(ジョカ)


「まったくだよ?()()()()ぱったりと来てくれなくなっちまってさあ?(ジョウ)(ウス)いったらない」


ふふっと(ササヤ)きながらも身体(カラダ)を押し付けてくる袽華(ジョカ)灶絃(ソウゲン)苦笑(クショウ)してしまう。


(メズラ)しいね、(キャク)が付いてる(ジカン)じゃないの?」


「ちいとばかし()いてるだけさ。あたしを(ダレ)だと思ってんだい、つれないねえ」


するりと流れるように動いた袽華(ジョカ)は当たり前のように灶絃(ソウゲン)(ヒザ)の間に立つと、長い(ウデ)を首に(カラ)ませて微笑(ホホエ)んだ。


「で?いつ()に来てくれるようになるんだい?」


悪戯(イタズラ)に顔を近付けてくる袽華(ジョカ)は明らかに揶揄(カラカ)っているのが分かって灶絃(ソウゲン)はますます苦笑(クショウ)するしかない。


魅惑的(ミワクテキ)身体(カラダ)(カク)している(トコロ)が少ないし、そんな(コロモ)を当たり前の様に(マト)っている袽華(ジョカ)妓女(ギジョ)生業(ナリワイ)にしている。灶絃(ソウゲン)たち(オニ)にとって他者(タシャ)(ジョウ)()わすのは当たり前のことなのだが、何も相手(アイテ)を必ず決めているということではない。(チギ)った相手(アイテ)恋仲(コイナカ)相手(アイテ)()れば話は(ベツ)だが、一夜(ヒトヨ)(ジョウ)相手(アイテ)となれば(サガ)すのが面倒(メンドウ)になることもある。もちろんなかなか()と言って貰えないこともあるし、そんな時に(ミナ)(タス)けを(モト)めるのが袽華(ジョカ)の言う()


(ヨウ)するに妓楼(ギロウ)だ。


(オニ)本能(ホンノウ)からすれば、()()()()()店がない方が可笑(オカ)しい。(クワ)えて武官(ブカン)文官(ブンカン)()いで(ココロザ)す者が多い(ツト)めだ。本能(ホンノウ)(アラガ)わず()()逆手(サカテ)に取って(アキナ)いにする。


灶絃(ソウゲン)(イク)つかの妓楼(ギロウ)を知っているが袽華(ジョカ)のいる店は数ある中でも高い(ホウ)()みしている。500年ほど前に袽華自身(ジョカジシン)が開いたらしいが、店主(テンシュ)としてではなく妓女(ギジョ)として店に出る袽華(ジョカ)には正直(ショウジキ)頭が上がらない。(オノ)()ひとつで店を大きく出来たのは袽華(ジョカ)魅力(ミリョク)もあるだろうが、(オノコ)()とす手練手管(テレンテクダ)()けているからだ。


今でさえ灶絃(ソウゲン)を店に連れて行こうとしているのが見え見えなのだが、素直(スナオ)(サソ)いに乗れなくなったことは少しばかり口惜(クチオ)しい。


相変(アイカ)わらずだねえ、()せられたいのは山々なんだけど、今はちょっと(ムズ)かしいかな」


「なんだい、ほんとにつれないじゃないか。…まさか()()()()()()を気にしてるなんて、お言いじゃないだろうね?」


「まあ、それも無いっては言えないんだけど…」


話しながら身体(カラダ)を押し付ける袽華(ジョカ)を軽く押し(モド)しながら灶絃(ソウゲン)が言うと、はあ?、と(アキ)れたような声がした。


若様(ワカサマ)、ほんとにどうしちまったんだい?もう()わったことじゃないか。()()で来てもらえないってんなら、あたしをどれだけ見縊(ミクビ)ってんのさ?」


袽華(ジョカ)がどうとかじゃなくて、(オレ)気不味(キマズ)かっただけだよ。…とりあえずちょっと(ハナ)れてくれない?」


離れるどころか(ヒザ)に乗ろうとする袽華(ジョカ)灶絃(ソウゲン)(タノ)むと(アカ)(クチビル)がにやりと上がった。(ミナ)(マト)うような(コロモ)であればどれだけ()()られても気にもならないが、袽華(ジョカ)(コロモ)(ハダ)が出ている方が多い。身を()せられれば(ハダ)()れあうのとさして変わらないのだ。


しかも袽華(ジョカ)は里でも人気のある妓女(ギジョ)として名高(ナダカ)い。


長い手足(テアシ)男鬼(ダンキ)魅了(ミリョウ)して止まない身体(カラダ)付き、それに一本角(イッポンヅノ)だけが(アタ)えられている美しさ。(ベニ)をしっかりと()した(クチビル)を上げて微笑(ホホエ)姿(スガタ)妖艶(ヨウエン)と言うに相応(フサワ)しい。大金(タイキン)()んででも相手(アイテ)にと(ノゾ)(キャク)は後を()たず、どうにか身請(ミウ)け出来ないかと(タノ)む者も多いと聞く。


灶絃(ソウゲン)悧羅(リラ)という最上級(サイジョウキュウ)鬼女(キジョ)を当たり前のように見ていなければ容易(タヤス)()ちていたと思う。それでも悧羅(リラ)のもつ美しさとはまた(チガ)うが袽華(ジョカ)の美しさも充分(ジュウブン)(ヒイ)でている部類(ブルイ)に入る。


若様(ワカサマ)は変わらないねえ。だからこそあたしは若様(ワカサマ)()しかったんだけどねえ」


(ハナ)れるどころか(ヒザ)腰掛(コシカ)けられて(アキラ)める灶絃(ソウゲン)袽華(ジョカ)は小さく(ワラ)って見せた。


「それはごめん」


「何を()びてんだよ。(エニシ)(ツナ)がらなかった、それだけのことだろう?」


にこりと微笑(ホホエ)袽華(ジョカ)に、そうだけどね、と灶絃(ソウゲン)(カタ)(スク)めた。以前姚妃(ヨウヒ)が口にした『灶絃(ソウゲン)口説(クド)かれている相手(アイテ)』というのは、この袽華(ジョカ)のことだ。身分(ミブン)(カク)して時折(トキオリ)(カヨ)っていたのだが里の中で灶絃(ソウゲン)たちの顔を知らない者などいない。灶絃(ソウゲン)が口にしない事を袽華(ジョカ)から(タズ)ねることはなかったけれど、いつしか(キャク)ではなく恋仲(コイナカ)の者として会いに来て欲しいと(ネガ)われるようになった。袽華(ジョカ)気質(キシツ)容姿(ヨウシ)(コノ)ましくはあったのだが、灶絃(ソウゲン)にはどうしても()()()()()()()として見ることが出来なかった。(コトワ)った手前(テマエ)、何事もなかったように店にいくのも(ハバカ)られて足が遠のいていたのだが、まさか突如(トツジョ)として会うことになるとは。


「生きてりゃ()()()()()もあるもんさ。あたしにすりゃ、いつまでも()()を気にして店に来てもらえない方が(アキナ)いが上がったりで(コマ)るってなもんだよ」


袽華(ジョカ)も会いたくないかなって思ってたけど?」


「お馬鹿(バカ)なこと言ってんじゃないよ。あたしの好いた()れたで上客(ジョウキャク)(ノガ)してなるもんか」


(カタ)(スク)めながら、ぱしりと(ヒタイ)(タタ)かれた灶絃(ソウゲン)も思わず(ワラ)ってしまう。


「たまには顔見せに来とくれよ。若様(ワカサマ)(カヨ)うってんで(ハク)がついてんだから。あたしの店を大きくするくらいは手伝っとくれ」


とんとん、と(ムネ)(タタ)いてから、で?、と袽華(ジョカ)視線(シセン)啝咖(ワカ)に向けた。


姫様(ヒメサマ)だろう?近頃(チカゴロ)よくこの辺りで()んでるって聞いてたから、変な(ヤツ)()っかかってんじゃないかと来てみたんだが。どうしたってんだい?」


手を()ばして啝咖(ワカ)の髪を()でながらそれとなく袽華(ジョカ)顔色(カオイロ)()てくれている。


「分かんないんだよね。とりあえず連れて帰らなきゃなんだけど…」


帰れない、と言う言葉は()み込んだが袽華(ジョカ)は何かを(サッ)してくれたようだ。(ツト)めの性質(セイシツ)もあるのだろうが袽華(ジョカ)はとにかく他者(タシャ)の心の機微(キビ)を読むのが上手(ウマ)い。


「こんな姫様(ヒメサマ)を連れて帰っちまったら長様(オササマ)心配(シンパイ)なさるんじゃないかい?」


「そうだけど、宿(ヤド)を取ろうにも姉様(アネサマ)を置いてくわけにはいかないもん。(ヘン)(ウワサ)(タネ)にされるのも姉様(アネサマ)(イヤ)だろうしね」


若様(ワカサマ)姫様(ヒメサマ)っていうのも厄介(ヤッカイ)なもんだねえ」


嘆息(タンソク)しながら灶絃(ソウゲン)(ヒザ)から()りた袽華(ジョカ)は、失礼(シツレイ)しますよ、と言いながら啝咖(ワカ)に水を()ませてくれている。


「そういうことなら、うちの店においでな。今日は1番奥の(ハナ)れが()いてんだ。あそこなら若様(ワカサマ)()っての通り、(ダレ)()()()()()()()()()


「ああ、()()()かあ」


言われて灶絃(ソウゲン)袽華(ジョカ)の言う(ハナ)れを思い出す。袽華(ジョカ)の言う場処(バショ)は店の庭園(テイエン)最奥(サイオウ)、広い池の真ん中に建っている。一度(ヒトタビ)入れば()()には(ダレ)近付(チカヅ)かないように店に(シラ)せが(メグ)る。何でも他者(タシャ)妓楼(ギロウ)使(ツカ)っていることを知られたくない者も()るそうで、そのために(ツク)ったのだそうだ。実際(ジッサイ)灶絃(ソウゲン)が入った時も明言通(メイゲンドオ)(ダレ)も来なかったし結界(ケッカイ)()れたのを(オボ)えている。


「ありがたいけど、流石(サスガ)姉様(アネサマ)(カカ)えて店に入るのはさあ?」


()(ツブ)れているとはいえ啝咖(ワカ)(カカ)えた灶絃(ソウゲン)妓楼(ギロウ)に入ったなどと知れれば、見かけた者から(マタタ)()に話が(メグ)るだろう。店が店だけに()る場を()りるだけだった、と()いたところでどれだけの者が()()を信じるかも(アヤ)しい。(ウワサ)など(ホウ)っておいてもいいが、()()悧羅(リラ)(シン)迷惑(メイワク)をかけるかもしれない。それだけは啝咖(ワカ)灶絃(ソウゲン)()けたい事だ。


「なに変な事考えてんだよ?あたしの店の(ハナ)れだよ?()()()()(ワス)れちまったのかい?」


考えていることを読んだような(アキ)れた声に灶絃(ソウゲン)も、あ、と顔を上げた。


「そうだった」


「思い出したんなら何よりだ。ほら、さっさと連れていっておやりな」


胸元(ムナモト)から(ジョウ)を取り出して灶絃(ソウゲン)(ニギ)らせると、袽華(ジョカ)は、ひらひらと手を()った。


「分かった、ありがたく使わせてもらうよ。でも代金(ダイキン)はちゃんと(ハラ)うからね」


(ジョウ)を受け取りながら金子(キンス)を出そうとすると、ぱしりと頭を(ハタ)かれてしまう。


「ケチ(クサ)いことをお言いでないよ。端金(ハシタガネ)なんかより、顔を出すって言っとくれ。そっちの方が(モウ)かるってんだから」


あははっと(ワラ)袽華(ジョカ)に釣られて灶絃(ソウゲン)苦笑(クショウ)するしかできない。


(カナ)わないなあ。分かった、()()()()ね。ほら、姉様(アネサマ)。立てないなら(カカ)えるよ」


「おさけえ」


「持ってるって」


(ウナ)るように声を出す啝咖(ワカ)(カカ)え上げると灶絃(ソウゲン)(ウデ)に酒が()けられた。袽華(ジョカ)(レイ)を伝えてから露店(ロテン)を出ると(カヨ)()れた宮への道を辿(タド)りつつ(タミ)の波が途切(トギ)れたのを見計(ミハカ)らって横道(ヨコミチ)()れる。


姉様(アネサマ)、ちょっと()けるよ」


「…(ミヤ)()だってえ」


「分かったってば」


(カカ)えられたままで、もぞもぞと動く啝咖(ワカ)をぽんぽんと(タタ)いてから灶絃(ソウゲン)は、とんっと地を()って(ミヤ)(ギャク)方向(ホウコウ)へと()けていく。先程(サキホド)出てきた露店(ロテン)の立ち(ナラ)(ホノ)かな(アカリ)(オク)に、行燈(アンドン)(カガヤ)く場が見える。近くなると風に乗って様々(サマザマ)(コウ)(ニオ)いも強くなった。妓楼(ギロウ)の集まる一画(イッカク)からもう一本(オク)碧玉色(ヘキギョクショク)(ヤカタ)袽華(ジョカ)(イトナ)碧玉楼(ヘキギョクロウ)だ。正門(セイモン)を通り()けると敷地(シキチ)最奥(サイオウ)(イケ)がありその中央(チュウオウ)(ハナ)れがある。


けれどそのまま()りても入れない。


池の手前(テマエ)()りて足下(アシモト)()いている(ハナ)の中から石楠花(シャクナゲ)(サガ)す。一輪(イチリン)手折(タオ)ってから(アズ)かった(ジョウ)に乗せて、ほんの少し能力(チカラ)(ナガ)すと、かちゃり、と(ハナ)れの方から音がした。もう一度地を()って(ハナ)れの前に立つと(マネ)き入れるように()両側(リョウガワ)に開かれた。


(アイ)()わらずよく出来てる。


室内(シツナイ)に足を()み入れると、ぼんやりとした(アカリ)()もり()()まって(ジョウ)が落ちた。(キャク)(ノゾ)みを(カナ)えることは(アキナ)いをする上で当たり前だとよく袽華(ジョカ)は言っていたが、これだけの(マジナイ)行使(ツカ)える者なら近衛(コノエ)でも武官隊(ブカンタイ)でも文官(ブンカン)としても引き入れたいくらいだ。(トトノ)えられている寝所(シンジョ)に、よいしょ、と啝咖(ワカ)()ろすと低く(ウメ)いている。話をするにしても水でも飲ませたほうが良さそうだ。


「ここ何処(ドコ)?」


(ミヤ)じゃないって。知り合いが()してくれた」


「…だから何処(ドコ)よ?」


袽華(ジョカ)の店」


「あー、袽華姐(ジョカネエ)かあ…。迷惑(メイワク)かけちゃったなあ」


もそもそと起き上がった啝咖(ワカ)に水を(ワタ)すと苦笑(クショウ)している顔が目に入った。けれどその表情(カオ)何処(ドコ)悼々(イタイタ)しく見えて灶絃(ソウゲン)は首を(カシ)げるしかない。


「で?何があったのさ?心配(シンパイ)しなくったって(ダレ)にも言わないよ」


(タイ)したことじゃないわよ」


話すように(ウナガ)してみるが受け取った水を飲んでいる啝咖(ワカ)は何かしらを言い(ヨド)んでいる。


「何の(コトワリ)も無く姉様(アネサマ)()()()()()()()()()だろ?話したくないならそれでも良いけどさ、()()んでるばっかりじゃ(ツラ)いんじゃない?」


「…生意気(ナマイキ)…」


「とりあえず()きだしなって。でないと()()()(アト)()やしてたら(ミンナ)も気が気じゃないんだって」


水を置いて酒を取ろうと()ばした(ウデ)赤黒(アカグロ)変色(ヘンショク)した(アト)(シメ)すと啝咖(ワカ)が大きく嘆息(タンソク)した。啝咖(ワカ)様子(ヨウス)可笑(オカ)しいと最初に気付(キヅ)いたのは2月(フタツキ)ほど前だった。元々(モトモト)出掛(デカ)けることは多い(ホウ)だったけれど()(ツブ)れるまで外で()んで帰ってくることは無かった。それが毎夜(マイヨ)のように深酒(フカザケ)をし、(モド)ってきたと思えば何処(ドコ)(コシラ)えたのかも分からない(キズ)()えていたのでは気にならない者などいない。それでも何も話そうとせず昼間(ヒルマ)()()()()()に過ごす啝咖(ワカ)がこれ以上の怪我(ケガ)をしないように、と灶絃(ソウゲン)(ムカ)えを(タノ)んだのは磐里(バンリ)だ。日頃(ヒゴロ)から(タノ)(ゴト)をするような磐里(バンリ)ではないだけに、それだけ心配(シンパイ)になったのだろう。身軽(ミガル)に動けるのが灶絃(ソウゲン)だけだった、ということもあるが。


「ほんとに(タイ)したことじゃないからね?」


「いいから話せって」


酒を(アオ)り始める啝咖(ワカ)から灶絃(ソウゲン)酒瓶(サカビン)を押し付けられて仕方(シカタ)なく口を付けると、3年、とぼそりと口が開かれ始めた。


樂采(ガクト)が言ってたでしょ。3年たったらお(ヨメ)さんになれるって」


「うん、言ってたねえ」


姚妃(ヨウヒ)がまだ玳絃(タイゲン)(チギ)りを(セマ)っていた(コロ)、確かに啝咖(ワカ)に対して樂采(ガクト)がそう言い切った。幼子(オサナゴ)の言う事と流してしまえるような事でないのは(シン)悧羅(リラ)忋抖(カイト)(タノ)んでいたし分かっているつもりだ。何より樂采(ガクト)何処(ドコ)(サト)いところがある。


「それを()ぎちゃったのよ。…今度の相手(アイテ)一緒(イッショ)()て本当に心地良(ココチヨ)かったから、勝手(カッテ)にそうであればいいって思っちゃったのよね」


「それは少し時期(ジキ)(チガ)っただけなんじゃないの?」


「まあねえ、そうなのかもねえ」


ふふっと小さく(ワラ)いながら話す啝咖(ワカ)恋仲(コイナカ)で無くなったから(ハラ)()えかねていると言った様子(ヨウス)ではなさそうだ。


「それはいいのよ。()()()()相手(アイテ)じゃなかったんだろうし、私だってどうしても(チギ)りたいって(ワケ)でもないしさ」


「それは分かる」


(チギ)りの相手(アイテ)を見つけても(ミヤ)から出たくない、(シン)悧羅(リラ)()場処(バショ)から(ハナ)れたくないと思っているのは灶絃(ソウゲン)だけでなく姉兄(シケイ)たちも同じだろう。他者(タシャ)が聞けばいい(トシ)をして、と失笑(シッショウ)されてしまうだろうが灶絃(ソウゲン)たちにすれば極自然(ゴクシゼン)()き出た思いで()じることでもない。


特に悧羅(リラ)(シン)の子である灶絃(ソウゲン)たちには(ヨコシマ)な考えで()()ってくる者も多い。それらをあしらうのも嫌気(イヤケ)が刺すし、(チギ)れば(ミヤ)に入ると公言(コウゲン)していることで恋仲(コイナカ)までで、と(タガ)いに()り切ることも出来ている。


「でも恋仲(コイナカ)()わることなんてこれまでもあっただろ?何で母様(カアサマ)が出てくるのかが(オレ)には分かんないんだけど」


露店(ロテン)啝咖(ワカ)悧羅(リラ)()るから(ミヤ)(モド)りたくないと言った。その言葉が飛び出す事自体(ジタイ)灶絃ソウゲンには()()ることではない。悧羅(リラ)(カカ)えてくれている重圧(ジュウアツ)も、何を犠牲(ギセイ)にしてどれだけのことを()えてきてくれたかを知っているから尊敬(ソンケイ)敬愛(ケイアイ)することはあれど、(イブカ)しんだり、ましてや(ソバ)(ハナ)れたいなどとは思わない。


それは啝咖(ワカ)も同じだと思っていたのだが、何か心情(シンジョウ)が変わるようなことでもあったのだろうか。


首を(カシ)げてしまう灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)は新しい酒を持たせながら、(チガ)うわよ、と苦笑(クショウ)した。


母様(カアサマ)邪険(ジャケン)に思うわけないでしょ。母様(カアサマ)は私の大切(タイセツ)母様(カアサマ)(アゴガ)れなんだから。そうじゃなくて()母様(カアサマ)()すぎてるっていうのがね、ちょっとだけ(オモ)くなったのよ」


(オレ)(ウラヤ)ましいけどなあ。それに()てるって言っても姿形(スガタカタチ)だけだし、姉様(アネサマ)姉様(アネサマ)だろ?気性(キショウ)(マッタ)(チガ)うじゃない」


余計(ヨケイ)に分からなくなって酒を(アオ)灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)もますます苦笑(クショウ)(フカ)めている。


()()()()()()()()()()()()()()()(マワ)りは(チガ)うのよね。…忋抖(カイト)なら分かるだろうけど」


「何で(カイ)兄様(アニサマ)…、って…、ああ、()()()()()()かあ…」


()()いに出された長兄(チョウケイ)の名で灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)が言わんとすることが理解(リカイ)できた。つまりは啝咖(ワカ)(モト)めて恋仲(コイナカ)になっていたのではなく、啝咖(ワカ)(ウシ)ろに悧羅(リラ)を見ていた、ということだ。(チギ)りの話か恋仲(コイナカ)(ユエ)の気の(ユル)みかは分からないが、何某(ナニガシ)かの中で啝咖(ワカ)相手(アイテ)(オモ)いに気付(キヅ)いたのだろう。


忋抖(カイト)啝咖(ワカ)父母(フボ)()ていることを良い事ばかりではないと常々(ツネヅネ)言ってはいたが、それは()()()()(コトワリ)(フク)んでいたのだ。


母様(カアサマ)()てるのは(ウレ)しいのよ?…ただ、ここ数十年(スウジュウネン)()()()()()事ばっかり考えてる(ヤツ)しか()ってこないもんだから、ほんのちょっと(ツカ)れたってだけ。私の見る目がないから仕方(シカタ)ないのよ」


(サミ)しそうに(ワラ)って酒を()み続ける啝咖(ワカ)は、またゆらりゆらりと()れ始めている。


(ワラ)(ゴト)じゃないだろ、姉様(アネサマ)()()一体(イッタイ)()()()()()?」


啝咖(ワカ)の付き合いに口を出すつもりはないし、してはならないと思う。灶絃(ソウゲン)が何をしようと父母(フボ)姉兄(シケイ)たちも口(ウルサ)く言う事はない。何があったとしても(オノレ)(セキ)を取れるのであれば()()()()()から。取れなくなった時は灶絃(ソウゲン)たちがどう止めようとも(シン)悧羅(リラ)が動くだろうが、()()()()()()(タメ)にも2人に()じない子であるように(ツト)めてきた。


灶絃(ソウゲン)も。

啝咖(ワカ)も。

(シン)悧羅(リラ)(ツラ)なる(モノ)たち、(ミナ)で。


それなのに何故(ナゼ)啝咖(ワカ)()()()()()()()()()()(ココロ)(エグ)られなけらばならないのか。


「ちょっと(オレ)()()阿呆(アホウ)と話してくるから、教えてくれない?」


にっこりと(ワラ)って(タズ)ねる灶絃(ソウゲン)(ニギ)っていた酒瓶(サカビン)に、びしりとした音と(トモ)亀裂(キレツ)が入った。


「あー、いいって。そんな(オコ)んなくて」


「いいから、()()()()()なのかな?」


笑顔(エガオ)()やさないように()()ってみるが啝咖(ワカ)は、ふふっと(ワラ)うと灶絃(ソウゲン)の手から酒瓶(サカビン)を取り上げた。


「まあまあ、とりあえず()んで()んで」


「うわっ、ちょっと姉様(アネサマ)っ!」


取り上げられた酒瓶(サカビン)無理矢理(ムリヤリ)口に()()まれると、強すぎる酒が(ノド)()く。(アワ)てて押し()けたが、むせてしまった灶絃(ソウゲン)の頭をぽんっと()でながら啝咖(ワカ)はその場に(スワ)()んだ。


「いいんだって。()れてるから」


残った(サケ)を取り上げる灶絃(ソウゲン)に、ふにゃりと啝咖(ワカ)(ワラ)って見せる。あまりにも弱々(ヨワヨワ)しく見える姉の姿(スガタ)灶絃(ソウゲン)の胸がちくりと痛んだ。


「…()れんなよ、こんなの」


苦虫(ニガムシ)()みながら残った酒を()()灶絃(ソウゲン)(カタ)をぽんぽんと(タタ)いてから、よいしょと啝咖(ワカ)が立ち上がると、ふらふらと歩き始めた。


姉様(アネサマ)何処(ドコ)行くんだよ?」


「ふふっ、()()ましー。灶絃(ソウゲン)()はどこー?」


「はあ?その塩梅(アンバイ)で入れるわけ…って、姉様(アネサマ)!?」


(ツクエ)箪笥(タンス)にぶつかりながら歩く啝咖(ワカ)が転んで身体(カラダ)(タナ)に置かれていたものが落ちていく。


灶絃(ソウゲン)(ヤサ)しいねえ」


(カブ)さったものから啝咖(ワカ)(スク)い出だすと(ウデ)(ツカ)まって立ち上がりながらくすくすと(ワラ)っている。


「はいはい。とにかく今日はもう()なって」


「やーだー。()に入りたいー」


「今入ったら(オボ)れるだろ?」


「だーいじょーぶだって。ほらあ、()()れてってー」


(ツカ)まれていた(ウデ)(ハナ)されて、また歩き出す啝咖(ワカ)は一歩進むたびに(カベ)(ハシラ)にぶつかっている。どう見ても()になど入れないように見えるが言ったところで聞きはしないだろう。


「本当にもう世話(セワ)()ける」


大きく嘆息(タンソク)して灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)(ウデ)(ツカ)むと、こっち、と湯殿(ユドノ)()れて行く。()(ツヅ)()を開けると、お()だあ、と啝咖(ワカ)灶絃(ソウゲン)の手を()(ハラ)って()け出してしまった。


「ちょっと、姉様(アネサマ)っ!」


止めようとした灶絃(ソウゲン)の手を()()けて、(ナカ)ば転ぶように啝咖(ワカ)()の中に落ちた。


(ウソ)お…」


頭を(カカ)えるしか出来ない灶絃(ソウゲン)の前で啝咖(ワカ)()の中でどうにか起き上がって(スワ)ろうとしているが、上手(ウマ)くいかないらしい。(スワ)ってはずるずると(スベ)って()(シズ)み、また(スワ)っては(シズ)むを()(カエ)している。


泥酔(デイスイ)した身体(カラダ)(アツ)()に入れば(サケ)(マワ)って当たり前だ。その上、(コロモ)()がずに()()かっては啝咖(ワカ)でなくとも身動(ミウゴ)きなど取れないだろう。とはいえこのままではいつか()(シズ)んだまま上がってこなくなるのも目に見えている。


「あーもう!」


本日幾度目(イクドメ)かも分からなくなった嘆息(タンソク)()きながら灶絃(ソウゲン)湯殿(ユドノ)の中に入ると(シズ)みかけている啝咖(ワカ)を引き上げる。


姉様(アネサマ)(コロモ)()いで。そのままじゃ本当に(オボ)れちゃう」


「はあい」


手を(ハナ)すと()(シズ)んでしまう啝咖(ワカ)に伝えると、陽気(ヨウキ)な返事と(トモ)に立ち上がって(コロモ)()ぎ始めた。


前掛(マエカ)けと腰巻(コシマ)きは(オレ)があっちに行ってから()いで」


(タト)え弟であろうと姉の裸体(ラタイ)まで見るわけにはいかないし見られたくもないだろう。


「はあい」


背を向けた灶絃(ソウゲン)の頭の上にばさばさと(ホウ)()げられる(コロモ)(オク)からまた陽気(ヨウキ)な声がして、一体どこまで真面目(マジメ)に聞いてくれているのかも分からない。啝咖(ワカ)(コロモ)を投げかけられたせいで灶絃(ソウゲン)(コロモ)()れてしまった。早めに部屋(ヘヤ)の中に()しておけば(カワ)くだろうが、起きたときに啝咖(ワカ)()()()()(オボ)えているかも(アヤ)しいものだ。


(オレ)はあっちに居るからね。(オボ)れない(ウチ)に出てくるんだよ」


やれやれ、と頭に乗せられた(コロモ)を取り(ハラ)いながら立ちあがろうとすると、(コロモ)の中に前掛(マエカ)けと腰巻(コシマ)きまで入っているのが見えた。


姉様(アネサマ)(オレ)が出ていってから()いでって言ったでしょ!」


相手(アイテ)だとしても妙齢(ミョウレイ)の女であるという自覚(ジカク)くらい持って欲しい。(アキ)()てた灶絃(ソウゲン)の耳に面白(オモシロ)そうな啝咖(ワカ)(ワラ)い声が届く。


「本当にもう」


灶絃(ソウゲン)灶絃(ソウゲン)


(コロモ)(カカ)えて立ち上がった灶絃(ソウゲン)湯殿(ユドノ)(フチ)に頭を置いた啝咖(ワカ)手招(テマネ)きしている。


「あ?何?気持ち悪くなった?」


()の中が見えない程度(テイド)距離(キョリ)(タモ)って蹲込(シャガ)みこむと手招(テマネ)きしていた手がそのまま()びる。


「何だよ?」


灶絃(ソウゲン)(ヤサ)しいねえ」


()ばされた手を(ツナ)いでやると啝咖(ワカ)嘆息(タンソク)が聞こえた。


「何言ってんの。(ギャク)だったら姉様(アネサマ)も同じことしてるさ」


「そうかなあ?」


「そうだって」


持っていた(コロモ)を置いて(ツナ)いだ手を(タタ)くと少しだけ力が込められた。小さく(イキ)()いていると(ツナ)いだままの手が引かれて灶絃(ソウゲン)身体(カラダ)(カタム)いた。


「え…、うわ…っ!」


(カタ)むいたと同時に(ウデ)を強く(ツカ)まれて(アラガ)()も無く頭から()に落とされた。(アワ)てて顔を出すと啝咖(ワカ)が声をあげて(ワラ)っているのが聞こえてくる。


「何してんだよ!ああもう、すぶ()れじゃんか!」


(カミ)をかき上げながら()れた顔を手で(ヌグ)っていると両肩(リョウカタ)を押されて湯殿(ユドノ)(フチ)後頭部(コウトウブ)をぶつけてしまう。いってえ、と(ウメ)いた灶絃(ソウゲン)身体(カラダ)啝咖(ワカ)(ヒザ)が乗ると(ハラ)に重みまで(クワ)わった。


姉様(アネサマ)、本当に何して…」


打ちつけた頭を(サス)りながら目を開けると苦しそうな啝咖(ワカ)()()()()た。


「本当に灶絃(ソウゲン)(ヤサ)しすぎる」


「…姉様(アネサマ)…?」


出された声は(アマ)りにも悲痛(ヒツウ)だった。何かを必死(ヒッシ)に押し(コロ)しているような顔を見ているとぽたりと()に水が落ちた。


()に入っているから落ちた水ではない。


「…ねえ、灶絃(ソウゲン)…。私は母様(カアサマ)とは(チガ)う?」


「…当たり前だろ…」


灶絃(ソウゲン)(ツカ)まれている両肩(リョウカタ)に力が()められていく。


「…何で(ダレ)()を見てくれないのかなあ…?」


「…相手(アイテ)の見る目がないだけだろ。そんな(ヤツ)だって分かって良かったんだよ」


(カタ)に当てられたままの手が小さく(フル)え始めると、()に落ちる水も多くなる。


「…私だけを見てくれる相手(アイテ)を連れてきてよ…」


姉様(アネサマ)は良い女なんだから(アセ)んなって。樂采(ガクト)が言うんだから(ヨメ)には行けるさ」


()の中から手を出して()れそぼった啝咖(ワカ)の顔を(ヌグ)ってやると、樂采(ガクト)かあ、とふにゃりと微笑(ホホエ)もうとする。その姿はあまりにも悼々(イタイタ)しい。


「…無理(ムリ)しなくても良いって。どうせ(オレ)しか()ないんだし」


頭を湯殿(ユドノ)(フチ)(アズ)けて両手(リョウテ)で顔を(ツツ)んでやると、ははっと啝咖(ワカ)苦笑(クショウ)した。


「…ほんっと、あんたって(ニク)らしいくらい(ヤサ)しいわ…」


ぼろぼろと(アフ)れてきた(ナミダ)(カク)すように灶絃(ソウゲン)(ヒタイ)啝咖(ワカ)(ヒタイ)が付けられた。声も上げずただ(ワラ)うかのように(ナミダ)(コボ)し続ける姿を見ていると、今までどれだけ同じような思いをしてきたのかと灶絃(ソウゲン)(ムネ)がまたつきりと痛む。忋抖(カイト)啝咖(ワカ)(シン)悧羅(リラ)似過(ニス)ぎていることに不満(フマン)()らしたことはない。


「良いことばかりじゃない」


そうは言っていても父母(フボ)に自分たちの若い(コロ)のようだ、と言われれば(ウレ)しそうにしていたし()()(イツワ)りであったとは思えない。ただ、灶絃(ソウゲン)たちが半分ずつ()()いだものが極端(キョクタン)にどちらかに()っていたら、感じる重圧(ジュウアツ)(トモナ)責任(セキニン)も投げられる視線(シセン)でさえもやるせなく感じてしまうのではないだろうか。


何より自分に向けられていると思った恋情(レンジョウ)が、()()(オク)(チガ)う者が()ると知ってしまった時、()()はどんな思いがするのだろう。


忋抖(カイト)啝咖(ワカ)もこれまで幾度(イクド)となく()()()感情(カンジョウ)視線(シセン)(サラ)されていたのだ。


灶絃(ソウゲン)たちが()()()()()()()()()()()


「…やっぱりちょっと(ハナ)してこようかな…」


小さな嘆息(タンソク)と共に(ツブヤ)いた灶絃(ソウゲン)に、ふふっと啝咖(ワカ)(ワラ)うと付けられていた(ヒタイ)がほんの少しだけ(ハナ)された。


「…駄目(ダメ)だよ?()れてるから(オコ)んないでって言ったでしょ…」


「…()れるなっても言ったよね?」


元々(モトモト)(オコ)るなというのは無理(ムリ)な話しなのだ。敬愛(ケイアイ)する(ハハ)愚弄(グロウ)大切(タイセツ)(アネ)の心を(エグ)った。それだけで灶絃(ソウゲン)にとって万死(バンシ)(アタイ)する。今すぐにでも啝咖(ワカ)を泣かせた相手(アイテ)()()り出して、声が()れるまで()びさせてから(カミ)の一本さえ残さないように()()くしてやりたい。そうしていないのは今ここに啝咖(ワカ)を1人残していくことなど出来ないからだ。


「…()()()()()()


「…(アト)からも駄目(ダメ)だからね…」


「…それは約束(ヤクソク)できないかな?」


「…だから(ヤサ)し過ぎるのよ、灶絃(ソウゲン)は…」


嘆息(タンソク)した灶絃(ソウゲン)に小さく(ワラ)うと啝咖(ワカ)(ウデ)の力が()けた。ずるずると(ナカ)(タオ)れ込むように身体(カラダ)(アズケ)られて灶絃(ソウゲン)半身(ハンシン)を起こした。啝咖(ワカ)の顔が()(シズ)んでしまうのを(フセ)(タメ)だったのだが、(アズ)けられた身体(カラダ)を見て灶絃(ソウゲン)は上を(アオ)いだ。


そうだった。


いろんな事が(カサ)なり()ぎて、すっかり(アタマ)から()け落ちていたが啝咖(ワカ)(ハダカ)だった。少しでも距離(キョリ)を取っていれば立ち(ノボ)湯気(ユゲ)視界(シカイ)(サエギ)られただろうが、ここまで身体(カラダ)()せられては見ないようにしても見えてしまう。


だから胸当(ムネア)てと腰巻(コシマ)きくらいは(アト)で取れと言ったのに。


「あー、…姉様(アネサマ)


はあ、と両手(リョウテ)で顔を(オオ)ってから灶絃(ソウゲン)が声をかけると返事の()わりなのか啝咖(ワカ)が胸に()()ってきた。


「とりあえず()()から出ようか」


「…何で?」


きょとりとした声で聞き返されたが灶絃(ソウゲン)には啝咖(ワカ)を見る事が出来ない。


「いや、すっかり(ワス)れてたけど()()湯殿(ユドノ)だったんだよね」


「ああ、灶絃(ソウゲン)(コロモ)()ぐ?このままじゃ(クツロ)げないよね」


(チガ)う!(チガ)う!!」


ほんの少し身体(カラダ)(ハナ)した啝咖(ワカ)は止めるのも聞かず、あっという間に灶絃(ソウゲン)上衣(ウワゴロモ)(ヒモ)()いてずらしてしまう。(アラガ)いたくても灶絃(ソウゲン)の手は顔を(オオ)うことで精一杯(セイイッパイ)だ。


()に入ってるんだから()いだほうが気持(キモ)ちいいのに」


(ソデ)が抜けないことに不服(フフク)そうにしながら啝咖(ワカ)(アラ)わにした灶絃(ソウゲン)(ムネ)にまた身体(カラダ)(アズ)けてしまう。(ツヨ)過ぎる酒に(アツ)い湯、(キワ)め付けが一糸(イッシ)(マト)わぬ姿の女から()(アズ)けているとなれば、灶絃(ソウゲン)理性(リセイ)容易(タヤス)(クズ)れ落ちてしまうかもしれない。


(アネ)姉様(アネサマ)だから!


()れ合ってしまった(ハダ)からじんわりと(タギ)る熱が灶絃(ソウゲン)身体(カラダ)に広がるが、ひたすらに自分に言い聞かせて()える。


姉様(アネサマ)、ほんっと勘弁(カンベン)して。(ソバ)に居てほしいならちゃんと共寝(トモネ)するから。…流石(サスガ)()()状況(ジョウキョウ)(サワ)りがありすぎる」


幼子(オサナゴ)(コロ)はずっと一緒(イッショ)に入ってたじゃない」


「それはそれ、あの時とは姉様(アネサマ)(オレ)(チガ)うでしょうに」


(タノ)むよ、と懇願(コンガン)する灶絃(ソウゲン)にきょとりとしたままの啝咖(ワカ)(タズ)ねる。


「それは灶絃(ソウゲン)は私を女として見れてるってこと?」


「この状況(ジョウキョウ)でそう出来ない男がいたらお目にかかりたいくらいだよ」


母様(カアサマ)()てるからじゃなくて?」


「今(オレ)の前に居るのは姉様(アネサマ)だよ?何で母様(カアサマ)が出てくるんだよ。第一、(オレ)姉様(アネサマ)母様(カアサマ)が全く(チガ)うってことくらい(イヤ)になるほど知ってんだって。だからお願いだから今はちょっと(ハナ)れてくれると有難(アリガタ)い」


ふつふつと()き立ってくる身体(カラダ)(ウズ)きを()がそうと大きな息をくり返す灶絃(ソウゲン)()啝咖(ワカ)の手が(カサ)なった。


灶絃(ソウゲン)、あんたは本当に(ヤサ)しいね」


姉様(アネサマ)先刻(サッキ)からそればっかり。とりあえず(ハナ)れようか」


別のことでも考えて気持ちを()らそうとした灶絃(ソウゲン)の上で啝咖(ワカ)が動いたのは分かったが顔を(オオ)った手を取ることは出来そうにない。


灶絃(ソウゲン)…、(ナグサ)めてよ」


「それならもうやってる」


「そうじゃなくて…」


顔を(オオ)っていた手が啝咖(ワカ)によって取り(ハラ)われると目の前に()火照(ホテ)ったしなやかな肢体(シタイ)が飛び込んだきた。瞬時(シュンジ)()ね上がる衝動(ショウドウ)懸命(ケンメイ)(オサ)えこむ。


「今だけで良いから(ナグサ)めて、灶絃(ソウゲン)…」


(ナミダ)(カワ)き切っていない啝咖(ワカ)の目は()(アタタ)まりすぎたのも(アイ)まって、とろりとしている。(ツカ)んだ灶絃(ソウゲン)(ウデ)身体(カラダ)(マワ)されて灶絃(ソウゲン)奥底(オクソコ)で何かが()ねた。


「お酒の(セイ)にしてくれていいから。今だけ私の我儘(ワガママ)に付き合って」


するりと(ホオ)(ツツ)まれて灶絃(ソウゲン)は大きく息を()くしかできなくなる。この状況(ジョウキョウ)()えられる者がいるなら会ってみたい。


姉様(アネサマ)()()で良いの?()いが()めたら後悔(コウカイ)するんじゃない?」


「私がお願いしてるのに?灶絃(ソウゲン)(ツラ)くならないかのほうが大事(ダイジ)なことよ」


(ウル)んだ目で()い願われて(ダレ)(イナヤ)と言えるというのだろう。もう一度だけ大きく嘆息(タンソク)した灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)身体(カラダ)(マワ)されていた(ウデ)に力を入れて引き寄せる。


「酒の(セイ)にする気なんてないけどさ、こんな良い女のことが分からないなんて、正直(ショウジキ)姉様(アネサマ)の今までの相手(アイテ)同情(ドウジョウ)するよ」


目の前に見えた(クチビル)()れるように口付(クチヅ)けると(ホオ)(ツツ)んでいた啝咖(ワカ)(ウデ)灶絃(ソウゲン)の首に(マワ)された。初めはただ()れるように、次には(ツイバ)むように()り返される口付(クチヅ)けが(フカ)くなるにつれて啝咖(ワカ)灶絃(ソウゲン)に強く抱き付く。(クチビル)から(ホオ)(マブタ)へと口付(クチヅ)けながら啝咖(ワカ)身体(カラダ)を少し引き上げる。首筋(クビスジ)(ムネ)(シタ)()うと啝咖(ワカ)(フル)えて(アマ)い声がした。灶絃(ソウゲン)の手が(サグ)るように動き始めると合わせるように啝咖(ワカ)(コエ)()れて、動くたびに()(タタ)く音がする。灶絃(ソウゲン)(マタガ)ったままの足の間にそっと()れてゆっくりと(コス)ると啝咖(ワカ)(イキ)()む。沿()わせた(ユビ)をゆっくりと啝咖(ワカ)の中に入れていくと、(カタ)に当てられていた手に力が入った。くるりと中に入れた指を動かし始めると(コラ)えるような啝咖(ワカ)(アエ)ぎが聞こえ始めて灶絃(ソウゲン)苦笑(クショウ)してしまう。


(コラ)えるなってば」


()いている手で啝咖(ワカ)の頭を引き寄せて(フカ)口付(クチヅ)けると(シタ)(カラ)ませて(モテアソ)んでいく。啝咖(ワカ)の中に入れた指も動かし続けると(カサ)ねた(クチビル)隙間(スキマ)から(サソ)うような声が()れ出した。


寝所(シンジョ)に行く?」


()れ合う程度(テイド)(クチビル)(ハナ)して(タズ)ねる灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)が首を()った。


「今は()()でいい」


()は、ねえ…」


(カエ)された言葉(コトバ)が思いの(ホカ)可愛(カワ)いらしくて(ワラ)ってしまうと(スガ)るように口付(クチヅ)けられる。口付(クチヅ)けは続けながら一旦(イッタン)中に入れていた指を出して、身体(カラダ)(ハナ)れないように(カカ)えると湯殿(ユドノ)(フチ)啝咖(ワカ)を横たえる。手早(テバヤ)(コロモ)()()ててからもう一度啝咖(ワカ)の中に指を入れて、今度は(イキオ)いをつけて中をかき()ぜるとしなやかな身体(カラダ)が大きく(フル)え出した。(カサ)ねていた(クチビル)(ハナ)すと啝咖(ワカ)は自分の指を()んで声が(ヒビ)かないようにした。その姿に灶絃(ソウゲン)嘆息(タンソク)してしまうが身体(カラダ)をなぞる(クチビル)に熱い(イキ)が合わさって、余計(ヨケイ)啝咖(ワカ)(フル)えている。


充分(ジュウブン)魅力的(ミリョクテキ)だと思うけどなあ。


片膝(カタヒザ)を立てて灶絃(ソウゲン)(アタ)える快楽(カイラク)()える啝咖(ワカ)(アシ)の中心に()()くとくぐもった声がした。


(コラ)えるなって言ってんのに」


(ウデ)()ばして啝咖(ワカ)の手を(ハズ)しながら足の中心を()め上げる。


「…やっ!()()(シャベ)んないでっ」


「言うこときかないならお仕置(シオ)きがいるだろ?」


啝咖(ワカ)の腕を自分の(カタ)に乗せさせて(フタタ)灶絃(ソウゲン)()()()い付くと啝咖(ワカ)(アマ)い声をようやく聞くことが出来た。指を出した()わりに(シタ)で中をかき混ぜながら、()()が閉じないように両手(リョウテ)で開かせておく。


「…()って、()って、()って、灶絃(ソウゲン)っ!」


(ナブ)(イキオ)いを(ツヨ)めると(アエ)ぎの中から止める声がした。()り上がる身体(カラダ)呼応(コオウ)するように灶絃(ソウゲン)(カタ)(ツメ)()()んだ。気に()めることもなく強く()い付くと啝咖(ワカ)身体(カラダ)が大きく()ねる。()ね終わらない内に指も入れてより(ハヤ)(ナブ)ると幾度(イクド)幾度(イクド)啝咖(ワカ)身体(カラダ)()(カエ)る。甘い(コエ)しか出せなくなった啝咖(ワカ)の手が(カタ)からぱたりと落ちると、強く()い付いてから灶絃(ソウゲン)()()から(ハナ)れた。


「…灶絃(ソウゲン)口付(クチヅ)けて…」


()()ぎて力が入らないのか(フル)える手を()ばして()われて、ははっと灶絃(ソウゲン)も小さく(ワラ)ってしまう。


「いいよ?」


()われるままに軽く口付(クチヅ)けてやると首に(ウデ)(マワ)して(フカ)く、とせがむ。


()()()?」


(モト)められるまま(フカ)口付(クチヅ)けると啝咖(ワカ)から(シタ)(カラ)ませてきた。(コタ)えながら啝咖(ワカ)の中に入るためにあてがうと、びくり、と啝咖(ワカ)身体(カラダ)(フル)えたのを灶絃(ソウゲン)見逃(ミノガ)さなかった。


「やめる?」


ここまで来てやめるのも拷問(ゴウモン)に近いが少しでも啝咖(ワカ)(マヨ)うなら、()()()には進まない方がいい。そう思ったのだが啝咖(ワカ)(イキオ)いよく首を()った。


「そうじゃなくて…」


「うん?」


()()()だと思ってなかったから、…その…寝所(シンジョ)がいいなって…」


「ん?」


()れた(イキ)の間から出された可愛(カワ)いらしい(ネガ)いに灶絃(ソウゲン)はきょとりとしてしまったが、()れたように目を()せる啝咖(ワカ)の姿に(ワラ)いが()み上げてしまう。


「すっごい可愛(カワイ)いお願いだけど無理」


「えっ?灶絃(ソウゲン)?」


戸惑(トマド)啝咖(ワカ)(ヒタイ)口付(クチヅ)けながらもう一度当てがう。


()()()()()()()って言ったのは姉様(アネサマ)だろ」


「…言った」


「だろ?だから聞いてあげない」


ゆっくりと()し入り始めると啝咖(ワカ)(イキ)()みながら灶絃(ソウゲン)の背にしがみついてくる。進んでいく灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)の中がうねりながら(カラ)みつくと、ぴりりとした(シビ)れが走った。ん?、と違和感(イワカン)(オボ)えはしたが不快(フカイ)なものではない。そのまま全て入り込んだ瞬間(シュンカン)、弱い(シビ)れだった()()がほんの(ワズ)かな痛みに変わって灶絃(ソウゲン)身体(カラダ)()()けると、啝咖(ワカ)(ウデ)の中で小さく(ウメ)いた。


姉様(アネサマ)大丈夫(ダイジョウブ)?」


(ホオ)(ツツ)んでやると(マブタ)が上げられて灶絃(ソウゲン)(トラ)えると小さく微笑(ホホエ)む。


「いつもと(チガ)う、…けど…」


()(ヨド)んだ啝咖(ワカ)(アシ)がもじもじと動いて灶絃(ソウゲン)身体(カラダ)()れてくる。


「あー、はいはい」


()()()()()()()もはやく動けということだ。


(ホオ)(ツツ)んでいた手を()いて(カタ)(ユカ)から()かせるように啝咖(ワカ)身体(カラダ)(ウデ)(マワ)す。強く()()めてからぐっと押し進むと啝咖(ワカ)から(アマ)い声が出るが(タガ)いが(カン)じた痛みも(シビ)れも、()()()()


身体(カラダ)(ツラ)くなったら言って」


伝えた灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)(ウナズ)くのが合図(アイズ)だった。(ハゲ)しく()き上げ始めると啝咖(ワカ)(アエ)ぎが(セマ)湯殿(ユドノ)(ヒビ)く。しがみつかれた背に灶絃(ソウゲン)()き上げるたびに(ツメ)()()(ホソ)(アシ)()がさないとでも言うように身体(カラダ)にしがみついてくる。その姿は()()()奔放(ホンポウ)に見せている啝咖(ワカ)からは想像(ソウゾウ)も出来ないくらいに(アイ)らしい。片手(カタテ)だけを()いて快楽(カイラク)()がる(ホオ)()でると啝咖(ワカ)(ウデ)()いて両手で灶絃(ソウゲン)の顔を引き()せた。(ムサボ)るように口付(クチヅ)けられて苦笑(クショウ)してしまうが可愛(カワ)いらしいから(ユル)せてしまう。


口付(クチヅ)けるたびに()めつけも強くなるが、(クチビル)(ハナ)そうとすれば追い(モト)められるのだから止めるわけにもいかない。(ホオ)()でていた手を(スベ)らせて(ツナ)がっている(トコロ)一緒(イッショ)()めると、くぐもった声と共に啝咖(ワカ)身体(カラダ)()ねた。口付(クチヅ)けていなければ(ハナ)れていたであろう身体(カラダ)を、(サラ)に深く口付(クチヅ)けて(トド)めながら灶絃(ソウゲン)もますます動く(ハヤ)さを上げる。幾度(イクド)()ねる身体(カラダ)を押し(モド)し続けていると一際(ヒトキワ)強く()り返った啝咖(ワカ)(ハゲ)しく灶絃(ソウゲン)()め付けた。持っていかれないように(ハラ)に力を()めてどうにか(コラ)えたが、()わりに(クチビル)(ハナ)れてしまった。


姉様(アネサマ)()()ぎ」


だらりとした啝咖(ワカ)の胸に()いつくと赤い(アト)が残る。


「やだ、やめないで」


動きを止めるしかなかった灶絃(ソウゲン)(ウデ)啝咖(ワカ)(ツカ)む。力の入らない半身(ハンシン)を起こして()()られては灶絃(ソウゲン)(タマ)ったものではなくなってしまう。


「やめるつもりはないけど、()()のこと言ってんのかな?」


起こされた半身(ハンシン)(ササ)えて(スワ)ろうとした灶絃(ソウゲン)意図(イト)せず中から出てしまうと、やあ、と(アセ)ったように啝咖(ワカ)(ミズカ)灶絃(ソウゲン)を受け入れた。あまりの(アワ)()りと一気(イッキ)に中まで入らされた刺激(シゲキ)で、啝咖(ワカ)最奥(サイオウ)に当たって灶絃(ソウゲン)(ヨク)()き出してしまった。


「…(ウソ)お…」


吐き出された(ヨク)(フル)えながら受け止めている啝咖(ワカ)灶絃(ソウゲン)にぎゅうっと()きついてくる。


「やめないで」


「だからやめないって言ったでしょうに」


()れ果てた(イキ)の中から(ウッタ)える啝咖(ワカ)の背をぽんぽんと(タタ)いて灶絃(ソウゲン)嘆息(タンソク)すると、ますます強く抱きつかれてしまう。


「ぎゅうってしてよ、灶絃(ソウゲン)


「はいはい」


願われるままに()きしめてやると(ウデ)の中で啝咖(ワカ)は、ほうっと安堵(アンド)している。背中を(タタ)いてやりながら啝咖(ワカ)(カミ)に顔を(ウズ)めると、啝咖(ワカ)もより灶絃(ソウゲン)(ムネ)()()ってきた。


寝所(シンジョ)に行く?」


「…行く。でも出ちゃ()だ…」


「そんな無茶(ムチャ)な…」


とんでもない要求(ヨウキュウ)灶絃(ソウゲン)苦笑(クショウ)してしまうが啝咖(ワカ)(イヤ)だと(ウッタ)え続ける。


寝所(シンジョ)に行くまでだよ?」


絶対(ゼッタイ)(イヤ)


「そうは言われてもなあ…」


やれやれ、と(カタ)を落としてから(ツナ)がったままで灶絃(ソウゲン)が立ち上がる。()き上げられた啝咖(ワカ)が落ちないように(ササ)えながら寝所(シンジョ)に向かうと歩くたびに耳元(ミミモト)(アマ)い声がした。よいしょ、と寝所(シンジョ)(スワ)るとその刺激(シゲキ)啝咖(ワカ)()てている。しがみつかれる力がほんの少しだけ(ユル)んだのを見て灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)を押し付けると(アエ)ぎと共に細い身体(カラダ)()った。上向(ウワム)いた(ホオ)口付(クチヅ)けると首に(ウデ)(マワ)された。


「まだ、沢山(タクサン)して」


(サソ)(クチビル)(ツイバ)むと、もっと、と強請(ネダ)られてしまう。ふはっと、(ワラ)いながらもう一度(ホオ)口付(クチヅ)けると(アイ)らしいと思う気持ちが強くなる。


「いいけど、()()がいいの?」


悪戯(イタズラ)(ワラ)って(タズ)ねると動けないように顔を(ツツ)まれた。


「全部。灶絃(ソウゲン)の全部が心地好(ココチイ)い」


「それはどうも」


「…私が起きるまで出ていかないで…」


「どうしてそう無茶(ムチャ)なことばっかり…」


項垂(ウナダ)れる灶絃(ソウゲン)の顔が引き寄せられて深く口付(クチヅ)けられる。


駄目(ダメ)よ?出ないって言って」


とろりとしたまま目を(ウル)ませた啝咖(ワカ)姿(スガタ)灶絃(ソウゲン)(ホオ)()くしかできない。


これからまた(ジョウ)()わせば1度や2度では終わらない。何より先刻(サッキ)ので終わったと思われるのも(シャク)ではある。とはいえ目覚(メザ)めるまで出るなというのは無理(ムリ)があるというものだ。


無理(ムリ)があるのだが。


どう考えても答えは分かっているが、今は()()蠱惑的(コワクテキ)な女を堪能(タンノウ)してみたい。


うーん、と考えてから灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)を押し(タオ)した。


(オオ)せのままに」


(アキラ)めた灶絃(ソウゲン)の下で破顔(ハガン)する啝咖(ワカ)が手を()ばして、はやく、とせがむ。


まあいいか。


思い(ナオ)した灶絃(ソウゲン)啝咖(ワカ)(モト)めに(オウ)じて深く口付(クチヅ)けた。

お楽しみいただけましたか?

読んでいただきありがとうございました。

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