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唯一《弐》【ユイイツ《ニ》】

(ヨイ)もふけ(ミナ)自室(ジシツ)()き上げると加嬬(カジュ)磐里(バンリ)(ツト)めも()わりに近くなる。磐里(バンリ)とともに別々(ベツベツ)湯殿(ユドノ)を使い最後(サイゴ)(ウツク)しく(ミガ)き上げてようやくその日の(ツト)めが終わるのだ。いつもであれば一日がつつがなく終わったことに(ムネ)()()ろし部屋(ヘヤ)(モド)る前に磐里(バンリ)一息(ヒトイキ)ついて明日(アス)朝餉(アサゲ)内容(ナイヨウ)をどうしようかなどと(カタ)らう所だが今日ばかりはそういうわけにもいかなかった。湯殿(ユドノ)を出ると(スデ)に月が高く(ノボ)っているのが見える。(ミナ)自室(ジシツ)()()げ始めた時はまだもう少し低いところに(ツキ)が見えていたから今は()(コク)近いかもしれない。


きっと今頃(イマゴロ)落ち着かない気持ちを(カカ)えて待っているのだろう。


手早(テバヤ)()なりを(トトノ)えてから加嬬(カジュ)皓滓(コウサイ)自室(ジシツ)へと続く道を辿(タド)り始めた。


(オモ)いを受け止めると(ツタ)えた(アト)皓滓(コウサイ)言葉(コトバ)(トオ)加嬬(カジュ)(ツト)めを(サマ)たげることはしなかった。けれど、いつも(ドオ)りに(ツト)めをこなしている加嬬(カジュ)の姿を何処(ドコ)()()きのない目で()っているのは見ずとも知れて(ワラ)い出したくなるのを(コラ)えるのに随分(ズイブン)苦労(クロウ)させられた。


皓滓(コウサイ)のことだ。()げはしないと言った加嬬(カジュ)言葉(コトバ)を信じられないということではなく本当に加嬬(カジュ)(オトナ)ってくれるのか自信(ジシン)が持てず、不安フアン()られていたのだろう。その姿(スガタ)があまりにも可愛(カワ)いらしく見えて夕餉(ユウゲ)(ゼン)()げる時にこっそりと(アン)じないように(ツタ)えてみたら、傍目(ハタメ)にも分かるくらいほっと安堵(アンド)していたのだ。その後も幾度(イクド)視線(シセン)(カン)じていたから、きっと今頃(イマゴロ)また()()けずに自室(ジシツ)()っていることだろう。もしかしたらそわそわとし過ぎて自室(ジシツ)の中を歩き回っているかもしれない。


これまで長い(ジカン)を待たせてしまったのだから、これ以上待たせてはならないと思うと自然(シゼン)と歩く速さも上がる。晧滓(コウサイ)がどうしてここまで自分のことを(ホッ)してくれるのかは加嬬(カジュ)にも分からない。けれど昼間(ヒルマ)(ホオ)()れた手の冷たさと(フル)えだけで()()()()()()()()()()()()だった。加嬬(カジュ)にとってもこの選択(センタク)がどのようなことになるのかは分かっている。若君(ワカギミ)である晧滓(コウサイ)とそれをずっと支えてきた女官(ニョカン)でしかない加嬬(カジュ)が共に居るということを喜んでくれるものばかりでは決してないだろう。それでも加嬬(カジュ)晧滓(コウサイ)を信じてみたいと思った。その先の道程(ドウテイ)に何が起ころうとも晧滓(コウサイ)であれば(ツナ)いだ手を(ハナ)すことはないと信じられるから。


晧滓(コウサイ)自室(ジシツ)()が見えて一度加嬬(カジュ)は足を止めた。見える()を開いてしまったらもう(アト)退()くことはできなくなる。心を決めて気持ちも(トトノ)えた(ハズ)なのにいざとなると()を進めることができなくなっていることに少しばかりの戸惑(トマド)いを感じて加嬬(カジュ)自嘲(ジチョウ)した。他者(タシャ)(ジョウ)()わすことなどこれまで幾度(イクド)()てきたことなのに少しばかり(シン)(ゾウ)早鐘(ハヤガネ)を打ち始めてしまって思わず加嬬(カジュ)(ムネ)を押さえた。その手も(ワズ)かに(フル)えていて、らしくないとやはり自身(ジシン)(ワラ)えてきてしまう。この()(オヨ)んで(オク)するなど信じて待っていてくれている晧滓(コウサイ)に対して失礼(シツレイ)だと分かっているのに()()一歩(イッポ)がどうしてなのか()み出せない。とにかく一度落ち着かなければ、と目を閉じて幾度(イクド)か大きく呼吸(コキュウ)する。()(イキ)(トモ)(クスブ)渦巻(ウズマ)くような不安(フアン)を自分の外に出してしまえるように呼吸(コキュウ)()(カエ)すと少しずつ落ち着きを取り(モド)すことができた。よし、と心の中で自分を鼓舞(コブ)して顔を上げた加嬬(カジュ)視線(シセン)の先に見えた景色(ケシキ)にほんの一時(ヒトトキ)(イキ)が止まってしまい目を見開(ミヒラ)いてしまう。向かおうとしていた()の前にいつのまに出てきていたのか晧滓(コウサイ)が立っている。


「…若君(ワカギミ)…?」


寝間着(ネマギ)姿(スガタ)晧滓(コウサイ)に声をかけると、うん、と(ヤワラ)かく微笑(ホホエ)んで加嬬(カジュ)の前までゆっくりと歩いてくる。


「…どうかなされたのですか?」


「どうも何も加嬬(カジュ)気配(ケハイ)を感じたから(ムカ)えに出たんだよ」


「そのようなことを()さっていただかなくとも(オトナ)いますと申しあげましたでしょう?」


「まあそれはそうなんだけどね」


出来るだけ()()いて聞こえるようにゆっくりと話す加嬬(カジュ)の手を苦笑(クショウ)しながら晧滓(コウサイ)(ニギ)った。


加嬬(カジュ)のことを信じてなかったわけじゃないんだよ。でも加嬬(カジュ)のことだからきっといざってなったらまた色んな事を考えちゃうだろうし、そこは(オレ)出番(デバン)かなって思ってね。本当は(ムカ)えに行きたかったけど(オコ)られるのが目に見えてたからさ」


でしょ?、と優しく微笑(ホホエ)まれて加嬬(カジュ)は胸に当てていた手で(コロモ)をぎゅうっと(ツカ)んでしまった。(チガ)う、と伝えなければならないのは分かっているのに言葉(コトバ)を出せないでいる加嬬(カジュ)の手を引いて晧滓(コウサイ)は自室へと加嬬(カジュ)(マネ)き入れた。加嬬(カジュ)掃除(ソウジ)などで幾度(イクド)となく足を()み入れてきた(ハズ)部屋(ヘヤ)であるというのに今宵(コヨイ)ばかりは(チガ)って見えてしまう。寝支度(ネジタク)(トトノ)えられた寝所(シンジョ)(ホノ)かに揺れる(アカリ)()やした水差(ミズサ)しを置いた(ツクエ)も何もかもが()()()()()()()()()()()。知らず知らずの内に(コロモ)(ツカ)んでいた手にますます力を込めた加嬬(カジュ)は引かれるままに晧滓(コウサイ)(ミチビ)かれて寝所(シンジョ)に入る。先に(スワ)った晧滓(コウサイ)が軽く寄せるように(ツナ)いでいる手を引いて(スワ)るように(シメ)してくれた。加嬬(カジュ)晧滓(コウサイ)の前に()すと(ツナ)がれていた手が(ハナ)されて、()わりに(アタタ)かい(テノヒラ)加嬬(カジュ)(ホオ)(ツツ)んだ。


「…大丈夫(ダイジョウブ)だよ、加嬬(カジュ)。何にも心配(シンパイ)することなんてない。全部(オレ)()き受けるから加嬬(カジュ)はいつもの通りに(ワラ)ってくれていればそれでいいんだ」


「そのようなわけには(マイ)りませんでしょう?何事(ナニゴト)も分け合うことが(ツレアイ)()るということでございましょうに」


当てられた手の(ヌク)もりに思わず()()ってしまうが晧滓(コウサイ)は小さく(ワラ)いながら(カタ)(スク)めている。


「まあ()()()()()()()()()(ウレ)しいけど加嬬(カジュ)は今、本当に()()()()()()()とか、(ダレ)かに()()()()()()()()()()()()とか、そんなことばっかり考えちゃってるでしょ?」


心の中を見透(ミス)かすような晧滓(コウサイ)言葉(コトバ)加嬬(カジュ)身体(カラダ)一瞬(イッシュン)強張(コワバ)ってしまう。()()見逃(ミノガ)すことなく(ツツ)んだ(ホオ)()でながら晧滓(コウサイ)は優しく微笑(ホホエ)んで見せた。


「良い?(ダレ)が何を言おうとそんなの関係(カンケイ)ないんだよ。だって(オレ)加嬬(カジュ)(ノゾ)んだだけなんだから、加嬬(カジュ)(ウシ)ろめたい思いをすることなんてないんだ。()()()()()()全部(オレ)が引き受けるし何を言われたって(ワラ)い飛ばしてれば良いだけのことなんだよ?」


「…ですがそれでは若君(ワカギミ)御辛(オツロ)うなられるではないですか…」


伝える(コエ)(フル)えてしまっているのに晧滓(コウサイ)微笑(ホホエ)むばかりだ。


「いいや?だってずっと(オレ)加嬬(カジュ)に好きだって(ツタ)えてきてただろ?どうしようもなく()れこんで自分(ジブン)だけの者にしたいって(ノゾ)んだ(ヒト)()()を受け入れてくれたんだよ?それなのに(ツラ)くなるなんてことあるわけもない」


当たり前のように(オモ)いを()げて微笑(ホホエ)んでくれる晧滓(コウサイ)の顔が少しずつ(ニジ)んで見えてしまって思わず加嬬(カジュ)(ウツム)いてしまう。


「…どうしてそこまで…っ…」


(シボ)り出した声と共に(ムネ)に当てたままだった手にますます力を()めてしまう。晧滓(コウサイ)(オモ)いに(コタ)えると決めてきた。

昼間(ヒルマ)晧滓(コウサイ)姿(スガタ)を見て(アイ)らしいと思った。

何より(フル)えて(オビ)えながらも(ホッ)してくれていることが(ウレ)しくて、そんな晧滓(コウサイ)から()げてはならないと痛感(ツウカン)したからこそ()()()に来ることを決めた(ハズ)だった。


―――――それでも。


心の奥底(オクソコ)(クスブ)不安(フアン)は消し切れたわけではない。


それは加嬬(カジュ)(ウシ)ろめたさから来るものだということくらい分かっている。晧滓(コウサイ)と同じ熱量(ネツリョウ)(オモ)いを(カエ)せていないことが分かっているからこそ()()()()()()()()()()()()不安(フアン)になってしまっているのだ。


「何でって言われてもなあ、加嬬(カジュ)加嬬(カジュ)だからってしか言えないんだよねえ」


当てていた(テノヒラ)加嬬(カジュ)の目から(アフ)れて流れ落ちる(ナミダ)(ツタ)うことも(カマ)ずに皓滓(コウサイ)は優しく(ホオ)()で続けてくれる。()()()()()()()()()()、とその手の(ヌク)もりだけで加嬬(カジュ)にもわかってしまう(ホド)に。


本当に()()()()()()()()()(ナヤ)んでいたことも。

本当に()()()()()()()()()()やんでいたことも。

何より加嬬(カジュ)がこの先(オモ)われているだけと同じ温度(オンド)皓滓(コウサイ)(イツク)しんでいけるのだろうかと思っていたことも。


()()()


「…若君(ワカギミ)…、(モウ)(ワケ)ございません…」


「え?!何で(アヤ)まるのさ?もしかしてやっぱり無理(ムリ)だってことなの?」


()びながらも(ナミダ)(コラ)えきれない加嬬(カジュ)(アセ)皓滓(コウサイ)の声が()る。()()()()()()()いたいのに嗚咽(オエツ)で言葉が(ツム)げなくなり加嬬(カジュ)には必死(ヒッシ)(クビ)()るしかできない。


「…本当に(モウ)(ワケ)ございません…」


見透(ミス)かされていた(ココロ)()()()()()()()()()()()()()()()()自分が()ずかしくなってもう一度加嬬(カジュ)皓滓(コウサイ)()びた。


「だからあ、何をそんなに(アヤマ)ることがあるの?加嬬(カジュ)(アヤマ)らなきゃならないことなんて何にもないだろ?」


「ですが(ワタクシ)は…っ」


「…()()()()()覚悟(カクゴ)()()()()()?」


(ツム)ごうとした言葉の(サキ)を言い当てられてびくりと(フル)えた加嬬(カジュ)の顔を両側(リョウガワ)から皓滓(コウサイ)の手が(ツツ)んだ。そのまま上向(ウワム)かされるが(ナミダ)(ニジ)んだ目では皓滓(コウサイ)の顔も(カス)んで見えてしまうばかりだ。ただそっと(カサ)ねられてすぐに(ハナ)れた(クチビル)(アタタ)かさだけが(タシ)かなものとして残る。


「だから大丈夫(ダイジョウブ)だって言ってるじゃないか。(オレ)加嬬(カジュ)にそこまでの覚悟(カクゴ)()いるつもりもないし(ツラ)い思いをさせたくて一緒(イッショ)()()しいって(ネガ)ってるわけでもない。(オレ)がずっと(トナリ)に居て欲しくてその気持ちを押し付けてるだけなのも分かってるんだ。それが加嬬(カジュ)にとって(ナヤ)ましく思えてしまうことも分かってるよ?それでも加嬬(カジュ)(シアワ)せにするのは(オレ)()りたいってだけなんだ」


(アフ)れ出る(ナミダ)を指で(ヌグ)いながら晧滓(コウサイ)加嬬(カジュ)(ヒタイ)口付(クチヅ)けた。


「…本当に(ワタクシ)などが若君(ワカギミ)御側(オソバ)に居ても(ユル)されるのでしょうか…」


(ダレ)(ユル)しがいるの?加嬬(カジュ)を求めてるのは(オレ)だよ?」


「…そうではございますが…」


加嬬(カジュ)(ナヤ)むのも不安(フアン)になっちゃうのも仕方(シカタ)が無いとは思うよ?どれだけ(オレ)加嬬(カジュ)を好きだって言ってもどうしてって聞いてくるくらいなんだから信じられないって思ってるのも分かってる。だけど(オレ)には信じて欲しいってしか言えることはないんだよ。(オレ)が生まれてからずっと加嬬(カジュ)(ソバ)に居てくれたよね。(ダレ)にも言えないようなこともしたこともあったけど加嬬(カジュ)はいつも分かってくれていて何でもないことのように(ワラ)ってくれてた。それが()()()()()()()()()()()って気付(キヅ)いた時から(オレ)にとって加嬬(カジュ)は何よりも特別(トクベツ)(ヒト)なんだよ」


伝えながら深く口付(クチヅ)けて晧滓(コウサイ)加嬬(カジュ)身体(カラダ)を押し(タオ)した。ふかりとした布団(フトン)感触(カンショク)を味わうよりも先に加嬬(カジュ)口内(コウナイ)晧滓(コウサイ)(シタ)が入り込んできた。顔は両側(リョウガワ)から晧滓(コウサイ)の手で(ツツ)まれたまま確かめるように、(トキ)(モテアソ)ぶように口付(クチヅ)けられて加嬬(カジュ)の中で(オサ)()んでいた熱が(フタタ)()え上がってくる。時折(トキオリ)(クチビル)(ハナ)すとその(タビ)晧滓(コウサイ)微笑(ホホエ)んでいるのが見えた。


「本当に(イヤ)なら押し(モド)して()げてもいいから。だけど加嬬(カジュ)がこのままでも良いって少しでも思ってくれるなら()()()()()()ことを(ユル)してくれると(ウレ)しい。(オレ)は今のままの加嬬(カジュ)が良いんだ。これから先長く一緒(イッショ)()ごしてくれて少しずつ同じ温度になってくれたらそれで良いんだから」


(ツタ)えてくれる晧滓(コウサイ)の言葉が少しずつ加嬬(カジュ)の心の(オコリ)()かしていく。顔を(ツツ)んでいた手が()れて寝間着(ネマギ)をそっと()(ハラ)れても加嬬(カジュ)は逃げようとは思えなかった。むしろ素肌(スハダ)(カサ)なったことでさえ切なくて嬉しくて(ナミダ)を止めることができない。遠慮(エンリョ)しているのかそっと身体(カラダ)に触れる晧滓(コウサイ)の手が加嬬(カジュ)(オモンバカ)ってくれているのも痛いほどに伝わってくる。(タガ)いに一度(クスブ)る熱を(カカ)えていた()だ。本来(ホンライ)なら思うままに()()きたいのだろうに加嬬(カジュ)が本当に無理だと思った時の()げ道を作ってくれているのだろう。そんなことなどこれまで(ジョウ)()わしてきた男達(オノコタチ)は決してしてこなかった。加嬬(カジュ)だってそうだ。()わしてもいいと思えばこそ(オウ)じていたのだし()()()()()()()()()()()()()()()()から相手(アイテ)(ヤサ)しさや丁寧(テイネイ)さなど求めたことも無かった。ただ精気(セイキ)交換(コウカン)さえ出来れば良かったし、そこに快楽(カイラク)が付いてきていただけだったのことだったのだから。


けれど今自分を(アバ)こうとしている晧滓(コウサイ)はそうではない。ただ(イツク)しむ為に、加嬬(カジュ)を一人の(オナゴ)として(ヨロコ)ばせようとしてくれている。その気持ちが痛いほどに伝わって加嬬(カジュ)身体(カラダ)からすとんと力が抜けた。


若君(ワカギミ)


静かに声を()けると皓滓(コウサイ)の手が止まって()わりに軽く口付(クチヅ)けられた。


「何?やっぱりやめたくなった?」


少しばかり意地悪(イジワル)(ワラベ)のような笑顔(エガオ)を向けられて加嬬(カジュ)も自然と()みが(コボ)れてしまう。静かに首を横に()って、そうではございません、と投げ出していた(ウデ)皓滓(コウサイ)の首に(マワ)す。


今一度(イマイチド)だけ(ワタクシ)で良いと(モウ)して(イタダ)けませんか?」


(ワラ)って(ネガ)加嬬(カジュ)皓滓(コウサイ)が深く口付(クチヅ)ける。


「何度だって(ツタ)えるよ。それこそ加嬬(カジュ)安心(アンシン)して(オレ)で良かったって思ってくれるまで、もちろんその後もずっとね。(オレ)加嬬(カジュ)が欲しい。加嬬(カジュ)でなきゃ(イヤ)だ。だから(オレ)だけの者になってくれないかな?」


真摯(シンシ)(ツム)がれる言葉に加嬬(カジュ)は静かに(ウナズ)くとぎゅうっと皓滓(コウサイ)()き付いた。皓滓(コウサイ)もまた同じように加嬬(カジュ)を抱き返してくれる。


「また(オソ)れてしまうことがあるやもしれませんが、御許(オユル)しいただけますか?」


「その時は言ってよ。加嬬(カジュ)の不安なんて(オレ)が全部取り除いてあげるから」


嗚咽(オエツ)を上げながら(タズ)ねているのに皓滓(コウサイ)は気にすることもなく加嬬(カジュ)の頭を()でながら優しく身体(カラダ)(タタ)いて落ち着かせようとしてくれている。


()げだしたいと思う時もあるやもしれませんよ?」


()がさないように(ツカ)まえておくから大丈夫(ダイジョウブ)


「…(サイワイ)にしてくださいますか?」


「もちろん。(オレ)(スベ)てを()けて」


(コタ)えながら皓滓(コウサイ)加嬬(カジュ)を抱きしめる(ウデ)に力を()めていく。少しでも加嬬(カジュ)の不安や(オソ)れが(イヤ)されるようにと願いながら抱きしめ続けていると、若君(ワカギミ)、と加嬬(カジュ)の声がした。顔を上げると加嬬(カジュ)が大きく息を()いている。


「ではお願いがございます」


「お願い?」


(ナミダ)()れた(マブタ)口付(クチヅ)けながら(タズ)ね返した皓滓(コウサイ)加嬬(カジュ)はもう一度深く(ウナズ)いた。


若君(ワカギミ)の思うままに(ワタクシ)(アバ)いてくださいまし。(ワタクシ)にありのままの若君(ワカギミ)をくださいませ。…(ワタクシ)身体(カラダ)若君以外(ワカギミイガイ)の手を(ワス)れることが出来るよう。(ワタクシ)身体(カラダ)若君(ワカギミ)(カタチ)(オボ)えるまで(ワタクシ)若君(ワカギミ)を下さいまし」


「そのお願いは(ウレ)しすぎるけど、そんなことしたら明日の加嬬(カジュ)(ツト)めに(サワ)りが出るんじゃないかな?」


少しばかり(コマ)ったような笑顔(エガオ)皓滓(コウサイ)が言う。()()()()()と言われても本当に()()()()()()()()()それこそ皓滓(コウサイ)()()ける(マデ)加嬬(カジュ)(ウデ)の中から出すことは出来ないだろう。


御心配(ゴシンパイ)には(オヨ)びませんよ。(ワタクシ)とて(オニ)でございますもの、()()()()(サワ)りの出るような身体(カラダ)ではございませんから」


「でもなあ、加嬬(カジュ)()()()()って言うけど多分(タブン)(スゴ)無理(ムリ)させちゃうと思うんだよね?ただでさえ()()()()()()()()()んだから歯止(ハド)めが()かなくなるよ?」


(ナヤ)皓滓(コウサイ)(ホオ)にそっと加嬬(カジュ)()れた。本当にどこまでも加嬬(カジュ)のことばかり(オモンバカ)ってくれていることが(ウレ)しくて(タマ)らなくなる。


()()()()()()()()()()()()(ワタクシ)だけに若君(ワカギミ)(クダ)さるのであれば(ワタクシ)もその(スベ)てを()けいれたいのです」


いつのまにか(ナミダ)は止まっていた。今加嬬(カジュ)の中にあるのは不安でも(オソ)れでもなく、ただ皓滓(コウサイ)のものになりたいという(セツ)なる(オモ)いだけだ。


「お願いでございます、若君(ワカギミ)(ワタクシ)若君(ワカギミ)(イツク)しませてくださいませ」


するりと(ホオ)()でた加嬬(カジュ)の手を取って(テノヒラ)皓滓(コウサイ)口付(クチヅ)けた。


(アオ)ったのは加嬬(カジュ)だからね?」


口付(クチヅ)けた(テノヒラ)(シタ)()ってぶるりと(フル)えた加嬬(カジュ)(アシ)を開かせて一気(イッキ)に中へと皓滓(コウサイ)は入り()んだ。皓滓(コウサイ)そのものが()しいと(ネガ)った加嬬(カジュ)唐突(トウトツ)に入り()まれるとは思っておらず(イキ)()むのと同じくして(アエ)ぎが()れるのを(コラ)えきれなかった。ただでさえ()の高い内に一度(タギ)った()だ。素肌(スパダ)()れ合っているだけでも受け入れる準備(ジュンビ)は出来ていた。それでも()()()()()と思う()も無く入り()まれて加嬬(カジュ)皓滓(コウサイ)身体(カラダ)(マワ)したままの(ウデ)でその身体(カラダ)にしがみついてしまう。


「…加嬬(カジュ)は分かってないなあ…。(オレ)がどんな思いで昼間(ヒルマ)口付(クチヅ)けだけで()えたと思ってるの?本当はすぐにでも()()()()()()()のに加嬬(カジュ)邪魔(ジャマ)しないよう必死(ヒッシ)(コラ)えてたんだ。それが容易(タヤス)いことだとでも思ってたの?」


(ツカ)んだ手はそのままにぐっと加嬬(カジュ)(オク)へと(スス)皓滓(コウサイ)(ウデ)の中から加嬬(カジュ)(アエ)ぎが(ヒビ)く。


()()()()()()()()()()()のを(コラ)えたのを()めて()しくらいなのに(アオ)ってくるなんて(オレ)のことを(アマ)(カンガ)えすぎてるとは思わない?」


「…そ、のようなっこと…では…っつ!」


(ツタ)えたい言葉(コトバ)皓滓(コウサイ)の動きによって(サマタ)げられた。()()ってきた皓滓(コウサイ)一呼吸(ヒトコキュウ)()いたと思った刹那(セツナ)(ハゲ)しく加嬬(カジュ)の中を()(ミダ)していく。(ツナ)いだ手はそのままに片手(カタテ)身体(カラダ)の動きも(フウ)じられた加嬬(カジュ)()き上げられる(イキオ)いと(ハゲ)しさに瞬時(シュンジ)翻弄(ホンロウ)されてしまう。(マタタ)()(ノボ)らされて()ねる身体(カラダ)皓滓(コウサイ)身体(カラダ)()(トド)められて()(カエ)ることさえ(ユル)してはもらえない。(タッ)した身体(カラダ)にますます熱が(コモ)っていくが()()()がす(ジカン)(アタ)えてももらえない。皓滓(コウサイ)(ウデ)の中から()け出すとこさえ(フウ)じられてひたすらに(ノボ)らされ()てさせられる加嬬(カジュ)から()れ出る(アマ)(アエ)ぎも皓滓(コウサイ)の動きと共に大きくなっていく。()きあげる(タビ)()ね返る加嬬(カジュ)身体(カラダ)(ツナ)がった皓滓(コウサイ)(ハゲ)しく()め付けた。幾度目(イクドメ)かに加嬬(カジュ)()てた時、(タマ)らずに皓滓(コウサイ)が熱い(ヨク)()き出すと()()()がさないように加嬬(カジュ)(フル)える四肢(シシ)皓滓(コウサイ)にしがみついてしまうと又(ムサボ)るように(クチビル)(カサ)ねられる。


(ハジ)めてくらい(ヤサ)しくしたいって思ってたのに…」


()れた(イキ)の中から伝える皓滓(コウサイ)加嬬(カジュ)の中から一度出ようとするが()()加嬬(カジュ)(コバ)んだ。


「…出ないで、くださいまし…っつ!」


「そんな可愛(カワイ)いこと言われてもなあ。加嬬(カジュ)全部(ゼンブ)(アマ)すことなく()でたいのに()()()()じゃ()()もできないじゃない?」


()われてしまって動きを止めた皓滓(コウサイ)(フタタ)(オク)へと進むと加嬬(カジュ)最奥(サイオク)刺激(シゲキ)した。しがみついたままの加嬬(カジュ)四肢(シシ)にもより力が()められて皓滓(コウサイ)も動きを(フウ)じられてしまう。(アマ)(コエ)皓滓(コウサイ)(アタ)える(イツク)しみで(ノボ)って火照(ホテ)(トロ)けた顔を見れるのは(ウレ)しいのだが()()()()()()()りない。


もっと見たい、もっと()でたい。


()しくて(モト)(ツヅ)けていたのに本心(ホンシン)からではないのだろうと加嬬(カジュ)が思っていることくらい分かっていた。幾度(イクド)(オモ)いを(ツタ)えてきたのにその都度(ツド)(コバ)まれてきた。それでも(アキラ)め切れなかったのだ。それがようやく()れてくれて皓滓(コウサイ)(オモ)いに向き合ってくれたのだから、ただの一度(ツナ)がった程度(テイド)(タギ)る自分を(オサ)えられる(ワケ)もない。(アレ)てしまった(イキ)を繰り返している加嬬(カジュ)(クチビル)()れた果実(カジツ)のように見える。(タマ)らずに乱暴(ランボウ)口付(クチヅ)けて皓滓(コウサイ)が動き出すとくぐもった声が寝所(シンジョ)(ヒビ)いた。()き上げる(イキオ)いでするりと(ハナ)れた(ウデ)加嬬(カジュ)()(シメ)ていた(ウデ)(ホド)いて片手(カタテ)()()める。()いた(ウデ)()きついている(アシ)片方(カタホウ)だけ()かせて持ち上げるとより深く皓滓(コウサイ)加嬬(カジュ)の中へと入っていく。


「っ…あ、(ワカ)…っ、(ギミ)っっ!!」


(ハナ)れた(クチビル)から(アマ)(アエ)ぎで()ばれて加嬬(カジュ)()()めている方の手に力が入る。


「うん」


(コタ)えながら火照(ホテ)首筋(クビスジ)(シタ)()わせながら、名前(ナマエ)、と皓滓(コウサイ)(ネガ)う。


加嬬(カジュ)名前(ナマエ)()んで」


「…(コウ)っ、(サイ)さ、まっつ!」


(アエ)ぎの中から(アマ)()ばれた瞬間(シュンカン)皓滓(コウサイ)加嬬(カジュ)首筋(クビスジ)に強く()み付いた。()め立てられる官能(カンノウ)()みつかれる(イタ)みが(トモナ)って加嬬(カジュ)身体(カラダ)()り返る。より深く()()いこんでしまうが()()凌駕(リョウガ)する(ヨロコ)びを(アタ)えられて()え切れずにまた()てた加嬬(カジュ)を休めることなく皓滓(コウサイ)()き上げ(ツヅ)ける。()みついたままで皓滓(コウサイ)の手は(タシ)かめるように加嬬(カジュ)身体(カラダ)をなぞっていく。その手が皓滓(コウサイ)()()んでいる部分に辿(タド)()いて動き始めると加嬬(カジュ)(イキ)()んだ。


「…っつ、こ、うさ、いっさま…っ、…皓滓(コウサイ)さまあっっ!!」


()り上がってくる官能(カンノウ)()()()()とは段違(ダンチガ)いだ。唯一(ユイイツ)動きを(ユル)されている左脚(ヒダリアシ)皓滓(コウサイ)身体(カラダ)()きつけて自身(ジシン)皓滓(コウサイ)から(ハナ)れないようにすることだけが加嬬(カジュ)に出来る精一杯(セイイッパイ)だった。(タッ)して()てるのと同時(ドウジ)に1番深いところで皓滓(コウサイ)(ヨク)()き出される。()()()()()()()()視界(シカイ)(シラ)んだ。意識(イシキ)さえ手放(テバナ)しそうになったけれど()みつかれたままだった首筋(クビスジ)にまた皓滓(コウサイ)()()()んで()(モド)してもらえる。けれどその痛みでもまた()ててしまった加嬬(カジュ)に、くすくすと小さな(ワラ)(ゴエ)(トド)いてようやく首筋(クビスジ)から皓滓(コウサイ)()(ハナ)れた。


「…だから言ったのに」


ぼやける視界(シカイ)の中で皓滓(コウサイ)が口の(マワ)りに付いた血を()めとっているのが見える。


(オレ)の好きにしていいなんて言っちゃうからだよ?(オレ)の者だって(シルシ)もつけちゃったからもう()げられなくなっちゃったね?」


悪戯(イタズラ)(ワラ)っている皓滓(コウサイ)(イキ)()れているが、(ウデ)はまだ皓滓(コウサイ)によって(トド)められたままだ。加嬬(カジュ)を見る目が(アツ)(ウル)んでいるのは(カス)む視界の中でもはっきりと見て取れた。


「…()げませんよ…」


「そう?まあ(ニガ)すつもりはないっても伝えてるしね」


小さく(ワラ)(ツヅ)けながら口付(クチヅ)ける皓滓(コウサイ)からは血の(アジ)がした。口付(クチヅ)けられるだけでも()(ヨジ)加嬬(カジュ)に入ったままの皓滓(コウサイ)がまた(タギ)っていくのが分かる。()れるだけの口付(クチヅ)けでは(タガ)いに物足(モノタ)りないのだ。


皓滓様(コウサイサマ)、まだ(クダ)さいまし」


「それは口付(クチヅ)けのこと?それとも(オレ)のこと?」


「…どちらもでございます。お()かりでございましょうに…」


「そうだね」


くすくすと(ワラ)(ツヅ)け少しずつ口付(クチヅ)けの(ジカン)を長くしていきながら皓滓(コウサイ)は気になっていることを(タズ)ねる。


「そういえば(オレ)(チギ)ってもらえるのかな?」


「もうお(コタ)えしたと思っておりましたのに。(サイワイ)にしてくださるのでしょう?」


話す(ジカン)さえ口付(クチヅ)けられないことが()えられずに求めてしまう。動きを(フウ)じられているのにどうにか頭だけで(ハナ)れる皓滓(コウサイ)を追う加嬬(カジュ)皓滓(コウサイ)悪戯(イタズラ)(カワ)していく。


「じゃあいつか(オレ)のことを好きになってくれたらその(トキ)加嬬(カジュ)から教えてくれるかな?」


ほんの(ワズ)かな(ウレ)いを()びた声音(コワネ)加嬬(カジュ)の心が(キシ)んだ。変わらぬ態度(タイド)のままに見える皓滓(コウサイ)だけれど()()()()()()()()など長く(ソバ)に居た加嬬(カジュ)には分かりすぎるほどにわかってしまう。


「…お約束いたしましょう。()()()()()()()、と」


好意(コウイ)がないわけではない。けれど加嬬(カジュ)(イダ)いている()()皓滓(コウサイ)(モト)めているものとは(チガ)うことも分かっている。

だがきっと()()()()()()()()()()()だろう。


「ですが今は(ワタクシ)にもっと皓滓様(コウサイサマ)(クダ)さいませんか?()りないのです、まだ皓滓様(コウサイサマ)()しくて(タマ)らずに身体(カラダ)(ウズ)いておるのです。…それはお分かりになっておられるのでしょう?」


「もちろん。だって(オレ)も同じだから。()()()()()よね?」


聞かれて加嬬(カジュ)(ウナズ)く。加嬬(カジュ)の中の皓滓(コウサイ)(タギ)り切って(カタ)脈打(ミャクウ)っているのだから。


「また(ヒド)いことしちゃうかもしれないよ?」


皓滓様(コウサイサマ)の思うままに、とお(ネガ)(イタ)しましたでしょう?」


「じゃあ良いか。明日立てなかったら(オレ)()わりに磐里(バンリ)(シカ)られとくね?」


「お(ツト)めはさせてくださいまし」


「…(ワス)れないように()()けとくよ」


悪戯(イタズラ)(ワラ)皓滓(コウサイ)に小さく嘆息(タンソク)してしまうが加嬬(カジュ)はもう限界(ゲンカイ)だ。(シタ)を出して口付(クチヅ)けを(サソ)うと荒々(アラアラ)しく(ウバ)われて、それだけでまた()ててしまう。(ウデ)の中で(ミダ)れ続ける加嬬(カジュ)に時々(ワラ)いを()としながら皓滓(コウサイ)もようやく手にした(イトオ)しい者に自分の(アカシ)(キザ)み続けた。

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