表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
184/204

護り【マモリ】

遅くなりました。

日常回ですが更新します。

悧羅(リラ)(モト)(シン)をはじめとした子どもたちが(ソロ)ったのは(サル)(コク)()ぎてからだった。(サキ)(ツト)めを()えた子どもたちが帰ろうとするとまだ晧滓(コウサイ)によって()()げられた文書(モンジョ)が残っている(シン)が止めてしまったからだ。


(オレ)だって一刻(イッコク)も早く悧羅(リラ)に会いたいんだよ?」


子どもたちが(サキ)に帰ると聞きたいことも聞けなくなるとでも言いたげな(シン)根負(コンマ)けしてしまって(ミナ)で待つことにしたのだが、その(アイダ)に何があったのかと(タズ)ねる舜啓(シュンケイ)瑞雨(ズイウ)憂玘(ウイキ)()いてやる(ジカン)出来(デキ)たのは喜ばしかった。ただ、(ツト)めが休みだった啝珈(ワカ)文官(ブンカン)として(ツト)めている媟雅(セツガ)姚妃(ヨウヒ)には結局(ケッキョク)のところ()いてやらねばならなかったが、話を聞いた(ミナ)一様(イチヨウ)(ズル)い!、と声を(ソロ)えた。


「なんで父様(トウサマ)ばっかり!」


(ホオ)(フク)らませて()ねながら()()啝啝(ワカ)悧羅(リラ)苦笑(クショウ)(カク)せなかった。


姫君(ヒメギミ)、そう(オオ)せになられますな”


(オナ)じく苦笑(クショウ)しながらではあったけれど妲己(ダッキ)啝咖(ワカ)(ナダ)めてくれてようやく話しが聞けるとその場の(ダレ)もが嘆息(タンソク)してしまう。


「で?いつから()()()けてくれてたのかな?」


大刀(ダイトウ)を取り出して(ツカ)()かぶ(ハナ)(シメ)しながら(タズ)ねる(シン)悧羅(リラ)はさての?と(ワラ)うばかりで一向(イッコウ)(コタ)えてはくれない。


(チギ)りの(トキ)にも()()()()(ナガ)れてこなかったんだけどなあ?」


小さく(イキ)()(シン)から大刀(ダイトウ)(ユズ)り受けながらそれでも(ワラ)うばかりの悧羅(リラ)に、もう!と苦笑(クショウ)して(シン)はちらりと妲己(ダッキ)を見る。啝咖(ワカ)(ナダ)めたままその(ソバ)(ハベ)っていた妲己(ダッキ)悧羅(リラ)を見て笑っている。(アルジ)?、と(タズ)ねると大刀(ダイトウ)に手を(カザ)悧羅(リラ)が小さく(ウナズ)くのが見えて話しても良いのだと(サト)る。どうやら悧羅自身(リラジシン)から話すのは気恥(キハ)ずかしいようだ。


“お前が近衛隊(コノエタイ)()いた(トキ)からだ”


その(コタ)えに(シン)だけでなく子どもたちもが声を上げた。


「はあ?!」


「そんなの800年も前になるじゃない!?」


(チギ)るどころか恋仲(コイナカ)でもなかったでしょ?なんで??」


(シン)悧羅(リラ)(アイダ)に何があったかを知っている子どもたちは(シン)じられない、と口々(クチグチ)に言い始めるが事情(ジジョウ)を知らされていない舜啓(シュンケイ)瑞雨(ズイウ)憂玘(ウイキ)などはきょとりとしてしまう。特に舜啓(シュンケイ)は長く悧羅(リラ)のことを知っているからこそ、どういうこと?と眉根(マユネ)()せてしまった。(トナリ)で手を(ツナ)いでくれている媟雅(セツガ)を見ると、色々あるんだよ、と(ワラ)われてしまうが納得(ナットク)は出来ない。


(シン)()()()とは思うけど悧羅(リラ)傷付(キズツ)けたりしたとかじゃないよね?」


()()舜啓(シュンケイ)にどうしたものかと(シン)(ホオ)()いてしまうが、これは話すしか無さそうだった。かいつまんで(カタ)り始めると話の途中(トチュウ)から苦虫(ニガムシ)()んで(コシ)を上げようとする舜啓(シュンケイ)媟雅(セツガ)がどうにか(トド)めた。それでも話が()わると舜啓(シュンケイ)(シン)()らいつかずにはおれなかった。(オサナ)(コロ)何気(ナニゲ)なく聞いてしまった父母(フボ)のようにはならないのか、と聞いた時の悧羅(リラ)(カナ)しげな表情(ヒョウジョウ)(ワス)れたことなどなかった。()()がどのようなことを()していたのかなどただ(シン)(オモ)いが(ツウ)()っていなかったからなのだと思っていたけれど、話を聞いてしまった今では(ハラワタ)()えくり(カエ)るのをとめられる(ハズ)もない。


「…なんてことしてくれてんだよ…」


今にも(シン)(ナグ)りかかってしまいそうな舜啓(シュンケイ)(シュン)ちゃん、と止めたのは姚妃(ヨウヒ)湖都(コト)だ。咲耶(サクヤ)瓜二(ウリフタ)つの容姿(ヨウシ)をした湖都(コト)舜啓(シュンケイ)媟雅(セツガ)(ムスメ)だ。100年ほど前に生まれてくれた湖都(コト)はただ静かに父様(トウサマ)嘆息(タンソク)している。


「だって湖都(コト)…」


「だっても何もないよ?(シン)くんと悧羅(リラ)ちゃんには二人(フタリ)にしか()からないことがあるの。父様(トウサマ)悧羅(リラ)ちゃんを特別に大事(ダイジ)にしてるのは知ってるし素敵(ステキ)なことだと思うよ?でも今が大事(ダイジ)でしょ?」


「それはそうだけどさあ…。悧羅(リラ)(オレ)にとって大事(ダイジ)(ヒト)で母親なんだ。そんな(ヒト)(オレ)の知らない所で()いてたなんて…。(クヤ)しいよ」


「でも悧羅(リラ)ちゃんはそうは思ってないよ、きっと。ねえ?悧羅(リラ)ちゃん?」


視線(シセン)を向けられた悧羅(リラ)大刀(ダイトウ)(カザ)していた手を(ハナ)して小さく微笑(ホホエ)んだ。


「そうだの、(ワラワ)勝手(カッテ)でしてしもうたこと(ユエ)(シン)()めておくれでないよ?里の何処(イズコ)かで(シン)(サイワイ)でおってくれておると(オモ)わばこそ(カナメ)として(オサ)として里を(ササ)えておれたに」


くすくすと(ワラ)いながら大刀(ダイトウ)(シン)(カエ)しているが舜啓(シュンケイ)はでも、と納得(ナットク)がいかないようだ。


「それに(ワラワ)には舜啓(シュンケイ)がおってくれたではないか。名を()(ハハ)(シト)うてくれる其方(ソナタ)がいつ如何(イカ)なる(トキ)でも小さな手を(ツナ)いでくれておったであろ?とても(スク)われておったのだよ」


「…それくらいしか出来てなかったもん」


「なんの」


舜啓(シュンケイ)の言葉に微笑(ホホエ)みながら悧羅(リラ)が自分の(トナリ)に来るように(ユカ)(タタ)いた。行っておいでとでも言うように媟雅(セツガ)(ツナ)いでいる手を(タタ)かれて舜啓(シュンケイ)悧羅(リラ)(トナリ)に動く。優しい微笑(ホホエ)みを(タタ)えたままで悧羅(リラ)舜啓(シュンケイ)(ホオ)()れた。


(アマ)りある(ホド)であるよ?…子を持てぬと(オモ)うておった(ワラワ)には舜啓(シュンケイ)がおらばこそ()()()()()(オモ)うておれた。何より()()()()(ワラワ)(サイワイ)を手に出来ておるは(シン)がおってくれてこそ。()()ってしもうたことなどほんに些末(サマツ)なことであるのだから」


悧羅(リラ)がそう言うなら(オレ)が何を言える(ワケ)もないんだけどさ…。とりあえず後で(シン)(ナグ)らせてもらうとして、()()(キズ)(オレ)にも見せてよね?」


「何でだよ!」


(ナグ)られることが決まってしまった(シン)(アワ)てながら舜啓(シュンケイ)に言うが一瞥(イチベツ)を向けられてしまう。


悧羅(リラ)(オレ)大事(ダイジ)母親(ハハオヤ)なの。それなのに残る(ホド)(キズ)があるなんて知って見ずにいられるわけないでしょ?」


「それはそうだろうけども!悧羅(リラ)(ハダ)を見なくったっていいだろうがよ?」


(ハダ)じゃなくて(キズ)だよ。(シン)がなんて言ったって見せてもらうからね」


(ホオ)に当てられたままの悧羅(リラ)の手を(ツカ)んで言い切る舜啓(シュンケイ)に、おやまあ、と悧羅(リラ)(ワラ)っている。じゃあ私たちも、と姚妃(ヨウヒ)湖都(コト)まで言い出して(シン)(カタ)を落とすしかない。少しでも味方(ミカタ)()やそうとちらりと忋抖(カイト)視線(シセン)を向けてみたが苦笑(クショウ)しているばかりだ。確かに忋抖(カイト)堂々(ドウドウ)悧羅(リラ)(ハダ)を見せることについて()()()何か言える(ハズ)もないのだが視線(シセン)だけでどうにかろ、と言われている気になってしまった。ああ、もうと頭を()(シン)悧羅(リラ)(スズ)を転がすように(ワラ)っている。


(イタ)(カタ)なかろうよ?ただの古疵(フルキズ)じゃて、そのように気を落とすでない」


「いや、でもね?悧羅(リラ)(ハダ)を見せるっていうのがさあ…」


「そうは(モウ)しても上の子らには(スデ)に見せてしもうておるではないか。何のことはない。ほんにただの古疵(フルキズ)であるだけのこと。…それで(シン)が思い出してやるせないと(モウ)すのであらば(アキラ)めねばならぬが、今となっては些末(サマツ)なことであろ?」


舜啓(シュンケイ)(ツナ)いだ手はそのままに()いた手で(ホオ)()れられて(シン)はますます(カタ)を落とした。


「…思い出さない日なんてないよ」


「であればこそ、(ミナ)に知ってもろうておるのも良いやも知れぬよ?今この時に(シン)(ワラワ)(カタワラ)におってくれておるのがどれほどの(サイワイ)であるのかも知ってもらえるというものだ。それに、それを()まさねば(シン)が気にしておる大刀(ダイトウ)についても(カタ)ってやれぬではないか」


「それはそうかもしれないけど…もう!わかったよ」


(ナカ)(アキラ)めた(シン)()(シメ)すと当てられていた(ホオ)がくすぐられてから(ハナ)される。そのまま悧羅(リラ)が子らを手招(テマネ)きすると、一緒(イッショ)になって一度見たことのある子どもたちも()ってくる。


「お前らは見たことあるんだからもう良いじゃないか」


「何度でも見ときたいんだよ。父様(トウサマ)母様(カアサマ)(オモ)いの(フカ)さなんだから」


項垂(ウナダ)れている(シン)(カタ)媟雅(セツガ)(タタ)いて(ナグサ)めているのを微笑(ホホエ)ましく見ながら悧羅(リラ)(ハラ)(コロモ)をずらした。途端(トタン)に目に飛び込んできた(オビタダ)しいほどの疵跡(キズアト)にそれまで見たことのなかった舜啓(シュンケイ)姚妃(ヨウヒ)湖都(コト)瑞雨(ズイウ)憂杞(ウイキ)(イキ)()む。いろいろな方向(ホウコウ)から手が伸びてきて疵跡(キズアト)()れられるとくすぐったいのか悧羅(リラ)がくすくすと(ワラ)い始めた。


「りらちゃん、いたいのない?」


小さな手で()れてくれる樂采(ガクト)に、いいや?、と微笑(ホホエ)むと何処(ドコ)安堵(アンド)したような笑顔(エガオ)を見せてくれる。それぞれの手が退()かれていく中で舜啓(シュンケイ)だけが(リョウ)(テノヒラ)疵跡(キズアト)()れたまま動かなくなってしまった。舜啓(シュンケイ)?、と媟雅(セツガ)が声を()けるが動かない舜啓(シュンケイ)身体(カラダ)がふわりと悧羅(リラ)によって(ツツ)まれた。小さく(カタ)(フル)わせている身体(カラダ)(ヤサ)しく()でると、(ツラ)かったね、と押し殺したような声が聞こえてくる。


「今となっては些末(サマツ)なことだ」


(ワラ)悧羅(リラ)がそう言えるまでにどれだけのことを()(シノ)んできてくれたのかなど舜啓(シュンケイ)には想像(ソウゾウ)することも出来ない。

ただ目の前にある疵跡(キズアト)()れる()()れた感触(カンショク)だけが()()()悧羅(リラ)(オモ)いを物語(モノガタ)ってくれる。


(ワラワ)にとりて舜啓(シュンケイ)がどれほどの(スク)いになってくれておったかなどこれを見らば言わずとも知れるであろ?そう泣くでない。このようなものただの古疵(フルキズ)でしかない。何より(シン)とまたともにおれるようになったはこれがあったからこそ。今では(ワラワ)(ホコ)りでもあるのだよ?」


ほれ泣くでない、と()(タタ)かれて悧羅(リラ)(ウデ)(オサ)まったままで舜啓(シュンケイ)(シン)を見る。


「…(オレ)(ユズ)ったんだからね?」


その言葉(コトバ)(シン)も、分かってるよ、と苦笑(クショウ)しながら舜啓(シュンケイ)の頭を()でた。


()()()()()ずっと(マモ)るって」


「だったら(ナグ)るのは一回にしといてあげるよ」


「…(ナグ)るのは変わんないのかよ」


ますます苦笑(クショウ)(フカ)める(シン)に、当然(トウゼン)と言い(ハナ)って一度強く悧羅(リラ)()()めてから舜啓(シュンケイ)媟雅(セツガ)(トナリ)(モド)る。大きく嘆息(タンソク)しながら(コシ)()ろした舜啓(シュンケイ)の手を(ニギ)って媟雅(セツガ)が、ありがとう、と微笑(ホホエ)むのを見ていると(シン)悧羅(リラ)(コロモ)(ナオ)し始めた。(ハラ)だけを出したつもりだろうが(アシ)(ホウ)まで(ミダ)れてしまっているのだから悧羅(リラ)(ハダ)(サラ)させたくない(シン)にしてみれば()(ガタ)いことだ。とりあえず(コロモ)(トトノ)えてから、で?、と(シン)(ハナシ)(モド)す。


(オレ)近衛(コノエ)(ハイ)ったのなんて悧羅(リラ)は知らなかったんじゃないの?何で大刀(ダイトウ)(マモ)りなんて()けてくれてたのかな?」


(カタワラ)に置いていた大刀(ダイトウ)を手にとって(タズ)ねるがやはり悧羅(リラ)はくすくすと(ワラ)っている。教えてくれる気がなさそうなのは何となく分かったけれど、それには子どもたちも()(トナ)え始めた。


母様(カアサマ)、教えてくれないと父様(トウサマ)がまた(コモ)ってでてこなくなっちゃうんだからね?」


「ほんとだよ。此処(ココ)で話してくれないなら寝所(シンジョ)で自分だけ聞けばいいくらいすぐに考えちゃうんだから。やっと最近(サイキン)になって近衛隊隊長(コノエタイタイチョウ)としての姿(スガタ)を思いだしてくれたんだから」


目付役(メツケヤク)啝咖(ワカ)皓滓(コウサイ)に、本当に勘弁(カンベン)して、と哀願(アイガン)されて悧羅(リラ)が、おやまあ、とますます(ワラ)い出すと妲己(ダッキ)(ワラ)いだした。


(アルジ)よ、御子方(オコガタ)にあまり心労(シンロウ)をおかけするものではございませんよ?”


「そうは(モウ)されてものう。少しばかり気恥(キハ)ずかしゅうもあるに」


(スズ)(コロ)がすように(ワラ)(ツヅ)ける悧羅(リラ)に、だから!、と灶絃(ソウゲン)玳絃(タイゲン)が声を(ソロ)えた。それに声を上げて(ワラ)いながら妲己(ダッキ)()()った。


(ワレ)(アルジ)秘事(ヒメゴト)(ユエ)知られてしまいますのは少しばかり(サミ)しゅうございますが。御子方(オコガタ)(アルジ)(マモ)りについてお知りになられたいようでございますので。さあ、早くお話にならねば(ワレ)が話してお聞かせ(イタ)しますよ?”


「…それはちと(コマ)ったことになるやもしれぬのう」


“そうでございましょう?”


揶揄(カラカ)われるように妲己(ダッキ)に目を(ホソ)められて悧羅(リラ)は、やれやれ、と小さく(イキ)()くしかない。このまま妲己(ダッキ)が話してしまってはあることないこと、それも面白可笑(オモシロオカ)しく話すに(チガ)いない。出来れば知られずとも良いと思っていた事柄(コトガラ)なのだが話さなければ子どもたちの言うように寝所(シンジョ)悧羅(リラ)が話さざるを()なくなる(ホド)(シン)の手で()とされるのは分かりきっている。しかし話しても良いものかとも思ってしまうのだ。子どもたちが言うように800年前など(シン)恋仲(コイナカ)であった(ワケ)でもなく(マモ)りを(アタ)えたのも(シン)さえ無事(ブジ)(スコ)やかに()ごしていてくれれば良いという悧羅(リラ)手前勝手(テマエガッテ)(オモ)いでしかない。()()()()()()(チギ)りの(トキ)()いても()()()()()(ナガ)()むのを(コバ)んだのだ。悧羅(リラ)手前勝手(テマエガッテ)に行ったことで(シン)にいらぬ思いを()わせたくはないのだが、それを言ってしまえば子袋(コブクロ)(ツブ)したことでさえ悧羅(リラ)手前勝手(テマエガッテ)だということも(シン)は今よりももっと(イナ)と言うのだろう。(フタタ)び小さく嘆息(タンソク)して妲己(ダッキ)を見やると早く話してしまえとでも言わんばかりに(ワラ)いを(コラ)えているのが見えて悧羅(リラ)苦笑(クショウ)するしか出来ない。


「…近衛(コノエ)に入る(モノ)()(ワラワ)()げられることは(ゾン)じておるかえ?」


小さく嘆息(タンソク)しながら(ツム)いだ言葉(コトバ)(シン)以外が(イナ)(シメ)した。(オサ)である悧羅(リラ)(マモ)ることが近衛隊(コノエタイ)最重要任務(サイジュウヨウニンム)だ。(ヨコシマ)な考えや素性(スジョウ)(アキ)らかでない(モノ)近付(チカヅ)けて(マン)(イチ)のことがあってはならない。元々(モトモト)荊軻(ケイカツ)が言い出したことだった。悧羅(リラ)(オサ)として立った時に、何処(ドコ)(イタ)らぬ考えをもつ(モノ)がいるかは分からないのだから、せめて近衛隊(コノエタイ)に入る者だけは知っておくべきだと言う名目(メイモク)だったと思うが(コトワ)ったものの押し切られてしまったのだ。


「ただでさえ腐敗(フハイ)した官吏(カンリ)一掃(イッソウ)なさったのです。里まで(ウツ)した中ではどのような考えを持つ者が何処(ドコ)におるとも(カギ)りません。そのような中で(オサ)御側近(オソバチカ)くに不埒(フラチ)な者をおくことなどできませぬでしょう」


(ワラワ)(オノ)()ほどは(マモ)れるに」


そうも言ってみたが荊軻(ケイカツ)退()かなかった。


「上げた者たちの名を(スベ)御目通(オメドオ)(クダ)さいませ、とは(モウ)しあげませんよ?ひとつの(カベ)としての役割(ヤクワリ)であると(オモ)うていただければよろしいでしょう」


そこまで言われてしまっては(ウナズ)くしかなかったのだが、あげられた文書(モンジョ)の中に(シン)の名を()つけてしまった時には(シン)(ゾウ)()ね上がった。何故(ナニユエ)という思いとともに荊軻(ケイカツ)()()を見せたかったのかもしれないとも思った。心の奥底(オクソコ)(シズ)めた(オモ)いとはいえ無くなってしまったわけではなかったから。同時に何と(アヤ)ういことをと(アン)じる気持ちが大きくなり何かせずにはいられなくなったのだ。


「その文書(モンジョ)の中に(シン)の名を見つけてしまっての。(アヤ)ういことが(シン)の身に()()かることのなきように、と思うてしもうてな。とはいえ手は(ハナ)してしもうておった(ユエ)気取(ケド)られぬようにせねばならなかったのだが。…(ワラワ)(トナリ)におることを(ユル)されずとも(シン)()(モノ)を見つけた時にも少しばかりの助けにはなろうしな」


(コマ)ったように話す悧羅(リラ)の手を(シン)が強く(ニギ)った。


「でも悧羅(リラ)大刀(ダイトウ)を見せたことなんてなかったよね?それはどうやってくれたの?」


「それは妲己(ダッキ)(タノ)んだ。妲己(ダッキ)であらば姿(スガタ)を見られず突き止めてくれるでな。(シン)懇意(コンイ)にしておる鍛治師(カジシ)が造り上げた頃に、の」


「…よく妲己(ダッキ)が動いてくれたもんだよ」


苦笑(クショウ)しながら(シン)に見られて妲己(ダッキ)は軽く()()った。(シン)近衛(コノエ)に入ったのは悧羅(リラ)立式(リッシキ)(アト)だ。しかも大刀(ダイトウ)(コシラ)えたのは里を(ウツ)してからになる。その(コロ)であれば妲己(ダッキ)(シン)への(イカ)りはまだ大きかっただろう。いくら悧羅(リラ)(タノ)みとはいえ何も言わなかったとは思えない。


“…(ハラ)()えたとも。だが(ワレ)(アルジ)(スベ)ての(サイワイ)()てておられた。その(アルジ)(シン)さえ平穏(ヘイオン)()ごしてくれておるのならば後は何も(ノゾ)まぬとまで(モウ)されたのだ。そうまで言われて(イナ)やなど(モウ)せもせぬだろう”


ふん、と顔を(ソム)けながら妲己(ダッキ)もその時のことを思い出す。あんな(モノ)など()()けばいいと言った妲己(ダッキ)悧羅(リラ)(オダ)やかに微笑(ホホエ)んでいた。その顔が何故(ナゼ)()いているように見えてそれ以上は妲己(ダッキ)も何も言えなくなったというのが正しい。(コシラ)()わった大刀(ダイトウ)(シン)の手に(ワタ)る前に悧羅(リラ)(トモ)鍛冶場(カジバ)(オモム)いた。(ダレ)にも知られてはならなかったから(ヨイ)()けて静寂(セイジャク)だけが(ツツ)む中で悧羅(リラ)大刀(ダイトウ)(マモ)りを(サズ)けた。(ノゾ)まぬ夜伽(ヨトギ)の後で泣きぬれた顔で(ケッ)して大刀(ダイトウ)()れないように。きっと自分が()れては(シン)(ケガ)してしまうと思っていたことは妲己(ダッキ)であるからこそ感じ取ることができた。


「…(シン)にとりては(ワズラ)わしいことこの上なかろうな…」


(アタ)えた(マモ)りの上から(ダレ)であっても気付(キヅ)かないように秘匿(ヒトク)(マジナイ)()けながら(ツブヤ)悧羅(リラ)の顔を(ワス)れたことなどない。


「でも、その(アト)は?哀玥(アイゲツ)睚眦(ガイシ)が言うには(ウス)くなったら()(ナオ)してるってことじゃない?…母様(カアサマ)(シノ)んで父様(トウサマ)(トコロ)に行ってたとは思えないんだよね?」


首を(カシ)げて灶絃(ソウゲン)(タズ)ねるが悧羅(リラ)は、そのようなこと、と微笑(ホホエ)みを(フカ)くした。


「一度(ホドコ)してしまいさえすらば何処(イズコ)におろうと同じこと。(シン)近衛隊隊長(コノエタイタイチョウ)(ニン)じられてからは(ワラワ)(ソバ)(チカ)くにおってくれたでな。さらに容易(タヤス)うなっておったの」


ふふっと(ワラ)悧羅(リラ)(トナリ)(シン)は頭を(カカ)えながら大きく息を()いた。まさかそこまでしてくれていたとは考えてもいなかった。()()()()()()()()いてしまったのに自分の知らない所でも悧羅(リラ)(シン)(マモ)ってくれていた。(ユル)されない言葉(コトバ)をぶつけて生命(イノチ)さえ(ケズ)らせることになっていたというのに、それでも(シン)()ごしていく(トキ)平穏(ヘイオン)(サイワイ)(アフ)れるようにと(ネガ)ってくれていたのだ。頭を(カカ)えたままの(シン)にすぐ(トナリ)から()ぶ声がするが()()くことが出来(デキ)ない。今悧羅(リラ)の顔をみてしまったら必死(ヒッシ)(オサ)えている(オモ)いとともに(ナミダ)(アフ)れてしまうだろう。幾度(イクド)か名を()ばれても、ちょっと待ってね、としか言えない(シン)悧羅(リラ)が小さく嘆息(タンソク)するのが聞こえた。


「…ほれ、やはり話すべきではなかったであろ?(ワラワ)手前勝手(テマエガッテ)な想い(ユエ)(シン)が知らば戸惑(トマド)うと思うておったから(モク)しておったというに…。すまなんだな、(シン)。聞かずであったということにしてはもらえまいか?」


優しく(ニギ)ったままの手を(タタ)かれるが、そうじゃない、としか(シン)には言えない。ただ(ツナ)いだままの手にますます力を()めるとやれやれ、とでも言うように忋抖(カイト)(ワラ)いだした。


(チガ)うよ悧羅(リラ)、そうじゃないって。父様(トウサマ)は知らなかったことこそが(クヤ)しいんだよ」


くすくすと(ワラ)いながら言われて悧羅(リラ)は、はて?、と首を(カシ)げた。


「だって悧羅(リラ)はずっと精気(セイキ)()らなかったでしょ?その(マジナイ)だって()けた(トキ)はそうじゃなかったとしても(ツナ)いでいくためにはそれなりに生命(イノチ)(ケズ)ってたんじゃないの?」


「…それは(ノチ)のことであるしのう…。そうは(モウ)してされても(タイ)したことでもないでなあ」


里や(タミ)()らしを(マモ)(タメ)ならば悧羅(リラ)幾度(イクド)となく(オニ)として(オサ)として能力(チカラ)行使(ツカ)ってきた。代替(ダイガワ)りしたすぐの(コロ)は里も()()かず若い鬼女(キジョ)であった悧羅(リラ)(イブカ)しむ者も多くいたし、先代(センダイ)御代(ミヨ)安穏(アンナン)としていた者たちからの反発(ハンパツ)もあった。それらを(オサメ)(タメ)度々(タビタビ)能力(チカラ)行使(ツカ)っていたから悧羅(リラ)(タクワ)えていた精気(セイキ)など50年(ホド)()きてしまった。それからは少しずつ生命(イノチ)(ケズ)っていたけれど()()()この生命(イノチ)が早く終わってくれるのであれば悧羅(リラ)にとっては(ノゾ)ましかったし、()()()()()()()()()(ネガ)っていた。


次の日に()()めることがないように、と毎夜(マイヨ)(ネガ)いながら妲己(ダッキ)(ツツ)まれて(ネム)りに落ちていたのだ。


何より里を(マモ)(タメ)行使(ツカ)うよりもただ(シン)(マモ)(タメ)行使(ツカ)いたかった。大刀(ダイトウ)()けた(マジナイ)も大して強いものではないのだし(ヤク)に立っていたのかさえ分からない。それほどに弱々(ヨワヨワ)しい(マジナイ)であったから()()()悧羅(リラ)生命(イノチ)直接的(チョクセツテキ)(ケズ)ることにはならなかった(ハズ)だ。


きょとりとしてそう()げる悧羅(リラ)忋抖(カイト)(カタ)(スク)めて見せた。


悧羅(リラ)はそうでもないって思ってても悧羅(リラ)(ホドコ)した(マジナイ)はとっても(ツヨ)いんだよ。上から秘匿(ヒトク)(マジナイ)まで()けてるなら父様(トウサマ)大刀(ダイトウ)には2つ悧羅(リラ)能力(チカラ)()ったってことでしょ?(オレ)が同じことしようとしたら毎日でもヒトの子から精気(セイキ)(モラ)わないと(マカナ)えないくらいのものなんだよ?」


「それはちと大仰(オオギョウ)ではないか?大した(マジナイ)でもないというに」


ますます首を(カシ)げる悧羅(リラ)にその場の全員(ゼンイン)がとんでもないと手を()った。


母様(カアサマ)、前に啝咖(ワカ)が言ったでしょ?母様(カアサマ)極々自然(ゴクゴクシゼン)(イキ)でもするかのように里を(マモ)ったり出入(デイ)りの(モン)(マジナイ)をずっと行使(ツカ)ってるけど普通(フツウ)(オニ)ならそんなこと出来ないんだってば!」


「そのようなものなのか?ほんに大したことではないのだよ?」


「大したことなの!だから父様(トウサマ)()()()()()()()()()()


子どもたちに()(シメ)されてもう一度(シン)悧羅(リラ)視線(シセン)(モド)して名を()んでみるのだが(シン)一向(イッコウ)に顔を()げてはくれない。


「…ほんとにちょっと()って…。(オレ)悧羅(リラ)の顔見たら泣いちゃうから」


ようやく(シボ)り出した(シン)に、悧羅(リラ)はおやまあ、と微笑(ホホエ)んだ。その姿(スガタ)に子どもたちは声を上げて(ワラ)いだしている。


「ね?父様(トウサマ)は知らなかった事を知っちゃって今どうしようもないんだよ。(モウ)(ワケ)なさと(クヤ)しいのと有難(アリガタ)いのとできっと頭の中がぐちゃぐちゃなんだ」


「…多分(タブン)今すぐにでも寝所(シンジョ)()()みたいんだろうけど、それは()()()()ませてからにしてもらおうかな?」


(ワラ)いながら(サト)忋抖(カイト)に押されるように玳絃(タイゲン)が自分の大刀(ダイトウ)を取り出した。それを悧羅(リラ)の前に置くと、(ホカ)の子どもたちも自分の武具(ブグ)を取り出していく。媟雅(セツガ)姚妃(ヨウヒ)は自分が日頃(ヒゴロ)使っている(フデ)を出して悧羅(リラ)の前に置いた。ずらりと(ナラ)べられた物を前にして悧羅(リラ)はくすくすと(ワラ)っている。


父様(トウサマ)だけってのは無しだよね?」


さあどうぞ、と(マモ)りを(モト)める子どもたちに(コラ)え切れなくなったのか悧羅(リラ)が声を上げて(ワラ)いだした。それどころか妲己(ダッキ)哀玥(アイゲツ)睚玼(ガイシ)まで(ワラ)い出して、え?、と子どもたちはまさかと思った。


『お気付(キヅ)きになられておられなかったのですか?』


(アルジ)がお前たちだけ粗末(ソマツ)(アツカ)(ハズ)もないだろう?】


哀玥(アイゲツ)睚玼(ガイシ)(サト)されて(ミナ)妲己(ダッキ)を見ると大きく()()る姿が目に入る。


(ワレ)らの(アルジ)御子方(オコガタ)が手にされた(トキ)より(スデ)(マモ)りを御与(オアタ)えになられておいででございますよ”


くっくっと(ワラ)われながら妲己(ダッキ)は言うが子どもたちには(ナラ)べた自分の武具(ブグ)何処(ドコ)(マモ)りが()けられているのかが分からない。まじまじと見つめる子どもたちの前で悧羅(リラ)()いている手をひらりと武具(ブグ)の上で()ってみせると(ホノ)かな(ムラサキ)の光が見え始める。


「少しばかり(ヨワ)まっておるに()(ナオ)しても良かろうの」


(ホノ)かな光の中でそれぞれの武具(ブグ)(フデ)の一部に小さな(ハス)()かび上がってきて見守る子どもたちが息を()んだ。それは刀身(トウシン)であったり(ツカ)であったり(ツバ)であったり、(フデ)であれば持ち手の部分であったりと様々(サマザマ)ではあったけれど(タシ)かに()()にある。


(シン)(アタ)えてくれた(サイワイ)何某(ナニガシ)かあらば(ワラワ)の身は()かれてしまうに。()らぬと(モウ)されればすぐにでも()(ユエ)、今しばらくは(ワラワ)其方等(ソナタラ)庇護(ヒゴ)させてたも」


()らいでいた光を()()むように置かれた武具(ブグ)(ハス)一瞬(イッシュン)(カガヤ)くと光が(オサ)まるに連れてまた(ハス)も見えなくなった。


「お(ネガ)いしといて何なんだけど、これだけの能力(チカラ)行使(ツカ)って母様(カアサマ)は本当に何ともないの?」


光の消えた自分の武具(ブグ)て手にとって(タシ)かめながら皓滓(コウサイ)(タズ)ねるが悧羅(リラ)は静かに首を()るばかりだ。どんなに(タシ)かめても目を()らしてみても先程(サキホド)はっきりと()かび上がった(ハス)はもう何処(ドコ)にも見当(ミアタ)らない。それ(ホド)完璧(カンペキ)秘匿(ヒトク)されているのだから(タト)(シン)であったとしても睚玼(ガイシ)言葉(コトバ)がなければ今も気付(キヅ)くことはなかっただろう。自由奔放(ジユウホンポウ)睚玼(ガイシ)のことだからほんの(ワズ)かばかり気付(キヅ)けるように手を()したかもしれない。悧羅(リラ)(カク)しておきたかったのも分かってはいたのだろうが、それでも(シン)は知っておくべきだとでも思ったのだろう。何より()()()を知っていた妲己(ダッキ)睚玼(ガイシ)独断(ドクダン)で教えてしまったことに()(トナ)えていないことがまず()()ることではない。それは妲己(ダッキ)()()()()()()()と思っていたからではないだろうか?自分たちが(モド)ってくる前に(シツケ)(ショウ)して少しばかり痛い目には合っているだろうが、それでも妲己(ダッキ)も話して聞かせることを()け入れたのだろう。


「この程度(テイド)(マジナイ)などなんのことはない(ユエ)(アン)じずともよい。なれどほんに(タイ)したものではないのでな、あまり無理(ムリ)をしておくれでないよ?」


子どもたちにそれぞれの武具(ブグ)(カエ)しながら言う悧羅(リラ)から受け取りながら、そういえば、と忋抖(カイト)が口を開いた。


樂釆(ガクト)武具(ブグ)なんだけど大鎌(オオガマ)って本当なの?それも悧羅(リラ)(ツク)ってくれるって話だけど何で?っていうかそんなことして大丈夫(ダイジョウブ)?」


(スワ)った(ヒザ)樂釆(ガクト)が乗ってきて大刀(ダイトウ)(サワ)ろうとするのを(セイ)しながら悧羅(リラ)を見ると微笑(ホホエ)みながら左手に(ムラサキ)鬼火(オニビ)を一つ出してふうっと(イキ)()()けた。一瞬(イッシュン)鬼火(オニビ)が大きく()え上がると(ナガ)黒柄(コクエ)に長く曲がった黒刀(コクトウ)()()(アラワ)れた。大きさにして(シン)忋抖(カイト)背丈(セタケ)(ユウ)()える大鎌(オオガマ)()を持ってくるりと(カエ)して刀身(トウシン)(ツカ)んだ悧羅(リラ)大鎌(オオガマ)()忋抖(カイト)に向ける。忋抖(カイト)()(ツカ)むのを見て刀身(トウシン)から手が(ハナ)されるとずっしりとした重みとともにふわりとした悧羅(リラ)能力(チカラ)(ツタ)わってきた。


「…これ…、(スゴ)いんだけど?!こんな()い物樂采(ガクト)使(ツカ)わせてもいいの?」


(ヒザ)の上から、がくとの?、と顔を(カガ)やかせる樂采(ガクト)(サワ)らないように()ってきた姉弟妹達(シテイマイタチ)大鎌(オオガマ)(ワタ)すと(ミナ)(オドロ)きの(アマ)り、(ウソ)お、と(ツブヤ)いている。(シン)()れ出る気配(ケハイ)気付(キヅ)いたのか顔を上げて大鎌(オオガマ)を見やると小さく笑った。


睚玼(ガイシ)()()()()()()()()()()(モウ)しておるでな。里に大鎌(オオガマ)(アツラ)えられる者はおりはせぬであろ?であれば(ワラワ)(コシラ)えるしかなかろうて。とはいうても()()仕上(シア)がっておるわけではないに。忋抖(カイト)がこれでよろしいと言うてくりゃるのであらばこのまま進めてゆくが?」


「良いも何も…。()ぎるくらいの物だよ。でも本当に良いの?父様(トウサマ)だって悧羅(リラ)武具(ブグ)なんて(コシラ)えてもらったことないんでしょ?それを樂采(ガクト)になんて…」


背後(ハイゴ)姉弟妹達(シテイマイタチ)が取り合うように大鎌(オオガマ)(サワ)りながら感嘆(カンタン)の声を上げているのを聞いている忋抖(カイト)(アセ)ってしまうと、だそうだが?と悧羅(リラ)(シン)を見る。それにうん、と(ウナズ)くとよいしょ、と(シン)が立ち上がった。


「ちょっと()して」


瑞雨(ズイウ)の手に(ワタ)っていた大鎌(オオガマ)を受け取るとそのまま()を開けて(ニワ)()りた。


悧羅(リラ)


(シン)が名を()ぶと(ムラサキ)結界(ケッカイ)とともにぐん、と(ミナ)身体(カラダ)()かれる感覚(カンカク)が走った。え?、と声を上げる(ミナ)(シン)()りた(ニワ)が自分たちとかなり(ハナ)されたことに気付(キヅ)くより(サキ)(シン)大鎌(オオガマ)使(ツカ)い始めた。刀身(トウシン)だけでも(シン)背丈(セタケ)()える大鎌(オオガマ)を手にして使い慣れた大刀(ダイトウ)と同じように(シン)()うかのように軽々(カルガル)とその感触(カンショク)(タシカ)めている。()らぐ結界(ケッカイ)の外では一振(ヒトフ)りするごとに池が波打(ナミウ)樹々(キギ)がしなって()()らしていく。大鎌(オオガマ)を手にしたのは初めてである(ハズ)なのに自分の手足(テアシ)のように()るう(シン)姿(スガタ)(ダレ)からともなく、(ウソ)でしょ?、と感嘆(カンタン)の声が()れた。


(シン)実力(ジツリョク)は里の者なら(ミナ)が知っていることだ。何より子どもたちや舜啓(シュンケイ)たちなど(オサナ)(コロ)からその姿(スガタ)を見てきたし、その()()いかけてきた。だからこそ今この瞬間(シュンカン)(シン)姿(スガタ)(フル)えさえ(オボ)えてしまう。


「しんくん、すごおい!」


無邪気(ムジャキ)にはしゃぐ樂采(ガクト)が手を(タタ)いて(ワラ)うのと(シン)大鎌(オオガマ)(タメ)()えて(カタ)(カツ)ぐのは同時(ドウジ)だった。うん、と(ワラ)(シン)(ミチビ)かれるようにまた(ミナ)身体(カラダ)()かれるといつもの距離(キョリ)(ニワ)近付(チカヅ)くと、部屋に向かって歩き始める(シン)(マネ)くように悧羅(リラ)結界(ケッカイ)が消えた。


()いね。流石(サスガ)悧羅(リラ)(コシラ)えてくれただけはある。これなら樂采(ガクト)能力(チカラ)()かしてやれるでしょ」


大鎌(オオガマ)(カツ)いで部屋に入ってきた(シン)満足(マンゾク)そうに悧羅(リラ)を見ると、それはよろしかったの、と悧羅(リラ)も又微笑(ホホエ)んで(フタタ)大鎌(オオガマ)鬼火(オニビ)に変えて手元(テモト)(モド)した。(テノヒラ)の上で()える鬼火(オニビ)(ニギ)ると(ホノオ)はかき消えて(ホノ)かな(ハス)(カオリ)だけが残る。


()()仕上(シア)げてないんでしょ?だったら(オレ)(カン)じたことも()()んでくれる?」


(ネガ)ってもない」


悧羅(リラ)(トナリ)(スワ)りながら(ホオ)口付(クチヅ)けている(シン)に、だから!、と忋抖(カイト)が声をあげた。


「そんなに良いものを樂采(ガクト)に使わせても良いのかって聞いてるの!父様(トウサマ)だって(ナン)なく使(ツカ)えるなら父様(トウサマ)の物にしたほうが良いんじゃないの?!」


「ほんとだよ!何あれ?何あれ?!」


(シン)くん、格好良(カッコウヨ)すぎでしょ…」


忋抖(カイト)だけでなく(イマ)だ信じられないと言うような瑞雨(ズイウ)憂玘(ウイキ)嘆息(タンソク)されて(シン)苦笑(クショウ)した。


「あれくらいお前たちだって鍛錬(タンレン)(ツヅ)けていけば出来るようになるよ。(オレ)樂釆(ガクト)身体(カラダ)()うか(タシ)かめさせてもらっただけだしね」


「…(シン)ていっつも(ワラ)ってて(オダ)やかだけど、こうした姿(スガタ)を見ちゃうとやっぱり(スゴ)(オノコ)なんだって思わせられるよねえ。()いつくのはまだまだ(トオ)そうだよ」


「いや!だからあ!父様(トウサマ)(スゴ)いのは今更(イマサラ)なんでどうでも良いんだって!本当に樂采(ガクト)で良いのかって聞いてるじゃないか!」


「何だよ、(メズラ)しく舜啓(シュンケイ)()めてくれたのになあ」


いっかな答えをもらえない忋抖(カイト)に声を上げて(ワラ)いながら(シン)は、当たり前だと言い切った。


()()樂采(ガクト)の物だよ。悧羅(リラ)樂采(ガクト)のためだけに(コシラ)えてくれたんだから遠慮(エンリョ)せずにもらっとけ」


ひらひらと手を()りながら言う(シン)に、でも、と忋抖(カイト)(ナヤ)むとますます(シン)(ワラ)いながら自分(ジブン)大刀(ダイトウ)を取り出した。


(オレ)には()()が1番。…800年も前から悧羅(リラ)(オレ)(タメ)だけに(マモ)りを(アタ)えてくれてたんだ。これ以上の物はないよ」


ありがとうね、と微笑(ホホエ)んで悧羅(リラ)を引き寄せると(ヒタイ)口付(クチヅ)ける(シン)にその場の(ミナ)がくすくすと(ワラ)い出した。


「あんな姿見せられたら母様(カアサマ)じゃなくても()れるのは仕方(シカタ)ないだろうねえ」


(アキ)れながら(ワラ)啝咖(ワカ)悧羅(リラ)微笑(ホホエ)んでいると、それでも、と身体(カラダ)が引き寄せられた。


「それでも(オレ)には悧羅(リラ)だけだよ」


当たり前のように()沿()ってくれる(シン)悧羅(リラ)も、同じこと、と()()った。

読んでくださってありがとうございました。

お楽しみいただけたなら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ