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器【壱】《ウツワ》【イチ】

更新します。


(オモ)(マブタ)を開けることもできずにころりと忋抖(カイト)身体(カラダ)を返した。()ばした(ウデ)()()()()()()()()悧羅(リラ)()れようと手を動かしてみるが何にも()れることができない。反対(ハンタイ)か、と其方(ソチラ)にも(ウデ)(マワ)してみたけれどやはり()れることはできなかった。あれ?、と目を(コス)りながら仕方(シカタ)なく(マブタ)を開けて(アタ)りを見廻(ミワマ)してみても悧羅(リラ)の姿はない。ほんの数刻前(スウコクマエ)まで忋抖(カイト)の求めに(コタ)えて(カイナ)(オサ)まってくれていた(ハズ)なのに。


やっぱり(ユメ)だったのかなあ?


半身(ハンシン)を起こして大きく()びをしながら考えてみるが()()()()()()()()()()忋抖(カイト)身体(カラダ)に残った(ダル)さと悧羅(リラ)(ノコ)()が教えてくれた。


「まあそうだよね、(ユメ)なんかじゃないのは(イヤ)ってくらい(タシ)かめさせてもらったんだし」


ひとりごちて(スワ)(ナオ)してから忋抖(カイト)頬杖(ホオヅエ)を付く。


さて、どうしたものか?


悧羅(リラ)が居ないのでは此処(ココ)何処(ドコ)かも分からない忋抖(カイト)に里に(モド)(スベ)はない。(モド)ろうにも(マト)っていた(コロモ)も見当たらないし流石(サスガ)(ハダカ)(モド)(ワケ)にもいかない。そんなことをしてしまえば磐里(バンリ)加嬬(カジュ)から、いい(トシ)をして!、と(シカ)られてしまうのは目に見えている。とはいえ悧羅(リラ)忋抖(カイト)()()りにしていくとは考えられないのだから(シバラ)大人(オトナ)しく待っていればひょっこり(モド)って来てくれるだろう。本来(ホンライ)なら見知(ミシ)らぬ場処(バショ)にひとり残されて(アセ)らなければならないのだろうが今の忋抖(カイト)にとれば(タイ)した事ではない。そんなことよりも()たされた(オモ)いが強すぎて(ホカ)のことなどどうでも良いとさえ思えてしまう。それ(ホド)(スク)いあげてもらえたのだから。


(ムネ)奥底(オクソコ)(シズ)めていた()()くされるかのような恋情(レンジョウ)も、もう(カク)さなくていい。この数刻(スウコク)でこれ(ホド)までに(イヤ)され()たされるのであれば、これから(サキ)悧羅(リラ)(カイナ)(オサ)める日がいつとは知れなくてもその手に顔に()れられるだけで充分(ジュウブン)だ。悧羅(リラ)の目に(ウツ)るのが(タト)忋抖(カイト)でなく心を(カヨ)わせているのは(シン)だけだとしても(カマ)うことなどない。


もう忋抖(カイト)は決めたのだから。


(シン)(イト)おしく(オモ)っている悧羅(リラ)をそのまま(イツク)しんでいく、と。


「あんなに父様(トウサマ)嫉妬(シット)してたのが(ウソ)みたい」


ほんの数回自分のモノにしただけで忋抖(カイト)の行くべき方向(ホウコウ)まで悧羅(リラ)は変えてくれた。他者(タシャ)をこんなにも(イト)おしく(オダ)やかに想える日が忋抖(カイト)に来るなど思えもしなかった。今ならほんの少しだけ500年もの長い間悧羅(リラ)だけを求め(オモ)い続けてきた(シン)の気持ちも分かるような気がする。


悧羅(リラ)じゃなきゃ駄目(ダメ)だって()()()()()()だったんだ」


きっと今頃(イマゴロ)、気を()みながら待っていることだろう。

もしかしたら烈火(レッカ)(ゴト)()れて隊士達(タイシタチ)(ヒド)い目にあっているかもしれない。

(ミヤ)の中でも変わらないかもしれないが(ミヤ)()れて物でも(コワ)そうものならそれこそ磐里(バンリ)加嬬(カジュ)から(カミナリ)()とされる。あの二人に(サカ)らうということは(ミヤ)()らす者たちにとって()()がなくなるのだ。悶々(モンモン)としているだろう(シン)の姿を思い(エガ)いてひとり(ワラ)っていると、瀑布(バクフ)の先から悧羅(リラ)がするりと入ってきた。


「おや?目が()めたのか?」


(スデ)(コロモ)(マト)っているがゆっくりと近付(チカヅ)いてくる手には別の(コロモ)(タズ)さえている。


(ツカ)れておるだろう?もうしばし休んでおってもよいのだえ?」


頬杖(ホオヅエ)を付いたままの忋抖(カイト)の前にふわりと(スワ)った悧羅(リラ)は持っていた(コロモ)を置いてから忋抖(カイト)(ホオ)()れてくる。心配(シンパイ)そうな顔を見て忋抖(カイト)の顔も自然と(ホコロ)んでしまう。


「ぜーんぜん?出来ればもう少しってお願いしたいとこだよ」


()()()()()わしたではないか?」


きょとりとする悧羅(リラ)を引き寄せて(ホオ)口付(クチヅ)けると、まだまだ、と忋抖(カイト)はその身体(カラダ)()()った。


「だってまだ悧羅(リラ)余裕(ヨユウ)があるもん。父様(トウサマ)とだったら()()はいかないでしょ?」


少しばかりの意地悪(イジワル)で言ってみたのだが予想(ヨソウ)(ハン)して悧羅(リラ)の顔が(シュ)()まった。


「それは、その…。(シン)(ワラワ)(コワ)(スベ)を知り()くしておるもので…。(アラゴ)うことも出来ぬ(ユエ)…」


()まった顔を見られまいと両手で(カク)す姿など忋抖(カイト)は初めて見た。いつも自分たちの前に立つ悧羅(リラ)(リン)として多彩花(タオヤカ)でそれでいて気高(ケダカ)い姿しか見せてこなかったのに、それが(シン)のこととなるとまるで娘子(ムスメゴ)のように()じらっているではないか。


「ちょっとお、そんな可愛(カワイ)い顔しないでくれるかな?」


「そのようなつもりはないのだが…。まさか忋抖(カイト)にそう言われようとは思わなんだ(ユエ)


ますます(シュ)()まっていく姿は見たくても見れるものではなかっただろう。これは(オモ)いを受け入れてもらえた忋抖(カイト)だからこそ見れる悧羅(リラ)なのだ。


「はいはい、父様(トウサマ)みたいに悧羅(リラ)(コワ)せるように精進(ショウジン)するって」


「いや!そのようなことではなくてだな?忋抖(カイト)忋抖(カイト)で、その…」


(アワ)てる悧羅(リラ)が何とか言葉を(ツム)ごうとするのだが忋抖(カイト)はその姿が可愛(カワ)いらしくて(タマ)らずに声を上げて笑ってしまう。(ヨウ)(クラ)べられるものではない、と言いたいのだろう。どうにか分かってもらえるようにと(アセ)る姿が可笑(オカ)しくて(ハラ)(カカ)えて笑い続ける忋抖(カイト)の頭を悧羅(リラ)(ハタ)いた。


揶揄(カラコ)うておるな?」


(チガ)(チガ)う。ごめんって」


少し(ホオ)(フク)らませて見られて忋抖(カイト)も笑い過ぎたことを()びるしかない。


「ほんっと(マイ)るよ。ほんとにもうちょっとって言いたいけど悧羅(リラ)支度(シタク)してるってことは刻限(コクゲン)ってことでしょ?」


(フク)れた(ホオ)()でるとまだ火照(ホテ)ったままの(ヌク)もりが伝わってきた。目を細めて()でられている悧羅(リラ)も小さく(ウナズ)いている。


「まだかと()かされておる」


(ダレ)に、とは聞くまでもない。(チギ)りの(キズ)から(シン)がそう思っていることが伝わってくるのだろう。


「じゃあ(イソ)がないといけないねえ。…何発(ナグ)られるかなあ」


()かれた(コロモ)手早(テバヤ)(マト)って立ち上がった忋抖(カイト)がそのまま手を()ばすと悧羅(リラ)がその手をとった。流れるように立ち上がった悧羅(リラ)が、こちらへ、と忋抖(カイト)の手を引いて瀑布(バクフ)の外に出ると初めて見る景色(ケシキ)忋抖(カイト)は息を()んだ。


どこまでも薄暗(ウスグラ)広大(コウダイ)な場だがその一角(イッカク)に見上げても()てが見えないほどの上方(ジョウホウ)から轟音(ゴウオン)とともに流れ落ちる水がある。そこから流れた水は(カワ)となって伸びその中で無数(ムスウ)(ハス)(ハナ)(ホノ)かに(カガヤ)きながら揺蕩(タユタ)っていた。流れ揺蕩(タユタ)(ハス)時折(トキオリ)光とともに消え去っていくのも見える。


「そっか…。此処(ココ)に居たんだね…」


(ツナ)がれた手を離して水辺(ミズベ)に近寄ると流れていく(ハス)にそっと()れてみる。()れることが出来たのはほんの一瞬(イッシュン)。水の流れに(サカ)らうことなく(ハス)は同じ(トコロ)には(トド)まってはくれないようだ。所々(トコロドコロ)で光が(ノボ)っていくのを見ていると此処(ココ)は産まれる場でもあり(カエ)る場でもあるのだと(ワカ)った。


「…ちゃんと(カエ)ってこれてるかな?」


流れていく(ハス)から目を()らさずに(ツブヤ)いた忋抖(カイト)悧羅(リラ)の優しい声がした。


(マヨ)い子になどなれようはずもなし」


「うん、そうだね。そうだといいな」


よし!、と()り向いた忋抖(カイト)の耳に、ぱん!、とひとつ手を(タタ)く音が響くと次には見慣(ミナ)れた(ニワ)に立たされている。起こったことに(オドロ)いている()もなく今度は(シン)の声が聞こえてきた。


悧羅(リラ)!!」


声のした方を見やる前に(トナリ)悧羅(リラ)(シン)(ツツ)まれている。(オソ)い!、と言ってはいるがまだ(マワ)りは明るいし普段(フダン)であれば(シン)(ツト)めに出ている頃合(コロアイ)だろう。どちらかといえば忋抖(カイト)にはどうして(シン)此処(ココ)にいるかの方が不思議(フシギ)でならないことなのだが。


(シン)其方(ソナタ)(ツト)めはどうしたのだ?」


「そんなの舜啓(シュンケイ)()し付けてやった」


「おやまあ、それはせんないこと。舜啓(シュンケイ)が泣いておるのではないかえ?…どれ(ワラワ)が向こうて手を()してみるとしようかの?」


抱きしめられたままぐいぐいと()り寄られているのに悧羅(リラ)(ドウ)じることもなく(シン)の背中を優しく(サス)っている。揶揄(カラカ)うような悧羅(リラ)とは(チガ)って(シン)は、もう!、と(カタ)を落とした。


(オレ)だって頑張(ガンバ)ってたんだからまずは()めてよ…。あ、忋抖(カイト)赤子(アカゴ)は今哀玥(アイゲツ)たちがみてくれてるから心配(シンパイ)いらないからね」


「は?そこ?」


いっかな悧羅(リラ)から離れようとせずにそれだけを言われて忋抖(カイト)拍子抜(ヒョウシヌ)けしてしまう。


「それが1番大切だろうがよ?」


「うん、まあ、そうなんだけどね?」


()り寄られすぎてくすぐったいのか、くすくすと笑いだした悧羅(リラ)(カマ)うことなくより()り寄る(シン)の姿に忋抖(カイト)はますます呆気(アッケ)に取られた。


「いや、その…さ?まずは何発か(ナグ)られるって覚悟(カクゴ)してたんだけど…」


(ホオ)()きながら言う忋抖(カイト)の前で(シン)が勢いよく悧羅(リラ)を抱き上げるとそのまま露天(ロテン)(ホウ)に走って行こうとする。


「あ、ねえって!父様(トウサマ)ってば!!」


()()は後で!!」


「ええ?!」


(マタタ)()に見えなくなった(シン)の背中から抱き上げられたままの悧羅(リラ)の笑い声が(ヒビ)いてくる。どうやら本当に話は後回(アトマワ)しのようだ。先延(サキノ)ばしにされた方が(コワ)さが()すことを知らないのだろうか?


(オレ)()きてられるのかなあ?」


はあ、と大きく嘆息(タンソク)した忋抖(カイト)は頭を()きながら(ミヤ)の中に入ることにしたのだが(シン)にとれば話など本当(ホントウ)(アト)でいいのだ。足早(アシバヤ)露天(ロテン)()け込んで悧羅(リラ)(コロモ)だけを()ぎ取ると(アラ)()(スワ)らせてざばざばと()()け続ける。


(シン)、しばし待て」


顔にかかった()を手で(ヌグ)いながら悧羅(リラ)が言ってみるが聞く耳を持つ気はないようだ。仕方(シカタ)なく(マカ)せていると今度は手拭(テヌグ)いで身体(カラダ)丁寧(テイネイ)に何度も何度も(アラ)われてしまう。白すぎる(ハダ)(コス)られすぎて少し赤くなると胸元(ムナモト)に顔を近付(チカヅ)けて、よし!、と一人納得(ナットク)している。


(シン)は共に入らぬのか?」


()れそぼってしまった(シン)に伝えてみたが何も(コタ)えが返ってこない。()わりに今度は(カワ)いた手拭(テヌグ)いで(カミ)身体(カラダ)水気(ミズケ)を取り始めたが、ある程度(テイド)手拭(テヌグ)いを投げ捨てて寝衣(ネマキ)悧羅(リラ)(ツツ)むとまた(カカ)え上げて走り出した。(シン)?、と(ウデ)の中から呼んでみるがいっかな返事はない。小さく嘆息(タンソク)する悧羅(リラ)()いたまま(シン)は自室に()け込むとそのまま寝所(シンジョ)(スベ)り込んだ。(イキオ)(マカ)せに(クグ)られた御簾(ミス)(カワ)いた音を立てているが気にすることなく(シン)は自分と悧羅(リラ)(コロモ)()いで捨てると強く悧羅(リラ)を抱きしめた。


「ああああ、もおうっつ!!ほんっとどうにかなりそうだよ!!」


あまりにも強く抱き()められて思わず悧羅(リラ)も息を止めてしまう。小さく(セキ)こんだ悧羅(リラ)(シン)も、ごめん、と(ワズ)かに(ウデ)の力を(ユル)めた。


「で?聞きたくはないんだけど何処(ドコ)(サワ)られたの?」


むすりとした声と顔で見られて悧羅(リラ)はつい笑ってしまう。


「なるほど、そういうことであったのか」


「そういうことですけど、何か?」


小さく笑い続けながら(シン)の首に悧羅(リラ)(ウデ)(カラ)ませるが不機嫌(フキゲン)な声は変わらないままだ。


「そうだの、(シン)()れてくりゃる(トコロ)はほぼ…、と()うておこうかの?」


笑う悧羅(リラ)に、はあ?!、とまた(シン)が声を(アラ)げた。


「…やっぱり(ハヤ)まっちゃったかなあ…。(オレ)だけのものなんだけどなあ…。…ってことはもしかしてまさかと思うんだけど()てさせられたってこともあったり…とかする?」


それには流石(サスガ)悧羅(リラ)苦笑(クショウ)するしかできない。けれどそれだけで(シン)(サッ)してくれたようで大きく(カタ)を落としてしまった。


「…(ウソ)でしょお…」


がっくりと項垂(ウナダ)れる(シン)可笑(オカ)しくてますます笑う悧羅(リラ)(シン)が、笑い事じゃないんだけど?、と一瞥(イチベツ)を投げた。


「そうは(モウ)しても(ワラワ)()()(オシ)え込んだは(シン)ではないか」


「そうなんだけどね、うん、(タシ)かにそうなんだけども!!(オレ)がそうなるようにしてきちゃったんだけど、見られちゃうのは(チガ)うっていうか。(オレ)だけが知ってる(オレ)だけの悧羅(リラ)だったからさあ」


もう!、とまた不機嫌(フキゲン)な声を出しながら(シン)悧羅(リラ)片足(カタアシ)(カカ)えあげて自分の(カタ)に乗せると一気(イッキ)に中に(ハイ)()んだ。入り込まれることは分かっていたのに(キュウ)過ぎて悧羅(リラ)の笑いも消えてしまう。


「で、(ホカ)には?」


ぐっと中に()し進みながら(シン)(タズ)ねるが悧羅(リラ)は息を(トトノ)えることに必死(ヒッシ)のようだ。


「ねえってば、(ホカ)にはないの?(オレ)()わなくちゃならないようなこと!」


ふうっと大きく息を()いた悧羅(リラ)(カラ)ませていた(ウデ)()いて(シン)の顔を(ツツ)むとまた小さく笑った。


(コワ)されてはおらぬよ?」


「…ふうん…」


「おや?不満(フマン)かえ?(ワラワ)()()()()までに(ミダ)すことも(コワ)すことも出来得(デキウ)るのは(シン)だけだというに」


「それだけじゃあ何か()りてないよね?」


むっつりとした(シン)を引き寄せて口付(クチヅ)けてみるが(シン)表情(ヒョウジョウ)(ケワ)しいまま変わることはない。  


「そうだの、どうやら言葉(コトバ)()りておらぬようだ。(ワラワ)の心は(シン)だけのもの。(コワ)れる(ホド)(ハダ)(カサ)ねておりたいと願うも()りぬと()うも(シン)しかおらぬ」


心移(ココロウツ)りは?」


(シン)がおるのにか?」


きょとりとしながら(アデ)やかに微笑(ホホエ)まれて(シン)もようやく大きく息を()いた。


「…でも、ほんっと(イヤ)なんだ。分かってはいるんだよ?ちゃんと全部(ゼンブ)分かってて悧羅(リラ)()()()()()()()()()ってお(ネガ)いしちゃったの(オレ)だし?」


悧羅(リラ)(ヒタイ)に自分の(ヒタイ)を付けて大きな嘆息(タンソク)と共に(シン)が言う。


絶対(ゼッタイ)後悔(コウカイ)することも、こんな気持ちになることも全部分かってたんだけど。それでもすごく(イヤ)(イヤ)(タマ)らない」


自分に言い聞かせるように同じ言葉を()(カエ)(シン)声音(コワネ)が少しずつ(フル)えてくる。それを(ダマ)って聞きながら悧羅(リラ)(フル)える背中(セナカ)(ウデ)(マワ)してそっと抱きしめた。


悧羅(リラ)(マト)っていいのは(オレ)(ニオ)いだけなのに、忋抖(カイト)(ニオ)い付けて(モド)ってくるしさ」


そうだな、と悧羅(リラ)も抱きしめる(ウデ)の力を込めた。(モド)ってくるなり強く()()ったのは悧羅(リラ)(マト)う香りを確かめるためだったのだが、悧羅(リラ)(ニオ)いの中に自分以外のものが混じっているのが分かって、()()()()()()という(アワ)期待(キタイ)(モロ)くも()(クダ)かれてしまった。とにかく()()を早く消してしまいたくて露天(ロテン)幾度(イクド)となく(キヨ)めてようやくいつもの悧羅(リラ)(ニオ)いに(モド)すことができたのだ。


(オレ)悧羅(リラ)だって、何にも変わってないって分かってる。全部(オレ)が言い出したことで悧羅(リラ)だって(コラ)えてくれてるって…。分かってるんだけど(ココロ)()い付いていかないんだ。…(ナサ)けないよなあ…」


ふうっと(コラ)え切れずに嗚咽(オエツ)()らし始める(シン)に、そのようなことはない、と悧羅(リラ)精一杯(セイイッパイ)の力を込めて抱きしめるしか出来ることがない。(シン)(チギ)りを()わす時に(シン)以外とは()()()()()()()()()(ジョウ)()わすことはない、と(チカ)ったのに悧羅(リラ)約定(ヤクジョウ)(ヤブ)ってしまった。(シン)()わした(マモ)()かなければならない約定(ヤクジョウ)を二度も(タガ)えてしまった悧羅(リラ)には(シン)にかける言葉もその(ナミダ)を止める(スベ)も思いつかず、(タダ)ひたすらに、すまぬ、と()び続けるしか出来ない。長い(ジカン)()()()()()ごしてようやく(シン)が大きく(イキ)()いて顔を上げた。


「ごめん、(アキ)れた?」


まだ(ナミダ)(ニジ)んだ目でぎこちなく微笑(ホホエ)まれて悧羅(リラ)(ムネ)(エグ)られるように(イタ)みだす。


(アキ)れるなど…。そのようなことがあるものか」


抱きしめていた腕を(ホド)いて()かぶ(ナミダ)()いてやると(シン)がその手に顔を()()せた。


(シン)(ワラワ)のこととなるとほんに涙脆(ナミダモロ)い」


小さく微笑(ホホエ)悧羅(リラ)(ヒタイ)にまた(シン)(ヒタイ)を付ける。


()びねばならぬのは(ワラワ)(ホウ)であろ?(シン)との約定(ヤクジョウ)を二度も(タガ)えてしもうたのだ。(シン)(ホウ)こそ(ワラワ)愛想(アイソウ)()かしたのではないか?」


「そんなことあるわけないでしょ?()()だって悧羅(リラ)が自分で(ノゾ)んで(タガ)えたわけじゃないことくらい分かってるよ。だけど悧羅(リラ)約束(ヤクソク)(ヤブ)らせてしまうのはいつも(オレ)(セイ)ばっかり。だから(クヤ)しくて(タマ)らないんだよ」


はあ、とまた大きく嘆息(タンソク)する(シン)悧羅(リラ)苦笑(クショウ)してしまう。(チギ)った()()()(サイワイ)(ゴウ)(スベ)()かち()おうと(チカ)ったのに(シン)(スベ)てをひとりで(カカ)えてしまう。ほんの(ワズ)かな苦痛(クツウ)でも悧羅(リラ)()りかかることを(イヤ)がってしまうのだから(コマ)ったものだ。


(ワラワ)こそ(シン)(アキ)れることなどあるものか。このように良き(ツレアイ)から離れることなど(ワラワ)には出来ぬ」


(シン)の手を取って悧羅(リラ)が自分の(チギ)りの(キズ)(カサ)ねると悧羅(リラ)(オモ)いも()てきたことも(シン)の中へと流れ()み始める。今まで知っていたことと()()()()()()()()()()()()()()忋抖(カイト)とのことまで(スベ)て流れ込んで来て(シン)の顔が(クモ)った。


(ワラワ)(スベ)ては(シン)のもの(ユエ)、すまぬが()()うてくれまいか?」


「…こればっかりは、あんまり知りたくないんだけど…」


流れ込む想いは(シン)が考えたくなかった事実(ジジツ)容赦無(ヨウシャナ)く突きつけてくる。まるで()として目の前で見せられているようで()えられずに手を離そうとした(シン)()()()悧羅(リラ)の想いが(ヒビ)いてきて動きを止める。これ…、と流れてくる想いを今度は取り(コボ)さないように指を(カラ)ませて強く手を(ツナ)ぐと(サラ)にその想いは色濃(イロコ)く紳の中に(トド)いた。


「…これより(サキ)(シン)(ワラワ)()れてくれるのであろうか?」


(トド)く想いに何も言えない(シン)悧羅(リラ)が少し(コマ)ったように首を(カシ)げた。(タマ)らずに(シン)(ツナ)いだ手に力を込め直しながら悧羅(リラ)に深く口付(クチヅ)ける。


「…当たり前だよ…」


(チギ)りの(キズ)(イツワ)りを(カタ)らない。

そんなことは里の者なら(ダレ)だって知っている。

だからこそ今流れ込んでいる想いは悧羅(リラ)(スベ)てで嘘偽(ウソイツワ)りなどない(ハダカ)の心そのものだ。

そして、それを知ることが(ユル)されているのは(シン)だけなのだ。


「ならば(ワラワ)もようやっと(アン)じられるというものよの」


微笑(ホホエ)んで見せる顔の奥で悧羅(リラ)が泣いているように見えて(シン)はもう一度深く口付(クチヅ)ける。


(キズ)から()()なく流れ込むのは悧羅(リラ)忋抖(カイト)()ごした数刻(スウコク)のこと。知りたくもなかったその(オク)で、ただひたすらに(シン)を想い(シン)()び続ける悧羅(リラ)の声が(ヒビ)いてくる。


どうか(コバ)まれることのないように。

どうか(ユル)してまた微笑(ホホエ)みかけてくれるように。

どうか(イト)おしい(カイナ)(ツツ)んでくれるように。

どうか(シン)()()を消し去ってくれるように。


「…ほんっと(オレ)って(ナサ)けない…」


悧羅(リラ)がこれほどまでに(シン)だけを想ってくれているというのに自分で決めたことのひとつも(ワラ)って受け入れてやることができないなど()ずかしくて仕方(シカタ)がなくなってしまう。


忋抖(カイト)の心を(スク)うと決めてしもうた以上(イジョウ)これから(サキ)(シン)にはやるせない想いを背負(セオ)わせてゆくことになろう。それだけは(ワラワ)にとりて()()くほどに(ツラ)きこと」


()()(オレ)がお(ネガ)いしたことでしょ?」


「なれど決めたのは(ワラワ)じゃ」


(コマ)ったように(ワラ)われて(シン)(ツナ)いだ手を(ニギ)り直した。


(チガ)う。()()()()()()んだ」


「それでも受け入れたのは(ワラワ)であろ?」


()()()()()のは(オレ)


言い合いながら目が合ってつい(シン)悧羅(リラ)も笑ってしまう。


(メグ)ってるだけじゃないか」


くすくすと笑い合いながら、思い出した、と(シン)悧羅(リラ)(オク)に少しだけ進むと甘い声が(カス)かに聞こえてくる。何をだ?、と聞かれて(シン)(ヤワ)らかく微笑(ホホエ)んで見せる。


悧羅(リラ)約束(ヤクソク)したことを、だよ」


伝えながら悧羅(リラ)を抱き起こして(ヒザ)の上に乗せるとぐっと押し付ける。(ホカ)の者では決して()れることのできない(トコロ)()れられて悧羅(リラ)(シン)にしがみついた。


「何があっても上書(ウワガ)きしてあげるって言ったもんな。()えてくれた後は全部(ゼンブ)消してあげるって。悧羅(リラ)が忘れてしまえるように約束通(ヤクソクドオ)(コワ)してあげるよ」


押し込めたままで少し動くと悧羅(リラ)から一筋(ヒトスジ)(ナミダ)(コボ)れて落ちた。


「…(コワ)れるまで(ワラワ)(シン)をくりゃるのかえ?」


「もちろん」


「この(サキ)(シン)()とし続けてくれると思うておっても良いのか?」


当然(トウゼン)ですけど?むしろ悧羅(リラ)()れさせてもらえなかったら(オレ)の気がおかしくなっちゃうよ?」


微笑(ホホエ)んで()(シメ)(シン)の顔に悧羅(リラ)(ウデ)を伸ばして(ツツ)むと強く()()せて深く口付(クチヅ)けた。


「ならば(ネゴ)うてもよろしいか?何も考えられぬほどに(コワ)して()として(ワラワ)(シン)だけのものであると(キザ)みつけてはくれまいか?」


(クチビル)()れ合うほどの距離(キョリ)で願う悧羅(リラ)(ヨロコ)んで、と(コタ)えた後、(シン)(イキオ)いよく()き上げ始めた。急激(キュウゲキ)(アタ)えられ始めた刺激(シゲキ)悧羅(リラ)からとめどない甘い(アエ)ぎが(アフ)れてくる。しっとりと(アセ)ばんで()れる白い(ハダ)(シン)一片(イッペン)隙間(スキマ)(ユル)さずに口付(クチヅ)けながら(シタ)()わせていく。悧羅(リラ)が感じている忋抖(カイト)残滓(ザンシ)をすべからく取り()ってしまえるように、いつもよりも丁寧(テイネイ)にいつもよりも荒々(アラアラ)しくその身体(カラダ)(アバ)いていく。最奥(サイオク)悧羅(リラ)が一番敏感(ビンカン)(トコロ)(シン)が当たると抱きしめていた身体(カラダ)が大きく(フル)えて甘い声も大きくなる。


「ここも()れられた?」


(フル)える悧羅(リラ)(ササヤ)くと(アエ)ぎの中から必死(ヒッシ)に頭を()ってくれた。()()(ツネ)に当たるように(コシ)(マワ)すと(ウデ)の中で悧羅(リラ)()(カエ)り始める。


「…っ、(ハヤ)…っ!!…(シン)…っ!!」


あまりに(ハヤ)()てさせられそうになる悧羅(リラ)から名を()ばれて(シン)は小さく(ワラ)った。


「…忋抖(カイト)の名前は()ばなかったんだね」


悧羅(リラ)()てる時に名を()ぶのは(ノボ)()める()()()()身体(カラダ)(ハナ)れてしまわないようにする(タメ)だ。()()せる官能(カンノウ)(ナミ)から()げ出そうとする(オノレ)(トド)めて(シン)(アタ)える(スベ)てを受け入れるために()んでくれる。(キズ)(オシ)えてくれたことの中で悧羅(リラ)()()()()()()忋抖(カイト)の名を()ばなかったことが泣きたくなる(ホド)(ウレ)しくて(モト)められるままに(シン)口付(クチヅ)けると()っていたように悧羅(リラ)(ウデ)の中で()ね返った。(カサ)ねられた(クチビル)が離れないように(シン)も頭を抱き(トド)められて()てている悧羅(リラ)に息を()ぐことも(ユル)してやれなくなる。


(ツラ)くなるよ?」


(タガ)いに(ムサボ)るように口付(クチヅ)けを()わしながら()め立て続ける中で伝えてみるけれど悧羅(リラ)(シン)を強く抱きしめて離そうとしない。ほんの(ワズ)かでも()れ合う(ハダ)が離れることを(コバ)むようにより強く(カラ)ませた(ウデ)に力を込め続けながらより深い(トコロ)(トド)くようにと(ナマメ)かしく(コシ)を動かしてきてはそのまま又()てていく。流石(サスガ)にこのままでは悧羅(リラ)負荷(フカ)がかかり過ぎると(カサ)なりあったままでふかりとした布団(フトン)(タオ)れこんでから(シン)悧羅(リラ)から出ると、()()()、と(アワ)てたような声と手が(シン)を引き(トド)めてくる。


「これくらいで(コワ)れないでしょ?」


抱きしめられている(ウデ)にますます力が込められたけれど(カマ)うことなく(シン)は細い(アシ)を大きく開かせて中心に(シタ)()わせていく。()()()()()()()言葉だけでも(コバ)もうとする悧羅(リラ)もこの時ばかりは(チガ)った。(ウズ)められた(シン)の頭が離れないように両手で押さえつけ、細い(アシ)(シン)身体(カラダ)に巻きつけている。(アタ)えられる刺激(シゲキ)()え間もないほどに(ノボ)()てていき(シン)にしがみついていることさえも(ムズ)かしいはずなのに(ケッ)して()れる手を離そうとはしない。強く()い付いて長い指で中を乱暴(ランボウ)()(ミダ)幾度(イクド)(ノボ)らせても()()は変わることがなかった。少しばかり()を立てると(ナブ)り続けている(トコロ)から(ワズ)かに(ニジ)む血を()めとって(シン)は甘い声で()び続けてくれる(クチビル)をまた(ウバ)う。(タガ)いの口内(コウナイ)で広がる血の(アジ)に二人の身体(カラダ)が限界まで(タギ)った。(トロ)け始めている悧羅(リラ)の顔を見ると(シン)の胸にちくりとまた(トゲ)()さる。


()()顔を見た者が(シン)以外にもいる。


押し(コロ)したはずの激情(ゲキジョウ)(タギ)った身体(カラダ)奥底(オクソコ)から沸々(フツフツ)()き上がってきてしまうのを(シン)には止めることが出来ない。それならば。


「…悧羅(リラ)、お(ネガ)いを聞いてくれる?」


入り込もうとした(シン)が浅い(トコロ)一旦(イッタン)止まって聞くと言葉(コトバ)を出す(スベ)(ウシナ)っている悧羅(リラ)が小さく(ウナズ)いた。


全力(ゼンリョク)(オレ)だけを(マド)わしてくれない?…(オレ)悧羅(リラ)(コワ)されたい」


少しずつ悧羅(リラ)の中に進んでいきながら(ネガ)うと御簾(ミス)の中だけに(ムラサキ)結界(ケッカイ)()らいで甘美(カンビ)(カオリ)()()()刹那(セツナ)(ミタ)す。悧羅(リラ)(マド)わしの能力(チカラ)(シン)(ホカ)一介(イッカイ)鬼神達(キジンタチ)使(ツカ)うモノとは次元(ジゲン)(チガ)う。民達(タミタチ)(ホカ)(アヤカシ)勿論(モチロン)のこと、()てはヒトの子に(イタ)るまで(ヒザ)()り心も身体(カラダ)生命(イノチ)さえその場で()し出すことを(イト)わなくなる。()()()()()至福(シフク)、と恍惚(コウコツ)()(タマシイ)(キザ)みつけられてしまうから。それ(ユエ)普段(フダン)から悧羅(リラ)はその能力(チカラ)(アフ)れてしまわないよう(ココロ)(リッ)して立っている。(マモ)るべき民達(タミタチ)平穏(ヘイオン)()らしを(オビ)やかすことがないよう隙間(スキマ)なく(フタ)をして。それでも時折(トキオリ)ふいに()れ出してしまうことはあるけれど、その程度(テイド)であれば(シン)(オサ)めてやれる。だが今(シン)が願ったのは()()(フタ)(スベ)()(ハラ)うことだ。


(タト)(マド)わしを使ってもそのモノの意志(イシ)まで(ウバ)うことがないように悧羅(リラ)は出す(カギ)りを決めている。そのモノの意思(イシ)まで(ウシナ)わせて何も考えることすら出来ない木偶(デク)()としてしまうことなど悧羅(リラ)(ノゾ)んでいないのだ。


それを知っている上で願う(シン)(コタ)えるように甘い魅惑(ミワク)(カオリ)()せ返るほどに結界(ケッカイ)の中を()たして(タギ)り切った二人の(タガ)(ハズ)すと()き立ってくる(ヨク)を取り(ツクロ)うこともせずに(シン)が動き出す。瞬時(シュンジ)に大きく()ねる悧羅(リラ)を力の(カギ)りに(オサ)えつけて()えた(ケモノ)(ゴト)(ヨク)()き出し続けると(シン)()(ツメ)が立てられた。動くたびに()いこんだ(ツメ)()(キズ)を増やしていくけれど痛みなどどうということもない。(ウデ)の中で(シン)(コタ)えるためだけに身体(カラダ)を開き(シン)にしか引き出せない(アエ)ぎを()らし続ける細く白い(ハダ)に自分のものだという(アカシ)(キザ)みつけながら上からも背後(ハイゴ)からも()げられないように()め立てていくと、(オサ)えつけていた場所にはくっきりと(シン)の手の(アト)が残った。(ハラ)(キズ)にも両肩(リョウカタ)や背中に()(ホコ)(ハナ)の上にも(アト)が残るがそれでもまだ()たされることがない。休む(イトマ)(アタ)えずに()てさせ続けた悧羅(リラ)の手足が()えて大きく痙攣(ケイレン)し始めたけれど、今ばかりは()()(ユル)してやることができそうにない。(カラ)みついていた(アシ)両腕(リョウウデ)に引っ()けて立ち上がり勢いのままに悧羅(リラ)身体(カラダ)ごと寝所(シンジョ)(カベ)にぶつかると(アエ)ぎの中に苦悶(クモン)の声が混じった。気遣(キヅカ)うべきだ、と一瞬(イッシュン)考えが(ヨギ)ったが息を吸うと魅惑(ミワク)(カオリ)身体中(カラダジュウ)(メグ)支配(シハイ)されてしまい、正気(ショウキ)理性(リセイ)さえも消え去ってしまう。


「しっかり(ツカ)まって、(ハナ)さないで」


(タタ)きつけられた衝撃(ショウゲキ)(ウデ)の力が(ユル)悧羅(リラ)に伝える(アイダ)(シン)は動きを止めない。声に(トド)められてまた(シン)悧羅(リラ)がしがみついたが、あまりに深い場所まで進まれ()き上げられて目の前が(シラ)んでくるのは止められない。今まで最奥(サイオク)だと思っていた(トコロ)よりも深く(シン)(トド)いて悧羅(リラ)に感じたことのないぞわりとした官能(カンノウ)が走り出した。呼応(コオウ)するように手足の痙攣(ケイレン)(ハゲ)しくなり感覚(カンカク)さえも(ウバ)われる。


「…っつ!!…あ、な…にか……っ!!」


来る、と(ウッタ)えたいのだろうが上手(ウマ)く行かない悧羅(リラ)に、(ユダ)ねて、とだけ伝えると(シン)の動きはますます速さを()した。えもいわれぬ感覚(カンカク)の波が強く(ノボ)り上がってきて(アエ)ぎの中から悧羅(リラ)恐怖(キョウフ)(ウッタ)えても(シン)はより深くより強く()めていく。(コラ)え切れないのか身を(ヨジ)ってしまうが(カカ)え上げられ自由を(ウバ)われている悧羅(リラ)()げられる場所(バショ)などありようはずもない。ますます()き上げられていくと身体(カラダ)の中の()()()がどんどんと()り上がって声を上げることもできなくなる。呼吸(コキュウ)をすることさえも(ウバ)って悧羅(リラ)(カベ)()し付けながら、(シン)がその名を()ぶが(カタ)く閉じられた(マブタ)は開かれず(シン)(トラ)えることはできないようだ。幾度目(イクドメ)かに(シン)が名を()んでようやく悧羅(リラ)(シン)(トラ)える。


()んで?」


「…っ!…な…っにか…っ!!」


()んでよ?」


「…あ、やあっ…っつ!…なに、か…来、るっっ!!」


「いいから!!(オレ)()べ!!!」


(セマ)り来る()()()への(オソ)れを(ナミダ)ながらに(ウッタ)える悧羅(リラ)悲痛(ヒツウ)な声が(トド)いた。あまりに悲痛(ヒツウ)な声は(タガ)いの()れた息と(タタ)きつける(ハダ)の音と(アマ)悧羅(リラ)(アエ)ぎしか無かった寝所(シンジョ)落雷(ラクライ)のように(トドロ)く。(シラ)意識(イシキ)をどうにか(トド)め置くが悧羅(リラ)身体(カラダ)()り返り()()()(セマ)(ハヤ)さを上げている。


「はやく!(オレ)()べ!(オレ)(モト)めろよっ!!」


「…っつ…、し……っん…っ!」


再度(サイド)(サケ)ばれた(ネガ)いに悧羅(リラ)(シビ)れて(ツメ)たくなった(ユビ)をどうにか動かすが()める(イキオ)いが(ハゲ)しすぎて(シン)(ホオ)()れることも(ムズカ)しい。


「…し、ん!…っ(シン)(シン)っ、(シン)っつ!!」


(スガ)るように名を()んだ悧羅(リラ)(カミ)の中に手を入れて乱暴(ランボウ)上向(ウワム)かせると(クチビル)(カサ)(シタ)(カラ)ませて(ムサボ)()くすように口内(コウナイ)をも(モテアソ)ぶ。(フカ)く入り込んだ(シン)悧羅(リラ)子袋(コブクロ)の入口に()れた瞬間(シュンカン)(アマ)い声が一際(ヒトキワ)大きくなる。


「…や、あっ!!」


(カサ)ねた(クチビル)隙間(スキマ)から()れるくぐもった声に()()に当たるようにだけ(シン)が動きを変えたが(イキオ)いはそのままだ。


「…い、や…あっ!!し、んっつ!…や…ああっ!」


何度も子袋(コブクロ)の入口を刺激(シゲキ)されてついに悧羅(リラ)の中の()()()(ハジ)けた。これまで(アタ)えられてきた官能(カンノウ)(ハル)かに()えた()()悧羅(リラ)身体(カラダ)(ハゲ)しく痙攣(ケイレン)させる。(シン)()()んで(ツナ)がったままの場所から生温(ナマアタタ)かい水が(ナガ)れ落ちて(シン)(アシ)をつたい落ちていく。だらりと(チカラ)意識(イシキ)手放(テバナ)そうとした悧羅(リラ)(カサ)ねたままの(クチビル)を強く()んで引き(モド)すと(フル)えの(オサ)まらない腕が(シン)の胸に当てられた。一度止めていた(コシ)をゆっくりと動かし出すと悧羅(リラ)(タマ)らないように首を()るがそれには(シン)も首を()って(アセ)(イロド)首筋(クビスジ)に強く()みついた。


「や、あっ、いま、だ…めえっ!」


波打(ナミウ)身体(カラダ)(ウズ)きから()げ出すように悧羅(リラ)(シン)を押し(モド)そうと(モガ)けば(モガ)くほどに(シン)(タガ)など何処(ドコ)かへ投げ捨てられてしまう。深く強く()め続けて行くと悧羅(リラ)がまた深い波の中に(トラ)われて大きく()ねたのと同時に(シン)悧羅(リラ)の中に熱すぎる(ヨク)()きだした。(スベ)()き切る前に動き始めようとすると、待て、と悧羅(リラ)の甘い声がした。


「嫌だ」


「…まっ……てぇっ!」


「嫌だ、待たない」


少し()いてしまった悧羅(リラ)を自分に()し付け(モド)しながら(シン)布団(フトン)(タオ)れこんだ。悧羅(リラ)両腕(リョウウデ)片手(カタテ)拘束(コウソク)して()いた手で細い片脚(カタアシ)を持ち上げると一気(イッキ)()き上げ続ける。(タオ)れこまれた衝撃(ショウゲキ)(オク)まで(アバ)かれる官能(カンノウ)(アラガ)うことなどできない悧羅(リラ)からはとめどない(アエ)ぎだけが()れている。


(コバ)むな」


(アエ)ぎつづける(クチビル)(アカ)(ツヤ)めいて(イザナ)われるように口付(クチヅ)けながら(シン)が言う。


「何があっても悧羅(リラ)だけは(オレ)(コバ)むな。(イヤ)だも駄目(ダメ)だも聞けないし聞かない!悧羅(リラ)は俺のなんだから!!」


(マド)わしに当てられた(シン)の口から普段(フダン)であれば決して言葉にすることのない言葉が飛び出した。()()()()(シン)であれば何があろうとも大きく感情(カンジョウ)を揺らして()()悧羅(リラ)()いることなどしない。気持ちを(ミダ)すのは悧羅(リラ)の身に何かが起こってしまった時だけ。これまでは(ジョウ)()わしている最中(サナカ)悧羅(リラ)(イヤ)だと(ウッタ)えてもそれが本心(ホンシン)から来るものではないと分かっているから(ワラ)って自分のものにすることができていた。けれど今は、今だけは悧羅(リラ)の口から(コバ)む言葉が()れ出ることを(ユル)してやれない。それが(タト)本心(ホンシン)からではないと分かっていても聞きたくはない。(スデ)(トロ)け切った悧羅(リラ)にそれが(トド)くと思っているわけでもないが()き出さずににはいられなかった。何度も意識(イシキ)手放(テバナ)そうとする悧羅(リラ)を引き留め続けて自分の(ヨク)幾度(イクド)()びせ続けたのかも分からなくなった頃、寝所(シンジョ)(オオ)っていた(ムラサキ)結界(ケッカイ)がぱりん、と()れた。その音で(シン)がはっと目を見開いて音のした方を見やると薄氷(ハクヒョウ)のように悧羅(リラ)が張った結界(ケッカイ)()がれ落ちていくのが見える。いつのまに(ウス)れていたのか魅惑(ミワク)(カオリ)もその残滓(ザンシ)だけが(ホノ)かに(タダヨ)っている程度(テイド)だ。


悧羅(リラ)()った結界(ケッカイ)容易(タヤス)(コワ)れることなど()()ない。どれだけ身体(カラダ)悲鳴(ヒメイ)を上げても、どれだけ深い(ネム)りについていても本能(ホンノウ)悧羅(リラ)(ジュツ)行使(コウシ)している。そうでなければ里を(ユル)やかに(マモ)能力(チカラ)も出入りの(モン)()けた(ジュツ)にも(ツネ)意識(イシキ)を置かねばならなくなり休む(イトマ)もなくなるからだ。


けれど今確かに悧羅(リラ)結界(ケッカイ)(クダ)けて消えた。どういうことだ?、と(ウデ)の中に視線(シセン)を落としてそこでようやく(シン)気付(キヅ)いてしまう。(オサ)めている悧羅(リラ)の息は(ミダ)れ切り四肢(シシ)もだらりと投げ出されているが小さく(フル)えて痙攣(ケイレン)し続けている。身体(カラダ)(イタ)るところにくっきりと(シン)の手や歯型(ハガタ)(アト)が残り(カワ)いた()も見えた。(リョウ)手首(テクビ)には(イタ)ましいまでの赤黒(アカグロ)変色(ヘンショク)した(アト)もある。これで意識(イシキ)手放(テバナ)していないことが不思議(フシギ)でならないほどに(トロ)け切っている悧羅(リラ)譫言(ウワゴト)のように(シン)()を呼び(モト)めていた。


「…ああ、なんだ。(カナ)えてくれてたんだね…」


()(カワ)いた(クチビル)(イタ)わるように指でなぞるとそれにもまた求めるように()いついてくれる。(コバ)むな、と言ったことは(オボ)えているが、正直(ショウジキ)その後からの記憶(キオク)朧気(オボロゲ)だ。それでも自分が()いたことの(アカシ)悧羅(リラ)姿(スガタ)雄弁(ユウベン)に教えてくれる。


「…やりすぎたなあ…」


結界(ケッカイ)(コワ)れたのも魅惑(ミワク)(カオリ)(ウス)まったのも制御(セイギョ)出来なくしたのは(シン)だったのだ。(コワ)され続ける中で(ホカ)のことなど捨て去って(シン)(コタ)えることしか出来なくなるほどに。しかし、これでは悧羅(リラ)が休まらない。はあ、と大きく嘆息(タンソク)して(シン)(カス)かに動き続ける悧羅(リラ)の口を深く口付けて(フサ)ぐと(フタタ)び動き出した。(アエ)ぐ声さえ出せなくなってしまっている悧羅(リラ)(マタタ)()(ノボ)()めて()ててしまうけれどすぐに自分で(クチビル)()んで遠くなる意識(イシキ)を留めた。


「ごめん、やりすぎた。大丈夫(ダイジョウブ)だから()ちていいよ」


悧羅(リラ)が自分を引き留めないように(ヤサ)しく(フカ)口付(クチヅ)けたままもう一度()てさせるのと同時に(シン)(ヨク)を吐き出すとしなやかな身体(カラダ)が大きく()ねて、すとん、と意識(イシキ)手放(テバナ)したのが伝わってくる。(アセ)(ナミダ)()れたままの顔に(ホオ)()り寄せて確かめると、もうそこには(シン)(ニオ)いしかしなかった。ようやく(シン)安堵(アンド)して悧羅(リラ)を抱きしめたままころりと体勢(タイセイ)を変える。身動(ミウゴ)きひとつしない身体(カラダ)を胸の上に(アズ)かると自然(シゼン)()みが(コボ)れてしまう。


これはしばらく起きないだろう。

その間に忋抖(カイト)と話をしなければならないが、一、二発は(ナグ)っても良いとも言っていたしそれはそれで有りかもしれない。

けれど、とりあえずは(シン)も休んでからでも(オソ)くはないだろう。


くすくすと(ワラ)いながら目を閉じると(シン)も胸の上の悧羅(リラ)体温(タイオン)(ツツ)まれていく。(イト)(ユル)やかに(ホド)けていくように(シン)(イト)しいものを抱きしめたまま(ネム)りに落ちることにした。

もう、ギリギリラインとは言えないですね。

お楽しみいただけましたか?

読んでいただいてありがとうございました。

次の更新は1週間後くらいになりそうです。

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