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繋ぐ【弐】《ツナグ【ニ】》

大変遅くなりました。

更新します。

(シン)啝珈(ワカ)見張(ミハ)られながら一日の(ツト)めを終えて宮に(モド)ると、それまでがそうであったように縁側(エンガワ)悧羅(リラ)妲己(ダッキ)と共に待っていてくれた。久方(ヒサカタ)ぶりに一人になる悧羅を心配したのかこの所は姚妃(ヨウヒ)と共に文官(ブンカン)(ツト)めをこなしている媟雅(セツガ)も悧羅の(トナリ)に座ってくれている。帰りは舜啓(シュンケイ)忋抖(カイト)たちも一緒であったので、一気に(ニギ)やかになる宮の中庭に向けて悧羅は優しく微笑(ホホエ)んでいる。


「お(モド)りやし」


まるで子ども達(ミナ)見張(ミハ)られているかのような紳の姿に苦笑する悧羅に()け寄って抱きしめると、もう限界(ゲンカイ)と紳が小さく嘆息(タンソク)した。くすくすと笑いながら背を()でられて悧羅の(トナリ)に座って身体(カラダ)を引き寄せると精気(セイキ)を送り込み始める。


難儀(ナンギ)したようであるのう?」


くすくすと笑いながら身体(カラダ)(アズ)ける悧羅が紳を見上げて言うと、もう大変だったよと紳も苦笑しながら口付けた。そのまま寝所(シンジョ)に引き込みたいが一日(ツト)めで隊士達(タイシタチ)鍛錬(タンレン)をつけていたので土や(ホコリ)(ヨゴ)れてしまっている。湯を使ってからしか悧羅に()れることは出来なさそうだと思うとまた大きな嘆息(タンソク)が出てしまう。


「ずっと啝珈(ワカ)(トナリ)見張(ミハ)ってるんだよ?俺がどれだけ信用がないか言い続けながら…。そっちの方が隊士達(タイシタチ)に見せられない姿だと思うんだけどなあ」


おやまあと()みを深くする悧羅に、だってねえと啝珈(ワカ)が肩を落として見せた。


父様(トウサマ)ったら自分の最優先(サイユウセン)責務(セキム)母様(カアサマ)側近護衛(ソッキンゴエイ)だから、寝所(シンジョ)(コモ)るのも(ツト)めの内だって言うんだよ?」


(アキ)れちゃうよね?、と同意を求めるような啝珈(ワカ)に悧羅はくすくすと笑っている。


「それはそうやもしれぬな。あれほどに(ソバ)におれるは他に無かろうて」


「ほら、悧羅だってこう言ってるだろ?ちゃんと俺は(ツト)めを()たしてるの」


ねえ?、と見つめあってまた口付けている紳と悧羅の姿に皓滓(コウサイ)が、駄目(ダメ)だこれと笑っている。笑い事じゃないんだけどなあ、と大きな嘆息(タンソク)をつく啝珈(ワカ)面白(オモシロ)いのか媟雅(セツガ)妲己(ダッキ)も笑い始めてしまった。


父様(トウサマ)母様(カアサマ)はこれがいつも通りだから。苛立(イラダ)った方が負けだよ」


(サト)すような媟雅(セツガ)(ハラ)は少しふっくらとしている。舜啓(シュンケイ)も笑いながら媟雅(セツガ)(トナリ)に座ると変わりはなかったか(タズ)ねながら精気(セイキ)を送り込み始めた。媟雅(セツガ)(ハラ)には三人目の子が宿(ヤド)っている。懐妊(カイニン)した直後は吐気(ハキケ)気怠(ケダル)さが強く食もなかなか取れていなかったが、どうにか起き上がれるようになり文官(ブンカン)(ツト)めに出始めたのもごく最近のことだ。舜啓(シュンケイ)としてはあまり無理をさせたくはないのだが、どうしても紳と悧羅の長子(チョウシ)という(セキ)媟雅(セツガ)を突き動かすようで、絶対に無理をしないと約束させて(ツト)めに出ることを許している。とはいえ、文官長(ブンカンチョウ)である荊軻(ケイカツ)心配(ココロクバ)りをしてくれているので、媟雅(セツガ)(ツト)めは宮の中か荊軻(ケイカツ)補佐(ホサ)のようなものだ。


近衛隊(コノエタイ)に入っていた時は()(サイ)にも(ヒイ)でていると思っていたが、どうやら媟雅(セツガ)姚妃(ヨウヒ)と同じように(ブン)(サイ)の方が()けていたようだった。瑞雨(ズイウ)憂玘(ウイキ)媟雅(セツガ)(ソバ)に寄り顔色が良いことにほっと胸を撫で下ろした。少しくらい身体の具合(グアイ)が悪くても口に出さない媟雅(セツガ)時折(トキオリ)無理(ムリ)をし過ぎることがある。(オサナ)い頃からそうであったが、そこは悧羅と似ているようにも思えた。媟雅(セツガ)身籠(ミゴモ)ってからというもの妲己(ダッキ)(ツネ)(ソバ)にいてくれているので、そこは舜啓(シュンケイ)も安心しているがその分悧羅の護りが弱くなることは(イナ)めない。


「ありがとうね、妲己(ダッキ)


舜啓(シュンケイ)が礼を言うと大きな尾が(コタ)えの代わりに振られた。


“どちらにせよ()(アルジ)を紳が離さぬのでな。姫の御側(オソバ)におれるのは(ワレ)(ヨシ)と出来る。…そこは紳を()めてやってもよいかもしれん”


くっくっと笑いながら言う妲己(ダッキ)に、やめてよお!、と啝珈(ワカ)がまた肩を落とした。


(ワレ)も呼ばれればすぐに(アルジ)の元へ向かいまするが今は哀玥(アイゲツ)睚眦(ガイシ)もおりますれば。(アルジ)の身が(アヤ)うくなることもなかろうて”


悧羅に()でられながら小さく鳴く妲己(ダッキ)に、そりゃそうだと灶絃(ソウゲン)玳絃(タイゲン)も大きく(ウナズ)いた。


母様(カアサマ)(アヤ)うくなるなんて考えたくもないけどさ。この間のでもう十分過ぎるほど(キモ)が冷えたから。そうなったら俺たちもいるし?どうにかなるんじゃない?」


「ほんとあんなことはもう二度と起こして欲しくないけどね。どれだけ(シン)(ゾウ)があっても()りないもんね」


双子の言葉にくすくすと鈴を転がすように悧羅は笑っている。


「そう(アン)じてくれずとも(ワラワ)(オノ)が身ほどは護れる(ユエ)。そう気負(キオ)うてくれるでないよ」


「それじゃあ俺たちが近衛(コノエ)に入ってる(コトワリ)がなくなっちゃうじゃないの」


苦笑しながら言う忋抖(カイト)に、おや、も悧羅はますます笑みを深くする。まだまだ子ども達には能力(チカラ)(オト)るとは思っていないが自分を護ろうとして日々研鑽(ケンサン)してくれていることには嬉しく思ってしまう。


「ところで姚妃(ヨウヒ)は?」


場にいない妹の事が気になったのだろう。きょろきょろと周りを見廻(ミマワ)しながら忋抖(カイト)(タズ)ねると、湯に行ったと教えてくれた。


「今日は少しばかり(ハヨ)(モド)ってきてくれたからの。媟雅(セツガ)もともにと言うたに聞いてはもらえなんだ。あまり身体を冷やすものではないと言うに」


舜啓(シュンケイ)(モド)ったら一緒に入るって言ったでしょ?母様(カアサマ)と同じだよ」


視線を向けられた媟雅(セツガ)が笑いながら言って舜啓(シュンケイ)を見ると、破顔(ハガン)して喜んでいるのは誰の目にも明らかだった。一時はどうなるかと思って心配していた二人ではあったが、どうやら年月を重ねるごとに(タガ)いの結びつきは強くなっているようで安心する。


「でも俺今日(ツト)めに出たからね?また(コモ)るからね?」


笑いながら啝珈(ワカ)に向かって紳が言うと、4日だからね?、と(ネン)を押されてしまった。


「4日目に出て来なかったら、また乗り込むからね!」


「…それは勘弁(カンベン)してほしいんだけどなぁ…」


苦笑する紳に(オノコ)たちが大きく首を(タテ)に振っている。


啝珈(ワカ)が飛び込むのももう止めないからね?…部屋に寄るだけで当てられるかと思ったんだから」


笑いながら言う忋抖(カイト)に、誰か止めてくれよと紳が哀願(アイガン)するが(ミナ)首を横に振ってしまう。それだけ部屋に(タダヨ)っている悧羅の残滓(ザンシ)御簾越(ミスゴ)しではあったけれど一言だけの声音(コワネ)(オノコ)()とすには十分過ぎるのだ。


「また乗り込まれてきたら(コマ)っちゃうよねえ。…10日に1回とかじゃ駄目(ダメ)?」


「それ。許したら一月に一回とかになってくるでしょ?」


「…ばれちゃった…」


悪戯(イタズラ)な笑みを浮かべていると、せんないこと、と悧羅も苦笑している。


「なれど毎度毎度寝所(シンジョ)に飛び込まれるは、ちと難儀(ナンギ)じゃの。子には(カナ)わぬ(ユエ)、しばらくは啝珈(ワカ)の申すとおりにしたほうがよろしかろうて」


「もう!悧羅までそんなこと言うんだもんなあ…。でも確かに毎回寝所(シンジョ)に飛び込まれるのは(サワ)りがあるよねえ」


仕方ないかあ、と笑いながら紳が悧羅を抱き上げて立ち上がる。


「とりあえず湯でも使ってゆっくり夕餉(ユウゲ)()ってから悧羅を(オギ)なわないと。4日しかもらえなかったからね」


おやおや、と笑う悧羅を(カカ)えたままで露天(ロテン)に向かう紳の背中を見送りながら、子ども達も湯殿(ユドノ)に向かい始めた。笑い合いながら遠くなって行く紳の背中に向けて、早く出てきてよ!、と啝珈(ワカ)(サケ)ぶ。


夕餉(ユウゲ)が冷めちゃうんだから!(オソ)かったら湯殿(ユドノ)に飛び込むからね!」


「それは勘弁(カンベン)してくれ!」


振り向いて笑いながら紳が(コタ)えて悧羅を抱き上げたまま走り出した。これ以上啝珈(ワカ)の見えるところにいたらどんな条件(ジョウケン)を増やされるか分かったものではない。走り出す紳の腕の中で悧羅も面白(オモシロ)そうに声を上げて笑っている。


本当にこの所の悧羅は表情が(ユタ)かになった、と抱き上げた腕に力を()めながら紳は(ウレ)しくなってしまう。まだまだ600年前のようにはいかないがそれでも感情を()てつかせていた頃とは大きく変わって来ている。離れていた(ジカン)と同じくらいの(ジカン)をかけてゆっくりと元の悧羅を取り戻してもらえればそれでいいのだが、それもそう遠くないような気さえしてしまう。欲張(ヨクバ)って(アセ)ってはならないと自分に言い聞かせているけれど、これほどまでに笑えるようになった悧羅を見ればもう少しの(ジカン)()しくなる。とはいえ(オサ)として振る舞わねばならない悧羅の事を思えばこのままでも良い気はしているのだ。紳の前でだけ気を抜けているのであればそれで良いとも思う。


まだ150年だからなあ…。


笑い続ける悧羅と共に露天(ロテン)の入り口を(クグ)ってからようやく紳は悧羅を降ろした。くすくすと笑い続けながら(コロモ)()いでいる悧羅が、ほんに(オソ)ろしい、と(ツブヤ)く。


湯殿(ユドノ)にまで飛び込まれてしもうては紳とゆるりとすることも(ユル)されぬのだな」


「俺から悧羅を取り上げようったってそうはいかないんだけどねえ?」


(アラ)い場に入って共に身体を(キヨ)めながら紳は大きく嘆息(タンソク)した。久しぶりの(ツト)めではあったが啝珈(ワカ)見張(ミハ)り付きであったので本当に息をつく(イトマ)も与えてもらえなかった。ほんの少しでも目が離れれば悧羅の元に()けていってしまうだろうと言われて、確かにそれはそうなのだがと紳も見張(ミハ)られるのを受け入れるしかなかった。けれど(ツト)めを()たす紳の姿を満足(マンゾク)そうに見る啝珈(ワカ)はどちらが隊長(タイチョウ)なのか分からない、と隊士達(タイシタチ)に笑われてしまう始末(シマツ)だった。


身体を(キヨ)め終わった悧羅を(カカ)えて湯に()かりながらそう話して聞かせるとまた悧羅が笑い出す。


「それは(ワラワ)も見てみとうあった」


くすくすと笑いながら紳の胸に身体を(アズ)けられてようやく紳もほうっと安堵(アンド)の息をつくことができた。細い身体を抱きしめながら背中や両肩の(ハス)の華に口付けながら確かめて行く。(アザ)やかに咲き(ホコ)っているものとまだ(ツボミ)のままのものと、そのどれもがまだ悧羅の能力(チカラ)(オトロ)えていないことを教えてくれる。


「紳は子らに(アモ)うあるでな。啝珈(ワカ)もほんの数十年前までは紳に抱きついておったに。啝珈(ワカ)にとれば紳はいつまでも(イサ)ましき父であってほしいのであろうよ」


「そう思ってくれてるんなら(ウレ)しいけどね。でも本当に容赦(ヨウシャ)してくれないんだもん。舜啓(シュンケイ)忋抖(カイト)たちは笑ってるし、(タノ)みの哀玥(アイゲツ)まで笑ってたからさ」


背中から悧羅を抱きしめて紳が大きく嘆息(タンソク)すると、おやまあ、と悧羅の苦笑が聞こえた。


睚眦(ガイシ)に助けてもらおうかとも思ったけど、あいつ悧羅の言うことしかきかないもんね。こんだけ(ツカ)れたのに4日しか悧羅と(コモ)れないなんて俺にとっては拷問(ゴウモン)だよ?」


また大きく嘆息(タンソク)する紳を見上げて悧羅が、おや?と笑う。


「それは(ワラワ)とて同じこと。紳がおらぬ間は(サミ)しゅうて(タマ)らなんだえ?」


贅沢(ゼイタク)になったものだ、と笑う悧羅を抱え上げて紳は自分と向かい合わせに膝に乗せた。そのまま深く口付けながら、同じことだと伝える。


「こんなに一緒にいれてるのにほんの少し姿が見えないだけで(サミ)しくなっちゃうんだもん。たった150年前までは見ることもましてや()れることも(ユル)されなかったのにさ。今日だって啝珈(ワカ)見張(ミハ)ってなかったらすぐにでも()けて帰ってきたかったんだから」


本当に容赦(ヨウシャ)がなかった、と嘆息(タンソク)する紳を見てまた悧羅はころころと笑っている。


(ワラワ)とて媟雅(セツガ)妲己(ダッキ)がおらなんだなら其方(ソナタ)の元に()けておったであろうよ?…まあ妲己(ダッキ)は目を(ツブ)ってくれたやもしれぬがの」


(アデ)やかな微笑みを向けながら両手で紳の(ホオ)(ツツ)むとそっと()でた。


「あれほどに待ち望んでおった定命(ジョウミョウ)(ムカ)える日も其方(ソナタ)と共におれるのであらば遠い日であるように望んでしもうておる。紳が(ワラワ)(カタワラ)におりその(カイナ)(ツツ)んでおってくりゃるのならば出来ぬことなどないようにも思えての。…ほんに(サイワイ)過ぎて(トキ)(オソ)ろしゅうなるほどに」


「…またそんな可愛(カワイ)いこと言って…。大丈夫(ダイジョウブ)、絶対離さないから」


()でられている手を(ツツ)み返して紳も笑いながらもう一度深く口付けた。本当ならばこのまま()()いてしまいたいところだが早く上がらないとまた啝珈(ワカ)が飛び込んでくるだろう。御簾越(ミスゴ)しであれば悧羅を(カク)すことは出来るけれど何の(ヘダ)たりもない湯殿(ユドノ)では紳だけの悧羅を見せてしまうことにもなりかねない。何より啝珈(ワカ)は飛び込むと言ったら本当にやりかねないのが今朝のことでよくわかってしまった。それでも長い口付けを()わすと(タガ)いに(タギ)ってきてしまう。


「…早く出ないと啝珈(ワカ)(シカ)られちゃうねぇ」


離した(クチビル)(ツイバ)むと悧羅の身体がびくりと(フル)えているのが抱きしめた腕から伝わってきて紳はくすくすと笑い出してしまう。


(シカ)られるのはどうにかなるとしても、飛び込まれるのは如何(イカガ)なものかとはおもうがの…」


(タギ)る身体を落ち着かせるためなのか紳の胸に顔をすり寄せて抱きついてくる悧羅に紳は苦笑してしまう。これでは(ギャク)に紳を(タギ)らせてしまうことになることに悧羅は気づいていないのだ。込み上げる笑いを(コラ)えながら細い身体を抱え上げてゆっくりと自分を受け入れさせる。小さく(アエ)ぎながらも受け入れた悧羅の腕が紳の首に回された。ぎゅうっと押し付けるとそれだけで甘い声が()れ出し始めて、やっぱり無理だと紳は笑った。


「一日中離れてたんだから少しは(オギ)なわないと寝所(シンジョ)まで待てそうにないよ?」


「…それは(ワラワ)とて同じであるが…、…寝所(シンジョ)のほうがゆるりと紳に(ツツ)まれることが出来る(ユエ)…」


ほんの少し()じらうように顔を(ソム)けた悧羅に紳もうん、と(コタ)える。それはその通りなのだがやはり悧羅を目にすると自分の(タガ)何処(ドコ)かへ飛んで行ってしまうようだ。


「でも今のは悧羅が悪いよ?そんなに可愛(カワイ)いこと言って俺を(アオ)ったんだからね?啝顔(ワカ)が飛び込まない内に俺に悧羅を頂戴(チョウダイ)?」


(アオ)ってなどおらぬが…、と言いかけた悧羅の言葉は(アエ)ぎに消えた。言葉を伝えた途端(トタン)に紳が悧羅を押さえつけるようにしながら突き上げ始めたからだ。とはいえ場は露天(ロテン)。悧羅の自室の真裏にあるとはいえ子ども達も使っている場所であるし何より外に(メン)している。あまりに翻弄(ホンロウ)されて声を出しては子ども達に聞かれてしまうかもしれない。(オボ)れていく頭の中でそれだけはどうにか止めなければ、と必死に声を(コラ)える悧羅が紳は(イト)おしくて(タマラ)なくなる。悧羅の声も身体もすべからく紳も物であるのだから、それを誰にも見せないようにしてくれているのが(ウレ)しくて、必死に(コラ)えている悧羅の姿と時折(トキオリ)()れてしまうような小さな吐息(トイキ)まじりの声が聞きたくてつい動きを早めて深く入り込んでしまうのだ。


強く押さえつけられて突き上げられては悧羅が()てるなど容易(タヤス)いことだった。ただでさえ一時(ヒトトキ)離れるのも()しいほどに求めてやまないのだ。本当にこの(ウデ)の中にさえいることが出来るのであれば他に何も望むことなどない。紳、と名を呼ぶと微笑んで深く口付けてくれる。息をすることも許されなくなってしまったけれど今の悧羅には都合(ツゴウ)が良い。ともすれば紳が与えてくれる快楽(カイラク)(オボ)れ切って声を(コラ)えることすら出来そうにないからだ。声を押し殺して代わりにふぅっと大きく息をついて()てる悧羅の身体をより押し付けて深く入り込みながら()(ミダ)して、紳も贅沢(ゼイタク)になった、とごちた。


結局露天(ロテン)の中で(ジョウ)()わしてしまった二人はなかなか湯から上がることが出来ず、どうしたものかと苦笑(クショウ)し合いあってしまった。一度でも(タガ)いを結びつけてしまうと次から次へと(ヨク)()いてしまってどちらからともなく求めてしまう。このままでは本当に啝珈(ワカ)に飛び込まれてしまう、と笑い合いながらも(ムツ)みあう事を終わりには出来ずにいると想像(ソウゾウ)していた通り露天(ロテン)の外から大きな声がした。


父様(トウサマ)ってば!!」


さすがに飛び込んでくるのは(トド)まってくれてようではあるがその声が紳だけを()めるものであったのでそれまで動いていた紳は動く事を止めざるを得なかった。腕の中を見ると温かい湯と紳の与えた余韻(ヨイン)(ホオ)(アカ)らめてとろりとした悧羅の身体が胸に(アズ)けられる。


「…俺だけかよ…?」


責め続けるように幾度(イクド)も掛けられる声に、分かったって!、と苦笑(クショウ)混じりに(コタ)えてから紳は悧羅を見る。何とも(サミ)しそうな視線を向けられてつい笑ってしまいながら口付けるともう一度動きだす。とはいえ露天(ロテン)の外には(ムスメ)がいる。悧羅も翻弄(ホンロウ)されるが今までよりも声を(コラ)えるしかないようだ。強く抱きつかれて深く口付けたままで(タガ)いに()てるが紳が出ようとすると悧羅が嫌だと首を振る。その姿が(イト)おしすぎるが露天(ロテン)の外で仁王立(ニオウダ)ちで待っているだろう啝珈(ワカ)を思えばいつ飛び込んでくるとも(カギ)らない。とはいえこのままの悧羅を外に出すわけにもいかず(ナヤ)みながらも紳は悧羅の(ヒタイ)に口付けた。…


「同じだよ?…でもこのままだと本当に野分(ノワキ)が入り込んでくるからね。ほんの少しだけ我慢(ガマン)しようね」


くすくすと笑いながら(サト)すように言う間にも外から紳を呼ぶ声がする。分かってるって!、ともう一度声を張り上げてから、ね?と悧羅に視線を向けると大きな嘆息(タンソク)が聞こえた。


「…せんないこと…。ようやっと紳が(ワラワ)の元に戻ったというに…」


「だから一緒だって。俺だってようやく悧羅のとこに戻ってこれたのにまだ見張(ミハ)り付きなんて勘弁(カンベン)してほしいよ。でも子ども達も久しぶりに悧羅と夕餉(ユウゲ)(カコ)みたいんだろうしね。俺がずっと独り占めしてるって灶絃(ソウゲン)玳絃(タイゲン)も言ってたから」


「…そのような歳でもあるまいに…。(ミナ)(ワラワ)に甘すぎるでな…」


ゆっくりと悧羅から出て行く紳の感覚に身体を(フル)わせながらまた大きく嘆息(タンソク)する悧羅の(ホオ)に軽く口付けて、仕方ないさと紳は笑って見せた。


「里一番の女がすぐ(ソバ)にいるんだもん。同じ(オノコ)としては間近(マヂカ)で見れるんなら見ときたい気持ちは分かるしね」


「…(ワラワ)は母であるというにのう…?」


()()()()だよ」


そういうものか、と首を(カシ)げる悧羅に紳は微笑(ホホエ)む。


「俺だって悧羅を見せなくていいならそうしてるよ。(オサ)だから里に降りるのも民達(タミタチ)に姿を見せるのも仕方ないって(アキラ)めてるけどね」


胸に預けられたままの細い身体を抱きしめながら言う紳を悧羅はきょとりとして見てくる。それに苦笑しているとまた悧羅が首を(カシ)げた。


「それならば(ワラワ)とて紳を他の(オナゴ)達には見せとうないえ?紳に懸想(ケソウ)しておる(オナゴ)(イマ)だ多うあろうからの。恋慕(レンボ)の目を向けられておるのはやはり余り良い気はせぬでな」


小さく吐息(トイキ)をつく悧羅の姿に紳はがっくりと項垂(ウナダ)れてしまう。せっかく落ち着きを取り戻そうとしていた身体がまた熱を持ってきてしまうが、露天(ロテン)の外の啝珈(ワカ)の声はまだ続いている。二人が出てくるまで続くのだろうと思えば、可愛(カワ)いらしい事を言ってくれる悧羅をかき(イダ)くのも(オサ)えるしかないと言うのに…。


「…本当にどうしてそうあるんだろうなあ…」


深く溜息(タメイキ)をつきながら声を上げて笑う紳を悧羅は不思議(フシギ)そうに見つめた。


(ナン)可笑(オカ)しなことでも言うたかえ?」


「いいや?ただ(ウレ)しいだけだよ」


見つめられたままで深く口付けてからもう一度大きく息をついて紳は自分の熱を(シズ)めにかかる。そろそろ出ないと本当に乗り込まれてしまいそうなほど啝珈(ワカ)の声が苛立(イラダ)ち始めているからだ。とりあえずは姿を見せて(ミナ)夕餉(ユウゲ)()らなければ本当の二人の(ジカン)は与えてもらえそうにない。


「あんまり可愛(カワイ)いことばっかり言われてちゃ俺が()たないよ?…後で覚悟(カクゴ)しててよね?」


くすくすと笑いながら悧羅を抱き上げて湯から出ると腕が伸ばされて紳の(ホオ)に触れる。


「願ってもない」


(アデ)やかに微笑まれて紳は、見てろよ?と苦笑するよりなかった。

師走ですね。

寒さも厳しくなってきております。

色々とやることがあってなかなか進めませんでした。

申し訳ありません。

年末までにはもう一話…。

お楽しみいただけましたか?

ありがとうございました。

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