繋ぐ【弐】《ツナグ【ニ】》
大変遅くなりました。
更新します。
紳が啝珈に見張られながら一日の務めを終えて宮に戻ると、それまでがそうであったように縁側で悧羅が妲己と共に待っていてくれた。久方ぶりに一人になる悧羅を心配したのかこの所は姚妃と共に文官の務めをこなしている媟雅も悧羅の隣に座ってくれている。帰りは舜啓や忋抖たちも一緒であったので、一気に賑やかになる宮の中庭に向けて悧羅は優しく微笑んでいる。
「お戻りやし」
まるで子ども達皆に見張られているかのような紳の姿に苦笑する悧羅に駆け寄って抱きしめると、もう限界と紳が小さく嘆息した。くすくすと笑いながら背を撫でられて悧羅の隣に座って身体を引き寄せると精気を送り込み始める。
「難儀したようであるのう?」
くすくすと笑いながら身体を預ける悧羅が紳を見上げて言うと、もう大変だったよと紳も苦笑しながら口付けた。そのまま寝所に引き込みたいが一日務めで隊士達に鍛錬をつけていたので土や埃で汚れてしまっている。湯を使ってからしか悧羅に触れることは出来なさそうだと思うとまた大きな嘆息が出てしまう。
「ずっと啝珈が隣で見張ってるんだよ?俺がどれだけ信用がないか言い続けながら…。そっちの方が隊士達に見せられない姿だと思うんだけどなあ」
おやまあと笑みを深くする悧羅に、だってねえと啝珈が肩を落として見せた。
「父様ったら自分の最優先の責務は母様の側近護衛だから、寝所に籠るのも務めの内だって言うんだよ?」
呆れちゃうよね?、と同意を求めるような啝珈に悧羅はくすくすと笑っている。
「それはそうやもしれぬな。あれほどに側におれるは他に無かろうて」
「ほら、悧羅だってこう言ってるだろ?ちゃんと俺は務めを果たしてるの」
ねえ?、と見つめあってまた口付けている紳と悧羅の姿に皓滓が、駄目だこれと笑っている。笑い事じゃないんだけどなあ、と大きな嘆息をつく啝珈が面白いのか媟雅と妲己も笑い始めてしまった。
「父様と母様はこれがいつも通りだから。苛立った方が負けだよ」
諭すような媟雅の腹は少しふっくらとしている。舜啓も笑いながら媟雅の隣に座ると変わりはなかったか尋ねながら精気を送り込み始めた。媟雅の腹には三人目の子が宿っている。懐妊した直後は吐気と気怠さが強く食もなかなか取れていなかったが、どうにか起き上がれるようになり文官の務めに出始めたのもごく最近のことだ。舜啓としてはあまり無理をさせたくはないのだが、どうしても紳と悧羅の長子という責が媟雅を突き動かすようで、絶対に無理をしないと約束させて務めに出ることを許している。とはいえ、文官長である荊軻も心配りをしてくれているので、媟雅の務めは宮の中か荊軻の補佐のようなものだ。
近衛隊に入っていた時は武の才にも秀でていると思っていたが、どうやら媟雅も姚妃と同じように文の才の方が長けていたようだった。瑞雨と憂玘も媟雅の側に寄り顔色が良いことにほっと胸を撫で下ろした。少しくらい身体の具合が悪くても口に出さない媟雅は時折無理をし過ぎることがある。幼い頃からそうであったが、そこは悧羅と似ているようにも思えた。媟雅が身籠ってからというもの妲己が常に側にいてくれているので、そこは舜啓も安心しているがその分悧羅の護りが弱くなることは否めない。
「ありがとうね、妲己」
舜啓が礼を言うと大きな尾が応えの代わりに振られた。
“どちらにせよ我が主を紳が離さぬのでな。姫の御側におれるのは我も善と出来る。…そこは紳を誉めてやってもよいかもしれん”
くっくっと笑いながら言う妲己に、やめてよお!、と啝珈がまた肩を落とした。
“我も呼ばれればすぐに主の元へ向かいまするが今は哀玥も睚眦もおりますれば。主の身が危うくなることもなかろうて”
悧羅に撫でられながら小さく鳴く妲己に、そりゃそうだと灶絃と玳絃も大きく頷いた。
「母様が危うくなるなんて考えたくもないけどさ。この間のでもう十分過ぎるほど胆が冷えたから。そうなったら俺たちもいるし?どうにかなるんじゃない?」
「ほんとあんなことはもう二度と起こして欲しくないけどね。どれだけ心の臓があっても足りないもんね」
双子の言葉にくすくすと鈴を転がすように悧羅は笑っている。
「そう案じてくれずとも妾も己が身ほどは護れる故。そう気負うてくれるでないよ」
「それじゃあ俺たちが近衛に入ってる理がなくなっちゃうじゃないの」
苦笑しながら言う忋抖に、おや、も悧羅はますます笑みを深くする。まだまだ子ども達には能力で劣るとは思っていないが自分を護ろうとして日々研鑽してくれていることには嬉しく思ってしまう。
「ところで姚妃は?」
場にいない妹の事が気になったのだろう。きょろきょろと周りを見廻しながら忋抖が尋ねると、湯に行ったと教えてくれた。
「今日は少しばかり早う戻ってきてくれたからの。媟雅もともにと言うたに聞いてはもらえなんだ。あまり身体を冷やすものではないと言うに」
「舜啓が戻ったら一緒に入るって言ったでしょ?母様と同じだよ」
視線を向けられた媟雅が笑いながら言って舜啓を見ると、破顔して喜んでいるのは誰の目にも明らかだった。一時はどうなるかと思って心配していた二人ではあったが、どうやら年月を重ねるごとに互いの結びつきは強くなっているようで安心する。
「でも俺今日務めに出たからね?また籠るからね?」
笑いながら啝珈に向かって紳が言うと、4日だからね?、と念を押されてしまった。
「4日目に出て来なかったら、また乗り込むからね!」
「…それは勘弁してほしいんだけどなぁ…」
苦笑する紳に男たちが大きく首を縦に振っている。
「啝珈が飛び込むのももう止めないからね?…部屋に寄るだけで当てられるかと思ったんだから」
笑いながら言う忋抖に、誰か止めてくれよと紳が哀願するが皆首を横に振ってしまう。それだけ部屋に漂っている悧羅の残滓と御簾越しではあったけれど一言だけの声音は男を堕とすには十分過ぎるのだ。
「また乗り込まれてきたら困っちゃうよねえ。…10日に1回とかじゃ駄目?」
「それ。許したら一月に一回とかになってくるでしょ?」
「…ばれちゃった…」
悪戯な笑みを浮かべていると、せんないこと、と悧羅も苦笑している。
「なれど毎度毎度寝所に飛び込まれるは、ちと難儀じゃの。子には敵わぬ故、しばらくは啝珈の申すとおりにしたほうがよろしかろうて」
「もう!悧羅までそんなこと言うんだもんなあ…。でも確かに毎回寝所に飛び込まれるのは障りがあるよねえ」
仕方ないかあ、と笑いながら紳が悧羅を抱き上げて立ち上がる。
「とりあえず湯でも使ってゆっくり夕餉を摂ってから悧羅を補なわないと。4日しかもらえなかったからね」
おやおや、と笑う悧羅を抱えたままで露天に向かう紳の背中を見送りながら、子ども達も湯殿に向かい始めた。笑い合いながら遠くなって行く紳の背中に向けて、早く出てきてよ!、と啝珈が叫ぶ。
「夕餉が冷めちゃうんだから!遅かったら湯殿に飛び込むからね!」
「それは勘弁してくれ!」
振り向いて笑いながら紳が応えて悧羅を抱き上げたまま走り出した。これ以上啝珈の見えるところにいたらどんな条件を増やされるか分かったものではない。走り出す紳の腕の中で悧羅も面白そうに声を上げて笑っている。
本当にこの所の悧羅は表情が豊かになった、と抱き上げた腕に力を込めながら紳は嬉しくなってしまう。まだまだ600年前のようにはいかないがそれでも感情を凍てつかせていた頃とは大きく変わって来ている。離れていた刻と同じくらいの刻をかけてゆっくりと元の悧羅を取り戻してもらえればそれでいいのだが、それもそう遠くないような気さえしてしまう。欲張って焦ってはならないと自分に言い聞かせているけれど、これほどまでに笑えるようになった悧羅を見ればもう少しの刻も惜しくなる。とはいえ長として振る舞わねばならない悧羅の事を思えばこのままでも良い気はしているのだ。紳の前でだけ気を抜けているのであればそれで良いとも思う。
まだ150年だからなあ…。
笑い続ける悧羅と共に露天の入り口を潜ってからようやく紳は悧羅を降ろした。くすくすと笑い続けながら衣を脱いでいる悧羅が、ほんに恐ろしい、と呟く。
「湯殿にまで飛び込まれてしもうては紳とゆるりとすることも許されぬのだな」
「俺から悧羅を取り上げようったってそうはいかないんだけどねえ?」
洗い場に入って共に身体を清めながら紳は大きく嘆息した。久しぶりの務めではあったが啝珈の見張り付きであったので本当に息をつく暇も与えてもらえなかった。ほんの少しでも目が離れれば悧羅の元に翔けていってしまうだろうと言われて、確かにそれはそうなのだがと紳も見張られるのを受け入れるしかなかった。けれど務めを果たす紳の姿を満足そうに見る啝珈はどちらが隊長なのか分からない、と隊士達に笑われてしまう始末だった。
身体を清め終わった悧羅を抱えて湯に浸かりながらそう話して聞かせるとまた悧羅が笑い出す。
「それは妾も見てみとうあった」
くすくすと笑いながら紳の胸に身体を預けられてようやく紳もほうっと安堵の息をつくことができた。細い身体を抱きしめながら背中や両肩の蓮の華に口付けながら確かめて行く。鮮やかに咲き誇っているものとまだ蕾のままのものと、そのどれもがまだ悧羅の能力が衰えていないことを教えてくれる。
「紳は子らに甘うあるでな。啝珈もほんの数十年前までは紳に抱きついておったに。啝珈にとれば紳はいつまでも勇ましき父であってほしいのであろうよ」
「そう思ってくれてるんなら嬉しいけどね。でも本当に容赦してくれないんだもん。舜啓や忋抖たちは笑ってるし、頼みの哀玥まで笑ってたからさ」
背中から悧羅を抱きしめて紳が大きく嘆息すると、おやまあ、と悧羅の苦笑が聞こえた。
「睚眦に助けてもらおうかとも思ったけど、あいつ悧羅の言うことしかきかないもんね。こんだけ疲れたのに4日しか悧羅と籠れないなんて俺にとっては拷問だよ?」
また大きく嘆息する紳を見上げて悧羅が、おや?と笑う。
「それは妾とて同じこと。紳がおらぬ間は淋しゅうて堪らなんだえ?」
贅沢になったものだ、と笑う悧羅を抱え上げて紳は自分と向かい合わせに膝に乗せた。そのまま深く口付けながら、同じことだと伝える。
「こんなに一緒にいれてるのにほんの少し姿が見えないだけで淋しくなっちゃうんだもん。たった150年前までは見ることもましてや触れることも赦されなかったのにさ。今日だって啝珈が見張ってなかったらすぐにでも翔けて帰ってきたかったんだから」
本当に容赦がなかった、と嘆息する紳を見てまた悧羅はころころと笑っている。
「妾とて媟雅と妲己がおらなんだなら其方の元に翔けておったであろうよ?…まあ妲己は目を瞑ってくれたやもしれぬがの」
艶やかな微笑みを向けながら両手で紳の頬を包むとそっと撫でた。
「あれほどに待ち望んでおった定命を迎える日も其方と共におれるのであらば遠い日であるように望んでしもうておる。紳が妾の傍におりその腕で包んでおってくりゃるのならば出来ぬことなどないようにも思えての。…ほんに倖過ぎて時に恐ろしゅうなるほどに」
「…またそんな可愛いこと言って…。大丈夫、絶対離さないから」
撫でられている手を包み返して紳も笑いながらもう一度深く口付けた。本当ならばこのまま組み敷いてしまいたいところだが早く上がらないとまた啝珈が飛び込んでくるだろう。御簾越しであれば悧羅を隠すことは出来るけれど何の隔たりもない湯殿では紳だけの悧羅を見せてしまうことにもなりかねない。何より啝珈は飛び込むと言ったら本当にやりかねないのが今朝のことでよくわかってしまった。それでも長い口付けを交わすと互いに沸ってきてしまう。
「…早く出ないと啝珈に叱られちゃうねぇ」
離した唇を啄むと悧羅の身体がびくりと震えているのが抱きしめた腕から伝わってきて紳はくすくすと笑い出してしまう。
「叱られるのはどうにかなるとしても、飛び込まれるのは如何なものかとはおもうがの…」
沸る身体を落ち着かせるためなのか紳の胸に顔をすり寄せて抱きついてくる悧羅に紳は苦笑してしまう。これでは逆に紳を沸らせてしまうことになることに悧羅は気づいていないのだ。込み上げる笑いを堪えながら細い身体を抱え上げてゆっくりと自分を受け入れさせる。小さく喘ぎながらも受け入れた悧羅の腕が紳の首に回された。ぎゅうっと押し付けるとそれだけで甘い声が漏れ出し始めて、やっぱり無理だと紳は笑った。
「一日中離れてたんだから少しは補なわないと寝所まで待てそうにないよ?」
「…それは妾とて同じであるが…、…寝所のほうがゆるりと紳に包まれることが出来る故…」
ほんの少し恥じらうように顔を背けた悧羅に紳もうん、と応える。それはその通りなのだがやはり悧羅を目にすると自分の箍は何処かへ飛んで行ってしまうようだ。
「でも今のは悧羅が悪いよ?そんなに可愛いこと言って俺を煽ったんだからね?啝顔が飛び込まない内に俺に悧羅を頂戴?」
煽ってなどおらぬが…、と言いかけた悧羅の言葉は喘ぎに消えた。言葉を伝えた途端に紳が悧羅を押さえつけるようにしながら突き上げ始めたからだ。とはいえ場は露天。悧羅の自室の真裏にあるとはいえ子ども達も使っている場所であるし何より外に面している。あまりに翻弄されて声を出しては子ども達に聞かれてしまうかもしれない。溺れていく頭の中でそれだけはどうにか止めなければ、と必死に声を堪える悧羅が紳は愛おしくて堪なくなる。悧羅の声も身体もすべからく紳も物であるのだから、それを誰にも見せないようにしてくれているのが嬉しくて、必死に堪えている悧羅の姿と時折漏れてしまうような小さな吐息まじりの声が聞きたくてつい動きを早めて深く入り込んでしまうのだ。
強く押さえつけられて突き上げられては悧羅が果てるなど容易いことだった。ただでさえ一時離れるのも惜しいほどに求めてやまないのだ。本当にこの腕の中にさえいることが出来るのであれば他に何も望むことなどない。紳、と名を呼ぶと微笑んで深く口付けてくれる。息をすることも許されなくなってしまったけれど今の悧羅には都合が良い。ともすれば紳が与えてくれる快楽に溺れ切って声を堪えることすら出来そうにないからだ。声を押し殺して代わりにふぅっと大きく息をついて果てる悧羅の身体をより押し付けて深く入り込みながら掻き乱して、紳も贅沢になった、とごちた。
結局露天の中で情を交わしてしまった二人はなかなか湯から上がることが出来ず、どうしたものかと苦笑し合いあってしまった。一度でも互いを結びつけてしまうと次から次へと欲が沸いてしまってどちらからともなく求めてしまう。このままでは本当に啝珈に飛び込まれてしまう、と笑い合いながらも睦みあう事を終わりには出来ずにいると想像していた通り露天の外から大きな声がした。
「父様ってば!!」
さすがに飛び込んでくるのは留まってくれてようではあるがその声が紳だけを責めるものであったのでそれまで動いていた紳は動く事を止めざるを得なかった。腕の中を見ると温かい湯と紳の与えた余韻で頬を紅らめてとろりとした悧羅の身体が胸に預けられる。
「…俺だけかよ…?」
責め続けるように幾度も掛けられる声に、分かったって!、と苦笑混じりに応えてから紳は悧羅を見る。何とも淋しそうな視線を向けられてつい笑ってしまいながら口付けるともう一度動きだす。とはいえ露天の外には娘がいる。悧羅も翻弄されるが今までよりも声を堪えるしかないようだ。強く抱きつかれて深く口付けたままで互いに果てるが紳が出ようとすると悧羅が嫌だと首を振る。その姿が愛おしすぎるが露天の外で仁王立ちで待っているだろう啝珈を思えばいつ飛び込んでくるとも限らない。とはいえこのままの悧羅を外に出すわけにもいかず悩みながらも紳は悧羅の額に口付けた。…
「同じだよ?…でもこのままだと本当に野分が入り込んでくるからね。ほんの少しだけ我慢しようね」
くすくすと笑いながら諭すように言う間にも外から紳を呼ぶ声がする。分かってるって!、ともう一度声を張り上げてから、ね?と悧羅に視線を向けると大きな嘆息が聞こえた。
「…せんないこと…。ようやっと紳が妾の元に戻ったというに…」
「だから一緒だって。俺だってようやく悧羅のとこに戻ってこれたのにまだ見張り付きなんて勘弁してほしいよ。でも子ども達も久しぶりに悧羅と夕餉を囲みたいんだろうしね。俺がずっと独り占めしてるって灶絃、玳絃も言ってたから」
「…そのような歳でもあるまいに…。皆、妾に甘すぎるでな…」
ゆっくりと悧羅から出て行く紳の感覚に身体を震わせながらまた大きく嘆息する悧羅の頬に軽く口付けて、仕方ないさと紳は笑って見せた。
「里一番の女がすぐ側にいるんだもん。同じ男としては間近で見れるんなら見ときたい気持ちは分かるしね」
「…妾は母であるというにのう…?」
「それはそれだよ」
そういうものか、と首を傾げる悧羅に紳は微笑む。
「俺だって悧羅を見せなくていいならそうしてるよ。長だから里に降りるのも民達に姿を見せるのも仕方ないって諦めてるけどね」
胸に預けられたままの細い身体を抱きしめながら言う紳を悧羅はきょとりとして見てくる。それに苦笑しているとまた悧羅が首を傾げた。
「それならば妾とて紳を他の女達には見せとうないえ?紳に懸想しておる女は未だ多うあろうからの。恋慕の目を向けられておるのはやはり余り良い気はせぬでな」
小さく吐息をつく悧羅の姿に紳はがっくりと項垂れてしまう。せっかく落ち着きを取り戻そうとしていた身体がまた熱を持ってきてしまうが、露天の外の啝珈の声はまだ続いている。二人が出てくるまで続くのだろうと思えば、可愛いらしい事を言ってくれる悧羅をかき抱くのも抑えるしかないと言うのに…。
「…本当にどうしてそうあるんだろうなあ…」
深く溜息をつきながら声を上げて笑う紳を悧羅は不思議そうに見つめた。
「何ぞ可笑しなことでも言うたかえ?」
「いいや?ただ嬉しいだけだよ」
見つめられたままで深く口付けてからもう一度大きく息をついて紳は自分の熱を鎮めにかかる。そろそろ出ないと本当に乗り込まれてしまいそうなほど啝珈の声が苛立ち始めているからだ。とりあえずは姿を見せて皆で夕餉を摂らなければ本当の二人の刻は与えてもらえそうにない。
「あんまり可愛いことばっかり言われてちゃ俺が保たないよ?…後で覚悟しててよね?」
くすくすと笑いながら悧羅を抱き上げて湯から出ると腕が伸ばされて紳の頬に触れる。
「願ってもない」
艶やかに微笑まれて紳は、見てろよ?と苦笑するよりなかった。
師走ですね。
寒さも厳しくなってきております。
色々とやることがあってなかなか進めませんでした。
申し訳ありません。
年末までにはもう一話…。
お楽しみいただけましたか?
ありがとうございました。