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繋ぐ《ツナグ》

大変遅くなりました。

更新いたします。

(カエル)の場から(モド)った(シン)はそのまま悧羅(リラ)寝所(シンジョ)に引き()んだ。悧羅が気にしていた里の事も蛙達(カエルタチ)への(レイ)()んだのだから、あとはどれだけでも紳が悧羅を(カイナ)(ツツ)んでも(ダレ)も何も言わないだろう。ずっと(ウデ)の中から出していないとはいえ、いつ何処(ドコ)ででも()()きたい気持ちを(コラ)えているのだ。どれだけ自分のものにしてもまだ()りず、悧羅が(オボ)れ切って(ナマメ)かしくなるたびに紳も(タギ)るのを(オサ)えることなどできない。都度(ツド)自分の腕の中で()てていく悧羅を抱き()めながらこの(ジカン)永遠(トワ)に続けばいいのにと願ってしまう。けれど紳の思いとは裏腹(ウラハラ)啝珈(ワカ)提案(テイアン)(ドオ)りに朝から磐里(バンリ)加嬬(カジュ)によって(ツト)めの文書(モンジョ)が持ってこられる。紳と悧羅が眠っている時には部屋の外にそっと置いてあるので目を通してから(モド)しておくと舜啓(シュンケイ)(ワタ)してくれているようだった。それでも4日に一度は少なくとも隊舎(タイシャ)に顔を出せとまで言われてしまっていたので、仕方(シカタ)なく(ツト)めにでるのだがどうしても心は悧羅の方に向いてしまう。


4日に一度が7日に一度、10日に一度…と段々(ダンダン)と伸びていくのは紳にとっては至極当然(シゴクトウゼン)のことだったが子ども達にとってはそうでもなかったらしい。半月(ハンツキ)(コモ)って過ごした頃だったろうか。意識(イシキ)手放(テバナ)寸前(スンゼン)の悧羅と(ムツ)み合っていると、父様(トウサマ)!、と部屋から遠いところから声がして紳も悧羅も動きを止めざるを()なかった。声の(ヌシ)啝珈(ワカ)だったが他にも、やめとけって!、と(セイ)する子ども達の声がする。どうやら紳が(コモ)って出てこないことを(ハラ)()()ねたようだが止める声は全て(オノコ)達のものだ。その中には舜啓(シュンケイ)瑞雨(ズイウ)憂玘(ウイキ)のものまであり紳は腕の中の悧羅と視線を合わせて苦笑(クショウ)してしまう。止める声はどんどんと近づいて来ているので啝珈(ワカ)(オノコ)達を振り切って部屋に近づいて来ているのだろう。


「…(シカ)られるみたいだな」


「…そのようだ…。…なれど…、その…」


くすくすと笑いながらもとりあえず(タギ)りきった(オノレ)達を(シズ)めたくてまた紳が動き出すと悧羅から甘い声が上がる。


「早くしないと乗り込まれるからね?ごめんね?」


甘い声を出す(クチビル)(フサ)いで動きを速めると身を(ヨジ)っていた悧羅の身体(カラダ)が大きく()ねて強く紳を締め付けた。あまりに強い締め付けに、きっつと(ウメ)きながら紳も最奥(サイオク)(ヨク)()き出すとその刺激でも悧羅が()り返る。それを()(トド)めて(クチビル)(ハナ)すと同時(ドウジ)に勢いよく部屋の戸が開けられた。


父様(トウサマ)!!!」


啝珈(ワカ)、待てって!!」


飛び込んできたのであろう啝珈(ワカ)の声に(カブ)さるように(オノコ)達の声がする。まだ息の荒れている悧羅の(ヒタイ)に口付けるとそっと閉じられていた(マブタ)が開いて紳を(トラ)えた。やれやれ、と嘆息(タンソク)しながらも苦笑(クショウ)する悧羅に軽く口付けてから紳は御簾(ミス)隙間(スキマ)から顔を出した。出来れば今の悧羅を(オノコ)達には見せたくなかったのだが、ひょっこりと顔を出した紳を見て啝珈(ワカ)はずかずかと寝所(シンジョ)(セマ)御簾(ミス)を上げてしまった。おいおい、と苦笑する紳もどうにか悧羅を(カク)そうと腕の中に仕舞(シマ)()む。(タガ)いの身体に布団(フトン)は掛けているがそれでもちらりと見える悧羅に(オノコ)達は一斉(イッセイ)に視線を(ハズ)した。


「せめて4日に一度は出てって言ったよねえ?!」


上げた御簾(ミス)の場にどかりと(スワ)り込んで啝珈(ワカ)がぶすっとした声で言い(ハナ)つ。姿形(スガタカタチ)は悧羅そっくりなのに、ともすれば性格は咲耶(サクヤ)のようだ。


「言われました…、言われましたけども、寝所(シンジョ)に飛び込んでくるか?」


小さく笑い続けながらも悧羅から離れようとしない紳の腕を啝珈(ワカ)が引っ張った。けれどまだ悧羅の中に入ったままの紳は動くことが出来ない。紳が引っ張られた刺激で動いてしまい悧羅が息を呑んでいるのが分かるからだ。


「出てこない父様(トウサマ)が悪いんでしょ?啝珈(ワカ)との約束を(タガ)えるから!これでも随分(ズイブン)我慢(ガマン)してあげたんだからね!?」


「そりゃどうも…」


引っ張られる腕をそのままに紳が笑うと、もう!と啝珈(ワカ)(ワラベ)のように(ホオ)(フク)らませている。(イカ)りで気づいていないようだが部屋には悧羅の残滓(ザンシ)(タダヨ)っているはずだ。その(アカシ)(オノコ)たちは部屋の入り口から近づけないようであるし、ともすれば()とされてしまいそうになるのを必死(ヒッシ)(コラ)えているようにも見えた。


一応(イチオウ)父様(トウサマ)近衛隊(コノエタイ)隊長(タイチョウ)なんだからね?母様(カアサマ)ばっかり()でてたら隊士達(タイシタチ)(シメ)しがつかないでしょう?!」


「…だって荊軻(ケイカツ)は良いって言ってたぞ?悧羅の用が終わって、俺の(ツト)めの文書(モンジョ)が片付いたらどれだけでもって」


「そんなの建前(タテマエ)に決まってるでしょ!今日という今日はちゃんと(ツト)めに出てもらうからね!ほら!」


ますます紳の腕を強く引っ張る啝珈(ワカ)に紳は声を上げて笑い出すしかない。荊軻(ケイカツ)は本気で言ってくれたと思っているが啝珈(ワカ)にとってはそうではないらしい。わかったから、と引っ張られる腕はそのままに紳は啝珈(ワカ)に少し待て、と伝える。


「待ってたらまた(コモ)るでしょ?今すぐ!」


もう!とまた(ホオ)(フク)らます啝珈(ワカ)に、ちょっと(サワ)りがあるんだよ、と紳は(オダ)やかに言って聞かせる。(サワ)り?、ときょとりとする啝珈(ワカ)に紳はまた声を上げて笑ってしまう。


「ちゃんと今日は出るから。その前に俺まだ悧羅の中にいるんだよ?」


悪戯(イタズラ)に笑って見せると、早く言ってよ!と啝珈(ワカ)が紳の手を離した。


「言わせなかったじゃないか。寝所(シンジョ)にも飛び込んできたし?出る段取(ダンド)りじゃなかったんだよ」


くすくすと笑う紳の腕の中で悧羅がほんの少し身じろぎをした。今声を出せば(オノコ)達は(コラ)え切れないだろうが、紳が啝珈(ワカ)に引っ張られるたびに悧羅にも刺激がきていたのだ。


「だから待てって言ったのに…。外から声掛けるだけならまだしも寝所(シンジョ)の中にまで飛び込むなんて…」


まったく、と嘆息(タンソク)しながら忋抖(カイト)啝珈(ワカ)手招(テマネ)きする。どうあっても紳や悧羅の(ソバ)までは寄れそうにないのだから啝珈(ワカ)が離れてくれるほうが助かるのだ。だって父様(トウサマ)が!、と忋抖(カイト)の方に寄りながら言う啝珈(ワカ)舜啓(シュンケイ)(ナダ)める。


(ツト)めの文書(モンジョ)には目を通してくれてるから、俺としては問題ないけどね。あるとしたら早くここから出たいかな?」


舜啓(シュンケイ)が優しすぎるから父様(トウサマ)が出てこなくなっちゃうんだよ?あれでも一応(イチオウ)まだ隊長(タイチョウ)なんだからね!」


「分かったってば。ちゃんとこんなんでも今日は出るから」


あんなんでも、と2回も言われて笑う紳に本当ごめんと(オノコ)達が(アヤマ)りながら啝珈(ワカ)(トモナ)って部屋を出て行く。戸が閉められたのを見やってから上げられていた御簾(ミス)を降ろすと紳は腕の中の悧羅に視線を落とした。


大丈夫(ダイジョウブ)?」


くすくすと笑いながら悧羅の(ヒタイ)に口付けるとびくりと身体が(フル)えている。


「どうにか声は(コラ)えたがの…。其方(ソナタ)が引かれるたびに(タギ)ってしもうて…」


腕を伸ばして紳の(ホオ)()れながら言う悧羅に紳も笑いを(カク)せない。それは紳とて同じ事であったからだ。(ウル)んだ目で見つめられて吸い寄せられるように深く口付けるとそれだけで(タガ)いの熱がまた上がる。


「…出てゆかねばまた啝珈(ワカ)(シカ)られてしまうえ?」


「そうなんだけどねえ…、こんな悧羅見てたら(コラ)えろって言うのが無理な話だよ?声を(コラ)えてくれたのは有難(アリガタ)かったな」


「…()()()(ワラワ)の声は紳だけのもの(ユエ)(タト)(イト)しき子らであろうとも聞かせるわけにはならぬであろ?」


(タガ)いの(ヒタイ)を付けて悧羅が笑うと紳も、そりゃそうだ、と笑ってしまう。紳の腕の中で見せる悧羅は紳だけのものだ。身体はもちろん声も吐息(トイキ)も何もかもが他に見せて良いものではない。(ダレ)(ホカ)に知っている者がいるならば、まず()り捨ててしまっているだろう。


「悧羅の全部は俺だけのものなんだから(ダレ)にも見せちゃ駄目だよ?」


笑いながら首筋(クビスジ)(クチビル)()わせて行くとまた甘い声が()れてくる。悧羅も(ツト)めのことを気にしているのだろう。名を呼ばれるが紳だけの声と(アエ)ぎを聞かされては止まることなど出来るはずもない。分かってるよ?、と苦笑しながら(イツク)しみ始めると先程(サキホド)までの余韻(ヨイン)啝珈(ワカ)がいた時の(タギ)りで(ナン)なく悧羅が(ノボ)っていく。残っていた余韻(ヨイン)に刺激を増やされて容易(タヤス)()てていく悧羅の身体はもう小さく(フル)えだしている。その姿に目を細めながらも紳も中で()め付けられてより(タギ)ってしまう。


「…もう…、本当にどこまで俺を()とし続けたら気がすむんだろうね?」


(ツイバ)むように口付けて動き始めると自分の身体が離れないように悧羅の腕と脚が紳に(カラ)み付いて来た。その仕草(シグサ)さえも紳を(タギ)らせることを悧羅は知らないだろう。求めているのは紳だけなのだ、と甘い声と荒れる息と(アエ)ぎの中から仕草(シグサ)(シメ)しめくれる。それがどれほどの(サイワイ)であるかなどきっと悧羅は知る(ヨシ)もない。突き上げる速さを速めながら幾度(イクド)も悧羅を絶頂(ゼッチョウ)へと(ミチビ)いて自分も悧羅の最奥(サイオク)()てながらそれでも(ムツ)みあっていたくてどちらからともなく深く口付ける。身体に巻きついている悧羅の腕や脚が冷たくなりはじめて痙攣(ケイレン)するのを感じて紳は(サラ)に勢いを増して突き上げる。まだ、と求める声は(アエ)ぎに消えた。一際(ヒトキワ)大きな声と(トモ)()ねた身体を自分の身体で(オサ)え込んで紳も(ヨク)を吐き出すと、ぱたりと悧羅の腕と脚が落ちる。意識(イシキ)さえも手放(テバナ)した悧羅にもう一度深く口付けて仕方(シカタ)なく(ツト)めのために悧羅から出ようとして紳は(ハバ)まれてしまった。


悧羅が強く締め付けて紳を出さないのだ。


「…(ツト)めにいけないじゃないか…」


小さく笑いながらもう一度悧羅に深く口付けてから紳もごろりと布団(フトン)に横になった。胸の上に悧羅を乗せて抱きしめるが、さてどうしたものかと笑いが出てしまう。このままでは(ツト)めになど出れないし、かといって部屋から出ていかなければまた啝珈(ワカ)が乗り込んでくるだろう。乗り込んできたならば悧羅も目を覚ましてくれるだろうからある意味では都合(ツゴウ)が良いかもしれない。


そう(オソ)くはならないだろうなあ。


苦笑しながら悧羅を抱きしめる腕に力を込めて紳も目を閉じた。啝珈(ワカ)が起こしてくれるだろうからそれまでは休んでいても問題はない。


大きくなっても野分(ノワ)きのようだ。


小さく笑いながら紳も眠りに落ちたが思っていた通り啝珈(ワカ)が飛び込んできたのは一刻(イッコク)ほどが()ってからだった。もちろん(オノコ)達に止められながらではあったけれど、その声で目を覚ました悧羅の中から部屋に飛び込まれる前に紳が出たので悧羅の甘い声を(ダレ)にも聞かれずに済んだようだった。


父様(トウサマ)ってばあ!!」


大声で飛び込んできた啝珈(ワカ)に苦笑しながら寝間着(ネマギ)羽織(ハオ)って一度悧羅に口付けてから御簾(ミス)の外に出ると一度(ツト)めに出たのだろう。隊服姿(タイフクスガタ)啝珈(ワカ)仁王立(ニオウダ)ちで待ち(カマ)えていた。(オノコ)達も隊服姿(タイフクスガタ)なので一緒に(ツト)めに出ていたのだろうと思われた。ごめん、と皓滓(コウサイ)が苦笑しながら紳を見ている。御簾(ミス)は降ろしているから悧羅の姿は見えないだろうが、それなりに残滓(ザンシ)(タダヨ)っているはずだ。


(ツト)めに出たんだけど一度見廻(ミマワ)りから(モド)ってきても父様(トウサマ)が来てないっていうんで姉様(アネサマ)(オコ)っちゃって…。止めたんだけどこういう時の姉様(アネサマ)(コワ)いからさ」


「俺たちとしてはもう()()には近づきたくなかったんだけどねぇ」


苦笑する皓滓(コウサイ)の後ろで灶絃(ソウゲン)玳絃(タイゲン)が口を(ソロ)えた。忋抖(カイト)は肩を(スク)めながら部屋の入り口の戸に身体を(アズ)けている。


啝珈(ワカ)が飛び出そうとしたんで止めようとしたんだけど、皓滓(コウサイ)一人じゃ無理だったんだよ。舜啓(シュンケイ)が俺たちも行けっていうからさ…。自分は寄りたくないからって」


くすくすと笑う忋抖(カイト)に、だろうねぇと紳も笑った。同じ(オノコ)であるからこそこの部屋に(タダヨ)残滓(ザンシ)には(アラガ)(ガタ)いことは分かる。どんなに悧羅を母だと思っている舜啓(シュンケイ)でも血の(ツナ)がりはないのだから子ども達が(コラ)える以上の胆力(タンリキ)(ヨウ)するだろう。


父様(トウサマ)がちゃんと出てきてくれたら啝珈(ワカ)だって(オコ)らないよ!約束したのに出て来てないのが悪いんでしょ!?」


憤慨(フンガイ)する啝珈(ワカ)に紳は苦笑するしかない。とりあえず啝珈(ワカ)の近くに寄って、ごめんと(アヤマ)りながら頭を()でる。もう!、と(ホオ)(フク)らませる啝珈(ワカ)に声を上げて笑ってしまう。


「いやちゃんと行こうと思ってたよ?でも悧羅が悪い。(ハナ)してくれないんだもん」


きょとりと首を(カシ)げる啝珈(ワカ)の頭を()でていると御簾(ミス)の中から、これと(タシナ)めるような悧羅の声がした。まだ熱を持ったような声音(コワネ)(オノコ)達がぶるりと(フル)えたのが見えて紳は苦笑する。


「出て来ちゃ駄目(ダメ)だよ、悧羅?」


「ならばそのようなせんないことを言うてくれるでないよ」


御簾(ミス)越しに声をかけると悧羅の声がまた(ヒビ)いて咄嗟(トッサ)(オノコ)たちは耳を(フサ)いでしまう。それにまた笑ってとりあえず湯を使ってから行くよ、と啝珈(ワカ)の頭を()き混ぜると、信用できない!と啝珈(ワカ)が首を振った。


「引っ張って連れて行かないと湯を使ってからまた母様(カアサマ)のとこに来たら絶対父様(トウサマ)負けちゃうでしょ?啝珈(ワカ)は見張るからね!」


「…俺そんなに信用ないの?」


「これまでのこと考えたらそうなるでしょ?さっさと湯に行ってきて!」


はいはい、と苦笑しながら湯殿(ユドノ)に向かう紳が(オノコ)達に大丈夫(ダイジョウブ)か?、と笑いかけた。何とかね、と苦笑しているが出来るだけ早くここから立ち去りたいのは見ていれば分かる。


啝珈(ワカ)が見張るらしいから(モド)っててもいいぞ?」


「…願ってもないね」


紳の言葉に大きく嘆息(タンソク)して(オノコ)たちはそれぞれに(ツト)めに(モド)っていった。それを見やってから紳も湯殿(ユドノ)に入ると(スデ)隊服(タイフク)支度(シタク)されていることにまた声を上げて笑ってしまう。きっと啝珈(ワカ)磐里(バンリ)加嬬(カジュ)(タノ)んで支度(シタク)してもらっていたのだろう。


本当に(ニガ)す気はなさそうだ。


込み上げる笑いを(コラ)えきれずに湯を使って汗を流すと手早(テバヤ)支度(シタク)を済ませて湯殿(ユドノ)を出る。湯殿(ユドノ)の戸を開けると目の前に啝珈(ワカ)が座って待っていた。


「どんだけ信用ないんだよ」


くすくすと笑いながら言う紳の手を取って、行くよと中庭に降りようとする啝珈(ワカ)に少しだけ待つように紳が伝える。


「悧羅に行ってくるって言ってないからね」


仕方(シカタ)ないなあ…。戸は開けといてよ?」


大きく嘆息(タンソク)して紳の手を離した啝珈(ワカ)に、はいはいと笑いながら紳は自室に入る。言われた通りに戸は開けたままで御簾(ミス)の中に入るとまだくったりとした悧羅が布団(フトン)に横たわっていた。


「どうしたって(ニガ)してもらえないみたいだから、今日は行ってくるよ?ゆっくり休んでてね」


(ホオ)に口付けて言う紳に、せんないこと、と悧羅が小さく笑う。そのまま腕を伸ばして紳の(ホオ)()れて()で始める。


「待っておる(ユエ)(ハヨ)(モド)っておくりゃ」


「うん。すぐに(モド)って来るよ」


()でられる手を(ツツ)んで(コウ)に口付けてから紳は御簾(ミス)を出た。(ジカン)をかけすぎてしまってはまた啝珈(ワカ)(シカ)られてしまうだろうと思ったのだが、出てきた紳に啝珈(ワカ)は満足そうだった。


(ムカ)えに行かないと駄目(ダメ)だと思ってたけど、やれば出来るんじゃないの」


「これだけ(ムスメ)見張(ミハ)られてたらどうしようもないだろ?」


見張(ミハ)られたくなかったら啝珈(ワカ)との約束を(タガ)えなきゃいいんだよ」


笑いながら紳の手をとって、はい(ツト)め!、と()け出した。つられるように()け出しながら紳はやはり笑いを(コラ)えることが出来なかった。隊舎(タイシャ)に着いても啝珈(ワカ)は紳の手を離すことなく中に入る。子に手を引かれて苦笑しながら久方(ヒサカタ)振りに(ツト)めに出てきた紳を見て隊士達(タイシタチ)は笑いを(コラ)え切れなかったようだ。中には(ハラ)(カカ)えて笑い出す者たちまで居て、こちらの方が近衛隊隊長(コノエタイタイチョウ)としての権威(ケンイ)威厳(イゲン)も無くしてしまうのではないかと紳も笑ってしまう。


啝珈(ワカ)様には隊長(タイチョウ)(カナ)わないんですねえ」


手を引かれて(ツクエ)に座らされた紳に笑いすぎて浮かんだ(ナミダ)()きながら隊士達(タイシタチ)が言う。(トウ)啝珈(ワカ)は紳を座らせると自分も椅子(イス)を持ってきて紳の横に座った。どうやら一日中見張るつもりのようだ。


姿形(スガタカタチ)は悧羅そっくりなのになぁ。何処(ドコ)かで間違(マチガ)ったかねぇ」


苦笑しながら隊士達(タイシタチ)(コタ)えると啝珈(ワカ)(ツクエ)(タタ)いた。置いてある文書(モンジョ)に目を通せと言いたいのだろう。


「…お前…、一日中見張るつもりだろ?」


「当然!だってそうでもしないと(ジカン)が出来たら母様(カアサマ)の所に行こうとするでしょ?今日は昼餉(ヒルゲ)(ジカン)も宮に帰っちゃ駄目(ダメ)だからね!」


「…(ウソ)でしょ…?悧羅が待ってるのになぁ」


声を上げて笑う紳に父様(トウサマ)が悪い、と啝珈(ワカ)(ホオ)(フク)らませてみせた。そんな啝珈(ワカ)とて一部隊(イチブタイ)(ヒキ)いているのだから決して(イトマ)があるわけではないのだが、それでも紳から目を離せばすぐに悧羅の元に飛んで行ってしまうことは分かりきっていた。(ツト)めに連れ出せたのだから時には近衛隊隊長(コノエタイタイチョウ)としての責務(セキム)をこなしてもらわなければ悧羅も子である啝珈(ワカ)たちも隊士達(タイシタチ)面目(メンモク)が立たないのだ。


駄目(ダメ)っていったら駄目(ダメ)だからね?今日という今日はちゃんと近衛隊隊長(コノエタイタイチョウ)として動いてもらうんだから」


ほら、と(ツクエ)をもう一度(タタ)いて啝珈(ワカ)は紳に(ツト)めを行うように(ウナガ)す。そうは言われて見ても(スデ)()は高く(ノボ)っているし隊士達(タイシタチ)への指示(シジ)副隊長(フクタイチョウ)である舜啓(シュンケイ)が出してくれている。今から紳のすることなど文書(モンジョ)に目を通すことと隊士達(タイシタチ)鍛錬(タンレン)をつけるくらいのことだ。やれやれ、と苦笑しながら嘆息(タンソク)して紳は、哀玥(アイゲツ)、と静かに呼んだ。忋抖(カイト)と共に見廻(ミマワ)りに出ていたであろう哀玥(アイゲツ)何処(イズコ)からともなくするりと現れる。


“お呼びでございますか、旦那様(ダンナサマ)


(トナリ)に座った哀玥(アイゲツ)の頭を()でながら、昼餉(ヒルゲ)は宮で()れないと悧羅に伝えてくれるように(タノ)む。ちらりと哀玥(アイゲツ)の視線が啝珈(ワカ)(ウツ)されてくすくすと笑いながら、御意(ギョイ)、とまた姿を消した。


「これで良いですかね、お姫様?」


「まあ良いことにしてあげるよ。その代わり昼餉(ヒルゲ)啝珈(ワカ)が一緒に()ってあげるからね?(ウレ)しいでしょ?」


ふふん、と鼻を鳴らしながら茶を()れに行く啝珈(ワカ)に紳は笑いが止まらない。昼餉(ヒルゲ)を共に()るということは、その間も見張(ミハ)り続けられるということなのだから。


「そんなに見張(ミハ)らなくたって俺だってそう()下野しないよ?」


(ツクエ)文書(モンジョ)を開きながら言う紳の前に茶が置かれる。


「いいえ!父様(トウサマ)も言ってたでしょ?加減(カゲン)なんて忘れたって。ようく分かったもん。これから4日に一回は啝珈(ワカ)(ムカ)えに行くからね?」


「…寝所(シンジョ)までかよ?」


「でないと()からまらないでしょ?それが(イヤ)ならちゃんと4日に一回は出てきてよね?」


紳の(トナリ)に置いた椅子(イス)に座って茶を(スス)りながら言う啝珈(ワカ)は当たり前だとでもいう顔をしている。それにもまた笑いながら、わかってないなあ、と紳は文書(モンジョ)(フデ)を走らせる。何が?、ときょとりとする啝珈(ワカ)にますます紳は笑ってしまう。


「俺の最優先(サイユウセン)責務(セキム)って何だ?」


(オサ)側近護衛(ソッキンゴエイ)でしょ?そんなの聞かれなくたって分かってるよ?」


首を(カシ)げる啝珈(ワカ)に、うんと紳は(ウナズ)いた。


「だろ?だからちゃんと(ツト)めは()たしてんの。俺が悧羅と(コモ)る以上の側近護衛(ソッキンゴエイ)なんてないだろ?」


「…まあ、確かに…」


紳の言葉に納得(ナットク)しかけた啝珈(ワカ)だったがすぐに、(チガ)う!、と紳の背中を(タタ)いた。確かに側近護衛(ソッキンゴエイ)をしていると思えばそうかも知れないが紳はただ悧羅と(コモ)りたいだけなのはすぐに分かったからだ。


()()()()とは別でしょ?ちゃんと近衛隊隊長(コノエタイタイチョウ)として立ってないとすぐに堕落(ダラク)するんだからね?!父様(トウサマ)堕落(ダラク)したら母様(カアサマ)を護るどころか母様(カアサマ)がますます無理しちゃうことになるんだよ?」


「まあそれはそうだな。だけど大丈夫(ダイジョウブ)だよ?」


何が?と聞く啝珈(ワカ)に紳はますます笑って見せる。(ツクエ)文書(モンジョ)手早(テバヤ)片付(カタヅ)けながらちらりと啝珈(ワカ)を見やる。


「だって俺もう悧羅に堕落(ダラク)しちゃってるもん。何かあれば俺が(タテ)になるし?悧羅にばっかり無理はさせないさ。そんなに(ヤワ)(キタ)(カタ)はしてないからね」


「…それ堂々(ドウドウ)と言うの?父様(トウサマ)ってほんっと母様(カアサマ)の事になると自分を(タモ)てないよねえ」


(アキ)れたように大きく嘆息(タンソク)する啝珈(ワカ)に紳はまた笑ってしまう。そりゃそうだ、と笑いながら文書(モンジョ)片付(カタヅ)け続ける紳に啝珈(ワカ)も笑うしかなかったが、とりあえず今日一日は紳が(ツト)めを離れることは無さそうだ、と何処(ドコ)安堵(アンド)もしてしまった。

色々と立て込んでまして更新出来ずでした。

しばらくゆっくりめの更新になるかと思いますが、もう少しお付き合いくださいませ。


お楽しみいただけましたか?

ありがとうございました。

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