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縁【拾陸】《エニシ【ジュウロク】》

二日更新できませんでしたので、今日は頑張りました。


ギリギリラインがあります。

苦手な方はご注意下さい。

空を見上げると月の無い漆黒(シッコク)一面(イチメン)に広がっていた。月明かりが無いためかいつもよりも星が(カガ)やいているようにも思ったけれど、それは悧羅(リラ)の心が(メズラ)しく(ハズ)んでいたからかもしれない。舜啓(シュンケイ)媟雅(セツガ)(チギ)りの()はつつがなく()り行われ、見届(ミトド)けた皆も自室に退()がっている。白詠(ビャクエイ)咲耶(サクヤ)妲己(ダッキ)が送っていったけれど最後(サイゴ)まで、本当によろしいのですか?、と白詠(ビャクエイ)(タズ)ねていたのが印象的(インショウテキ)だった。


舜啓(シュンケイ)媟雅(セツガ)が決めたのだから」


悧羅も(シン)もそう言い続けたのだが仮にも(オサ)の娘で姫君(ヒメギミ)と呼ばれる媟雅(セツガ)が本当に自分の子の伴侶(ハンリョ)となることなど考えてもいなかったようだ。戸惑(トマド)い続ける白詠(ビャクエイ)咲耶(サクヤ)(タタ)いて、いい加減(カゲン)に飲み込んで、と叱責(シッセキ)していたけれど(ヤシキ)(モド)ってからもあの調子(チョウシ)であれば咲耶(サクヤ)怒鳴(ドナ)るだろうことが思い(エガ)かれてつい小さく笑ってしまう。


共に来た佟悧(トウリ)(ヤシキ)に戻らず忋抖(カイト)の腕に手を廻していたので()()()()()なのだろう。いつの間にやら忋抖(カイト)も逃げるのをやめていたようではあったが二人からは恋仲(コイナカ)のような気配(ケハイ)はしないので(タダ)(ジョウ)()わす相手としての付き合いなのかもしれない。二人がそれで良いのであれば何をいう事も無いが本当にそれぞれの子ども達が大きく成長していることに時が()つのは本当に速いと感じる。いずれ子ども達も伴侶(ハンリョ)となる者を見つけ今日の媟雅(セツガ)のように(サイワイ)な姿を見せてくれるのだろう。


腕の中ですやすやと(ネム)姚妃(ヨウヒ)に空から視線(シセン)を落として、それでもまだ(サミ)しくなるのは遠い話のようだ、とも思う。()れない()の場で大人(オトナ)しくしてくれているだろうか、と心配したがなかなかに姚妃(ヨウヒ)(カシコ)い子だった。(オゴソ)かな場で紳や悧羅の(ヒザ)(ワタ)り歩いてはいたのだが大声で(サワ)ぐ事も無かった。けれどやはり少しばかり緊張(キンチョウ)させてしまっていたのか、()が終わって自室に戻る間に悧羅に抱かれたまま眠ってしまった。寝顔(ネガオ)可愛(カワ)いらしくもあり取り上げようとする紳を(コトワ)ってそのまま抱いて戻ったのだがふいに見上げた空を見ていると様々(サマザマ)な事が思い出されてつい足を止めてしまっていた。


母様(カアサマ)、まだそんなところにいたの?」


ふと声をかけられて振り向くと玳絃(タイゲン)が歩いてきている。(スデ)寝間着(ネマギ)着替(キガ)えているが、まだ悧羅が()に出たままの姿で自室にも入らずにいるのだ。首を(カシ)げながら(トナリ)に立つと悧羅の腕の中から姚妃(ヨウヒ)を受け取ってくれる。どうやら今夜は玳絃(タイゲン)姚妃(ヨウヒ)と眠る番らしい。悧羅より頭半分高い背丈(セタケ)に伸びた玳絃(タイゲン)が、父様(トウサマ)は?、と姚妃(ヨウヒ)を抱き直しながら(タズ)ねる。


姚妃(ヨウヒ)が眠ってしまっておったのでな。先に()し替えてもろうておる…、ああ終わったようじゃて」


(コタ)えていると自室から寝間着(ネマギ)に着替えた(シン)が顔を出した。あれ?と悧羅と共にいた玳絃(タイゲン)(オドロ)いたようだが腕の中に姚妃(ヨウヒ)を抱いているので小さく笑い出した。


「なに?今日はお前の番なの?」


笑いながら玳絃(タイゲン)に抱かれたまま眠っている姚妃(ヨウヒ)の顔を(ノゾ)きこんで目を細めると小さな(ホオ)を指で()でている。やっとね、と苦笑する玳絃(タイゲン)が起こさないでよ?と紳に(クギ)を刺した。


「明日は全員に休みをやったはずだけど…。よく取り合いにならなかったな」


「なったよ。(セツ)姉様(アネサマ)は今日は(ハズ)したけど(ダレ)姚妃(ヨウヒ)と寝るかって大変だったんだ。虫拳(ムシケン)して勝ったのが俺だったの。でも舜啓(シュンケイ)まで混ざってたからね。勝ってたらどうするつもりだったんだろう」


まったく、と嘆息(タンソク)してみせる玳絃(タイゲン)の頭を紳がくしゃりと撫でた。


「多分勝ってたら今頃一緒に寝てただろうね。舜啓(シュンケイ)姚妃(ヨウヒ)には甘いから」


「自分の(チギ)りの日くらい忘れて良くない?(セツ)姉様(アネサマ)も笑ってたけど。だいたい俺このところ姚妃(ヨウヒ)と寝れてなかったんだから。やっと廻ってきたんだからね」


(ホオ)(フク)らませながら抱きかかえた姚妃(ヨウヒ)(ワタ)さないとでも言うように腕で(カコ)玳絃(タイゲン)に、取りゃしないよ、と紳が苦笑した。本当はたまには悧羅と姚妃(ヨウヒ)と三人で眠りたいのだけれど子ども達がなかなか(ユル)してくれない。


其方(ソナタ)達も時折(トキオリ)は一人でゆるりと眠りたいであろう…。(ワラワ)達とて姚妃(ヨウヒ)と休みたい時もあるのだがな」


小さく笑いながらも子ども達の大変さを思えばこそ悧羅が言ってみたが、駄目(ダメ)だよ?、とますます玳絃(タイゲン)姚妃(ヨウヒ)(カコ)んでいる。


「言ったでしょ?やっと廻ってきたんだから俺だって可愛(カワイ)い妹に(イヤ)されたいんだよ。近頃(チカゴロ)父様(トウサマ)がみんなの休みを(カサ)ねたりするからさ、いっつも虫拳(ムシケン)で負けちゃってたの。父様(トウサマ)意地悪(イジワル)だと思ってんだよね、これ」


よいしょ、と姚妃(ヨウヒ)を抱き直して紳を玳絃(タイゲン)が見ると、ばれたか、と笑っていた。姚妃(ヨウヒ)を取り合う子ども達の姿が面白(オモシロ)くてつい休みを(カサ)ねてしまう。ただ、昼間に子ども達が居れば悧羅が(ツト)めに集中出来るし少しばかりの休みも取れるだろうと思ってもいるのだけれど。


「お前たちがいてくれると昼間安心出来るんだよ。悧羅は目を離すと何しでかすか分からないし。俺も(ツト)めの合間(アイマ)()って会いに来ることは出来るけど、なかなか抜けられない時もあるからね」


およそ二年(ツト)めを(ハナ)れていた代償(ダイショウ)はなかなかに大きく紳でなければ(ツト)まらない事も()まっていた。(モド)った直後(チョクゴ)はその量の多さにうんざりとしてしまったが急ぐものから少しずつ片付(カタヅ)けている。荊軻(ケイカツ)が里を()けた時よりは少なかったので荊軻(ケイカツ)枉駕(オウガイ)で片付けられるものは行ってくれていたのだろうと感謝もした。それでも隊士達(タイシタチ)の質が落ち始めていることには流石(サスガ)の紳でも(アセ)りを持ってしまう。ほんの少し離れただけなのに紳の顔が見えないと鍛錬(タンレン)に身が入らないのであれば、顔を出さないということが出来なくなってしまう。


「早く父様(トウサマ)匹敵(ヒッテキ)するような鬼が育てば良いんだろうけどね。鍛錬(タンレン)すればするほど父様(トウサマ)は遠くなって行くから隊士達(タイシタチ)も伸びるのを(アキラ)めちゃうんだよ」


子どもである玳絃(タイゲン)でさえそうだ、と言われて紳は嘆息(タンソク)する。それじゃ(コマ)るんだけどなあ、と肩を落とすと、だから俺たちが頑張(ガンバ)るって、と笑いながら自室に退()がっていく。去って行く後ろ姿を(ナガ)めながらまた小さく嘆息(タンソク)する紳の(トナリ)で小さく笑う声がした。視線を落とすと悧羅が面白(オモシロ)そうに笑っている。


「笑い事じゃないんだよ?ほんとにすぐ質が落ちるんだから。こんなんじゃあ悧羅の近衛(コノエ)なんて(マカ)せられないよ」


手を引いて笑い続ける悧羅を自室に入れながら(ウシ)()に戸を閉める。(ホノ)かな(アカリ)(トモ)された部屋は外が新月(シンゲツ)であるからなのかいつもよりも(クラ)く感じた。


「良いのではないかえ?」


上衣(ウワゴロモ)()いだ悧羅からそれを受け取って衣紋掛(エモンカ)けに()ける紳に悧羅が笑いながら言う。良いわけないでしょ、と嘆息(タンソク)すると(コロモ)(オビ)()きながら寝間着(ネマギ)を引き寄せていた。


「子ども達まで鍛錬(タンレン)に身が入っておらぬわけでもあるまいに。紳が(オコノ)うてきた鍛錬(タンレン)(クラ)ぶれば甘いのやもしれぬが、(ワラワ)(オノ)が身ほどは(オノ)(マモ)れるに」


「それじゃあ近衛(コノエ)の意味がないでしょ?小さな(イサカ)いや人の子の国にいた時みたいにたかが大蛇騒動(ウワバミソウドウ)に悧羅が出る羽目(ハメ)になったら近衛(コノエ)名折(ナオ)れだよ」


襦袢(ジュバン)姿になった悧羅が()()も脱ぎ捨てようとする手を止めさせて抱き寄せながらもう一度紳が嘆息(タンソク)する。この細い身体と両肩(リョウカタ)にどれだけの生命(イノチ)(セキ)背負(セオ)っていると思っているのか。出来るだけ悧羅が安らいで過ごせるためには隊士達(タイシタチ)の質を上げることが必須(ヒッス)なのだ。


「悧羅だって(ツカ)れちゃう時があるんだから。全部悧羅に(マカ)せるわけにはいかないんだよ。(タダ)でさえ近頃(チカゴロ)また王母様(オウボサマ)からの(ニン)(クダ)り始めてるんだし…」


やれやれ、と抱きしめた腕から精気(セイキ)を送り始めると、大事(ダイジ)ない、と見上げられる。


王母(オウボ)とて二年の猶予(ユウヨ)はくれたのだしな。紳がこうして精気(セイキ)を分けてくれておるに、このところ身体(カラダ)がほんに軽いのじゃ。王母(オウボ)(ニン)些末(サマツ)なこと(ユエ)


悧羅が姚妃(ヨウヒ)身籠(ミゴモ)ってからは王母(オウボ)(ニン)(クダ)されることは無かったのだが、身体が全快(ゼンカイ)すると待っていたかのように次々に(ニン)(クダ)され始めた。大抵(タイテイ)妲己(ダッキ)哀玥(アイゲツ)麾下(キカ)(クダ)った妖達(アヤカシタチ)対処(タイショ)出来ることであったから悧羅は(メイ)を出すだけで良かったのだけれど、近頃(チカゴロ)は姿を見せなければ(オサ)まらない事も増え出している。それもあって夜あまり休めていない悧羅のために子ども達の休みを(カサ)ねているのだが、いつも悧羅は大したことではないと笑うばかりだ。


(ワラワ)が姿を見せぬ間に今ならばと思う妖達(アヤカシタチ)が増えたということであろうよ。そう大きな(イサカ)いを止めるような事も今は無いに。能力(チカラ)を使わねばならぬ事も少ない。そう(アン)じておくれでないよ」


腕の中からくすくすと笑う悧羅に、だから心配なの、と紳は苦笑する。(サイワイ)な事に姚妃(ヨウヒ)が大きくなりつつある今でも紳に(キザ)まれた道は王母(オウボ)()り取られてはいない。紳も人の子から精気(セイキ)()りに行くことが無くなったのでその分悧羅の(ソバ)から離れなくて済むのは有難(アリガタ)かった。一度紳の身体を(メグ)ることで紳にもその精気(セイキ)が廻り紳の精気(セイキ)として悧羅に送る事ができている。二年()ってようやく紳に何も異変(イヘン)が無い事が納得(ナットク)出来たのか悧羅も(アラガ)うことなく受け入れてくれるようになった。元々(モトモト)悧羅と同じモノから()精気(セイキ)だ。悧羅の身体に合うのは当然(トウゼン)の事だから本当にこの所の悧羅の顔色はこれまで見たことがないほど良かった。


「だけど安心ばっかりしてられないでしょ?この間みたいな大きな騒動(ソウドウ)が無いとも(カギ)らないんだから。ちゃんと俺たちも悧羅(リラ)を護れるようにしておかないと」


「そう気負(キオ)うてくれるなと言うに…。(ワラワ)は紳が(ソバ)におってくれるだけで護られておるのだから」


「またそうやって俺を(アマ)やかすんだもんなあ」


抱きしめた背中をぽんぽんと(タタ)いて笑うと、それは紳の方だとまた笑われる。だが本当に隊士達(タイシタチ)の質を落とすわけにはいかない。いつまで紳が近衛隊隊長(コノエタイタイチョウ)としていれるのかは分からないし、身体はどうしても()いてくる。子ども達に言わせれば自分たちよりも若々(ワカワカ)しくなっていると(アキ)れられるがそれは悧羅のお(カゲ)なのだということも何となくではあるがわかっている。悧羅に何を望んでいるのかは分からないが王母(オウボ)は悧羅が()いる事をとても(ユル)やかにしているのだ。(マジ)わることで紳にもその恩恵(オンケイ)が少なからず入り込んでいるからこそ、悧羅と共に若くいられるのだろう。


あまり大きな(イサカ)いでなければいいのだけれど。


悧羅もそれは気づいているようで王母(オウボ)の考えの片鱗(ヘンリン)でも読めないものかと動いているようだが、今のところの(ニン)では何も(ツカ)めてはいない。弱く小さな妖達(アヤカシタチ)(タワム)れに王母(オウボ)の場である()()()に入り込もうとしている程度(テイド)だ。中には大きな能力(チカラ)を持っているモノもいるようだけれど、そういったモノ達は付かず(ハナ)れずで機会(キカイ)(ウカガ)っているようにも見える。


知恵(チエ)のあるモノほど狡猾(コウカツ)能力(チカラ)も強い。()()()徒党(トトウ)()めば如何(イカ)に悧羅といえども無傷(ムキズ)では済まないかも知れない。しばらく前の犬神騒動(イヌガミソウドウ)の時を思い出して、紳の背中にぶるりと悪寒(オカン)が走った。()()()は悧羅は自分を(エサ)にしたと言っていたけれど思っていたよりも()った(キズ)は深かったし、動揺(ドウヨウ)した紳も自分の能力(チカラ)十二分(ジュウニブン)発揮(ハッキ)することが出来なかった。それは紳の慢心(マンシン)からくるものであることくらい痛いほどに分かっているし、そのままではならないとも思っている。


近衛隊隊長(コノエタイタイチョウ)という(ニン)(アズ)かっている以上、紳が悧羅の(タテ)になりこそすれ悧羅に護られてばかりではならないのだ。


隊士達(タイシタチ)にはいつ如何(イカ)なる時も冷静さを見失(ミウシ)なうな、とは言い聞かせているけれど最愛(サイアイ)の者が目の前で血に(マミ)れる姿を見ては紳であっても冷静(レイセイ)自制(ジセイ)というものを忘れてしまった。その結果が悧羅があれほどまでに(キズ)()う事になってしまったのだから、()()()()()は紳にとって鍛錬(タンレン)を積み続けるための(イマシ)めにもなっている。


「でも今の状態じゃあいつまで()っても近衛隊隊長(コノエタイタイチョウ)(ニン)(ユズ)れそうにないんだよね」


抱きしめた悧羅を一度離して(カカ)え上げると寝所(シンジョ)に入りながら紳は(ツブヤ)く。本当なら出来るだけ悧羅の(ソバ)()ごして取り戻せない500年を手にしたいのだ。姚妃(ヨウヒ)身籠(ミゴモ)ってくれた事と、産み落としてからの悧羅の身体(カラダ)(オモンバカ)ってではあったけれど二年もの間ずっと(ソバ)にいれたことでよりその思いは強くなっている。三十年共にいてもまだ()りない。夜毎(ヨゴト)悧羅を自分のものにしても空白(クウハク)(ジカン)()めるには短すぎる。


「紳以上の鬼が育たぬのは(イタ)(カタ)無いのではないかえ?」


布団(フトン)に横たえた悧羅が小さく笑いながら上に乗った紳の(ホオ)を両手で(ツツ)む。()い上げられたままだった髪から組紐(クミヒモ)を取ってやりながら、何で?、と紳が(タズ)ねた。(ホド)いた組紐(クミヒモ)は悧羅が紳との(チギ)りの日に身につけていたものだ。その昔、紳が悧羅に持っていて欲しいと(ワタ)した物であり、悧羅の血が()み込んでしまっている。普段(フダン)髪を(ユワ)える時には、初めて夜伽(ヨトギ)の相手を(ツト)めた時に(ワタ)した組紐(クミヒモ)を使ってくれているようだが、何かしら大切な事がある時には必ず悧羅は()()を使う。同じ色で新しく()み直そうか、とも(タズ)ねた事もあるにはあるのだが悧羅にとっては()()が良いらしい。(ホド)いた組紐(クミヒモ)枕元(マクラモト)に置こうとすると、おくれ、と悧羅が手を伸ばした。そのまま(ワタ)すと大切そうに折り(カサ)ねながら何かを思い出すように見つめている。


(ダレ)ぞ護りたい者がおればそれが手に届かずとも(オノ)叱責(シッセキ)能力(チカラ)体術(タイジュツ)を身につけようと思うもの。紳も(ワラワ)を護りとうて(キビ)しい鍛錬(タンレン)(ホカ)にも(オノ)研鑽(ケンサン)し続けてくれたのであろ?」


「…まあ、手が届くとは思ってなかったからね。出来るだけ悧羅の(ソバ)で何かあった時に悧羅の(タテ)になるためには近衛隊隊長(コノエタイタイチョウ)って(ニン)()かないと駄目(ダメ)だったし?会話をしなくても(ソバ)(ヒカ)えられるだけで良かったし…」


うん、と悧羅は組紐(クミヒモ)(ナガ)めながら(ウナズ)いた。悧羅とて同じ思いだったのだからその気持ちは良く分かるつもりだ。


「それは(ワラワ)とて同じこと。紳が(ソバ)におらずともどうにか()えてこられたは其方(ソナタ)が里の何処(ドコ)かで(サイワイ)にしてくれておるのだろうと思うておったからじゃ。…近衛隊隊長(コノエタイタイチョウ)として(ソバ)(ハベ)られた時にはどうしたものかと思うた」


200年前から紳が(ハベ)るようになった時のことを思い出して悧羅は小さく笑う。(ツト)めのことしか話す事など無かったけれど、手を伸ばせばすぐに(トド)く場に紳がいるのだ。幾度(イクド)手を伸ばしたいと気持ちが(ハヤ)ったかなど数えきれない。(コラ)えたのは紳の名が夜伽(ヨトギ)の相手として上がらなかったからだ。きっともう良い伴侶(ハンリョ)を見つけて悧羅が知らないだけで子も成せているのだろうと思っていた。だからこそ自分の心など()てつかせて紳のいる里を護らなければならないと強く()していたのだから。


「俺が近くにいるようになったのが(イヤ)だったの?」


組紐(クミヒモ)を見つめ続ける悧羅の(ヒタイ)に口付けながら襦袢(ジュバン)(オビ)(ホド)き始める紳に、いいや、と悧羅が組紐(クミヒモ)枕元(マクラモト)に置いた。


(イヤ)であったはずがない。ただ(ワラワ)其方(ソナタ)には(スデ)(チギ)りを(ムス)んでおる者がおるのだろうと思うておったに。そう思うておったのについ手を伸ばしてしまいそうになるのを(コラ)える方が(ツロ)うあったな。…(ワラワ)などが()れてはならぬ、と思うておった(ユエ)


小さく笑う悧羅に、うん、と紳も笑い返す。(タガ)いに同じ想いであったのに確かめることさえも(ユル)されることもないと思い込んで手を伸ばせなかった。本当に()()()()に居たにも(カカ)わらず。ぽすりと顔の横に投げ出された悧羅の手を取って紳は自分の(ホオ)に当てがった。


「でも今はもう(チガ)うでしょ?どれだけだって俺に()れられるし、俺も悧羅に()れたい気持ちを(コラ)えなくて良くなった」


細い身体を少し(カカ)え上げて襦袢(ジュバン)を取り去ると自分の寝間着(ネマギ)も脱ぎ捨てる。(ホオ)に当てられた手をそのままに深く口付けると、そうだな、と(ヤワ)らかな微笑(ホホエ)みが紳を(トラ)えた。


()()()紳が夜伽(ヨトギ)の相手として(ワラワ)の前に現れなんだら今でも紳には良い相手がおるのだと思うておったことだろう。こうして紳に()れることも(アキラ)めて(サイワイ)(ツカ)む事もなかったであろうな」


「…その前に(コラ)え切れずに俺が動いてたかも知れないけどね」


苦笑しながら言ってはみるがそれは今こうしていられるからだ。きっとあのままであったなら紳は悧羅に想いを()げる事すら出来ずに終わっていたはずだ。


「そこはきっかけをくれた栄州(エイシュウ)感謝(カンシャ)かな?まあ、あの時(アセ)ったのは本当だけどさ」


悧羅の(ホオ)に口付けるとくすくすと小さな笑い声が響く。


「ほんに。(ワラワ)もどうしたものかと思うておったに。なれど、夜伽(ヨトギ)であらば紳も(イナ)とは言えず()れとうはないと思うておっても(コラ)えてくれるやもしれぬ、とは考えたがの」


「そんな事思ってたの?俺は悧羅が(サワ)られたく無いだろうって思ってたよ。(ダレ)が相手でも俺だけは(コバ)むだろうなって」


「いいや?一夜(ヒトヨ)でも其方(ソナタ)に触れてもらえるのであらば、その想いだけでその先のどんな苦渋(クジュウ)も飲み込む覚悟(カクゴ)であったに」


小さく笑い続ける悧羅の身体に(クチビル)()わせ始めると笑い声が甘い声と吐息(トイキ)に変わっていく。もう三十余年(ヨネン)()っているのにあの時の事は二人とも鮮明(センメイ)(オボ)えている。一度だけ()れさせて欲しいと願った紳の想いの向こうで悧羅が同じような想いで居てくれた事が(ウレ)しくもあったが、同時にとても(セツ)なかった。


「だけど、もう(コラ)えることなんてしなくていいんだ。そんな(サミ)しい覚悟(カクゴ)もいらない。…だって、こうしていられるんだからね」


(ムカシ)の事を思い出して(タガ)いに話す事など本当に久方(ヒサカタ)振りのことだ。媟雅(セツガ)(チギ)りを見て当時を思い出したのは、どうやら紳だけでは無かったらしい。どんな思いで()()()(ムカ)え混ざり合う血から(タガ)いの(オモ)いの重さを知ってしばらく動けなかったことも今では(ナツ)かしむことさえ出来る。ゆっくりと悧羅の身体(カラダ)を開かせていると()()(コタ)えて悧羅が(ノボ)って行く。時々(コラ)えられないのか頭を横に振って(イヤ)だと言うけれど、その姿も(イト)おしくて(タマ)らなくなる。毎夜毎夜(マイヨマイヨ)見ている姿なのに、まるで違う(ナマメ)かしさで紳を(ナヤ)ませるのだから本当に(コマ)ってしまう。大きく(アエ)ぎながら身体を()らせて()てた悧羅に目を細めながら深く口付けながらも手を休めずに(イツク)しみ続けると細い腕が紳の首に廻された。()てる(タビ)に身体が離れないように廻された腕に力が()もる。


(クチビル)でしっとりと()れて熱く火照(ホテ)った身体をなぞって行くだけでもう腰が浮いて来ていた。当然(トウゼン)のように紳に(コタ)える悧羅を見て小さく笑いながら脚の間に顔を(ウズ)めると一際(ヒトキワ)大きな甘い声が届く。待て、と甘い声の間から聞こえてくるが(イヤ)だよ?、と(シタ)でなぞりながら思い切り吸い付くと()ねるように悧羅の身体が幾度(イクド)()り返った。()()(ナブ)られるのは刺激が強すぎるようでいつも悧羅は一瞬(イッシュン)(アラガ)う。その姿が見たくてつい意地悪(イジワル)をしてしまうのだが、いつもやり過ぎてしまうようで()(ハナ)った時の悧羅は腰を浮かせながら爪先(ツマサキ)で布団を(ツカ)んでいる。


また大きく()ねた悧羅の身体を引き()めて顔を上げるとようやく強過ぎる刺激から(ハナ)たれてくったりと布団(フトン)に身体を投げ出す姿を見ることが出来るのだ。荒れた息と紅潮(コウチョウ)した(ホオ)(ウル)んだ目で見つめられて、くすりと紳は笑ってしまう。


本当に(イト)しくて仕方(シカタ)がない。


いつもなら入り込むところだが微笑みながら(ヒタイ)に口付けると、びくりと悧羅の身体が(フル)えた。


「悧羅、後ろ向いて?」


耳元で(ササヤ)くとその吐息(トイキ)でも震える悧羅が、後ろ?、と身体を返そうとする。けれど幾度(イクド)()てさせられた身体は(スデ)に手足の先が(シビ)れているし紳を求める身体の(ウズ)きも(アイ)まってなかなか上手(ウマ)くいかないようだ。それにも小さく笑いながら手を貸してうつ()せにすると、背中にかかった長い髪をそっと()ける。白い背中に紫の(ハス)の華とまだ開いていない(ツボミ)が紳の目に飛び込んできた。両肩の華も(フク)めて全ての華が開いたら背中の半分を()めるほどに咲き(ホコ)るだろう。一つ一つの華に口付けて(シタ)()わせていくと(フル)える身体が逃げ出さないように布団(フトン)(ツカ)む悧羅がいた。


「力()かないと(ツメ)(キズ)つくよ」


(ツカ)んだ手を(ユル)ませながらゆっくりと中に入り込むと布団(フトン)()わりに紳の手が(ツカ)まれる。息を()む悧羅に身体を(カサ)ねて奥まで入りながら、それでいい、と(ツカ)まれた手を(ニギ)り返す。


「俺のことを(ハナ)さずにいて」


願いを伝えると同時に()き上げ始めると甘い(アエ)ぎがすぐ耳元で聞こえだす。(ハゲ)しく()き立て続けると紳を(ツカ)む手の力も強くなる。()かび上がってくる悧羅の身体を自分の身体で押し付けて()(ミダ)すと涙の浮かんだ目が紳を見つめた。紳、と()われて(ムサボ)るように(クチビル)(ウバ)うと押しつけられて()げ場の無いまま紳の身体の下で悧羅が()てて強く中にいる紳を締め付けてくる。休みを(アタ)えることも(ユル)さずにより一層(イッソウ)動きを速めると()えられないように紳の手を(ツカ)む力が(ユル)んできた。


駄目(ダメ)だよ?(ハナ)さないで?」


いつのまにか(ヒザ)を立てて腰を浮かせた悧羅の首筋(クビスジ)に吸い付きながら伝えると(ユル)んでいた手が(フタタ)び強く(ニギ)られた。(ツナ)がれた手を(ハナ)さないように押し付けて少しだけ身体を離して突き立て続ける。求めるように動く腰が(ナマメ)かしくて速さを(オサ)えてやることも出来ない。()てては(ノボ)りまた()てていく悧羅の中が熱くより強く紳を締め付けて行く。さすがに紳も(コラ)え切れなくて悧羅が()てるのに合わせて最奥(サイオク)で一度(ヨク)()き出すと()()()()でまた悧羅が大きく(フル)えた。


「…このままでは紳の顔も見えぬ…」


荒れた息と(フル)える身体で願われて、そうだね、と紳も息を(トトノ)えながら苦笑するしかない。強く(ツナ)いだ手を一度(ハナ)して力の入らない身体をころりと返すが中に入ったままであったので(タガ)いに()()刺激(シゲキ)になってしまった。


「口付けることも出来ないもんね?」


くすくすと笑いながら(ツイバ)むように口付けて(フタタ)び手を(ツナ)ぐととろりとした目で見つめながら悧羅が小さく(ウナズ)いた。


「俺も悧羅の顔は見ていたいし?ちゃんと俺を欲しがってくれてるのか見てないとね」


「身体が(シビ)れるほどに(ホッ)しておるのに…伝わらぬのか?」


(タズ)ねられて、うん?、と苦笑しながらまた()き立て始めるとまだ息の(トトノ)っていなかった悧羅から(アエ)ぎが()れだした。腕は(オサ)えつけられているのに脚は自然に開いて紳をより奥まで受け入れようとしてくれる。悧羅が受け入れるのは自分だけだ、という優越感(ユウエツカン)(ヒタ)れる一時(ヒトトキ)だ。また()り返り始める悧羅に口付けながら、伝わってるよ、と紳も荒れ始めた息の中から(コタ)えた。


「伝わってるからこそもっと(モト)めて?俺だけの悧羅を沢山(タクサン)見せて?」


(ハジ)かれたように勢い良く()ねた身体と浮いた腰を脚で支えてより深く入り込んで突き立て続ける。最奥を()(ミダ)されて甘い声と二人の荒れた息しか聞こえない部屋では思いのままに悧羅を自分のものにする事ができる。それがどんなに(サイワイ)であるかなど、()()(タビ)に感じていることだ。


それでも、まだ()りない。


出来れば悠久(ユウキュウ)(ジカン)が終わりを(ムカ)えるまで悧羅と()()()()過ごせていたら良いのに、と欲張(ヨクバ)りな願いを心に()めながらその夜も悧羅が意識(イシキ)手放(テバナ)すまで二人の手が離される事はなかった。

無事に舜啓と媟雅の契りは終わったようです。

さあ、これからまたお話がどうなりますやら。


お楽しみいただけましたか?

ありがとうございました。

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