縁【拾陸】《エニシ【ジュウロク】》
二日更新できませんでしたので、今日は頑張りました。
ギリギリラインがあります。
苦手な方はご注意下さい。
空を見上げると月の無い漆黒が一面に広がっていた。月明かりが無いためかいつもよりも星が輝やいているようにも思ったけれど、それは悧羅の心が珍しく弾んでいたからかもしれない。舜啓と媟雅の契りの儀はつつがなく執り行われ、見届けた皆も自室に退がっている。白詠と咲耶は妲己が送っていったけれど最後まで、本当によろしいのですか?、と白詠が尋ねていたのが印象的だった。
「舜啓と媟雅が決めたのだから」
悧羅も紳もそう言い続けたのだが仮にも長の娘で姫君と呼ばれる媟雅が本当に自分の子の伴侶となることなど考えてもいなかったようだ。戸惑い続ける白詠を咲耶が叩いて、いい加減に飲み込んで、と叱責していたけれど邸に戻ってからもあの調子であれば咲耶が怒鳴るだろうことが思い描かれてつい小さく笑ってしまう。
共に来た佟悧は邸に戻らず忋抖の腕に手を廻していたのでそういう事なのだろう。いつの間にやら忋抖も逃げるのをやめていたようではあったが二人からは恋仲のような気配はしないので只、情を交わす相手としての付き合いなのかもしれない。二人がそれで良いのであれば何をいう事も無いが本当にそれぞれの子ども達が大きく成長していることに時が経つのは本当に速いと感じる。いずれ子ども達も伴侶となる者を見つけ今日の媟雅のように倖な姿を見せてくれるのだろう。
腕の中ですやすやと眠る姚妃に空から視線を落として、それでもまだ淋しくなるのは遠い話のようだ、とも思う。慣れない儀の場で大人しくしてくれているだろうか、と心配したがなかなかに姚妃は賢い子だった。厳かな場で紳や悧羅の膝を渡り歩いてはいたのだが大声で騒ぐ事も無かった。けれどやはり少しばかり緊張させてしまっていたのか、儀が終わって自室に戻る間に悧羅に抱かれたまま眠ってしまった。寝顔が可愛いらしくもあり取り上げようとする紳を断ってそのまま抱いて戻ったのだがふいに見上げた空を見ていると様々な事が思い出されてつい足を止めてしまっていた。
「母様、まだそんなところにいたの?」
ふと声をかけられて振り向くと玳絃が歩いてきている。既に寝間着に着替えているが、まだ悧羅が儀に出たままの姿で自室にも入らずにいるのだ。首を傾げながら隣に立つと悧羅の腕の中から姚妃を受け取ってくれる。どうやら今夜は玳絃が姚妃と眠る番らしい。悧羅より頭半分高い背丈に伸びた玳絃が、父様は?、と姚妃を抱き直しながら尋ねる。
「姚妃が眠ってしまっておったのでな。先に召し替えてもろうておる…、ああ終わったようじゃて」
応えていると自室から寝間着に着替えた紳が顔を出した。あれ?と悧羅と共にいた玳絃に驚いたようだが腕の中に姚妃を抱いているので小さく笑い出した。
「なに?今日はお前の番なの?」
笑いながら玳絃に抱かれたまま眠っている姚妃の顔を覗きこんで目を細めると小さな頬を指で撫でている。やっとね、と苦笑する玳絃が起こさないでよ?と紳に釘を刺した。
「明日は全員に休みをやったはずだけど…。よく取り合いにならなかったな」
「なったよ。媟の姉様は今日は外したけど誰が姚妃と寝るかって大変だったんだ。虫拳して勝ったのが俺だったの。でも舜啓まで混ざってたからね。勝ってたらどうするつもりだったんだろう」
まったく、と嘆息してみせる玳絃の頭を紳がくしゃりと撫でた。
「多分勝ってたら今頃一緒に寝てただろうね。舜啓も姚妃には甘いから」
「自分の契りの日くらい忘れて良くない?媟の姉様も笑ってたけど。だいたい俺このところ姚妃と寝れてなかったんだから。やっと廻ってきたんだからね」
頬を膨らませながら抱きかかえた姚妃を渡さないとでも言うように腕で囲む玳絃に、取りゃしないよ、と紳が苦笑した。本当はたまには悧羅と姚妃と三人で眠りたいのだけれど子ども達がなかなか許してくれない。
「其方達も時折は一人でゆるりと眠りたいであろう…。妾達とて姚妃と休みたい時もあるのだがな」
小さく笑いながらも子ども達の大変さを思えばこそ悧羅が言ってみたが、駄目だよ?、とますます玳絃が姚妃を囲んでいる。
「言ったでしょ?やっと廻ってきたんだから俺だって可愛い妹に癒されたいんだよ。近頃、父様がみんなの休みを重ねたりするからさ、いっつも虫拳で負けちゃってたの。父様の意地悪だと思ってんだよね、これ」
よいしょ、と姚妃を抱き直して紳を玳絃が見ると、ばれたか、と笑っていた。姚妃を取り合う子ども達の姿が面白くてつい休みを重ねてしまう。ただ、昼間に子ども達が居れば悧羅が務めに集中出来るし少しばかりの休みも取れるだろうと思ってもいるのだけれど。
「お前たちがいてくれると昼間安心出来るんだよ。悧羅は目を離すと何しでかすか分からないし。俺も務めの合間を縫って会いに来ることは出来るけど、なかなか抜けられない時もあるからね」
およそ二年務めを離れていた代償はなかなかに大きく紳でなければ務まらない事も溜まっていた。戻った直後はその量の多さにうんざりとしてしまったが急ぐものから少しずつ片付けている。荊軻が里を空けた時よりは少なかったので荊軻と枉駕で片付けられるものは行ってくれていたのだろうと感謝もした。それでも隊士達の質が落ち始めていることには流石の紳でも焦りを持ってしまう。ほんの少し離れただけなのに紳の顔が見えないと鍛錬に身が入らないのであれば、顔を出さないということが出来なくなってしまう。
「早く父様に匹敵するような鬼が育てば良いんだろうけどね。鍛錬すればするほど父様は遠くなって行くから隊士達も伸びるのを諦めちゃうんだよ」
子どもである玳絃でさえそうだ、と言われて紳は嘆息する。それじゃ困るんだけどなあ、と肩を落とすと、だから俺たちが頑張るって、と笑いながら自室に退がっていく。去って行く後ろ姿を眺めながらまた小さく嘆息する紳の隣で小さく笑う声がした。視線を落とすと悧羅が面白そうに笑っている。
「笑い事じゃないんだよ?ほんとにすぐ質が落ちるんだから。こんなんじゃあ悧羅の近衛なんて任せられないよ」
手を引いて笑い続ける悧羅を自室に入れながら後ろ手に戸を閉める。仄かな灯が灯された部屋は外が新月であるからなのかいつもよりも暗く感じた。
「良いのではないかえ?」
上衣を脱いだ悧羅からそれを受け取って衣紋掛けに掛ける紳に悧羅が笑いながら言う。良いわけないでしょ、と嘆息すると衣の帯を解きながら寝間着を引き寄せていた。
「子ども達まで鍛錬に身が入っておらぬわけでもあるまいに。紳が行うてきた鍛錬に比ぶれば甘いのやもしれぬが、妾も己が身ほどは己で護れるに」
「それじゃあ近衛の意味がないでしょ?小さな諍いや人の子の国にいた時みたいにたかが大蛇騒動に悧羅が出る羽目になったら近衛の名折れだよ」
襦袢姿になった悧羅がそれも脱ぎ捨てようとする手を止めさせて抱き寄せながらもう一度紳が嘆息する。この細い身体と両肩にどれだけの生命と責を背負っていると思っているのか。出来るだけ悧羅が安らいで過ごせるためには隊士達の質を上げることが必須なのだ。
「悧羅だって疲れちゃう時があるんだから。全部悧羅に任せるわけにはいかないんだよ。只でさえ近頃また王母様からの任も下り始めてるんだし…」
やれやれ、と抱きしめた腕から精気を送り始めると、大事ない、と見上げられる。
「王母とて二年の猶予はくれたのだしな。紳がこうして精気を分けてくれておるに、このところ身体がほんに軽いのじゃ。王母の任も些末なこと故」
悧羅が姚妃を身籠ってからは王母の任が下されることは無かったのだが、身体が全快すると待っていたかのように次々に任が下され始めた。大抵は妲己と哀玥の麾下に下った妖達で対処出来ることであったから悧羅は命を出すだけで良かったのだけれど、近頃は姿を見せなければ収まらない事も増え出している。それもあって夜あまり休めていない悧羅のために子ども達の休みを重ねているのだが、いつも悧羅は大したことではないと笑うばかりだ。
「妾が姿を見せぬ間に今ならばと思う妖達が増えたということであろうよ。そう大きな諍いを止めるような事も今は無いに。能力を使わねばならぬ事も少ない。そう案じておくれでないよ」
腕の中からくすくすと笑う悧羅に、だから心配なの、と紳は苦笑する。倖な事に姚妃が大きくなりつつある今でも紳に刻まれた道は王母に刈り取られてはいない。紳も人の子から精気を獲りに行くことが無くなったのでその分悧羅の側から離れなくて済むのは有難かった。一度紳の身体を巡ることで紳にもその精気が廻り紳の精気として悧羅に送る事ができている。二年経ってようやく紳に何も異変が無い事が納得出来たのか悧羅も抗うことなく受け入れてくれるようになった。元々悧羅と同じモノから獲る精気だ。悧羅の身体に合うのは当然の事だから本当にこの所の悧羅の顔色はこれまで見たことがないほど良かった。
「だけど安心ばっかりしてられないでしょ?この間みたいな大きな騒動が無いとも限らないんだから。ちゃんと俺たちも悧羅を護れるようにしておかないと」
「そう気負うてくれるなと言うに…。妾は紳が側におってくれるだけで護られておるのだから」
「またそうやって俺を甘やかすんだもんなあ」
抱きしめた背中をぽんぽんと叩いて笑うと、それは紳の方だとまた笑われる。だが本当に隊士達の質を落とすわけにはいかない。いつまで紳が近衛隊隊長としていれるのかは分からないし、身体はどうしても老いてくる。子ども達に言わせれば自分たちよりも若々しくなっていると呆れられるがそれは悧羅のお陰なのだということも何となくではあるがわかっている。悧羅に何を望んでいるのかは分からないが王母は悧羅が老いる事をとても緩やかにしているのだ。交わることで紳にもその恩恵が少なからず入り込んでいるからこそ、悧羅と共に若くいられるのだろう。
あまり大きな諍いでなければいいのだけれど。
悧羅もそれは気づいているようで王母の考えの片鱗でも読めないものかと動いているようだが、今のところの任では何も掴めてはいない。弱く小さな妖達が戯れに王母の場であるこの地に入り込もうとしている程度だ。中には大きな能力を持っているモノもいるようだけれど、そういったモノ達は付かず離れずで機会を伺っているようにも見える。
知恵のあるモノほど狡猾で能力も強い。それらが徒党を組めば如何に悧羅といえども無傷では済まないかも知れない。しばらく前の犬神騒動の時を思い出して、紳の背中にぶるりと悪寒が走った。あの時は悧羅は自分を餌にしたと言っていたけれど思っていたよりも負った傷は深かったし、動揺した紳も自分の能力を十二分に発揮することが出来なかった。それは紳の慢心からくるものであることくらい痛いほどに分かっているし、そのままではならないとも思っている。
近衛隊隊長という任を預かっている以上、紳が悧羅の盾になりこそすれ悧羅に護られてばかりではならないのだ。
隊士達にはいつ如何なる時も冷静さを見失なうな、とは言い聞かせているけれど最愛の者が目の前で血に塗れる姿を見ては紳であっても冷静や自制というものを忘れてしまった。その結果が悧羅があれほどまでに傷を負う事になってしまったのだから、あの出来事は紳にとって鍛錬を積み続けるための戒めにもなっている。
「でも今の状態じゃあいつまで経っても近衛隊隊長の任を譲れそうにないんだよね」
抱きしめた悧羅を一度離して抱え上げると寝所に入りながら紳は呟く。本当なら出来るだけ悧羅の側で過ごして取り戻せない500年を手にしたいのだ。姚妃を身籠ってくれた事と、産み落としてからの悧羅の身体を慮ってではあったけれど二年もの間ずっと側にいれたことでよりその思いは強くなっている。三十年共にいてもまだ足りない。夜毎悧羅を自分のものにしても空白の刻を埋めるには短すぎる。
「紳以上の鬼が育たぬのは致し方無いのではないかえ?」
布団に横たえた悧羅が小さく笑いながら上に乗った紳の頬を両手で包む。結い上げられたままだった髪から組紐を取ってやりながら、何で?、と紳が尋ねた。解いた組紐は悧羅が紳との契りの日に身につけていたものだ。その昔、紳が悧羅に持っていて欲しいと渡した物であり、悧羅の血が染み込んでしまっている。普段髪を結える時には、初めて夜伽の相手を務めた時に渡した組紐を使ってくれているようだが、何かしら大切な事がある時には必ず悧羅はこれを使う。同じ色で新しく組み直そうか、とも尋ねた事もあるにはあるのだが悧羅にとってはこれが良いらしい。解いた組紐を枕元に置こうとすると、おくれ、と悧羅が手を伸ばした。そのまま渡すと大切そうに折り重ねながら何かを思い出すように見つめている。
「誰ぞ護りたい者がおればそれが手に届かずとも己を叱責し能力や体術を身につけようと思うもの。紳も妾を護りとうて厳しい鍛錬の他にも己を研鑽し続けてくれたのであろ?」
「…まあ、手が届くとは思ってなかったからね。出来るだけ悧羅の側で何かあった時に悧羅の盾になるためには近衛隊隊長って任に就かないと駄目だったし?会話をしなくても側に控えられるだけで良かったし…」
うん、と悧羅は組紐を眺めながら頷いた。悧羅とて同じ思いだったのだからその気持ちは良く分かるつもりだ。
「それは妾とて同じこと。紳が側におらずともどうにか耐えてこられたは其方が里の何処かで倖にしてくれておるのだろうと思うておったからじゃ。…近衛隊隊長として側に侍られた時にはどうしたものかと思うた」
200年前から紳が侍るようになった時のことを思い出して悧羅は小さく笑う。務めのことしか話す事など無かったけれど、手を伸ばせばすぐに届く場に紳がいるのだ。幾度手を伸ばしたいと気持ちが逸ったかなど数えきれない。堪えたのは紳の名が夜伽の相手として上がらなかったからだ。きっともう良い伴侶を見つけて悧羅が知らないだけで子も成せているのだろうと思っていた。だからこそ自分の心など凍てつかせて紳のいる里を護らなければならないと強く課していたのだから。
「俺が近くにいるようになったのが嫌だったの?」
組紐を見つめ続ける悧羅の額に口付けながら襦袢の帯を解き始める紳に、いいや、と悧羅が組紐を枕元に置いた。
「嫌であったはずがない。ただ妾は其方には既に契りを結んでおる者がおるのだろうと思うておったに。そう思うておったのについ手を伸ばしてしまいそうになるのを堪える方が辛うあったな。…妾などが触れてはならぬ、と思うておった故」
小さく笑う悧羅に、うん、と紳も笑い返す。互いに同じ想いであったのに確かめることさえも許されることもないと思い込んで手を伸ばせなかった。本当にすぐそこに居たにも関わらず。ぽすりと顔の横に投げ出された悧羅の手を取って紳は自分の頬に当てがった。
「でも今はもう違うでしょ?どれだけだって俺に触れられるし、俺も悧羅に触れたい気持ちを堪えなくて良くなった」
細い身体を少し抱え上げて襦袢を取り去ると自分の寝間着も脱ぎ捨てる。頬に当てられた手をそのままに深く口付けると、そうだな、と柔らかな微笑みが紳を捉えた。
「あの時紳が夜伽の相手として妾の前に現れなんだら今でも紳には良い相手がおるのだと思うておったことだろう。こうして紳に触れることも諦めて倖を掴む事もなかったであろうな」
「…その前に堪え切れずに俺が動いてたかも知れないけどね」
苦笑しながら言ってはみるがそれは今こうしていられるからだ。きっとあのままであったなら紳は悧羅に想いを告げる事すら出来ずに終わっていたはずだ。
「そこはきっかけをくれた栄州に感謝かな?まあ、あの時焦ったのは本当だけどさ」
悧羅の頬に口付けるとくすくすと小さな笑い声が響く。
「ほんに。妾もどうしたものかと思うておったに。なれど、夜伽であらば紳も否とは言えず触れとうはないと思うておっても堪えてくれるやもしれぬ、とは考えたがの」
「そんな事思ってたの?俺は悧羅が触られたく無いだろうって思ってたよ。誰が相手でも俺だけは拒むだろうなって」
「いいや?一夜でも其方に触れてもらえるのであらば、その想いだけでその先のどんな苦渋も飲み込む覚悟であったに」
小さく笑い続ける悧羅の身体に唇を這わせ始めると笑い声が甘い声と吐息に変わっていく。もう三十余年も経っているのにあの時の事は二人とも鮮明に覚えている。一度だけ触れさせて欲しいと願った紳の想いの向こうで悧羅が同じような想いで居てくれた事が嬉しくもあったが、同時にとても切なかった。
「だけど、もう堪えることなんてしなくていいんだ。そんな淋しい覚悟もいらない。…だって、こうしていられるんだからね」
昔の事を思い出して互いに話す事など本当に久方振りのことだ。媟雅の契りを見て当時を思い出したのは、どうやら紳だけでは無かったらしい。どんな思いであの日を迎え混ざり合う血から互いの想いの重さを知ってしばらく動けなかったことも今では懐かしむことさえ出来る。ゆっくりと悧羅の身体を開かせているとそれに応えて悧羅が昇って行く。時々堪えられないのか頭を横に振って嫌だと言うけれど、その姿も愛おしくて堪らなくなる。毎夜毎夜見ている姿なのに、まるで違う艶かしさで紳を悩ませるのだから本当に困ってしまう。大きく喘ぎながら身体を反らせて果てた悧羅に目を細めながら深く口付けながらも手を休めずに慈しみ続けると細い腕が紳の首に廻された。果てる度に身体が離れないように廻された腕に力が込もる。
唇でしっとりと濡れて熱く火照った身体をなぞって行くだけでもう腰が浮いて来ていた。当然のように紳に応える悧羅を見て小さく笑いながら脚の間に顔を埋めると一際大きな甘い声が届く。待て、と甘い声の間から聞こえてくるが嫌だよ?、と舌でなぞりながら思い切り吸い付くと跳ねるように悧羅の身体が幾度も反り返った。ここを嬲られるのは刺激が強すぎるようでいつも悧羅は一瞬抗う。その姿が見たくてつい意地悪をしてしまうのだが、いつもやり過ぎてしまうようで解き放った時の悧羅は腰を浮かせながら爪先で布団を掴んでいる。
また大きく跳ねた悧羅の身体を引き留めて顔を上げるとようやく強過ぎる刺激から放たれてくったりと布団に身体を投げ出す姿を見ることが出来るのだ。荒れた息と紅潮した頬と潤んだ目で見つめられて、くすりと紳は笑ってしまう。
本当に愛しくて仕方がない。
いつもなら入り込むところだが微笑みながら額に口付けると、びくりと悧羅の身体が震えた。
「悧羅、後ろ向いて?」
耳元で囁くとその吐息でも震える悧羅が、後ろ?、と身体を返そうとする。けれど幾度も果てさせられた身体は既に手足の先が痺れているし紳を求める身体の疼きも相まってなかなか上手くいかないようだ。それにも小さく笑いながら手を貸してうつ伏せにすると、背中にかかった長い髪をそっと避ける。白い背中に紫の蓮の華とまだ開いていない蕾が紳の目に飛び込んできた。両肩の華も含めて全ての華が開いたら背中の半分を占めるほどに咲き誇るだろう。一つ一つの華に口付けて舌を這わせていくと震える身体が逃げ出さないように布団を掴む悧羅がいた。
「力抜かないと爪が傷つくよ」
掴んだ手を緩ませながらゆっくりと中に入り込むと布団の代わりに紳の手が掴まれる。息を呑む悧羅に身体を重ねて奥まで入りながら、それでいい、と掴まれた手を握り返す。
「俺のことを離さずにいて」
願いを伝えると同時に突き上げ始めると甘い喘ぎがすぐ耳元で聞こえだす。激しく突き立て続けると紳を掴む手の力も強くなる。浮かび上がってくる悧羅の身体を自分の身体で押し付けて掻き乱すと涙の浮かんだ目が紳を見つめた。紳、と乞われて貪るように唇を奪うと押しつけられて逃げ場の無いまま紳の身体の下で悧羅が果てて強く中にいる紳を締め付けてくる。休みを与えることも許さずにより一層動きを速めると耐えられないように紳の手を掴む力が緩んできた。
「駄目だよ?離さないで?」
いつのまにか膝を立てて腰を浮かせた悧羅の首筋に吸い付きながら伝えると緩んでいた手が再び強く握られた。繋がれた手を離さないように押し付けて少しだけ身体を離して突き立て続ける。求めるように動く腰が艶かしくて速さを抑えてやることも出来ない。果てては昇りまた果てていく悧羅の中が熱くより強く紳を締め付けて行く。さすがに紳も堪え切れなくて悧羅が果てるのに合わせて最奥で一度欲を吐き出すとその熱さでまた悧羅が大きく震えた。
「…このままでは紳の顔も見えぬ…」
荒れた息と震える身体で願われて、そうだね、と紳も息を整えながら苦笑するしかない。強く繋いだ手を一度離して力の入らない身体をころりと返すが中に入ったままであったので互いにそれが刺激になってしまった。
「口付けることも出来ないもんね?」
くすくすと笑いながら啄むように口付けて再び手を繋ぐととろりとした目で見つめながら悧羅が小さく頷いた。
「俺も悧羅の顔は見ていたいし?ちゃんと俺を欲しがってくれてるのか見てないとね」
「身体が痺れるほどに欲しておるのに…伝わらぬのか?」
尋ねられて、うん?、と苦笑しながらまた突き立て始めるとまだ息の整っていなかった悧羅から喘ぎが漏れだした。腕は抑えつけられているのに脚は自然に開いて紳をより奥まで受け入れようとしてくれる。悧羅が受け入れるのは自分だけだ、という優越感に浸れる一時だ。また反り返り始める悧羅に口付けながら、伝わってるよ、と紳も荒れ始めた息の中から応えた。
「伝わってるからこそもっと求めて?俺だけの悧羅を沢山見せて?」
弾かれたように勢い良く跳ねた身体と浮いた腰を脚で支えてより深く入り込んで突き立て続ける。最奥を掻き乱されて甘い声と二人の荒れた息しか聞こえない部屋では思いのままに悧羅を自分のものにする事ができる。それがどんなに倖であるかなど、組み敷く度に感じていることだ。
それでも、まだ足りない。
出来れば悠久の刻が終わりを迎えるまで悧羅とこうして過ごせていたら良いのに、と欲張りな願いを心に秘めながらその夜も悧羅が意識を手放すまで二人の手が離される事はなかった。
無事に舜啓と媟雅の契りは終わったようです。
さあ、これからまたお話がどうなりますやら。
お楽しみいただけましたか?
ありがとうございました。