縁【拾肆】《エニシ【ジュウシ】》
遅くなりました。
更新します。
ギリギリラインが少しありますので苦手な方はご注意下さい。
産まれた子は小さいながらもとても元気に泣く子だった。皆久方ぶりの赤子が珍しくもあったのだが何より歳の離れた妹が愛らし過ぎてかわるがわるに抱いているものだから紳や悧羅の出番が少ない。務めに出ている間は紳がみれるかと思いきや磐里と加嬬、妲己と哀玥まで側を離れようとはしなかった。
「まあ、仕方ないよね」
自分も手を出したいのだが出せないことに小さく嘆息しながらも紳が悧羅へ精気を送る刻だけは十分に持つことが出来たのは良い事だった。子が産まれた後、荊軻には報せたが悧羅が起き上がれるようになるまでは、と枉駕と栄州には内密にし、ようやく二人に伝えることが出来たのは子が産まれて七日目が過ぎた今日だ。いつものように悧羅の顔だけでも見たいという二人を連れて荊軻が訪れたのだが、床の横に寝せられている小さな赤子を見て二人は唖然とし言葉を失っていた。
「ちょっと色々危うい事があったから無事に産まれてくれるまでは言えなかったんだ」
ごめんね?、と詫びる紳とその腕の中で精気を送り込まれ続けている悧羅を見てようやく二人も合点がいったらしい。突如として悧羅の体調が崩れた事と、一晩で生命が消えるのではないかと思うほどに憔悴した姿を思い出して本当に悧羅も子も危うかったのだ、と背筋が凍りついた。あのままいつも通りに朝議や務めを行っていれば、今頃二人を見ることは出来なかったはずだ。大きく嘆息して何よりも悧羅が無事であった事に安堵すると二人とも膝から崩れ落ちるようにその場に座り込んでいた。
「…御無事で何よりでございました…」
ようやく絞りだした栄州に、悧羅がすまなんだ、と詫びると幾度も頭を振っていた。
「どうにか産み落とす事が出来た故。其方達に申せぬのは心苦しく思うておった。許してたもれ」
「なんの。このような喜ばしい事でございますれば我らも安堵致しましょうぞ。長が何やら大きな病に罹ってしまわれたのではないかと心穏やかではございませんでしたからの」
うん、と笑って悧羅が手招きすると子の顔を見に近くまで歩いてくる。覗き込むように見るとすやすやと眠る小さな赤子が目に飛び込んできてつい目元が緩んでしまった。
「姚妃って名付けた。また子を授かるなんて思ってもいなかったから俺たちも吃驚したけど。可愛がってやってくれると有難い」
紳が二人に向かって伝えると、良い名じゃ、と栄州が姚妃の小さな頬を撫でていた。重鎮二人にも無事に報せる事が出来た事でその日の内に民達にも慶事が下されたが、姚妃の事は元より共に下した媟雅と舜啓の契りが執り行われる事にも里が大きく揺れた、と務めから戻ってきた啝珈が笑いながら教えてくれた。姚妃が産まれてからというもの務めを早く終わらせて一刻も早く宮に皆帰りたい様で、務めに身が入って仕方ないんだよ、と一様に言う子ども達の姿が悧羅は可笑しくて堪らなかった。
務めから戻るとすぐに湯殿に入りそのまま紳と悧羅の自室に皆が揃う。一番に部屋に着いた者から姚妃を抱けるので競い合うようにやってくるのだ。昼間ゆっくりと寝ているせいか姚妃も上の子達が戻ってくる頃には目を開けている事が多かった。乳だけは悧羅に任せるしかなかったけれど、他の事ならと紳や磐里に習いながら慣れない手つきで世話をするのを見ていると、自然と笑いが出てくるのだから仕方ないのだ。子ども達のお陰でゆっくりと休む事が出来ているのも確かなのだが少しばかり心配にもなってしまう。
「こんなにも甘やかされておっては我儘な子になってしまうやもしれぬな」
苦笑する悧羅の手を握って精気を送り込みながら紳も苦笑している。
「みんな甘いからなあ。叱ったりとか出来なさそうだよね。俺達が叱りでもしたら逆に責められそう」
「手が多い事は有難いがの。お陰で紳とゆるりと出来る故」
小さく笑い続ける悧羅もまだ疲れが残っているのか、少し刻があると微睡む事が多い。身体の力も戻り切らない内に子を産み落とすなど大きな務めを果たしたのだから無理もない。ゆっくりとで良いので身体を一番に、と厭うように妓姣にも言われている。出来るだけ布団に横になれるようにしているが、それでも荊軻に調べさせている報せだけには目を通すのをやめてはくれないのが紳には心配の種だった。報せの中身が喜ばしいものならば特段問題は無いのだが、そうで無い事くらいはこれまで上げられて来た報せでも分かっている。身体を厭えと言われても心労があっては本当の意味でゆっくりと休めるわけがない。せめて妓姣の善が出るまではその務めからも離したいのだが、これだけは悧羅が退いてはくれないのだ。
こうと決めたら最後まで務め上げるのが悧羅なのだから。
やれやれ、と思いながらも疲れが少しでも軽くなるように精気を送り込み続けるしか紳にはできないのだがそれはそれで功を奏しているようだった。これまで子を産み落とした後は忋抖と啝珈の時を除いて二月ほど床上げに要していたのだが今回は一月を少し過ぎた辺りで妓姣からの善が出た。絶え間なく送り込み続けた精気は悧羅の身体を十分に癒し身体の力も戻す事が出来たのは僥倖だ。
「久方振りに身体が軽い」
湯を浴びた悧羅の顔色が姚妃を身籠る前のそれに戻って紳もようやく安堵する事が出来た。思えばこの一年近くずっと気を張り詰めていたようにも思えたが、目の前で姚妃を抱く悧羅が無事にいてくれていることだけで全ての疲れも何処かへ飛んで行った。床上げが出来たからといってすぐに紳も務めに戻ることはせず、悧羅を組み敷きたいのもぐっと堪えた。身体の力が戻ったとはいえまだまだ夜は姚妃に乳をやるために悧羅の眠りは細かく途切れていたし、ここで無理をさせてまた同じような辛さを味合わせたくはない。悧羅の身体を慮ればこそかき抱きたい思いを堪える事も出来た。
姚妃が四月を迎えると昼の間だけは近衛隊に顔を出し荊軻と枉駕に預けていた隊の務めを引き継いで、合間を縫っては悧羅の様子を見に行く。
「変わりはないというに」
見に行くたびに悧羅は笑っていたがどちらかといえば長く共に居過ぎたからか紳の方が離れ難いのだ。そうして六月が過ぎた頃、姚妃も乳の他にも重湯や果実の汁などを摂りだすとおもむろに妲己と哀玥が今宵から預かる、と言い出した。とはいえ、夜のおしめの世話もあるしと言う紳に今度は子ども達が一晩ずつ順に妲己と哀玥と共に寝ると言う。確かに姚妃も妲己と哀玥が側で包むと朝まで目を覚ます事なく眠ってくれることが多いがそれでは子ども達の負担になるだろう。
「気持ちは嬉しいけどな。お前たちの務めに障るといけないし…」
返事を渋る紳に、大丈夫だよ、と言ったのは啝珈だった。
「次の日が休みの日で割り振るし。夜中に泣いても重湯で良くなってるし。…どうしてもの時は母様に頼るけど近頃は夜の乳も少なくなってるんでしょ?」
四つん這いで動き回る姚妃を捕まえて抱き上げながら啝珈に見られて、まあそうだの、と悧羅が苦笑している。だが一晩に一、二度はやらなければまだならない。ちらりと紳を悧羅が見るとやはりまだ渋っているようだ。
「では乳離れが済んだら頼むとしようか?姚妃もまだそこまで乳以外の物を多く摂れるほどではないに」
のう?、と悧羅が紳を見ると、それがいいと紳も頷いた。子ども達は紳と悧羅の事を思って言ってくれているのだろうが、もう少し側に置いておいた方が紳も安心だ。もう!、と頬を膨らませる啝珈とは別に、ただ姚妃と共に眠りたかっただけの男子達が肩を落としている。妲己や哀玥は紳と悧羅の側に今も侍っているので姚妃を囲んで眠ることが出来ているから肩を落とすまでは無かったが、紳と悧羅の二人の刻を取らせてやりたかったのだ。
「そんなに遠い話じゃないよ。お前たちだって一つになる前には離れてたからね。…それに久しぶりの赤子だし?俺も悧羅ももう少し楽しみたいんだって」
「俺たちだって姚妃と寝たいのに…」
啝珈から逃げ出した姚妃を今度は皓滓が抱き上げて、ねえ?、と話しかけている。
「姚妃だって兄様達と一緒がいいよねえ?」
高く挙げられた姚妃がけらけらと笑っているのを見て紳も悧羅も笑ってしまう。歳の離れた妹の事が可愛くて仕方ないのは子ども達を見ていて面白い程に伝わってくる。産み場に共にいれた事も大きいようで、悧羅を大事にしてくれる思いも前より強くなっていた。身体はもうどうもないというのに悧羅が務めを行っていると無理をするな、と休みを取らせるほどだ。紳が務めから戻るまでは必ず皆が揃って姚妃の相手をし当の姚妃が眠りについても寝顔を見ながら顔を綻ばせているのだから本当に愛らしくて仕方ないのだろうということが見ていて微笑ましかった。
「ほんに可愛いらしゅうて堪らぬのだろうの」
小さく笑いながら子ども達の姿を見やる悧羅の手を取って紳が口付ける。
「あいつらの子だっていっても良いくらいの歳の差だからね。姚妃が大きくなって恋仲の男なんか連れて来た日にはどうなることやら…」
「兄達が容易く許しはせんであろうな」
ほんの数十年前までは姚妃と同じような姿だった子ども達が思い出されて紳と悧羅は共に笑い合ってしまう。子の成長は本当に速い。余りに倖に満ち足りた歳月だったからかもしれないが、こうして年を重ねられるのも互いが居てくれるからこそであることを強く感じている。そういえば、と紳が思い出したように媟雅と呼んだ。
「お前たちの契りの日取りは考えてるのか?」
珍しく舜啓が居ないのも気になってそう聞くと、精気を獲りに行っているのだと言う。
「まあ急ぐ事でもないしねえ。二人で話してるのは姚妃が一つになったらっては思ってるんだよね。私もまだ姚妃と離れたくないし」
ねえ、とまた部屋の中を這い廻る姚妃に話しかけながら言う媟雅に、あれ?、と紳は首を傾げる。今の媟雅の言い様だと契りを結んだ後、宮から出るつもりという事なのだろうか?
「媟雅、宮を出るの?」
首を傾げたままで尋ねられて今度は媟雅が首を傾げる。
「え?契ったら出るものじゃないの?舜啓の邸もあるしそっちに移るものだと思ってたけど?数が増えると磐里と加嬬も大変だろうと思うし」
違うの?、と見られて悧羅はくすくすと笑って見せた。
「宮の部屋はどれだけでもあるに。媟雅と舜啓の良いようにして構わぬよ。…紳は媟雅と離れたくないだけであろうからの」
「まあ、それもあるけど。てっきり宮に二人も入るもんだと思ってたからさ。お前たちが好きにしていいんだけどね」
苦笑しながら言われて媟雅も笑ってしまう。漠然と舜啓の邸で暮らすものだと思っていたけれどこれはまた一緒に考える必要がありそうだった。
「帰ってきたら話してみるよ。舜啓は喜びそうだけど。帰る場所に母様が居てくれるんだもん」
肩を竦めて見せる媟雅に、おやまあ、と悧羅は鈴を転がすように笑った。
「え?じゃあ俺たちが契りの相手を見つけても宮に住み続けていいの?」
忋抖が何気なく尋ねると、もちろんだと紳が笑っている。家族が増える事ほど喜ばしい事はないし、賑やかなのにも随分と悧羅も慣れてくれている。
「ただ相手次第じゃないか?悧羅の側で過ごすってことは長のすぐ近くにいなきゃいけないってことだからな。気疲れさせちゃったら何にもならないし。舜啓は元から悧羅の子どもみたいなもんだから何の遠慮もしなくていいしね。…まあ相手を見つけてから言えよ」
紳に笑われてそれもそうだ、と忋抖が笑っている。舜啓のように紳や悧羅に礼を取らない事を許されている者はあとは佟悧くらいのものだ。相変わらず情を交わしてはいるが契りたいかと聞かれれば二人とも否だ。ただ身体の相性が良いだけに過ぎない。契りの相手として求めてしまうのはやはり悧羅のような鬼女を探してしまうのだから忋抖の悧羅に対する憧れは姉弟妹の中では一番強いような気がする。
「忋の兄様の理想って母様だもんね」
揶揄うような灶側の言葉に、お前らは違うのかよ?と少しばかり忋抖が頬を膨らませて見せた。そりゃあね、と弟達に笑われてしまうがどうやら弟達も同じ思いらしい。
「でも母様みたいな鬼女って居ないんだよね。求めるものが高すぎるのかなあ?母様を近くで見過ぎた責だと思うんだよ、これ」
困ってるんだよね、と笑う玳絃に紳が声を上げて笑う。悧羅と契る前に近衛隊隊士達にも同じような事を言われたものだ。その時も言った覚えのある言葉を子ども達に言う日が来るとは思わなかった。
「だから悧羅を求めちゃ駄目なんだって。悧羅は唯一無二の女なんだから他に同じような鬼女がいるわけがない。二段階…いや三段階くらい落として探した方がいいと思うぞ?」
笑いながら言われて、やっぱりそうなのかなあ、と男子達が肩を落としている。それが可笑しくて声を上げて笑っている悧羅が、案ずるな、と子ども達に伝える。
「其方達が永い生を共にしたいと思うた者が其方達の一番じゃて、妾もそう良き女子では無いえ?」
這って膝に辿りついた姚妃を抱き上げながら言う悧羅に、いやいや、と男子達が手を振って否を示す。それに苦笑しながら悧羅も又首を振る。
「妾とて里の女子達とそう変わらぬ。せんなき事で悩みもすれば心が沈む事もある。…嫉妬もする故」
のう?、と見られて紳が悧羅の膝の上に乗る姚妃の頭を撫でた。
「母様が妬くの?」
信じられないとでもいうような顔をして見られて紳が、良いだろ、と胸を張った。
「紳は良い男だからの。妾と契りこそ結んでくれておるが想いを寄せる鬼女は多かろうて。であればこそ妾も紳の心が離れて行かぬように努めねばならぬ。…紳であるからこそ嫉妬もするのだがな」
へえ、と意外な言葉を聞かされて子ども達が呆気に取られたような顔をする。どう見ても紳の方が悧羅を想いを寄せていると思っていたがどうやら同じ想いを悧羅も抱いていたようだ。
「俺は悧羅しか見えてないんどけどねぇ。こういう所があるから余計に離せなくなるし溺れさせるって事を自覚してくれないんだよ」
「この所共にいた刻が長すぎたであろ?務めに戻れたは嬉しゅうに思うが、里の女子達が紳を見らば心踊らせておるには違いないであろうからな」
小さく笑う悧羅の腕から姚妃を受け取った紳が声を上げて笑っている。これだもんねぇ、と嬉しそうに笑う二人は本当に恋仲のようだと子ども達は呆れてしまう。
「ほんと、似合いのお二人さんだよ。子どもの俺たちがそう思うんだからこれで間に入り込もうなんて思う奴なんていないでしょ」
苦笑しながら言う玳絃に、違うよ、と啝珈言いながら笑っている。
「思えないんだよ。思ったって入り込めないんだから無駄なだけだもん」
「…まあそんなに容易く入り込めるような年月ではないなあ。そんな奴らがもし居たら500年早いって言ってやるけどね」
隣で微笑む悧羅の頬に口付けてなんでも無いことのように紳が言うと、それはそうであった、と悧羅が笑みを深くした。仲睦まじく刻が過ぎて姚妃が一つ前になり自分の足で数歩歩いたり出来る様になると乳離れも何の障りもなく済んでしまった。食すことが好きなようでまだ食べれない物にも手を出したがるのには手を焼くが、何でも良く食べてくれる。時には食べすぎでは無いだろうか、と紳と悧羅が心配するほどに小さな腹が破れそうなほどに膨らむこともしばしばだった。
乳離れが済むと待ってました!、と子ども達が競い合って姚妃と共に眠りたがる。
「…大変なんだぞ?」
そう紳が言ってみたが元は六月前から共に寝たいと言っていた子ども達はちゃんと面倒みるから、と言い出して聞かなかった。結局紳が折れて妲己と哀玥が一緒なら、と許しを出すと次の日が務めが休みという皓滓から姚妃と休むことになった。
「何かあればすぐに言うのだえ?」
悧羅も心配して言ったのだが妲己と哀玥まで一緒になって任されませ、と言われては是と言うしかない。久方振りに幼子の気配のしない自室で、本当に大事ないのであろうか、とそわそわしだす悧羅を紳が抱え上げて寝所に向かうとそれにも又そわそわとしだしている。
「どうしたの?姚妃だけじゃないみたいだね?」
小さく笑って横にした悧羅の額に紳が口付けると、それだけでびくりと身体を震わせている。
「…いや、その…。なんと言えば良いのか…。思えば二年近くこうしておらなんだと思うてしもうて…。何やら心の臓が潰れてしまいそうでの…」
ほんの少しだけ顔を背けて頬を紅らめているのが仄暗い灯の中でも見てとれてがっくりと項垂れた紳を悧羅が、どうした?、と名を呼んでくる。
「…ほんとに、どうしてこう…」
背中をぶるりと震えが走ってこれまで堪えてきた想いが堰を切って溢れだすのを止められなくなる。紳?、と呼ぶ悧羅の唇に深く口付けて弄びながら互いの寝間着を剥ぎ取ると肌が触れ合う感触に一気に身体が沸る。唇を離すと既に息の上がった悧羅が腕の中にいた。
「…少し手加減をしてたもれ。それに、その…、少しばかり恥ずかしゅうにもあるでの…」
両手で頬を包まれてそう言われても紳は大きく嘆息するしか出来ない。
「悧羅さあ…、ほんとに俺を煽るのが上手過ぎなんだってば。一応、姚妃が居るからって思ってたけど手加減なんて出来なくなっちゃうよ?」
「煽っておるつもりなどないのだが?」
きょとりとした顔で見られるが話している間に紳の手が動き始めるとびくりと身体が応じてしまうようだ。少し硬くなっていた身体の力が抜けるようにゆっくりと悧羅を慈しみ始めると息を止めるように声を堪える姿が見えた。
「駄目だって。無理しなくていいからちゃんと聞かせて?」
腕を噛んでまで声を堪える悧羅の腕を外して指の先から唇を這わせていくと次第に甘い声と喘ぎが聞こえてきて硬くなっていた身体からも力が抜けていくのが伝わってくる。ゆっくりと細い脚の間に顔を埋めると、より一層甘い声が大きくなった。紳の肩を押して、それはならぬ、と逃げようとする悧羅を、駄目、と引き戻して嬲り続けると細い身体が大きく反り返って昇りつめ果てたのが分かった。
「まだだよ?まだ見せて?」
顔を上げなくても悧羅が首を振ったのが分かったけれど久方振りの悧羅を堪能したい。ひたすらにそこを嬲り続けると二度三度と悧羅が果てていく。身体を捩りながら逃げる悧羅から名を呼ばれて、もう、と紳が苦笑しながら顔を上げる。
「…紳…、願うてもよいか…?」
くったりとした身体がしっとりと汗に濡れて艶かしさを煽る。潤んだ目と荒れた息の中で願われては否と言えるはずもないだろう。
「仕方ないなあ」
軽く口付けてから片足を抱えあげるとゆっくりと悧羅の中に入り込んでいく。息を呑みながら紳を受け入れた悧羅が奥に入り込んだだけで果てた。
「痛くない?」
刻を掛けて身体を開かせ十分に潤おっているとはいえ二年ぶりに紳を受け入れるのだ。少しばかり痛むのではないかと思って尋ねたのだが悧羅はゆっくりと首を振りながら、早う、と乞う。先刻まで恥ずかしいと言っていたのに肌が触れ合うと堪えきれなくなったのは紳だけでは無かったらしい。
「うん。俺も我慢の限界だよ。止まってやれないかもしれないけどごめんね?」
啄むように悧羅の唇を奪って一応詫びてから一気に突き上げ始めると悧羅の甘い声と喘ぎが響く。離れないように紳の背中に腕を廻してくると余計に声が近く聞こえて、それだけで紳の理性や自制など何処かへ飛んでいってしまった。これまでであれば自制しながら突き上げるのにさすがに二年抱かなかった分は紳にとっても大きかったようで悧羅の身体が反り返ると同時に一度最奥で欲を吐き出してしまった。だが一向に熱は冷めない。それどころかますます沸ってきて果てたばかりの悧羅を抱き起こして膝の上に座らせる。そのまま押し付けるようにして強く抱き留めて動き続けると最奥を掻き乱されて容易く悧羅が幾度も果てていく。
果てて昇りつめていく間にも紳を呼ぶ悧羅に応えて深く口付けてやると唇を離されないように悧羅の腕が紳の首に廻った。突き上げ続けられて唇も塞がれたままでは苦しいだろうと、時折は離そうとするのだが少し離すと嫌だ、と引き寄せられる。であれば、と動きを止めるとそれも嫌だと言う。
「そんなに急かなくても何処にも行かないってば。不安になることなんて何にもないんだよ?」
悧羅の目に浮かんだ不安を読み取って紳が微笑むとようやく悧羅も、ほっと安堵の息をついてくれた。情を交わせていなかった間で抱えなくても良い不安を心の何処かに置いていたのだろう。
「何度も言ってるけど俺は悧羅だけのものなんだから」
細い身体を強く抱きしめると胸の中から、うん、と声がした。
「…なれど時折恐しゅうなるのだ…」
「何が?」
荒れた息の中から訴える悧羅の髪に顔を埋めると、この倖に、と呟いている。
「このように倖ばかり貰うておっては妾が弱くなってしまうのではないかと…。紳無しではもう生きていけぬほどに…」
「それは俺だって一緒だよ。悧羅無しじゃあ生きていけない。倖過ぎて怖いのもね」
そうかえ?、と見上げてくる悧羅に口付けて笑うと弾けんばかりの笑顔が紳を見る。
「同じだから不安になることなんてないよ。何があっても離れないって誓ったでしょ?…だから今は久しぶりの悧羅を俺に沢山頂戴ね?」
くすくすと笑う紳にまた顔を紅らめて悧羅は視線を逸らした。
「…其方が望むのであれば…」
恥じらうような姿にまた沸らされて身体がぶるりと震える。
「ほんとにやばいなぁ。…離せないや…」
笑いながら前触れも無く突き上げると悧羅が息を呑んだ。危ういと思った紳の想いは的中してしまい、結局その夜悧羅が意識を手放すまで二人が身体を離すことはなかった。
明日から雨模様のようです。
お話はまだ続きますが、お付き合いくださいませ。
お楽しみいただけましたか?
ありがとうございました。