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縁【拾肆】《エニシ【ジュウシ】》

遅くなりました。

更新します。


ギリギリラインが少しありますので苦手な方はご注意下さい。

産まれた子は小さいながらもとても元気に泣く子だった。皆久方(ヒサカタ)ぶりの赤子(アカゴ)(メズラ)しくもあったのだが何より(トシ)の離れた妹が(アイ)らし過ぎてかわるがわるに()いているものだから(シン)悧羅(リラ)の出番が少ない。(ツト)めに出ている間は紳がみれるかと思いきや磐里(バンリ)加嬬(カジュ)妲己(ダッキ)哀玥(アイゲツ)まで(ソバ)を離れようとはしなかった。


「まあ、仕方(シカタ)ないよね」


自分も手を出したいのだが出せないことに小さく嘆息(タンソク)しながらも紳が悧羅へ精気(セイキ)を送る(ジカン)だけは十分(ジュウブン)に持つことが出来たのは良い事だった。子が産まれた後、荊軻(ケイカツ)には(シラ)せたが悧羅が起き上がれるようになるまでは、と枉駕(オウガイ)栄州(エイシュウ)には内密(ナイミツ)にし、ようやく二人に伝えることが出来たのは子が産まれて七日目(ナノカメ)が過ぎた今日だ。いつものように悧羅の顔だけでも見たいという二人を連れて荊軻(ケイカツ)(オトズ)れたのだが、(トコ)の横に寝せられている小さな赤子(アカゴ)を見て二人は唖然(アゼン)とし言葉を失っていた。


「ちょっと色々(アヤ)うい事があったから無事(ブジ)に産まれてくれるまでは言えなかったんだ」


ごめんね?、と()びる紳とその腕の中で精気(セイキ)を送り込まれ続けている悧羅を見てようやく二人も合点(ガテン)がいったらしい。突如(トツジョ)として悧羅の体調(タイチョウ)(クズ)れた事と、一晩(ヒトバン)生命(イノチ)が消えるのではないかと思うほどに憔悴(ショウスイ)した姿を思い出して本当に悧羅も子も(アヤ)うかったのだ、と背筋(セスジ)(コオ)りついた。あのままいつも通りに朝議(チョウギ)(ツト)めを行っていれば、今頃二人を見ることは出来なかったはずだ。大きく嘆息(タンソク)して何よりも悧羅が無事(ブジ)であった事に安堵(アンド)すると二人とも(ヒザ)から(クズ)れ落ちるようにその場に座り込んでいた。


「…御無事(ゴブジ)で何よりでございました…」


ようやく(シボ)りだした栄州(エイシュウ)に、悧羅がすまなんだ、と()びると幾度(イクド)も頭を振っていた。


「どうにか産み落とす事が出来た(ユエ)其方(ソナタ)達に(モウ)せぬのは心苦(ココログル)しく思うておった。(ユル)してたもれ」


「なんの。このような喜ばしい事でございますれば(ワレ)らも安堵(アンド)(イタ)しましょうぞ。(オサ)が何やら大きな(ヤマイ)(カカ)ってしまわれたのではないかと心(オダ)やかではございませんでしたからの」


うん、と笑って悧羅が手招(テマネ)きすると子の顔を見に近くまで歩いてくる。(ノゾ)き込むように見るとすやすやと(ネム)る小さな赤子(アカゴ)が目に飛び込んできてつい目元(メモト)(ユル)んでしまった。


姚妃(ヨウヒ)って名付(ナヅ)けた。また子を(サズ)かるなんて思ってもいなかったから俺たちも吃驚(ビックリ)したけど。可愛(カワイ)がってやってくれると有難(アリガタ)い」


紳が二人に向かって伝えると、良い名じゃ、と栄州(エイシュウ)姚妃(ヨウヒ)の小さな(ホオ)を撫でていた。重鎮(ジュウチン)二人にも無事に(シラ)せる事が出来た事でその日の内に民達(タミタチ)にも慶事(ケイジ)(クダ)されたが、姚妃(ヨウヒ)の事は(モト)より共に(クダ)した媟雅(セツガ)舜啓(シュンケイ)(チギ)りが()り行われる事にも里が大きく()れた、と(ツト)めから戻ってきた啝珈(ワカ)が笑いながら教えてくれた。姚妃(ヨウヒ)が産まれてからというもの(ツト)めを早く終わらせて一刻(イッコク)も早く宮に(ミナ)帰りたい様で、(ツト)めに身が入って仕方(シカタ)ないんだよ、と一様(イチヨウ)に言う子ども達の姿が悧羅は可笑(オカ)しくて(タマ)らなかった。


(ツト)めから(モド)るとすぐに湯殿(ユドノ)に入りそのまま紳と悧羅の自室に皆が(ソロ)う。一番に部屋に着いた者から姚妃(ヨウヒ)を抱けるので(キソ)い合うようにやってくるのだ。昼間ゆっくりと寝ているせいか姚妃(ヨウヒ)も上の子達が(モド)ってくる頃には目を開けている事が多かった。(チチ)だけは悧羅に(マカ)せるしかなかったけれど、他の事ならと紳や磐里(バンリ)(ナラ)いながら慣れない手つきで世話(セワ)をするのを見ていると、自然と笑いが出てくるのだから仕方(シカタ)ないのだ。子ども達のお陰でゆっくりと休む事が出来ているのも確かなのだが少しばかり心配にもなってしまう。


「こんなにも甘やかされておっては我儘(ワガママ)な子になってしまうやもしれぬな」


苦笑する悧羅の手を(ニギ)って精気(セイキ)を送り込みながら紳も苦笑している。


「みんな甘いからなあ。(シカ)ったりとか出来なさそうだよね。俺達が(シカ)りでもしたら逆に()められそう」


「手が多い事は有難(アリガタ)いがの。お陰で紳とゆるりと出来る(ユエ)


小さく笑い続ける悧羅もまだ(ツカ)れが残っているのか、少し(ジカン)があると微睡(マドロ)む事が多い。身体(カラダ)の力も戻り切らない内に子を産み落とすなど大きな(ツト)めを()たしたのだから無理(ムリ)もない。ゆっくりとで良いので身体(カラダ)を一番に、と(イト)うように妓姣(ギコウ)にも言われている。出来るだけ布団(フトン)に横になれるようにしているが、それでも荊軻(ケイカツ)に調べさせている(シラ)せだけには目を通すのをやめてはくれないのが紳には心配の(タネ)だった。(シラ)せの中身が喜ばしいものならば特段(トクダン)問題は無いのだが、そうで無い事くらいはこれまで上げられて来た(シラ)せでも分かっている。身体を(イト)えと言われても心労(シンロウ)があっては本当の意味でゆっくりと休めるわけがない。せめて妓姣(ギコウ)(ヨシ)が出るまではその(ツト)めからも(ハナ)したいのだが、これだけは悧羅が退()いてはくれないのだ。


こうと決めたら最後まで(ツト)め上げるのが悧羅なのだから。


やれやれ、と思いながらも(ツカ)れが少しでも軽くなるように精気(セイキ)を送り込み続けるしか紳にはできないのだがそれはそれで(コウ)(ソウ)しているようだった。これまで子を産み落とした後は忋抖(カイト)啝珈(ワカ)の時を(ノゾ)いて二月(フタツキ)ほど床上(トコア)げに(ヨウ)していたのだが今回は一月を少し過ぎた(アタ)りで妓姣(ギコウ)からの(ヨシ)が出た。()()なく送り込み続けた精気(セイキ)は悧羅の身体を十分に(イヤ)し身体の力も戻す事が出来たのは僥倖(ギョウコウ)だ。


久方(ヒサカタ)振りに身体が軽い」


湯を()びた悧羅の顔色が姚妃(ヨウヒ)身籠(ミゴモ)る前のそれに戻って紳もようやく安堵(アンド)する事が出来た。思えばこの一年近くずっと気を張り詰めていたようにも思えたが、目の前で姚妃(ヨウヒ)を抱く悧羅が無事にいてくれていることだけで(スベ)ての(ツカ)れも何処(ドコ)かへ飛んで行った。床上(トコア)げが出来たからといってすぐに紳も(ツト)めに(モド)ることはせず、悧羅を組み敷きたいのもぐっと(コラ)えた。身体の力が戻ったとはいえまだまだ夜は姚妃(ヨウヒ)(チチ)をやるために悧羅の眠りは(コマ)かく途切(トギ)れていたし、ここで無理をさせてまた同じような(ツラ)さを味合わせたくはない。悧羅の身体を(オモンバカ)ればこそかき(イダ)きたい思いを(コラ)える事も出来た。


姚妃(ヨウヒ)四月(ヨツキ)(ムカ)えると昼の間だけは近衛隊(コノエタイ)に顔を出し荊軻(ケイカツ)枉駕(オウガイ)(アズ)けていた(タイ)(ツト)めを引き継いで、合間(アイマ)()っては悧羅の様子(ヨウス)を見に行く。


「変わりはないというに」


見に行くたびに悧羅は笑っていたがどちらかといえば長く共に居過ぎたからか紳の方が離れ(ガタ)いのだ。そうして六月(ムツキ)が過ぎた頃、姚妃(ヨウヒ)(チチ)(ホカ)にも重湯(オモユ)果実(カジツ)(シル)などを()りだすとおもむろに妲己(ダッキ)哀玥(アイゲツ)今宵(コヨイ)から(アズ)かる、と言い出した。とはいえ、夜のおしめの世話(セワ)もあるしと言う紳に今度は子ども達が一晩(ヒトバン)ずつ(ジュン)妲己(ダッキ)哀玥(アイゲツ)と共に寝ると言う。確かに姚妃(ヨウヒ)妲己(ダッキ)哀玥(アイゲツ)(ソバ)(ツツ)むと朝まで目を()ます事なく眠ってくれることが多いがそれでは子ども達の負担(フタン)になるだろう。


「気持ちは(ウレ)しいけどな。お前たちの(ツト)めに(サワ)るといけないし…」


返事を(シブ)る紳に、大丈夫だよ、と言ったのは啝珈(ワカ)だった。


「次の日が休みの日で割り振るし。夜中に泣いても重湯(オモユ)で良くなってるし。…どうしてもの時は母様(カアサマ)(タヨ)るけど近頃(チカゴロ)は夜の(チチ)も少なくなってるんでしょ?」


()つん()いで動き回る姚妃(ヨウヒ)(ツカ)まえて抱き上げながら啝珈(ワカ)に見られて、まあそうだの、と悧羅が苦笑している。だが一晩(ヒトバン)に一、二度はやらなければまだならない。ちらりと紳を悧羅が見るとやはりまだ(シブ)っているようだ。


「では乳離(チチバナ)れが済んだら頼むとしようか?姚妃(ヨウヒ)もまだそこまで乳以外の物を多く()れるほどではないに」


のう?、と悧羅が紳を見ると、それがいいと紳も(ウナズ)いた。子ども達は紳と悧羅の事を思って言ってくれているのだろうが、もう少し(ソバ)に置いておいた方が紳も安心だ。もう!、と(ホオ)(フク)らませる啝珈(ワカ)とは別に、ただ姚妃(ヨウヒ)と共に眠りたかっただけの男子(ダンジ)達が肩を落としている。妲己(ダッキ)哀玥(アイゲツ)は紳と悧羅の(ソバ)に今も(ハベ)っているので姚妃(ヨウヒ)(カコ)んで眠ることが出来ているから肩を落とすまでは無かったが、紳と悧羅の二人の(ジカン)を取らせてやりたかったのだ。


「そんなに遠い話じゃないよ。お前たちだって(ヒト)つになる前には離れてたからね。…それに久しぶりの赤子(アカゴ)だし?俺も悧羅ももう少し楽しみたいんだって」


「俺たちだって姚妃(ヨウヒ)と寝たいのに…」


啝珈(ワカ)から逃げ出した姚妃(ヨウヒ)を今度は皓滓(コウサイ)が抱き上げて、ねえ?、と話しかけている。


姚妃(ヨウヒ)だって兄様(アニサマ)達と一緒がいいよねえ?」


高く挙げられた姚妃(ヨウヒ)がけらけらと笑っているのを見て紳も悧羅も笑ってしまう。(トシ)の離れた妹の事が可愛(カワイ)くて仕方(シカタ)ないのは子ども達を見ていて面白(オモシロ)い程に伝わってくる。産み場に共にいれた事も大きいようで、悧羅を大事にしてくれる思いも前より強くなっていた。身体(カラダ)はもうどうもないというのに悧羅が(ツト)めを行っていると無理(ムリ)をするな、と休みを取らせるほどだ。紳が(ツト)めから戻るまでは必ず皆が(ソロ)って姚妃(ヨウヒ)の相手をし(トウ)姚妃(ヨウヒ)が眠りについても寝顔(ネガオ)を見ながら顔を(ホコロ)ばせているのだから本当に愛らしくて仕方(シカタ)ないのだろうということが見ていて微笑(ホホエ)ましかった。


「ほんに可愛(カワ)いらしゅうて(タマ)らぬのだろうの」


小さく笑いながら子ども達の姿を見やる悧羅の手を取って紳が口付ける。


「あいつらの子だっていっても良いくらいの(トシ)の差だからね。姚妃(ヨウヒ)が大きくなって恋仲(コイナカ)の男なんか連れて来た日にはどうなることやら…」


「兄達が容易(タヤス)(ユル)しはせんであろうな」


ほんの数十年前までは姚妃(ヨウヒ)と同じような姿だった子ども達が思い出されて紳と悧羅は共に笑い合ってしまう。子の成長は本当に速い。(アマ)りに(サイワイ)に満ち()りた歳月(トシツキ)だったからかもしれないが、こうして年を(カサ)ねられるのも(タガ)いが居てくれるからこそであることを強く感じている。そういえば、と紳が思い出したように媟雅(セツガ)と呼んだ。


「お前たちの(チギ)りの日取(ヒド)りは考えてるのか?」


(メズラ)しく舜啓(シュンケイ)が居ないのも気になってそう聞くと、精気(セイキ)()りに行っているのだと言う。


「まあ(イソ)ぐ事でもないしねえ。二人で話してるのは姚妃(ヨウヒ)(ヒト)つになったらっては思ってるんだよね。私もまだ姚妃(ヨウヒ)と離れたくないし」


ねえ、とまた部屋の中を()い廻る姚妃(ヨウヒ)に話しかけながら言う媟雅(セツガ)に、あれ?、と紳は首を(カシ)げる。今の媟雅(セツガ)の言い(ヨウ)だと(チギ)りを(ムス)んだ後、宮から出るつもりという事なのだろうか?


媟雅(セツガ)、宮を出るの?」


首を(カシ)げたままで(タズ)ねられて今度は媟雅(セツガ)が首を(カシ)げる。


「え?(チギ)ったら出るものじゃないの?舜啓(シュンケイ)(ヤシキ)もあるしそっちに(ウツ)るものだと思ってたけど?数が増えると磐里(バンリ)加嬬(カジュ)も大変だろうと思うし」


(チガ)うの?、と見られて悧羅はくすくすと笑って見せた。


「宮の部屋はどれだけでもあるに。媟雅(セツガ)舜啓(シュンケイ)の良いようにして(カマ)わぬよ。…紳は媟雅(セツガ)と離れたくないだけであろうからの」


「まあ、それもあるけど。てっきり宮に二人も入るもんだと思ってたからさ。お前たちが好きにしていいんだけどね」


苦笑しながら言われて媟雅(セツガ)も笑ってしまう。漠然(バクゼン)舜啓(シュンケイ)(ヤシキ)で暮らすものだと思っていたけれどこれはまた一緒に考える必要がありそうだった。


「帰ってきたら話してみるよ。舜啓(シュンケイ)は喜びそうだけど。帰る場所に母様(カアサマ)が居てくれるんだもん」


肩を(スク)めて見せる媟雅(セツガ)に、おやまあ、と悧羅は鈴を転がすように笑った。


「え?じゃあ俺たちが(チギ)りの相手を見つけても宮に住み続けていいの?」


忋抖(カイト)何気(ナニゲ)なく(タズ)ねると、もちろんだと紳が笑っている。家族が増える事ほど喜ばしい事はないし、(ニギ)やかなのにも随分(ズイブン)と悧羅も慣れてくれている。


「ただ相手次第(シダイ)じゃないか?悧羅の(ソバ)で過ごすってことは(オサ)のすぐ近くにいなきゃいけないってことだからな。気疲(キヅカ)れさせちゃったら何にもならないし。舜啓(シュンケイ)は元から悧羅の子どもみたいなもんだから何の遠慮(エンリョ)もしなくていいしね。…まあ相手を見つけてから言えよ」


紳に笑われてそれもそうだ、と忋抖(カイト)が笑っている。舜啓(シュンケイ)のように紳や悧羅に礼を取らない事を許されている者はあとは佟悧(トウリ)くらいのものだ。相変わらず(ジョウ)()わしてはいるが(チギ)りたいかと聞かれれば二人とも(イナ)だ。ただ身体(カラダ)相性(アイショウ)が良いだけに過ぎない。(チギ)りの相手として求めてしまうのはやはり悧羅のような鬼女(キジョ)(サガ)してしまうのだから忋抖(カイト)の悧羅に対する(アコガ)れは姉弟妹(シテイマイ)の中では一番強いような気がする。


(カイ)兄様(アニサマ)理想(リソウ)って母様(カアサマ)だもんね」


揶揄(カラカ)うような灶側(ソウゲン)の言葉に、お前らは違うのかよ?と少しばかり忋抖(カイト)(ホオ)(フク)らませて見せた。そりゃあね、と弟達に笑われてしまうがどうやら弟達も同じ思いらしい。


「でも母様(カアサマ)みたいな鬼女(キジョ)って居ないんだよね。求めるものが高すぎるのかなあ?母様(カアサマ)を近くで見過ぎた(セイ)だと思うんだよ、これ」


困ってるんだよね、と笑う玳絃(タイゲン)に紳が声を上げて笑う。悧羅と(チギ)る前に近衛隊隊士達(コノエタイタイシタチ)にも同じような事を言われたものだ。その時も言った(オボ)えのある言葉を子ども達に言う日が来るとは思わなかった。


「だから悧羅(リラ)(モト)めちゃ駄目(ダメ)なんだって。悧羅は唯一無二(ユイイツムニ)の女なんだから他に同じような鬼女(キジョ)がいるわけがない。二段階…いや三段階くらい落として(サガ)した方がいいと思うぞ?」


笑いながら言われて、やっぱりそうなのかなあ、と男子(ダンジ)達が肩を落としている。それが可笑(オカ)しくて声を上げて笑っている悧羅が、(アン)ずるな、と子ども達に伝える。


其方(ソナタ)達が永い(セイ)を共にしたいと思うた者が其方(ソナタ)達の一番じゃて、(ワラワ)もそう良き女子(オナゴ)では無いえ?」


()って(ヒザ)辿(タド)りついた姚妃(ヨウヒ)を抱き上げながら言う悧羅に、いやいや、と男子(ダンジ)達が手を振って(イナ)(シメ)す。それに苦笑しながら悧羅も又首を振る。


(ワラワ)とて里の女子(オナゴ)達とそう変わらぬ。せんなき事で(ナヤ)みもすれば心が(シズ)む事もある。…嫉妬(シット)もする(ユエ)


のう?、と見られて紳が悧羅の膝の上に乗る姚妃(ヨウヒ)の頭を()でた。


母様(カアサマ)()くの?」


信じられないとでもいうような顔をして見られて紳が、良いだろ、と胸を張った。


「紳は良い男だからの。(ワラワ)(チギ)りこそ結んでくれておるが想いを寄せる鬼女(キジョ)は多かろうて。であればこそ(ワラワ)も紳の心が離れて行かぬように(ツト)めねばならぬ。…紳であるからこそ嫉妬(シット)もするのだがな」


へえ、と意外な言葉を聞かされて子ども達が呆気(アッケ)に取られたような顔をする。どう見ても紳の方が悧羅を想いを寄せていると思っていたがどうやら同じ想いを悧羅も(イダ)いていたようだ。


「俺は悧羅しか見えてないんどけどねぇ。こういう所があるから余計(ヨケイ)に離せなくなるし(オボ)れさせるって事を自覚してくれないんだよ」


「この所共にいた(ジカン)が長すぎたであろ?(ツト)めに(モド)れたは(ウレ)しゅうに思うが、里の女子達(オナゴタチ)が紳を見らば心(オド)らせておるには違いないであろうからな」


小さく笑う悧羅の腕から姚妃(ヨウヒ)を受け取った紳が声を上げて笑っている。これだもんねぇ、と嬉しそうに笑う二人は本当に恋仲(コイナカ)のようだと子ども達は(アキ)れてしまう。


「ほんと、似合(ニア)いのお二人さんだよ。子どもの俺たちがそう思うんだからこれで間に入り込もうなんて思う奴なんていないでしょ」


苦笑しながら言う玳絃(タイゲン)に、違うよ、と啝珈(ワカ)言いながら笑っている。


「思えないんだよ。思ったって入り込めないんだから無駄(ムダ)なだけだもん」


「…まあそんなに容易(タヤス)く入り込めるような年月ではないなあ。そんな奴らがもし居たら500年早いって言ってやるけどね」


(トナリ)で微笑む悧羅の(ホオ)に口付けてなんでも無いことのように紳が言うと、それはそうであった、と悧羅が笑みを深くした。仲睦(ナカムツ)まじく(トキ)が過ぎて姚妃(ヨウヒ)(ヒト)つ前になり自分の足で数歩(スウホ)歩いたり出来る様になると乳離(チチバナ)れも何の(サワ)りもなく済んでしまった。(ショク)すことが好きなようでまだ食べれない物にも手を出したがるのには手を焼くが、何でも良く食べてくれる。時には食べすぎでは無いだろうか、と紳と悧羅が心配するほどに小さな(ハラ)(ヤブ)れそうなほどに(フク)らむこともしばしばだった。


乳離(チチバナ)れが済むと待ってました!、と子ども達が(キソ)い合って姚妃(ヨウヒ)と共に眠りたがる。


「…大変なんだぞ?」


そう紳が言ってみたが元は六月(ムツキ)前から共に寝たいと言っていた子ども達はちゃんと面倒(メンドウ)みるから、と言い出して聞かなかった。結局紳が折れて妲己(ダッキ)哀玥(アイゲツ)が一緒なら、と(ユル)しを出すと次の日が(ツト)めが休みという皓滓(コウサイ)から姚妃(ヨウヒ)と休むことになった。


「何かあればすぐに言うのだえ?」


悧羅も心配して言ったのだが妲己(ダッキ)哀玥(アイゲツ)まで一緒になって(マカ)されませ、と言われては()と言うしかない。久方(ヒサカタ)振りに幼子(オサナゴ)気配(ケハイ)のしない自室で、本当に大事(ダイジ)ないのであろうか、とそわそわしだす悧羅を紳が(カカ)え上げて寝所(シンジョ)に向かうとそれにも又そわそわとしだしている。


「どうしたの?姚妃(ヨウヒ)だけじゃないみたいだね?」


小さく笑って横にした悧羅の(ヒタイ)に紳が口付けると、それだけでびくりと身体を(フル)わせている。


「…いや、その…。なんと言えば良いのか…。思えば二年近く()()()()おらなんだと思うてしもうて…。何やら(シン)(ゾウ)(ツブ)れてしまいそうでの…」


ほんの少しだけ顔を(ソム)けて(ホオ)(アカ)らめているのが仄暗(ホノグラ)(アカリ)の中でも見てとれてがっくりと項垂(ウナダ)れた紳を悧羅が、どうした?、と名を呼んでくる。


「…ほんとに、どうしてこう…」


背中をぶるりと(フル)えが走ってこれまで(コラ)えてきた想いが(セキ)を切って(アフ)れだすのを止められなくなる。紳?、と呼ぶ悧羅の(クチビル)に深く口付けて(モテアソ)びながら(タガ)いの寝間着(ネマギ)()ぎ取ると(ハダ)()れ合う感触(カンショク)に一気に身体が(タギ)る。(クチビル)(ハナ)すと(スデ)に息の上がった悧羅が腕の中にいた。


「…少し手加減(テカゲン)をしてたもれ。それに、その…、少しばかり()ずかしゅうにもあるでの…」


両手で(ホオ)(ツツ)まれてそう言われても紳は大きく嘆息(タンソク)するしか出来ない。


「悧羅さあ…、ほんとに俺を(アオ)るのが上手(ウマ)過ぎなんだってば。一応(イチオウ)姚妃(ヨウヒ)が居るからって思ってたけど手加減(テカゲン)なんて出来なくなっちゃうよ?」


(アオ)っておるつもりなどないのだが?」


きょとりとした顔で見られるが話している間に紳の手が動き始めるとびくりと身体が(オウ)じてしまうようだ。少し硬くなっていた身体の力が抜けるようにゆっくりと悧羅を(イツク)しみ始めると息を止めるように声を(コラ)える姿が見えた。


駄目(ダメ)だって。無理(ムリ)しなくていいから()()()()()()()()?」


腕を()んでまで声を(コラ)える悧羅の腕を(ハズ)して指の先から(クチビル)()わせていくと次第(シダイ)に甘い声と(アエ)ぎが聞こえてきて硬くなっていた身体からも力が抜けていくのが伝わってくる。ゆっくりと細い脚の間に顔を(ウズ)めると、より一層(イッソウ)甘い声が大きくなった。紳の肩を押して、それはならぬ、と逃げようとする悧羅を、駄目(ダメ)、と引き戻して(ナブ)り続けると細い身体が大きく()り返って(ノボ)りつめ()てたのが分かった。


「まだだよ?()()()()()?」


顔を上げなくても悧羅が首を振ったのが分かったけれど久方(ヒサカタ)振りの悧羅を堪能(タンノウ)したい。ひたすらに()()(ナブ)り続けると二度三度と悧羅が()てていく。身体を(ヨジ)りながら逃げる悧羅から名を呼ばれて、もう、と紳が苦笑しながら顔を上げる。


「…紳…、(ネゴ)うてもよいか…?」


くったりとした身体がしっとりと汗に()れて(ナマメ)かしさを(アオ)る。(ウル)んだ目と荒れた息の中で願われては(イナ)と言えるはずもないだろう。


仕方(シカタ)ないなあ」


軽く口付けてから片足を(カカ)えあげるとゆっくりと悧羅の中に入り込んでいく。息を()みながら紳を受け入れた悧羅が奥に入り込んだだけで()てた。


「痛くない?」


(ジカン)を掛けて身体を開かせ十分(ジュウブン)(ウル)おっているとはいえ二年ぶりに紳を受け入れるのだ。少しばかり痛むのではないかと思って(タズ)ねたのだが悧羅はゆっくりと首を振りながら、(ハヨ)う、と()う。先刻(センコク)まで()ずかしいと言っていたのに(ハダ)が触れ合うと(コラ)えきれなくなったのは紳だけでは無かったらしい。


「うん。俺も我慢(ガマン)限界(ゲンカイ)だよ。止まってやれないかもしれないけどごめんね?」


(ツイバ)むように悧羅の(クチビル)(ウバ)って一応(イチオウ)()びてから一気(イッキ)()き上げ始めると悧羅の甘い声と(アエ)ぎが(ヒビ)く。離れないように紳の背中に腕を廻してくると余計(ヨケイ)に声が近く聞こえて、それだけで紳の理性(リセイ)自制(ジセイ)など何処(ドコ)かへ飛んでいってしまった。これまでであれば自制(ジセイ)しながら()き上げるのにさすがに二年(イダ)かなかった分は紳にとっても大きかったようで悧羅の身体が()り返ると同時に一度最奥(サイオク)(ヨク)を吐き出してしまった。だが一向(イッコウ)に熱は冷めない。それどころかますます(タギ)ってきて()てたばかりの悧羅を抱き起こして膝の上に(スワ)らせる。そのまま押し付けるようにして強く()()めて動き続けると最奥(サイオク)()(ミダ)されて容易(タヤス)く悧羅が幾度(イクド)()てていく。


()てて(ノボ)りつめていく間にも紳を呼ぶ悧羅に(コタ)えて深く口付けてやると(クチビル)を離されないように悧羅の腕が紳の首に廻った。突き上げ続けられて(クチビル)(フサ)がれたままでは苦しいだろうと、時折(トキオリ)は離そうとするのだが少し離すと(イヤ)だ、と引き寄せられる。であれば、と動きを止めるとそれも(イヤ)だと言う。


「そんなに()かなくても何処(ドコ)にも行かないってば。不安になることなんて何にもないんだよ?」


悧羅の目に浮かんだ不安を読み取って紳が微笑むとようやく悧羅も、ほっと安堵(アンド)の息をついてくれた。(ジョウ)()わせていなかった間で(カカ)えなくても良い不安を心の何処(ドコ)かに置いていたのだろう。


「何度も言ってるけど俺は悧羅だけのものなんだから」


細い身体を強く抱きしめると胸の中から、うん、と声がした。


「…なれど時折(トキオリ)(オソロ)しゅうなるのだ…」


「何が?」


荒れた息の中から(ウッタ)える悧羅の髪に顔を(ウズ)めると、この(サイワイ)に、と(ツブヤ)いている。


「このように(サイワイ)ばかり(モロ)うておっては(ワラワ)(ヨワ)くなってしまうのではないかと…。紳無しではもう生きていけぬほどに…」


「それは俺だって一緒だよ。悧羅無しじゃあ生きていけない。(サイワイ)過ぎて(コワ)いのもね」


そうかえ?、と見上げてくる悧羅に口付けて笑うと(ハジ)けんばかりの笑顔が紳を見る。


「同じだから不安になることなんてないよ。何があっても離れないって(チカ)ったでしょ?…だから今は久しぶりの悧羅を俺に沢山(タクサン)頂戴(チョウダイ)ね?」


くすくすと笑う紳にまた顔を(アカ)らめて悧羅は視線を()らした。


「…其方(ソナタ)が望むのであれば…」


()じらうような姿にまた(タギ)らされて身体がぶるりと(フル)える。


「ほんとにやばいなぁ。…離せないや…」


笑いながら前触(マエブ)れも無く突き上げると悧羅が息を()んだ。(アヤ)ういと思った紳の想いは的中(テキチュウ)してしまい、結局その夜悧羅が意識を手放(テバナ)すまで二人が身体を離すことはなかった。

明日から雨模様のようです。

お話はまだ続きますが、お付き合いくださいませ。


お楽しみいただけましたか?

ありがとうございました。

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