縁【参】《エニシ【サン】》
遅くなりましたが更新いたします。
ギリギリラインですので、お気をつけ下さい。
一際大きな喘ぎを上げて反り返った悧羅の身体を抱きとめて紳ほ深く入り込んで最奥で欲を吐き出した。かたかたと震えながら紳の胸にくったりとした身体を預けられて共に荒れた息を整えながら身体に張り付いた長い髪を梳くとほんの少し触れただけでびくりと震える。出ようか?、と尋ねるとぐったりとしたままの悧羅が紳の胸の上で首を振った。
「…まだ入っておってたも…」
荒れる息の中で自分では身動きも取れないほどに紳に寄り掛かっているくせに、と紳は苦笑する。悧羅と宮に戻ってから睦みあっているというのに互いの熱が冷めることがない。久しぶりに全て華開かれた悧羅の艶かしさに当てられて紳も随分と堪えさせられた。宮に帰るまでも腕の中から立ち昇る妖艶さに当てられ続けていたのだ。宮に入って寝所に入ると共に刻も忘れて情を交わし続けてようやく落ち着いたのが今であった。あまりにも交わし過ぎて紳もさすがにぐったりとしてしまい悧羅が望む通り入ったままでごろりと横になった。大きく息をつくと悧羅を抱きしめてつい笑ってしまう。その笑い声で中に入られたままの悧羅が、紳、と甘い声を出してくる。あ、ごめん、と込み上げる笑いを抑えながら上に乗せた悧羅を抱きしめ直す。
「揺れただけでも駄目になっちゃってるんだもんね」
くすくすと笑うと、意地悪を言うでない、とようやく整ってきた息の中から嘆息するように悧羅が呟いた。どうにか収まってくれそうな沸る身体には小さな刺激でも昇りつめるのは容易い。それを目を細めて見ながら紳はますます笑ってしまう。
「だから笑うてくれるなと言うておるに」
嗜めるように悧羅が紳の胸を叩くと、また、ごめん、と紳が笑っている。あれからどれくらい経っているのかも分からない。けれどそれで良かった。思い出せば辛くなる心の痛みも全て悧羅が半分持っていってくれているのがわかっていたからだ。胸の上の悧羅の背中を撫でると、これ、とまた嗜められてしまう。それにくすくすと笑うと悧羅を胸に乗せたまま、ころりと体勢を返る。入ったままでまた向きを変えられて悧羅が甘い声を出した。紳、と腕の中に収まった悧羅が名を呼びながら頬に触れてくれる。うん、と笑ってその手を握り返しながら、大丈夫だ、と伝える。
「…どれくらい経っておるのじゃ?…」
「それ…俺に聞くの?」
頬に口付けると目を細めながらくすりと悧羅が笑う。確かに共に籠っている紳に尋ねたところで分かるはずもない。
「とりあえずそれなりには経ってるとは思うけどね?」
寝所の灯の消えた部屋は薄暗い。その上二人がいるのは御簾の中だ。落ち着いていれば外が白み始めたり、磐里や加嬬の声も届いただろうが互いしか見えていない時は何も分からなくなってしまう。特に悧羅が溺れると紳もそれに呼応するように溺れてしまうのだからどうしようもないのだ。
「…そろそろ出ねば荊軻に叱られてしまうの…」
「それは大丈夫だと思うけどなぁ」
小さく嘆息する悧羅の額や頬に口付けながら紳が苦笑する。荊軻や枉駕とて悧羅に当てられているのだ。そう容易く二人も収まっているとは思えない。まあ二人であればどうにか落ち着けて務めに出ていると思うが悧羅の艶かしさが残っている間は出てきて欲しくないと願っているのは紳には良く分かる。特にこの所は夜毎寝所に籠る度に溺れ切ってしまう悧羅には艶かしさが後を引いてしまう。その名残だけでも朝議で悧羅に会う荊軻や枉駕は当てられてしまう事があった。今の悧羅が出ていけば叱られるのは紳の方だろう。腕の中にいる悧羅は常に側で愛でている紳でさえまだ持っていかれそうになっている。惑わすものは収めてくれているから、今の艶かしさは紳が作ってしまったのだから。
「そうかのう?」
「そうだよ。…それとも早く外に出たい?」
くすくすと笑いながら口付けると困ったように悧羅も小さく笑う。返事の代わりに白く細い腕が紳の首に回された。
「そのような事思うはずもなかろうて…。…分かっておるであろ?」
「うん、知ってる」
笑い合っていると悧羅の腕がゆっくりと紳を引き寄せた。そのまま深く口付けているとやっと整った息がまた荒れ始める。唇を離すと触れ合う距離で、おくれ、と悧羅が乞う。
「まぁたそんな可愛い事言って…。そんな事ばっかり言ってるとしばらく離してやれなくなるよ」
くすくすと笑いながら手を動かし始めるとびくりと身体を震わせながら悧羅の口から甘い声が出始める。細い身体を確かめるように唇や舌を這わせて行くと堪え切れないというように身を捩り始めた。
「…離してくれるな…。妾は其方のもの故…」
荒れる息の中から動く紳の身体の何処かしらに触れたままで身を捩り続ける悧羅が喘ぎながら甘い声でまた乞い願われてじわりと身体の芯が沸りだすのを紳は感じた。堪え切れずに慈しむ勢いを速めると悧羅もまた堪らないような声を上げ始める。入ったままだった紳が抜け出てしまって慌てたように、出るな、と甘い声の中から悧羅が言うがそれに小さく笑って、すぐだよ、と紳は細い両脚の間に顔を埋めた。一際大きく跳ねた身体を逃げられないように引き留めて嬲るように強い刺激を与え続けると細い身体が弓のようにしなっては震え上がる。知らぬ間に上がった脚がびくびくと痙攣し始めて手足も痺れ始めたのを見やって紳が上がった脚を肩にかけた。果て続けてぐったりとした悧羅の唇を吸い上げるとそれだけで悧羅の身体が震えあがる。苦笑しながら当てがうと、早く、と甘い声がした。
「どうしようかな?もう少し虐めてみたい気もするけど?」
当てがったままで額に口付けると、もう、と痺れた腕を持ち上げて悧羅が紳の肩を掴んだ。そのまま当てがわれた紳を受け入れるために腰を下げた。するりと受け入れたはいいものの熱さに喘ぐ悧羅に締め付けられて紳も堪え切れずに深く口付けるしかない。
「どうしてそう堪らないことばっかりしてくれるかなぁ?」
「紳が妾を待たせすぎるからであろ?欲しゅうて堪らぬと言うに聞いてくれぬではないか…」
「だって、可愛いんだもん」
くすくすと笑って額に口付けると再び小さく悧羅が嘆息して紳の頬に触れた。
「…どれほど虐めてくれても構わぬが…。とにかく妾に紳をおくれ…。それとも、また惑わさば箍が外れてくりゃるかえ?」
潤ませた目で見つめながら少し甘い匂いが漂い始めて紳が、やめてよ?、と苦笑するしかない。ここでまた惑わされてしまっては、これから数日籠ることが決まってしまう。それはそれで紳にとっては嬉しいことでもあるのだが一応の後始末や共に行った隊士達の事も気にはなっているところなのだ。先程までは互いに冷静では無かったから考えることも出来なかったが、一度息をつくとそれなりに気にかかりはじめる。
「一度みんなの顔を見て落ち着いていたらまた惑わしてもらおうかな?あらかた片付いてれば、俺が悧羅とどれだけ籠ろうが誰もなにも言えないだろうからね」
「それは喜ばしいの。ならばそれまではまた堪えねばならぬ故…。早うおくれ」
肩を掴んでいた手を離して紳の首に腕を廻しながら、悧羅が艶やかに微笑んで三度乞うと、いいよ、と紳が突如激しく動き始めた。乞うたはいいものの前触れもなく激しく突き上げられ、搔き乱されて悧羅は喘ぎながら紳から身体が離れないように必死にしがみつく。紳も悧羅が離れないように強く抱きしめながら抑えつけて動きを速めていく。あまりの激しさに息をつく事も許されず、ただ甘い声と喘ぎを出し続けるしかできない悧羅の身体が、大きく反り返って跳ねた。反り返ったままの身体が逃げ出さないように抑えつける力も強めながら突き上げる速度を速めると一番敏感な所に当たるのか立て続けに悧羅の身体が跳ねて紳を締め付け続ける。締め付けが都度強くなる中で何とか堪えて、抱きついたままの細い身体を抱えて座るとより深く入り込まれて悧羅のしがみつく力が強くなった。奥深くに入って一度体勢を整えようとすると悧羅が嫌だと首を振る。
「このままじゃ辛いでしょ?」
しがみついて半ば浮いたような体勢のままの悧羅の額に口付けるが首を振っている。
「よい。このままで…」
「仕方ないなあ。本当に辛くなるからね」
「紳がくれる辛さならば…どれだけでも…」
しがみつく悧羅を抱きしめて動き始めると浮いたままの腰を強く引き寄せる。辛い体勢のまま突き上げられて腕を布団に押し当てながら必死に耐える悧羅が艶かしすぎて紳が堪え切れずに、もう駄目かも、と荒れる息の中から訴えると、まだ、と首を振られてしまう。
「本当に困らせるのが上手過ぎる」
引き寄せて強く抱きしめると喘ぎが強くなった。そのまま動き続けながら耳元で囁くように伝えると、まだ欲しいのだ、と乞われてしまう。
「…大丈夫…。これで終わりじゃないから」
ね?、と耳を噛むとぶるりと身体を震わせている悧羅がわずかに頷くのを見やって細い身体を押しつけて最奥で欲を吐き出すと甘い声を出しながら悧羅も果てる。約束通りそのまま動きを休める事なく突き続けると悧羅が大きく身体を反り返し始めた。思わず逃げ出そうとする悧羅を引き留めながら、駄目と強く抱きしめる。より大きな喘ぎを上げながら紳にしがみついて、まだ欲しい、と哀願する悧羅に深く口付けて声を奪う。甘い声がくぐもったが押しつけて動きながら、俺もだよ、と苦笑してしまう。ばたりと倒れ込むように布団に横にしてまた動きを速めると、より甘い声が響き始める。一度溺れてしまうと他の事などどうでも良くなってしまう自分が愚かに思えてどうしようもないが、その思いを凌駕するほどに悧羅が欲しくて堪らなくなる。つい先刻まで交わし続けてようやく一息ついたところであったのに、と小さく笑いながらも悧羅を突き上げ続ける。時には抱きしめ、時には膝に乗せ、時には背後から組み敷いて攻め続けるともう幾度果てたか分からなくなった悧羅の身体が小さく痙攣し始めた。それが悧羅が溺れ切り意識を手放す直前であることを既に紳は良く知っていた。とはいえ紳も悧羅がそうなる時にはとうに限界を超えている。小さく震え続けて力の入った悧羅の身体を強く引き寄せて欲を吐き出すと待っていたように悧羅が最後に果ててそのままぐったりと紳の胸の中に倒れ込んだ。羽のように軽い身体を受け止めながら紳も倒れ込む。
悧羅の声がしなくなった寝所が瞬く間に静寂に包まれて荒れた二人の息の音だけが響いている。果てると同時に意識を手放したはずなのに目が覚めるまで紳を自分の中から出さないのもいつもの事だ。しっとりと汗ばんだままの悧羅を抱き寄せて掛け布団で覆ってから紳も大きく息をついて荒れた呼吸を整える。腕の中の悧羅は荒れた息のままだ。随分と無理をさせたような気もするのだが、あれほどに求められてしまっては紳に否と言う事など出来ない…、と言うよりも言いたくない。悧羅が求めるのは紳だけであるということが優越感に浸らせるからかもしれないが、何より求めてくれる悧羅は逑になって三十年を超えたというのに少しばかり恥じらうのだ。その姿は何とも紳を沸らせるし、可愛いらしくて堪らなくなってしまう。悧羅は何も考えずにしている仕草はまるで初めて情を交わすような思いを抱かせる。
本当に困った女だよな。
夜毎腕に抱くたびに思うけれど、そうでいてくれるからこそ紳の恋慕のような想いも増していくのかもしれなかった。これも悧羅が長として得ている魅力の一つなのかも知れないけれど、悧羅に堕とされ続けるのであれば紳にとってはこれ以上の倖など無い。胸に収まった悧羅は紳に慈しまれて安らかな顔をしている。荒れていた息も収まって小さな寝息に変わった。沸った熱でまだほんのりと紅く染まっている頬を撫でるとぐっすりと眠っているはずなのに胸に擦り寄ってきた。紳の温もりを感じたのか寝息の中に安堵の嘆息が混じったのを見て紳は苦笑するしかない。
いったい何処まで可愛いい姿を見せてくれれば気が済むのだろうか。
抱きしめる腕に力を込めて悧羅の髪に顔を埋めると甘い匂いが紳を包む。紳の大好きな安心する悧羅の匂いだ。廻した腕に力を込めてより強く抱きしめる。500年ずっと欲しかった匂いに包まれて本当に倖だ、と微笑みながら紳も目を閉じた。情でほどよい気怠さの中で目を閉じるとすとん、と眠りに落ちていく。眠っている間にこれが夢でない事をいつものように祈りながら紳も沈む意識に身を委ねた。
お目覚めでございますか、と戸の外から声がして悧羅は目を開けた。例によって求め過ぎるまで求めて最後には意識を手放してしまったらしい。そしてまたいつものように紳の胸の上で目が覚めた。身体に廻されている紳の腕も動いて目を擦りながら紳の胸の上で身体を起こそうとする悧羅の背中を叩く。おはよ、と声をかけられて、うん、と頷く悧羅と共に起き上がると中に入られたままの悧羅が小さく息を止めた。出るよ?、と苦笑しながら悧羅を抱え上げて紳が出ると声を堪えながらぶるりと身体を震わせている。
「だから出てから休めばいいのにっていつも言うのに」
膝に乗せて額に口付けると悧羅が目を細める。
「…それは嫌じゃ。寝ている間に紳が何処かに行ってしもうたらどうするのじゃ」
「どこにも行かないっていってるのに。馬鹿だなあ」
笑いながら悧羅を布団に座らせて、まだ立てないでしょ?、と寝間着を羽織って立ち上がると紳は寝所の戸を開けた。廊下に座ったままの磐里と加嬬が開けられた戸の外で微笑みながら座している。
「お久しぶりって言うべき?」
笑いながら言う紳に、そうでございますね、と磐里が苦笑しながら部屋の中に入って水差しを換えてくれた。加嬬も部屋に入って御簾の前に新しい寝間着を二つ丁寧に置いてくれた。どれくらい?、と戸に寄りかかりながら紳が尋ねると、十日ほどでございましょうか、と笑いながら磐里が応えた。そんなに?、と声を上げてしまった紳に女官二人は笑うばかりだ。
「思ったよりも早うございましたよ?お顔を拝見出来るのはもう少し遅うなると思うておりますれば」
「そうなの?じゃあもう少し籠っても叱られないかな?」
笑いながら紳も部屋に入ると磐里が水を渡してくれた。受け取ると、大事ないかと、と笑っている。
「幾度か荊軻殿がお見えになられましたけれど、是非とも長がお鎮まりいただいてからお出になられるように、と申されておりましたよ」
「やっぱりそうだった。悧羅が気にしてたんだよね。そろそろ荊軻に叱られるんじゃないかって」
そのような事、と加嬬がころころと笑った。
「荊軻殿達もつい先日までお見えになれませんでしたのよ。隊士の皆様には三日と言われたらしいのですが荊軻殿も枉駕殿もお出にならない、と若君達が申されておられました」
「…それでは余計に出ねばなるまいよ」
笑う三人の声に導かれるように悧羅が御簾から身体を滑りださせた。立つ事はまだ出来なかったが寝間着を羽織って座ったまま出ることは出来る。悧羅の顔を見て女官二人が顔を綻ばせる。まだ気怠そうだがそれは紳の手によるものだろう。穏やかな笑顔を浮かべて座っている悧羅に女官が小さく頭を下げた。
「おはようございます、長。何かお召し上がりになりますか?湯殿の支度は整えてございますよ」
うん、と笑いながら悧羅は余り空腹では無い事を伝える。これだけ情を交わした後では食餌など喉を通ってはくれない。
「またそのような事を仰せになられて…」
嘆息しながら悧羅にも水を渡して磐里が側に座った。
「せめて果実くらいは摂って下さいませね。旦那様からも何か申し上げて下さいませ」
受け取った水を飲んでいる悧羅に近づいて隣に座りながら紳も笑ってしまう。磐里にかかっては悧羅も苦笑するしかないようで困ったように紳を見ている。
「まあ、食べたいものを食べればいいさ。水分だけは摂っておいてくれたらいい。食べたく無い時に無理して食べても美味しくないだろうからね」
座ったままの悧羅を引き寄せて精気を送り込みながら笑う紳に磐里も加嬬も肩を落とすしかない。
「旦那様までそのような事を仰せになられては長がまたお痩せになられてしまうではありませんか。ただでさえ近頃また帯が緩くなってきておりますのですよ?」
「それは確かに分かるけどね。もう折れそうだもん」
「そうでございましょう?ですから少しでも召し上がって欲しいのですけれどね」
やれやれと嘆息する磐里と加嬬に根負けしたかのように悧羅が両手を挙げた。その手から湯呑みを受け取った磐里に、少しであれば食す、と苦笑している。
「では身体にお優しいものを御支度いたしましょうね」
嬉しそうに両手を合わせた磐里に苦笑を深くしながら悧羅が紳を見ると肩を竦めていた。
「少しばかりの身体の変わりなど今に始まったことでもあるまいに…」
嘆息して呟くように言った悧羅に、まあ!、と磐里と加嬬が呆れたように腰と声を上げた。
「長はお痩せになることは多ございますが、肉付きが良くなることはございませんのよ?長は少しばかりと仰せでございますが、少しばかりではございません。ただでさえ痩身でございますのに、その帯が緩まるなど…」
「分かった分かった。俺も何か食べてくれるようなものを手に入れてくるようにするから」
悧羅を抱き寄せたままで二人の迫力に紳も手を上げて謝るしかない。分かっていただけたなら良いのです、と上げた腰を降ろした。
「では湯殿をお使いになられて下さいまし。お上がりになる頃にはお食餌を支度いたしておきますので」
小さく頭を下げて部屋を辞していく二人を見ながら紳は頭を掻いてしまう。
「…敵わぬであろ?」
引き寄せたままの悧羅が小さく笑いながら紳を見上げると、全くだ、と苦笑せざるを得ない。悧羅にさえ遠慮のない二人なのだ。伴侶である紳にも礼は取ってくれるが大きく態度を変える事はなかった。悧羅と契った後に周囲が態度を変えてしまう中にあって今までと変わらぬ態度で接してくれる事はとても有難かった。
「本当に敵わないよね。これじゃあもう一度このまま悧羅を抱きたくても叱られそうだね」
「そうだえ?また籠ってしまってはせっかく支度してくれておる食餌が冷めるとそれはそれは叱られてしまうであろうよ」
そりゃ怖い、と笑いながら紳が立ち上がりながら悧羅を抱き上げる。歩けるえ?、と悧羅は苦笑しているがそれが無理な事は紳には分かっている。無理しないの、と笑いながらそのまま部屋を出て湯殿に向かう。
「湯も使ってなかったらもっと叱られるよね。本当に怖いことになっちゃう」
声を上げて笑いながら湯殿に入り脱衣場の椅子に悧羅を降ろしてから互いの寝間着を取って、また細い身体を抱えて湯に入る。身体を清め始める悧羅の背中を流しながら髪も洗ってやると久しぶりの湯にほうっと安堵の息をつく姿があった。そういえば部屋から出るのが十日振りなのだから湯を使うのも十日振りだった。情を交わす度に互いにしっとりと汗をかくのだからそれが流れて心地良いのは紳も同じだ。紳が身体を洗い流そうとすると悧羅が流してやろうか?、と笑っている。
「そこから動けないくせに何言ってんの」
「もう少し近う寄ってくれらば流してやれるのだがの」
「嬉しい申し出だけどね。今悧羅に触れられたらここでまた組み敷いてしまいそうだからなあ。遠慮しとくよ」
笑って辞して早急に身体と髪を洗うと悧羅を再び抱き上げて湯に浸かる。温かい湯に浸かるとどちらともなく、ほうっと息をついてしまった。さすがに長いこと湯を使うことも無かったからか身体の何処かしこが固まっていたようでじんわりと解れていくのが気持ち良かった。膝に乗せた悧羅の肩に湯を掛けてやりながら背中や首を揉んでやると悧羅がくすくすと笑い出す。
「それは妾が紳にせねばならぬことではないかえ?」
「ううん、俺しか悧羅にしてあげられないことだよ」
「まあ、それはそうであろうが…。妾よりも紳の方が疲れておろう?」
小さく笑う悧羅に紳が声を上げて笑う。
「こんな疲れなんて大した事はないよ。むしろ嬉しい限りだね。それに十日も悧羅と籠っても誰も文句を言わないんだからね」
そうだの、と悧羅も笑い出して紳に身を任せる。一人で湯を使う時には加嬬がしてくれていることだが、触れられ慣れた紳の手は心地良すぎるほどだ。ついとろりと微睡みそうになる悧羅を紳が笑いながら抱き止める。
「寝ちゃうと磐里達に叱られるよ?」
「…おお…、それは怖いな…」
目を擦りながら顔を洗った悧羅を抱え上げて湯殿から出すと椅子に座らせてから手拭いを渡す。自分の身体を拭いてから悧羅の髪を拭き上げて互いに新しい寝間着を羽織ってからもう一度悧羅を抱き上げて自室に戻る。既に食餌の支度も整えてあったが二人が部屋に居なかった事で湯殿を使っている事が分かったのだろう。湯上がりの悧羅を整えるために廊下に座して待っているが悧羅を抱えて戻ってくる紳の姿に、あらまあ、と小さく笑っている。この数年で見慣れた姿だが、それでも幾度見ても仲睦まじくてつい微笑んでしまう。自室に入って悧羅を鏡台の前に座らせると加嬬が支度を整え始める。それを見やりながら磐里が二人に冷たい水を手渡してくれた。支度を整える加嬬に、何処にも行かぬぞ?、と悧羅が言うが、いいえと加嬬と磐里が揃って首を振った。
「なりません。いつ何時荊軻殿達がお見えになるのか分からないのですから。お支度は整えておきませんと」
「そうでございますよ。ですので旦那様、本日は夜まで長の御支度を解かれてはなりませぬよ?」
磐里と加嬬二人にそれぞれ言われてしまって紳も悧羅も、本当に敵わない、と声を上げて笑ってしまった。
もう本当に18禁にしてしまった方が良いのでは無いかと思い始めました…。
いやまだもう少しは行けるか?と悩んでおります。
お楽しみいただけましたか?
ありがとうございました。