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縁【参】《エニシ【サン】》

遅くなりましたが更新いたします。

ギリギリラインですので、お気をつけ下さい。

一際(ヒトキワ)大きな(アエ)ぎを上げて()り返った悧羅(リラ)身体(カラダ)を抱きとめて(シン)ほ深く入り込んで最奥(サイオク)(ヨク)を吐き出した。かたかたと(フル)えながら紳の胸にくったりとした身体を(アズ)けられて共に荒れた息を(トトノ)えながら身体に張り付いた長い髪を()くとほんの少し触れただけでびくりと(フル)える。出ようか?、と(タズ)ねるとぐったりとしたままの悧羅(リラ)が紳の胸の上で首を振った。


「…まだ入っておってたも…」


荒れる息の中で自分では身動きも取れないほどに紳に寄り掛かっているくせに、と紳は苦笑する。悧羅と宮に戻ってから(ムツ)みあっているというのに(タガ)いの熱が()めることがない。久しぶりに(スベ)華開(ハナヒラ)かれた悧羅の(ナマメ)かしさに当てられて紳も随分(ズイブン)(コラ)えさせられた。宮に帰るまでも腕の中から立ち(ノボ)妖艶(ヨウエン)さに当てられ続けていたのだ。宮に入って寝所(シンジョ)に入ると共に(ジカン)も忘れて(ジョウ)()わし続けてようやく落ち着いたのが()であった。あまりにも()わし過ぎて紳もさすがにぐったりとしてしまい悧羅が望む通り入ったままでごろりと横になった。大きく息をつくと悧羅を抱きしめてつい笑ってしまう。その笑い声で中に入られたままの悧羅が、紳、と甘い声を出してくる。あ、ごめん、と込み上げる笑いを(オサ)えながら上に乗せた悧羅を抱きしめ直す。


()れただけでも駄目(ダメ)になっちゃってるんだもんね」


くすくすと笑うと、意地悪(イジワル)を言うでない、とようやく整ってきた息の中から嘆息(タンソク)するように悧羅が(ツブヤ)いた。どうにか収まってくれそうな(タギ)る身体には小さな刺激でも(ノボ)りつめるのは容易(タヤス)い。それを目を細めて見ながら紳はますます笑ってしまう。


「だから(ワロ)うてくれるなと言うておるに」


(タシナ)めるように悧羅が紳の胸を(タタ)くと、また、ごめん、と紳が笑っている。あれからどれくらい()っているのかも分からない。けれどそれで良かった。思い出せば(ツラ)くなる心の痛みも(スベ)て悧羅が半分持っていってくれているのがわかっていたからだ。胸の上の悧羅の背中を()でると、これ、とまた(タシナ)められてしまう。それにくすくすと笑うと悧羅を胸に乗せたまま、ころりと体勢(タイセイ)を返る。入ったままでまた向きを変えられて悧羅が甘い声を出した。紳、と腕の中に収まった悧羅が名を呼びながら(ホオ)()れてくれる。うん、と笑ってその手を(ニギ)り返しながら、大丈夫だ、と伝える。


「…どれくらい()っておるのじゃ?…」 


「それ…俺に聞くの?」


(ホオ)に口付けると目を細めながらくすりと悧羅が笑う。確かに共に(コモ)っている紳に(タズ)ねたところで分かるはずもない。


「とりあえず()()()()には()ってるとは思うけどね?」


寝所(シンジョ)(アカリ)の消えた部屋は薄暗(ウスグラ)い。その上二人がいるのは御簾(ミス)の中だ。落ち着いていれば外が(シラ)み始めたり、磐里(バンリ)加嬬(カジュ)の声も届いただろうが(タガ)いしか見えていない時は何も分からなくなってしまう。特に悧羅が(オボ)れると紳もそれに呼応(コオウ)するように(オボ)れてしまうのだからどうしようもないのだ。


「…そろそろ出ねば荊軻(ケイカツ)(シカ)られてしまうの…」


「それは大丈夫(ダイジョウブ)だと思うけどなぁ」


小さく嘆息(タンソク)する悧羅の(ヒタイ)(ホオ)に口付けながら紳が苦笑する。荊軻(ケイカツ)枉駕(オウガイ)とて悧羅に当てられているのだ。そう容易(タヤス)く二人も収まっているとは思えない。まあ二人であればどうにか落ち着けて(ツト)めに出ていると思うが悧羅の(ナマメ)かしさが残っている間は出てきて欲しくないと願っているのは紳には良く分かる。特にこの所は夜毎(ヨゴト)寝所(シンジョ)(コモ)(タビ)(オボ)れ切ってしまう悧羅には(ナマメ)かしさが後を引いてしまう。その名残(ナゴリ)だけでも朝議(チョウギ)で悧羅に会う荊軻(ケイカツ)枉駕(オウガイ)は当てられてしまう事があった。今の悧羅が出ていけば(シカ)られるのは紳の方だろう。腕の中にいる悧羅は(ツネ)(ソバ)()でている紳でさえまだ()()()()()()()()になっている。(マド)わすものは収めてくれているから、今の(ナマメ)かしさは紳が作ってしまったのだから。


「そうかのう?」


「そうだよ。…それとも早く外に出たい?」


くすくすと笑いながら口付けると(コマ)ったように悧羅も小さく笑う。返事の代わりに白く細い腕が紳の首に回された。


「そのような事思うはずもなかろうて…。…分かっておるであろ?」


「うん、知ってる」


笑い合っていると悧羅の腕がゆっくりと紳を引き寄せた。そのまま深く口付けているとやっと(トトノ)った息がまた荒れ始める。(クチビル)(ハナ)すと触れ合う距離で、おくれ、と悧羅が()う。


「まぁたそんな可愛(カワイ)い事言って…。そんな事ばっかり言ってるとしばらく(ハナ)してやれなくなるよ」


くすくすと笑いながら手を動かし始めるとびくりと身体を(フル)わせながら悧羅の口から甘い声が出始める。細い身体を確かめるように(クチビル)(シタ)()わせて行くと(コラ)え切れないというように身を(ヨジ)り始めた。


「…離してくれるな…。(ワラワ)其方(ソナタ)のもの(ユエ)…」


荒れる息の中から動く紳の身体の何処(ドコ)かしらに触れたままで身を(ヨジ)り続ける悧羅が(アエ)ぎながら甘い声でまた()(ネガ)われてじわりと身体の(シン)(タギ)りだすのを紳は感じた。(コラ)え切れずに(イツク)しむ(イキオ)いを速めると悧羅もまた(タマ)らないような声を上げ始める。入ったままだった紳が抜け出てしまって(アワ)てたように、出るな、と甘い声の中から悧羅が言うがそれに小さく笑って、すぐだよ、と(シン)は細い両脚の間に顔を(ウズ)めた。一際(ヒトキワ)大きく()ねた身体を逃げられないように引き留めて(ナブ)るように強い刺激を与え続けると細い身体が弓のようにしなっては(フル)え上がる。知らぬ間に上がった脚がびくびくと痙攣(ケイレン)し始めて手足も(シビ)れ始めたのを見やって紳が上がった脚を肩にかけた。()て続けてぐったりとした悧羅の(クチビル)を吸い上げるとそれだけで悧羅の身体が震えあがる。苦笑しながら当てがうと、早く、と甘い声がした。


「どうしようかな?もう少し(イジ)めてみたい気もするけど?」


当てがったままで(ヒタイ)に口付けると、もう、と(シビ)れた腕を持ち上げて悧羅が紳の肩を(ツカ)んだ。そのまま当てがわれた(シン)を受け入れるために腰を下げた。するりと受け入れたはいいものの熱さに(アエ)ぐ悧羅に締め付けられて紳も(コラ)え切れずに深く口付けるしかない。


「どうしてそう(タマ)らないことばっかりしてくれるかなぁ?」


(シン)(ワラワ)を待たせすぎるからであろ?()しゅうて(タマ)らぬと言うに聞いてくれぬではないか…」


「だって、可愛(カワイ)いんだもん」


くすくすと笑って(ヒタイ)に口付けると(フタタ)び小さく悧羅が嘆息(タンソク)して紳の(ホオ)に触れた。


「…どれほど(イジ)めてくれても(カマ)わぬが…。とにかく(ワラワ)に紳をおくれ…。それとも、また(マド)わさば(タガ)が外れてくりゃるかえ?」


(ウル)ませた目で見つめながら少し甘い匂いが(タダヨ)い始めて紳が、やめてよ?、と苦笑するしかない。ここでまた(マド)わされてしまっては、これから数日(コモ)ることが決まってしまう。それはそれで紳にとっては(ウレ)しいことでもあるのだが一応(イチオウ)後始末(アトシマツ)や共に行った隊士達(タイシタチ)の事も気にはなっているところなのだ。先程(サキホド)までは(タガ)いに冷静では無かったから考えることも出来なかったが、一度息をつくとそれなりに気にかかりはじめる。


「一度みんなの顔を見て落ち着いていたらまた(マド)わしてもらおうかな?あらかた片付(カタヅ)いてれば、俺が悧羅とどれだけ(コモ)ろうが(ダレ)もなにも言えないだろうからね」


「それは喜ばしいの。ならばそれまではまた(コラ)えねばならぬ(ユエ)…。(ハヨ)うおくれ」


肩を(ツカ)んでいた手を離して紳の首に腕を廻しながら、悧羅が(アデ)やかに微笑んで三度(ミタビ)()うと、いいよ、と紳が突如(トツジョ)(ハゲ)しく動き始めた。()うたはいいものの前触(マエブ)れもなく激しく突き上げられ、()(ミダ)されて悧羅は(アエ)ぎながら紳から身体が離れないように必死にしがみつく。紳も悧羅が離れないように強く抱きしめながら(オサ)えつけて動きを速めていく。あまりの激しさに息をつく事も許されず、ただ甘い声と(アエ)ぎを出し続けるしかできない悧羅の身体が、大きく()り返って()ねた。()り返ったままの身体が逃げ出さないように(オサ)えつける力も強めながら突き上げる速度を速めると一番敏感(ビンカン)な所に当たるのか立て続けに悧羅の身体が跳ねて紳を締め付け続ける。締め付けが都度(ツド)強くなる中で何とか(コラ)えて、抱きついたままの細い身体を抱えて座るとより深く入り込まれて悧羅のしがみつく力が強くなった。奥深くに入って一度体勢(タイセイ)(トトノ)えようとすると悧羅が嫌だと首を振る。


「このままじゃ(ツラ)いでしょ?」


しがみついて(ナカ)ば浮いたような体勢のままの悧羅の(ヒタイ)に口付けるが首を振っている。


「よい。このままで…」


仕方(シカタ)ないなあ。本当に(ツラ)くなるからね」


「紳がくれる(ツラ)さならば…どれだけでも…」


しがみつく悧羅を抱きしめて動き始めると浮いたままの腰を強く引き寄せる。(ツラ)体勢(タイセイ)のまま突き上げられて腕を布団(フトン)に押し当てながら必死に()える悧羅が(ナマメ)かしすぎて紳が(コラ)え切れずに、もう駄目(ダメ)かも、と荒れる息の中から(ウッタ)えると、まだ、と首を振られてしまう。


「本当に(コマ)らせるのが上手(ウマ)過ぎる」


引き寄せて強く抱きしめると(アエ)ぎが強くなった。そのまま動き続けながら耳元で(ササヤ)くように伝えると、まだ欲しいのだ、と()われてしまう。


「…大丈夫…。これで終わりじゃないから」


ね?、と耳を()むとぶるりと身体を(フル)わせている悧羅がわずかに(ウナズ)くのを見やって細い身体を押しつけて最奥(サイオク)で欲を吐き出すと甘い声を出しながら悧羅も果てる。約束通りそのまま動きを休める事なく突き続けると悧羅が大きく身体を()り返し始めた。思わず逃げ出そうとする悧羅を引き留めながら、駄目(ダメ)と強く抱きしめる。より大きな(アエ)ぎを上げながら紳にしがみついて、まだ欲しい、と哀願(アイガン)する悧羅に深く口付けて声を(ウバ)う。甘い声がくぐもったが押しつけて動きながら、俺もだよ、と苦笑してしまう。ばたりと倒れ込むように布団(フトン)に横にしてまた動きを速めると、より甘い声が(ヒビ)き始める。一度(オボ)れてしまうと他の事などどうでも良くなってしまう自分が(オロ)かに思えてどうしようもないが、その思いを凌駕(リョウガ)するほどに悧羅が欲しくて(タマ)らなくなる。つい先刻(センコク)まで()わし続けてようやく一息ついたところであったのに、と小さく笑いながらも悧羅を突き上げ続ける。時には抱きしめ、時には膝に乗せ、時には背後から組み敷いて()め続けるともう幾度(イクド)()てたか分からなくなった悧羅の身体が小さく痙攣(ケイレン)し始めた。それが悧羅が(オボ)れ切り意識(イシキ)手放(テバナ)す直前であることを(スデ)に紳は良く知っていた。とはいえ紳も悧羅が()()()()時にはとうに限界(ゲンカイ)()えている。小さく(フル)え続けて力の入った悧羅の身体を強く引き寄せて(ヨク)を吐き出すと待っていたように悧羅が最後に()ててそのままぐったりと紳の胸の中に倒れ込んだ。羽のように軽い身体を受け止めながら紳も倒れ込む。


悧羅の声がしなくなった寝所(シンジョ)(マタタ)()静寂(セイジャク)(ツツ)まれて荒れた二人の息の音だけが(ヒビ)いている。()てると同時に意識(イシキ)手放(テバナ)したはずなのに目が覚めるまで紳を自分の中から出さないのもいつもの事だ。しっとりと汗ばんだままの悧羅を抱き寄せて()布団(フトン)(オオ)ってから紳も大きく息をついて荒れた呼吸を(トトノ)える。腕の中の悧羅は荒れた息のままだ。随分(ズイブン)無理(ムリ)をさせたような気もするのだが、あれほどに求められてしまっては紳に(イナ)と言う事など出来ない…、と言うよりも言いたくない。悧羅が求めるのは紳だけであるということが優越感(ユウエツカン)(ヒタ)らせるからかもしれないが、何より求めてくれる悧羅は(ツレアイ)になって三十年を超えたというのに少しばかり()じらうのだ。その姿は何とも紳を(タギ)らせるし、可愛(カワ)いらしくて(タマ)らなくなってしまう。悧羅は何も考えずにしている仕草(シグサ)はまるで初めて(ジョウ)()わすような思いを(イダ)かせる。


本当に(コマ)った(ヒト)だよな。


夜毎(ヨゴト)腕に(イダ)くたびに思うけれど、そうでいてくれるからこそ紳の恋慕(レンボ)のような想いも増していくのかもしれなかった。これも悧羅が(オサ)として()ている魅力(ミリョク)の一つなのかも知れないけれど、悧羅に()とされ続けるのであれば紳にとってはこれ以上の(サイワイ)など無い。胸に収まった悧羅は紳に(イツク)しまれて安らかな顔をしている。荒れていた息も収まって小さな寝息(ネイキ)に変わった。(タギ)った熱でまだほんのりと(アカ)()まっている(ホオ)()でるとぐっすりと眠っているはずなのに胸に()り寄ってきた。紳の(ヌク)もりを感じたのか寝息(ネイキ)の中に安堵(アンド)嘆息(タンソク)が混じったのを見て紳は苦笑するしかない。


いったい何処(ドコ)まで可愛(カワ)いい姿を見せてくれれば気が済むのだろうか。


抱きしめる腕に力を込めて悧羅の髪に顔を(ウズ)めると甘い(ニオ)いが紳を(ツツ)む。紳の大好きな安心する悧羅の(ニオ)いだ。廻した腕に力を込めてより強く抱きしめる。500年ずっと欲しかった(ニオ)いに(ツツ)まれて本当に(サイワイ)だ、と微笑(ホホエ)みながら紳も目を閉じた。(ジョウ)でほどよい気怠(ケダル)さの中で目を閉じるとすとん、と眠りに落ちていく。眠っている間にこれが(ユメ)でない事をいつものように(イノ)りながら紳も(シズ)意識(イシキ)に身を(ユダ)ねた。



お目覚めでございますか、と戸の外から声がして悧羅は目を開けた。(レイ)によって求め過ぎるまで求めて最後には意識(イシキ)手放(テバナ)してしまったらしい。そしてまたいつものように紳の胸の上で目が覚めた。身体に廻されている紳の腕も動いて目を(コス)りながら紳の胸の上で身体を起こそうとする悧羅の背中を(タタ)く。おはよ、と声をかけられて、うん、と(ウナズ)く悧羅と共に起き上がると中に入られたままの悧羅が小さく息を止めた。出るよ?、と苦笑しながら悧羅を抱え上げて紳が出ると声を(コラ)えながらぶるりと身体を震わせている。


「だから出てから休めばいいのにっていつも言うのに」


膝に乗せて(ヒタイ)に口付けると悧羅が目を細める。


「…それは(イヤ)じゃ。寝ている間に紳が何処(ドコ)かに行ってしもうたらどうするのじゃ」


「どこにも行かないっていってるのに。馬鹿(バカ)だなあ」


笑いながら悧羅を布団(フトン)に座らせて、まだ立てないでしょ?、と寝間着(ネマギ)羽織(ハオ)って立ち上がると紳は寝所(シンジョ)の戸を開けた。廊下(ロウカ)に座ったままの磐里(バンリ)加嬬(カジュ)が開けられた戸の外で微笑(ホホエ)みながら()している。


「お久しぶりって言うべき?」


笑いながら言う紳に、そうでございますね、と磐里(バンリ)苦笑(クショウ)しながら部屋の中に入って水差(ミズサ)しを換えてくれた。加嬬(カジュ)も部屋に入って御簾(ミス)の前に新しい寝間着(ネマギ)を二つ丁寧(テイネイ)に置いてくれた。どれくらい?、と戸に寄りかかりながら紳が(タズ)ねると、十日(トオカ)ほどでございましょうか、と笑いながら磐里(バンリ)が応えた。そんなに?、と声を上げてしまった紳に女官(ニョカン)二人は笑うばかりだ。


「思ったよりも(ハヨ)うございましたよ?お顔を拝見(ハイケン)出来るのはもう少し(オソ)うなると思うておりますれば」


「そうなの?じゃあもう少し(コモ)っても(シカ)られないかな?」


笑いながら紳も部屋に入ると磐里(バンリ)が水を渡してくれた。受け取ると、大事(ダイジ)ないかと、と笑っている。


幾度(イクド)荊軻(ケイカツ)殿がお見えになられましたけれど、是非(ゼヒ)とも(オサ)がお(シズ)まりいただいてからお出になられるように、と申されておりましたよ」


「やっぱりそうだった。悧羅が気にしてたんだよね。そろそろ荊軻(ケイカツ)(シカ)られるんじゃないかって」


そのような事、と加嬬(カジュ)がころころと笑った。


荊軻(ケイカツ)殿達もつい先日までお見えになれませんでしたのよ。隊士(タイシ)皆様(ミナサマ)には三日と言われたらしいのですが荊軻(ケイカツ)殿も枉駕(オウガイ)殿もお出にならない、と若君(ワカギミ)達が申されておられました」


「…それでは余計(ヨケイ)に出ねばなるまいよ」


笑う三人の声に(ミチビ)かれるように悧羅が御簾(ミス)から身体を(スベ)りださせた。立つ事はまだ出来なかったが寝間着(ネマギ)羽織(ハオ)って(スワ)ったまま出ることは出来る。悧羅の顔を見て女官(ニョカン)二人が顔を(ホコロ)ばせる。まだ気怠(ケダル)そうだがそれは紳の手によるものだろう。(オダ)やかな笑顔を浮かべて座っている悧羅に女官(ニョカン)が小さく頭を下げた。


「おはようございます、(オサ)。何かお召し上がりになりますか?湯殿(ユドノ)支度(シタク)は整えてございますよ」


うん、と笑いながら悧羅は(アマ)空腹(クウフク)では無い事を伝える。これだけ(ジョウ)()わした後では食餌(ショクジ)など(ノド)を通ってはくれない。


「またそのような事を(オオ)せになられて…」


嘆息(タンソク)しながら悧羅にも水を(ワタ)して磐里(バンリ)(ソバ)に座った。


「せめて果実(カジツ)くらいは()って下さいませね。旦那様(ダンナサマ)からも何か申し上げて下さいませ」


受け取った水を飲んでいる悧羅に近づいて(トナリ)に座りながら紳も笑ってしまう。磐里(バンリ)にかかっては悧羅も苦笑するしかないようで(コマ)ったように紳を見ている。


「まあ、食べたいものを食べればいいさ。水分だけは()っておいてくれたらいい。食べたく無い時に無理して食べても美味(オイ)しくないだろうからね」


座ったままの悧羅を引き寄せて精気(セイキ)を送り込みながら笑う紳に磐里(バンリ)加嬬(カジュ)も肩を落とすしかない。


旦那様(ダンナサマ)までそのような事を(オオ)せになられては(オサ)がまたお()せになられてしまうではありませんか。ただでさえ近頃(チカゴロ)また(オビ)(ユル)くなってきておりますのですよ?」


「それは確かに分かるけどね。もう折れそうだもん」


「そうでございましょう?ですから少しでも()し上がって欲しいのですけれどね」


やれやれと嘆息(タンソク)する磐里(バンリ)加嬬(カジュ)根負(コンマ)けしたかのように悧羅が両手を挙げた。その手から湯呑(ユノ)みを受け取った磐里(バンリ)に、少しであれば(ショク)す、と苦笑している。


「では身体にお優しいものを御支度(オシタク)いたしましょうね」


(ウレ)しそうに両手を合わせた磐里(バンリ)に苦笑を深くしながら悧羅が紳を見ると肩を(スク)めていた。


「少しばかりの身体の変わりなど今に始まったことでもあるまいに…」


嘆息(タンソク)して(ツブヤ)くように言った悧羅に、まあ!、と磐里(バンリ)加嬬(カジュ)(アキ)れたように腰と声を上げた。


(オサ)はお()せになることは(オオ)ございますが、肉付きが良くなることはございませんのよ?(オサ)は少しばかりと(オオ)せでございますが、少しばかりではございません。ただでさえ痩身(ソウシン)でございますのに、その(オビ)(ユル)まるなど…」


「分かった分かった。俺も何か食べてくれるようなものを手に入れてくるようにするから」


悧羅を抱き寄せたままで二人の迫力(ハクリョク)に紳も手を上げて(アヤマ)るしかない。分かっていただけたなら良いのです、と上げた腰を降ろした。


「では湯殿(ユドノ)をお使いになられて下さいまし。お上がりになる頃にはお食餌(ショクジ)支度(シタク)いたしておきますので」


小さく頭を下げて部屋を()していく二人を見ながら紳は頭を()いてしまう。


「…(カナ)わぬであろ?」


引き寄せたままの悧羅が小さく笑いながら紳を見上げると、(マッタ)くだ、と苦笑せざるを()ない。悧羅にさえ遠慮(エンリョ)のない二人なのだ。伴侶(ハンリョ)である紳にも礼は取ってくれるが大きく態度(タイド)を変える事はなかった。悧羅と(チギ)った後に周囲(シュウイ)態度(タイド)を変えてしまう中にあって今までと変わらぬ態度(タイド)で接してくれる事はとても有難(アリガタ)かった。


「本当に(カナ)わないよね。これじゃあもう一度このまま悧羅を()きたくても(シカ)られそうだね」


「そうだえ?また(コモ)ってしまってはせっかく支度(シタク)してくれておる食餌(ショクジ)が冷めるとそれはそれは(シカ)られてしまうであろうよ」


そりゃ(コワ)い、と笑いながら紳が立ち上がりながら悧羅を抱き上げる。歩けるえ?、と悧羅は苦笑しているがそれが無理な事は紳には分かっている。無理しないの、と笑いながらそのまま部屋を出て湯殿(ユドノ)に向かう。


「湯も使ってなかったらもっと(シカ)られるよね。本当に(コワ)いことになっちゃう」


声を上げて笑いながら湯殿(ユドノ)に入り脱衣場(ダツイバ)椅子(イス)に悧羅を降ろしてから(タガ)いの寝間着(ネマギ)を取って、また細い身体を(カカ)えて()に入る。身体(カラダ)を清め始める悧羅の背中を流しながら髪も洗ってやると久しぶりの湯にほうっと安堵(アンド)の息をつく姿があった。そういえば部屋から出るのが十日(トオカ)振りなのだから湯を使うのも十日(トオカ)振りだった。(ジョウ)()わす(タビ)(タガ)いにしっとりと汗をかくのだからそれが流れて心地良(ココチヨ)いのは紳も同じだ。紳が身体を洗い流そうとすると悧羅が流してやろうか?、と笑っている。


「そこから動けないくせに何言ってんの」


「もう少し(チコ)う寄ってくれらば流してやれるのだがの」


(ウレ)しい申し出だけどね。今悧羅に()れられたらここでまた()()いてしまいそうだからなあ。遠慮(エンリョ)しとくよ」


笑って()して早急(サッキュウ)に身体と髪を洗うと悧羅を(フタタ)び抱き上げて湯に()かる。温かい湯に()かるとどちらともなく、ほうっと息をついてしまった。さすがに長いこと湯を使うことも無かったからか身体の何処(ドコ)かしこが固まっていたようでじんわりと(ホグ)れていくのが気持ち良かった。膝に乗せた悧羅の肩に湯を掛けてやりながら背中や首を()んでやると悧羅がくすくすと笑い出す。


「それは(ワラワ)が紳にせねばならぬことではないかえ?」


「ううん、俺しか悧羅にしてあげられないことだよ」


「まあ、それはそうであろうが…。(ワラワ)よりも紳の方が(ツカ)れておろう?」


小さく笑う悧羅に紳が声を上げて笑う。


「こんな疲れなんて(タイ)した事はないよ。むしろ(ウレ)しい(カギ)りだね。それに十日(トオカ)も悧羅と(コモ)っても(ダレ)文句(モンク)を言わないんだからね」


そうだの、と悧羅も笑い出して紳に身を(マカ)せる。一人で湯を使う時には加嬬(カジュ)がしてくれていることだが、()れられ()れた紳の手は心地良(ココチヨ)すぎるほどだ。ついとろりと微睡(マドロ)みそうになる悧羅を紳が笑いながら抱き止める。


「寝ちゃうと磐里(バンリ)達に(シカ)られるよ?」


「…おお…、それは(コワ)いな…」


目を(コス)りながら顔を洗った悧羅を(カカ)え上げて湯殿から出すと椅子(イス)に座らせてから手拭(テヌグ)いを(ワタ)す。自分の身体を拭いてから悧羅の髪を拭き上げて(タガ)いに新しい寝間着(ネマギ)羽織(ハオ)ってからもう一度悧羅を抱き上げて自室に戻る。(スデ)食餌(ショクジ)支度(シタク)も整えてあったが二人が部屋に居なかった事で湯殿(ユドノ)を使っている事が分かったのだろう。湯上がりの悧羅を整えるために廊下(ロウカ)に座して待っているが悧羅を抱えて戻ってくる紳の姿に、あらまあ、と小さく笑っている。この数年で見慣(ミナ)れた姿だが、それでも幾度(イクド)見ても(ナカ)(ムツ)まじくてつい微笑(ホホエ)んでしまう。自室に入って悧羅を鏡台(キョウダイ)の前に座らせると加嬬(カジュ)支度(シタク)を整え始める。それを見やりながら磐里(バンリ)が二人に冷たい水を手渡してくれた。支度(シタク)(トトノ)える加嬬(カジュ)に、何処(ドコ)にも行かぬぞ?、と悧羅が言うが、いいえと加嬬(カジュ)磐里(バンリ)(ソロ)って首を振った。


「なりません。いつ何時(ナンドキ)荊軻(ケイカツ)殿達がお見えになるのか分からないのですから。お支度(シタク)は整えておきませんと」


「そうでございますよ。ですので旦那様(ダンナサマ)、本日は夜まで(オサ)御支度(オシタク)(ホド)かれてはなりませぬよ?」


磐里(バンリ)加嬬(カジュ)二人にそれぞれ言われてしまって紳も悧羅も、本当に(カナ)わない、と声を上げて笑ってしまった。

もう本当に18禁にしてしまった方が良いのでは無いかと思い始めました…。


いやまだもう少しは行けるか?と悩んでおります。


お楽しみいただけましたか?

ありがとうございました。

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